2020/08/10 のログ
ご案内:「酒場「崑崙」」にツァラさんが現れました。
オダ・エルネスト >  
騒がしすぎる事もなく、手元の氷がグラスに当たる音色を楽しめる空間というのは、大衆居酒屋にはないものだ。
照明が焼けた色合いなのも、全てはこの味わい深い空気を作り出すため。

店を一歩出れば、騒音に包まれ雑音に押し潰される。

けれど、ここは歓楽街にありながらの避難所であり秘密基地のような場所だな、と一度鼻で笑う。

バーテンダーが、奥から小さな皿を持ってやってくる。

「どうぞ」

と差し出される皿には小さく切られたチーズ。
もうちょい臭いのつよいウィスキーの方が合うかと思ったが今日はこれでいこう。

店の入口が、少し開いたような気がした。

ツァラ >  

ゆったりと時が流れる。
気分良くこの店の雰囲気を楽しんでいるのだろう。

カウンター席の中央が独占出来るぐらいなら、オダの両隣は空いているのだろう。



  『おサケはハタチからー? なんてね?』


 青く光る蝶が、見えた気がした。

それはアルコールのせいだろうか?

声がオダの隣から聞こえた。
その方向を見るならば、カウンター席の高い椅子の上、
この酒場には不釣り合いの少年がちょこんと座っていた。

白い髪に青い眼。左目の下に涙型の装飾が三つ。

まるで既知のように、やっほーとばかり、オダに手をひらひらさせる。

オダ・エルネスト >  
横目にそちらを見れば、機嫌よくニヤけ笑う。

「……そういう台詞は、この地域に入る時に入る奴に言う程度にな」

言葉がそこにカタチとしてあったならそれを払って無かったことにしようと、手をひらひらと揺らし払うついでに真似て返す。

親しげに話しかけられれば、親しく返す。
隣人を愛せよ、とは祖国でもよく使われた言葉だ。
意味合いは状況で常に変えられてしまっているが。

「よければ隣をどうぞ、私はオダだ。
 君はこのお店にはよく?」

アルコールの席とは気楽に楽しもうとする者と空気を共有しようとすることから始める。
同じ世界、同じ空気を愉しむ共は笑みで歓迎しよう。

ツァラ >  
「まぁー確かに? いろーんな見た目のヒトがいっぱい来るもんねぇ。」

笑顔には笑顔。
両手を反らせて掌を首元で合わせ、そのまま指を組んでカウンターに両肘を乗せる。

ころころと声変わりしていない声が笑う。
足なんてつかない高い椅子。つま先をぷらぷらとして。


「ううんーココは初めて! 
 おにーさんが幸せそうだから"来ちゃった"。僕はツァラだよ。」

うん、オダの言葉は問題なく通じているだろう。

"隣人"を愛せよ。間違いは無い。
少年はここを楽しむ為に来ている。

るんるんとバーに響くピアノ調の音に、何かしらの動きが応えている。

オダ・エルネスト >  
ふーん、と一度話を聞いてからグラスに手をかけて、一口。

「私は常に幸せと踊り続けているようなものだ。
 幸せの輝きに導かれたのならツァラ、この出会いは運命に違いない」

グラスを置くと、顔をそちらにしっかりと向けてそんな事を真面目そうに囁いてみせた。
この土色に染まる場所では、青年の翡翠の瞳がよく映えてみえる。

「ツァラはお酒は呑めるくちかい?
 今日は確かに懐も暖かく私の機嫌はいい。
 グラス一杯で良ければ君に奢ろう」

なんて、気前が良いのかちょっとケチくさいのか分からない事を言った。

ツァラ >  
「アハ、良い心がけだねーおにーさん。
 今の時期は"ここも"死者を悼むからって、けっこーそこら中哀しんでるからサ。
 
 幸せなヒトを見かけると嬉しくなっちゃった。
 だから、確かに…運命なのかもネ?」

鮮やかな瞳を持つ二人の眼は、
雰囲気のあるカウンターの照明を虹彩に受け、際だって煌めいている。

確かにこの島ではそう年齢は問われない。
いやそれでもしかし、少年は歳若く見える。

だが、周りに客が居たとしても、少年を気にかけているモノはほとんどいないだろう。

「わぁおにーさん太っ腹だねぇー。
 じゃあお言葉に甘えちゃおーかなー? 最近はあんまりそういうの飲んでなかったし。」

