2020/09/29 のログ
ご案内:「歓楽街」に伊伏さんが現れました。
伊伏 >  
歓楽街の大通りにある、ひとつのコンビニから青年が出て来る。
手に持っているのは小さなビニール袋。
中身は、お茶とおにぎり。あとは…カロリーバーが5箱。全部同じ味だ。

「家ン中になーんも置いてねえとか、バカかね俺は」

裏の常世渋谷というものから無事に出られて、ほぼ1日が経った。
名を知らぬ顔のついた列車の噂を数時間かけて集めたところ、討伐依頼の出ている怪異だということが分かった。
とはいえ、存在の名称や因果が分かったところで、この青年にはどうしようもなかった。
裏常世渋谷から出る際に、異能を使い過ぎて視力が落ちているのだ。
こればっかりは仕方がない。むしろ、一緒に居てくれた幸運の祟り神がいなかったら、
自分はここに居なかったかもしれないのだし。

色と感覚で人の少ない流れを歩き、適当なところで壁に背を預ける。

いつものように本を読みたくとも、その弱視が邪魔をする。
ゲームアプリで時間を潰すにも、細かい作業が出来ない。
もちろん、彼がちまちまこそこそとやっている悪薬に関する事も、今はお預けだ。
色や大まかな輪郭をぼんやりと捉えられる程度でしかない視力で、悪いことをするのはリスクが大きすぎる。

とりあえずまずは、腹ごしらえと行こう。なんのおにぎりだ、これ。

伊伏 >  
もだもだとおにぎりのパックを剥き、ところどころ千切れた海苔をつまむ。
青年にとってコンビニのおにぎりというものは、腹に溜まるくせに食べた気がしない。
食をおろそかに扱いがちな人種ではあるが、こういうところにいちいち引っかかる。

ぱくっと齧ったその中身は、無かった。

不良製品ではない。
いわゆる銀シャリ握りだとかいう、米を楽しむおにぎりだ。
なんらかの具の味を期待していた青年にとっては、肩透かしどころの話では無いが。
この時点で食事を止めたくなっているが、喰わねば視力は回復しない。
かといって、病院に世話になるのも嫌なのだ。あそこの匂いは、結構好きだけれど。

もしょもしょもしょと、銀シャリおにぎりを食いつくす。
せっかくの新米フェア商品だというのに、これほど有難味の無い喰い方も、そうない。

伊伏 >  
次のおにぎりを開封し、がぶっと頬張る。
何かしょっぱい味がした。そのまま飲みこもうとするのをやめて、咀嚼をする。

「何か…なんだ、なまぐせえな……」

今が旬の魚の醤油そぼろいりのおにぎりであった。
さっきの具無しよりはマシどころか、美味しいおにぎりの部類であるというのに。
もりもり食べて、口の中のご飯が無くなる前にペットボトルのお茶を含んだ。

本当なら、もうちょっと何か美味しいものが食べたいのだ。
が、この視力の状態で外食店に入るのも億劫だし、こういう時の為の補強眼鏡も、どっかいった。
多分家の中に眼鏡はあるのだろうが、今の状態で探すのは面倒極まりない。
かといって、誰かを頼る気にもなれない。普段は一匹狼よろしく、気ままに歩いているからだ。

お茶のボトルを空けると、3個目のおにぎりを食べる。
そこでふと、この島における裏SNSがある事を思い出した。

伊伏 >  
良いことを思いついた。

いつも使っている携帯端末とは別で、使い捨てにしている簡易端末を取り出す。
裏SNSを立ちあげ、音声入力に切り替えた。


「裏常世渋谷、最近は落ちやすいらしいよ」


それは、そこから帰って来た者からの"なすりつけ"だった。
どこかの誰かが裏SNSで都市伝説などの情報を漁った時、それが出てくるように。
この書き込みを見た誰かが、自分の意思も否応なく、そこにある怪異に巻き込まれるように。

他のやつも苦しんでくれと、青年は言葉を続ける。


「……というわけなんだって。
 実際に戻って来た人がそう言ってたし、気になる人は逢魔が時に行ってみようよ」


いやもう、一生行きたくないけども。
そう思いながら投稿ボタンをポンと押し、中身のない無名投稿を行った。

伊伏 >  
実際に存在してしまう、ズレた次元への切符というものは、そこに行く運は必要だと思う。
けれど、それをより強く縁付けさせるものといえば、やはり"実体験"ではなかろうか。
"実体験"という縁を文章に乗せられたら、大変面白いと思う。
まあ、この島にある程度住み着いているやつなら、どうってことはない話だけど。
来たばかりだの、引きこもってて外の情報に偏りがあるやつだの、色々いるものだし。

野菜ジュースのパックにストローを……どうにか刺して、吸う。

そこにいる顔のついた列車という怪異は、あえて伏せた投稿だ。
知らずにぼーっと過ごしている暇人が、ちょっとでも焦って――生を見出しますように。
くたびれた人間が増えてくれると、青年が見たいものを拝む回数も、ちょっとは上がるはずなので。


「他のやつも適度に苦しんでくれると嬉しいなぁ……」

伊伏 >  
じゅ、とパックがしぼみきる。
野菜ジュースも飲み終えて、ようやく人心地というところまで至った。
簡易端末の電源を落し、中のチップを抜いておく。
それをズボンのポケットに入れ、軽く確認して。

どっかの弁当屋にでも寄って帰ろうか。
スプーンひとつで食べれるようなものがあれば、大分違う。

オムライスか、カレーか。中華丼あたりもいけそうだ。

ご案内:「歓楽街」から伊伏さんが去りました。