2021/11/04 のログ
ご案内:「カジノ「蓬莱」」にノアさんが現れました。
■ノア > 「……コール30枚」
言いつつ重ねたチップを前に押しやる。
耳鳴りがする程の騒音の波、
チラホラと年若き学生たちの姿も見えるそこは、歓楽街の賭博場『蓬莱』。
その日暮らしの気ままな探偵業とはいえ、ヤケになって賭けに暇を飽かしている訳ではない。
探偵らしく、依頼を受けての調査の為。
軽く釣り上げた掛け金、それをさも当然のように倍額で上乗せしてくる対面の相手。
うず高く積まれた向かいのチップの山から考えれば些末な金額とはいえ、躊躇がない。
(イカサマ調査ねぇ……)
運営陣から渡されたチップでポーカーに興じながら、対面の相手の様子を眺める。
手札のすり替え等が行われている訳ではないのは、確認されている。
少額の負けを挟みながら着実に、あからさまな事こそしないがかなりの速度でチップを増やしている。
それが一日ならいざ知らず、連日と来た。多少ならともかく、これは困る。
当然ながら、この施設もカジノ側に利益が得られるようにできている。
その前提を崩すような動きを見せた辺りから見張りがつけられたが、
その段階で胴元を直接相手取らないポーカーに移って相手を募り始めてしまった。
「ドロップ、豚で張り合うにはチップ差がでけぇ」
苦虫を嚙み潰したような表情で、揃いの無い手札を表向きに投げる。
賭けられたチップが手元に移る様を笑顔で受ける対面のパーカー姿の若い男。
相手の手札は良い物とまでは行かないが、それでも勝負に出られるだけの物。
それにチップ量が厄介だ。そこそこの札でも強気のレイズをかけられると流す他なくなってしまう。
相手の背後にいるスタッフに軽く視線をやるが、イカサマらしい素振りは見えないらしい。
■ノア > 「なぁ兄さんよ、ここって異能をゲームに使うのって違反なんだわ」
ご存じ? と問いかけながら、新たに配られるカードを見やる。
並べ替えたりはしないが、6の3カード。
Aがある分キッカー勝負になれば勝てなくはないが、役の数字自体が強くはない。
「俺さ、使えば絶対に勝てる異能持ってるんだけど、まぁ禁止されてっから使えないんだわ。
あ、レイズ10枚で」
言いつつチップを滑らせる。
ゲーム中に話しかける事自体マナー違反と取る人間もいるが、
このカジノにおいてそんな高尚な事を言う人間もいない。
それに、異能の話を振った瞬間に、表情こそ変えないながらも囲むポーカー台に妙な思念が混じる。
使うとか、使わないの話では無く見えるのだ。意思など問わないため防げるものでもない。
相手のコールで、10枚のチップが出てくる。
「おや、レイズ無しとは珍しい。
"幸運"でも尽きたか?」
露骨すぎるカマかけだが、言ってみる。
種も仕掛けも無い連勝。それなら異能を疑うのが筋だが、こればかりは疑っていてはキリが無い。
仕掛けて作用するタイプなら見張りが気づくが、自身のようにオートで働くタイプは見て判別がつくものではない。
しかし、雑なカマにも引っかかる者はいる。
コールにとどめたのは異能の話をされて日和っただけのようで
常時発動するようなタイプの異能なら手札は相変わらず
そこそこ以上には強い物だろう。
そこそこには強い。今の所全てがそうなのだ。
■ノア > 「いや、さ。俺の異能ってそーんなすげぇもんじゃねぇよ?