幸せのおすそ分けをしてもらえるなら、少しだって大歓迎だ。
少年はニコニコご機嫌で好意に甘えることだろう。

オダ・エルネスト >  
洒落た革のカバーがつけられたドリンクメニュー表を手にして、

「死者を悼むねぇ……」

少し呆れたような顔をしてメニュー表を開く。

「じゃあ、私の祖国の味をということで同じのを頼ませて貰おう」

すぐ近くにいた貫禄のあるバーテンダーにワイルド・ダニエルをもう一つ頼むと
静かにメニュー表を閉じて元の場所に戻す。

「本当に哀しみたい奴はこんな雰囲気重視の場所には来ないさ。
 だから、下手に騒がしく明るい場所ほどこういう時期は幸せな奴っていうのは見つけにくいのかもな。
 ま、一番は私はまだ哀しむような相手がいない。
 それもまた幸運な巡り合わせ、この新たな出会いも一つの幸運」

喋っているとバーテンダーが静かにグラスをそちらの席の方へ置くだろう。

「私の国の味だ」

青年が飲んでいたものと同じ琥珀色の液体がグラス入っている。
違いと言えば、真新しい氷でまだ大きいという点。

ツァラ >  
グラスにとくとくと琥珀色が注がれていくのを眺める。

琥珀、くはく、あかだま。不思議な色だ。
樹脂が石化し歴史を閉じ込める色。
はたまた、古の神々に捧げられる蜂蜜酒も似たような色。

この色は、ちょっとした"異"へと繋がる色。

この色越しに見える世界は、少し違って見えるかもしれない。


「祖国ってコトは、おにーさんはここのヒトじゃないってコト? どんな所なの?」

興味深々だ。
オダという響きから日本に近いかと思ったが、ちょっと違うのかな?

グラスを小さな両手で持つ。
外の暑さを忘れるような透明度の高い氷が、その味を期待させてくれる。

「そーそー、ヒトがいっぱいな所は仕方がないよネ。どうちょうあつりょくってヤツ?
 僕は幸せなヒトの傍に居たいから、この時期は苦労しちゃうなー。

 そっか、おにーさんは"まだまだこれから"なんだねぇ。
 純粋な幸せは氷砂糖みたいな感じで良いね。」 

そう言って両手でグラスを持って、小さな口でかぷりと飲んだ。
味わうように、嬉しそうに。

オダ・エルネスト >  
同系色で包まれたこの店という世界は、このグラスの中のようにも思える。

「私は、合衆国……アメリカって国の出身さ。
 オダっていうのファーストネームだよ。
 日本では"オダ"は大体ファミリーネームらしいが……
 知り合いの女性でタムラなんて名前の子もいたが、これも日本の感覚的にはちょっと特殊なのかもな」

別に日系アメリカ人って訳でもないぞ、と付け足すと
茶化すように笑いながら言う。
そして思い出すかのように口を再び開く。

「荒唐無稽な暗黒神話を討ち滅ぼすお伽噺を見てきた。
 人の造りし巨神が、明日を拓くそんなお伽噺の後じゃあ
 早々、幸運/喜劇の夢から醒めるっていうのも難しい。
 私はこうして、夢の続きを求めているのかも知れない」

「そう、"まだ"夢は終わらせたくないのさ」

そう言って、青年もまた喉をアルコールで焼いていく。
ワイルド・ダニエルは癖ががなく飲みやすいウィスキーだ。
安い酒、と言われがちだがその実は色々な飲み方が出来る酒だ。

不味くはない。

しかし、感動するほど美味いという訳でもない。
楽しむ人のお酒。

お酒一つだけではなく、このグラスの中のもの全てを楽しむ人に美味しいお酒と言える。

皿の上のチーズを小さなフォークで刺して口へと運ぶと、
再び一口、ワイルド・ダニエルを楽しむ。
一度広がったチーズの風味と味が上書きされ流されつつ混じり合う。
これが堪らない。

「ツァラ、君は何処の出身なんだい?」

ツァラ >  
そんな世界の中を浮かぶ氷のように、
翡翠とアクアマリンはふわりふわりとアルコールと共に語らう。

氷が解けるまでの、飲み干すまでの、小さな邂逅。

「アメリカかぁー。聞いた事あるよ。行ったコトは無いケド。
 ココよりうんと広い所なんでしょ? なんかね、テレビで見た!
 アハハ、そうだね。もしかしたら、僕の名前と交換した方が、響き的には似合うのかもネ?」

くすくすと本気でもなく、冗談めいて笑った。


「僕? 僕の出身はね、『日本』だよ。

 もうちょっと夢から覚めた所。
 幸せと不幸せを合わせた仮初の平和の場所。

 人間の言う、御伽噺が"御伽噺のまま"の場所。」

少年はちびちびと飲んでいる。
オダが朗々と語る夢の内容に浸っていたいかのように。

カランと、まだ大きな氷が音を立てる。
時折バーテンが、彼らの前を通り過ぎていく。

「だからもしかしたら、キミの今の幸せの方が、うんと甘いのかもネ?」

オダ・エルネスト >  
「ま、広い分《大変容》で荒れに荒れたとも言えるが。
 確かに、名前に関しちゃそう感じるな」

ははは、と笑うと顎に手を当て、日本出身……と失礼と承知しつつマジマジと見た。
一度目をつむりうーんと唸った。

「あれか、あれだな。授業でやったな……。
 ズバリ並行世界系?」

学園に来てまず最初に異邦人についての授業でやった。
可能性の話。 並行世界の日本をはじめとした様々な国の人がいるという話。
そもそも《大変容》で今ある世界の国々がかつての世界が災異の被害を受けただけの同じものという保証はない。
《大変容》により並行世界の同じ名前の国と入れ替わった可能性だってあるという可能性の話があった授業。
常識として習った知識でもあるため、酒が入っていようと元々頭の回転だけは何時も空回りするくらい早い青年にとっては容易に思い至った。


――今の幸せの方が、うんと甘いのかもネ?

何度か、頭で反復させて少しだけ考えて柔らかく微笑む。

「寝たまま、他人の暖かさ/輝きを感じるのがこれ以上ない至福だよ」

ツァラ >  
「そーのダイヘンヨー? って結構聞くけど、ヤバいの?」

名前からして日本らしくないのに"日本出身"だと少年は言う。
白い髪も、青い眼も、ちっとも日本らしくない。
まぁ服だけは僅かに和服っぽいような……………どうだろうな…。

「あー、なんかあちこち見て回ってそんな感じするよねー。
 こんなにいっぱい"へんなの"いないし、でも日本っぽい所あるし。
 日本語ちゃんと通じてるしー。

 まぁでも、前の所よりちょっと苦味が多そう?」

少年はあっさり認めた。とはいえ憶測ではあるのだが。
ともすれば差別かもしれないような、そんな偏見の言葉を呟く。

信仰の混沌さに対する寛容さなんかは、常世島でも日本のままのような気がする。
《大変容》で顕現した各地の神話・伝説の再現は、
ある程度の一神教、唯一神の定義を破壊しただろうとはいえ、
それそのものを信仰する各地の特色は、天地がひっくり返る程には変わらない気がするのだ。
歴史というモノは、そうそうに何もかも無かったことには出来ない。

「アハ、あまーいあまい幸せだ。ここのは苦いのが多かったから、美味しいな。」

少年はそう言ってにっこりと笑った。
幸せは食べたって減らない。だから少年は幸せの傍にいる。

少年はオダのことを決して否定はしないだろう。

オダ・エルネスト >  
「《大変容》ヤベェ……大変よう、とな。

 どれくらい『ヤベェ』かって言うと惚れた偶然であった女の子が実は可愛いだけじゃなくて戦うクノイチだったとか、親切にしてくれた可憐な先輩にとんでもない秘密があるだとか、修道女が信仰に絶望してたりするくらい破茶滅茶な事件を起こした案件だったらしい。

 ちなみに例に上げたのは、私が知り合った女の子たちにそんな秘密があったらちょっとおっかなびっくりな展開だなって最近妄想してる話だ」

流石にいつも想像の斜め上をいく世の中だが、そんな破茶滅茶ではあるまいと笑う。

「その『苦い』っていうのはきっと、あれだ。
 日本にあるっていう盆バケーションが終われば多少マシになるだろう。
 夏は火遊びの季節、恐らく恋に恋した学生男女が盛り上がっているはずだ!」

思わず、テンションが上った。
そう言えば、私も学生じゃん。火遊びワンチャン夢見たいエルネスト隊出動の機会では!と思わずスタンディングオベーション。
数秒立ったまま硬直したが、静かに着席。

こうして誰かと楽しく会話をしている限り、青年の幸福は止まらない。幸せは加速する。

「はっはっは!
 しかし、日本風にいうなら箸休めも必要にはなるだろう?
 甘いものだけでも苦いものだけでもいけない。 適度に味わうからこそ美味しいものの良さを再確認できる。

 美味い酒だけ飲んでると本当に美味いのか分からなくなるような話だ」

そう、それは例えるなら今食べているつまみのチーズのような話。
臭いチーズだが、酒の美味さを実感させてくれる。 逆もまた然りではあるがそこは好み!