日に何度も使える訳じゃねぇし、ただちょっとだけ良い事を引き寄せるってだけのもんだしよ」
ただちょっとでも似たような異能とぶつかると効果無くなるんだわ、とカードをディーラーと入れ替えながら嘯く。
相手の目を、金色に輝く眼で見据える。返ってきたカードを見やるが、役は変わらず。
同じようにカードを入れ替えたはずの相手には、凍り付いたようであぶら汗が見える。
「でもなーんか勝てるような気がしちゃうんだわな、今回は。
なんでだろなぁ――レイズ100枚」
3カードで賭けに出るような額ではない。
相手の賭けている額自体も少額なので、普通なら相手が降りて流れて終わりだ。
が、勝てる手札が来ているせいで迂闊に降りられないのだろう。
迷いに迷って、告げられたのはコール。
自分の出したのと同様に、100枚のチップがテーブルの上を滑る。
「あ、降りねぇんだ。そんじゃ、勝負っと」
さして強くも無い3カードを場に晒す。相手の手元にはストレートフラッシュ。
こうなると知っていて、釣り上げた掛け金だ。
そのうえで、演技をする。小悪党っぽく、わざとらしいくらいに。
「あぁっ!? ストレートフラッシュ?
イカサマだ! 俺は"勝負に勝てる異能"使ったんだぞ!?
力業ならともかく運任せのカードで負けるはずがねぇ!」
さながらチンピラのように、豹変して見せる。
備品を傷つけたら殺すとは言われているのでテーブルを蹴ったり椅子に足を乗せたりはしないが、
安っぽくて馬鹿な二級学生のように、振るまう。
当然、不正の自白なのだから背後に立っているホールスタッフに肩を掴まれてそのまま別室に連行される。
アイツの異能を調べろ等と騒ぎ、半ばひきずられるようにしてバタンと扉が閉じられ、
ジタバタと暴れる姿がホールから消える。
■ノア > 「――んで、あんなんで良かったのか?」
扉が閉じられるやいなや、すっくと自分の足で立つ。
さっきまでの醜態を忘れたように、コートの襟を直して問う。
自分で言うのもなんだが、なかなかに酷い芝居だった。
が、それで良い。周囲に見せつける為のパフォーマンスなのだから。
イカサマとして見分けのつくような物であれば、それこそ雇われではない専任の手で静かに葬られるが、
今回のように判別の付かない場合、理不尽な話だがとりあえずで葬られるのだ。
疑わしきは罰せよ、証拠が無くてもこんな手段で消しますよ? というメッセージの茶番。
唯一仕込みじゃないのはさっきの少年だけだ。
こんな些事に責任者が出てくるようなことは無いが、そこそこに話の通せる相手が裏口までわざわざ出向いてくれていた。
自分が居なくなった後、イカサマや異能の使用についての確認が別室で怖いお兄さん達の手で行われているとの事。
「あの坊主も可愛そうに。ま、痛い目見ねぇと分かんねぇか」
他の賭場で荒稼ぎしている事も割れている。その分の徴収くらいで許されれば良いが、そうはいかないだろう。
明日くらいには新鮮な臓器一式でも市場に流れるかも知れない。
だが、素性も知らない少年の行く末を気にしてやるほど心ある人間でも無い。
「でも、あんまし派手にはしねぇ方が良いと思うぜ。
落第街と違法部活の動きが最近きな臭ぇ。
稼ぎを減らせとまでは言わねぇけど、あんま足のつく形で肩入れすると後が怖ぇぞ」
■ノア > 風紀と対立し、暗躍する組織もある。
今は膠着状態と言ったところで大きな動きは見えていないが、
その動きがあった時に巻き添えで尻尾を掴まれると災難では済まない。
「まぁ、さすがに風紀の連中も歓楽街にいきなり殴り込んでくるようなこたねぇだろうけど、
いざとなったら逃げ道用意するなりデータ偽装くらいならやっからさ。
そんときゃよろしくってマスターに伝えといてくれ。
報酬はいつも通りの口座に、見積り通りで良い」
結果次第で増額との話もあったが、待つのに付き合ってまで必要以上を求める気は無い。
依頼を受けたのも、どちらかと言えば先ほど告げた注意喚起と有事の際の売り込みが主目的だ。
自分の位置から全貌の掴める状態では無いが、風紀の中でも過激な連中が動き出せば話し合いなどと悠長な事を言ってはくれまい。
大事の中で下手を打てば最悪、公安の連中にも目を付けられかねない。
「……難儀な世の中だな、まったく」
ヒラヒラと手を振りながら、男はアッシュの髪を揺らして裏口からカジノを出ていく。
ご案内:「カジノ「蓬莱」」からノアさんが去りました。