ツァラ >  
オダの(妄想)話をきょとんと聞いた後、
アッハハハハと少年は高らかに笑った。ちょっとだけカウンター叩いた。
でも別に咎められない。

「おにーさんハーレムじゃーん。ピンチに助けに行ったらヒーローだね? じゃあ、
 "今はまともそうに見えるのに、
  ソレを根底から何もかもひっくり返すぐらいヤバイ事態だった"っていう解釈でイイのかな?」

ひとしきり笑っても残る余韻にころころと喉を鳴らしながら、青い眼が見つめる。

本当に甘ったるい幸福だ。ここしばらく食べていなかった。
カカオ率の高いチョコレートも好きだけど、
べっこう飴だって舐めたいし、ケーキだって食べたい。

色んな味がするからこそ、ヒトそれぞれの幸せがある。

「そーだねぇ、今日貰ったお酒も美味しいし、
 僕としても良い箸休めになったかな。

 ふふ、おにーさんの幸せ、また今度も食べに来ても良い?」

火遊びワンチャンあるといいな。
スタンディングオベーションしたオダに対して小さな手の軽い拍手が贈られた。

そうして、いつの間にかグラスの氷は融けて行き、
一杯分の幸せの語らいは過ぎていく。

オダ・エルネスト >  
「まあ、待てあんな器量の良い女性たちだ。
 既に恋人2、3人はいても不思議じゃない。
 恋の高望みは絶望へのドラッグレースだ。 彼女たちの私生活を妄想はしても恋人妄想はしない。 したらもうバーンアウトしてると言える」

ドラッグレース、アメリカを発祥とする直線コース上で停止状態から発進してゴールまでのタイムを競うモータースポーツだ。
タイヤの消耗だったりなんだったりと消耗品交換が大量に発生する競技だ。
バーンアウトというのは簡単に言えば、スタート前にタイヤを空転させロケットダッシュをする準備を整えること。

「そうだな、仮に彼女たちに彼氏や婚約者がいないと言うなら、私が名乗り出て愛を囁くのは悪くない」

したらバーンアウトである。白煙出るよ。
居たら泣くわこれ。


「それはよかった。
 これがアメリカンな味だ。 アメリカンサイズの味は大きくて濃いオダ味と覚えておきたまえ」

謎の上から発言。
しかし、好評なのは嬉しい。

「また奢れとは中々言うな……
 だが、今日みたいに私の懐が暖かい日なら、グラス一杯くらいまた奢るさ」

とカッコつけるようにニヤけるが酔いが回ってきているのか顔が赤くただ酔っ払いのニヤけ面でしかない。

ツァラ >  
「意外と隣が空いてたりするかもよ?
 人生何が起きるか分からないから楽しいんだもの。

 僕は誰かの幸せを奪い取れとは言わないけれど、
 自分の幸せの為なら、がむしゃらに突き進んで欲しいからネ。
 隣の芝は青く見えるかもしれなくても、自分の土地に花を咲かせたって良いんだから。」

ごくたまに本当に外見通りの年齢か? というような言葉が出てくるが、
まぁそんなものはアルコールに流されていくモノだ。

だから走れるのなら、遠慮せずにエンジンを入れて欲しい。
事故さえ起きなければ、きっとゴールは見えて来るモノなのだから。
途中で故障を起こしたって、自分の命さえ失う事が無ければ、何度だって走り出せる。


「ふふ、奢りじゃなくてもイイよ。
 僕は他の人の幸せを聞くのが好物なんだもの。オダ君の味、覚えたよ?」


空になったグラスから両手を離し、指を交差させて、少年は笑い続ける。

ツァラ >  



 「僕は"幸運の祟り神"だからね。」



 

ツァラ >   
――次のオダの瞬きの瞬間、少年はもうその場には居なかった。

空になったグラスに、少年の瞳と同じ、青く光る蝶が一匹。

それも、照明の光に溶けるように散っていく。


 それは、夢だったのだろうか?

ご案内:「酒場「崑崙」」からツァラさんが去りました。
オダ・エルネスト >  
やれやれ、と首を横に振るとグラスに残ったアルコールを飲み干す。
それからしばらく笑みを静かに浮かべて。

「やっぱ神霊の類かぁ……」

と面白いものを見たなぁと笑った。

「祟り神を自称するとは言え幸運の、だからやっぱ運命の女神は私に微笑んでるのかもな」

そう呟くと席を立ち、瀟洒な格好に汚れがないことを確認して席を立ち会計を済ませた。
明日もっと輝ける日になるだろう。

ご案内:「酒場「崑崙」」からオダ・エルネストさんが去りました。