2021/11/14 のログ
ご案内:「歓楽街」に黛 薫さんが現れました。
黛 薫 >  
先日、図書館で自分を見つめ直す本を読んだ。
エッセイとか、啓発書とか、心理テストの本とか。

自分の心が分からなくて、どうにか理解しようと
試みた結果、心なんてよく分からないモノだと
結論付けざるを得なかった。

自分を見つめ直すには自分の心に問い掛けねば
ならず、しかし自分ほど信用出来ないモノなんて
ないのだから、納得出来る答えは返ってこない。

考えれば考えるほど分からなくて、分からないから
気分はどんどん落ち込んで。このまま悩み続けたら
きっと足が遠のいてしまうからと、行きつけの店に
足を運んでみたのだけれど。

「……あれ」

歓楽街の路地裏、お気に入りのお店。
そこに人の気配はなかった。

黛 薫 >  
休業日だろうか。しかしドアに『CLOSED』の
看板は掛かっていない。遠慮がちにノブを押すと
鍵もかかっていなかった。

「……こんち、はー……?」

おずおずと声を掛けながら店内に足を踏み入れる。

訪れる日によって異なる香気を漂わせるお店。
安らかな気持ちを誘う香りを纏う日もあった。
慣れないと驚いてしまうくらいに苦い香りに
包まれていた日もあった。

今日は、少しだけ香りが薄い気がした。

不在を確認するために呼び掛けようとして……
言葉に詰まる。店主の名前を知らないから。
それ以前に……店主に呼ぶべき名が無いから。

「……いなぃ、の?」

不安気に呼び掛けて、周囲を見回す。

ご案内:「歓楽街」にメアさんが現れました。
黛 薫 >  
留守にしていること自体は別におかしくない。
聞いた話では買い物をしたり露店を開いたり、
アウトドア路線も狙っているとのことだった。

(……でも、それなら。閉店中の看板くらぃ)

もし用事があって出掛けているのなら鍵がかかって
いなかったのもおかしい。もしかしたら別の部屋で
以前のように眠っているのだろうか。だがその場合
勝手に別の部屋を確認するのも躊躇われた。

「……寝てるの、か?」

小声で呟くも、他の部屋になど届きようが無い。

メア > 「うーん………」
いつの間にか、手元にあったスタンプカード。そこに書かれた『Wing's Tickle』の文字。押された翼のスタンプ。

「確か、此処よねぇ」
情報を頼りに、その店へ辿り着く。誰かの忘れ物とメアが思っているスタンプカードを、お店経由で返して貰おうと思って、その店へ来た。

そしたら、見たことのある姿が、そこにあった。

「あら、こんにちは。先客かしら?」

黛 薫 >  
「う、ゎ……あぁ、もぅ。脅かさねーでくださぃよ。
 メア、だっけ?来る日被っちまったか。つっても
 生憎……店主が不在みたぃなんすよね。あーたは
 何か聞ぃてたりします?」

以前路地裏で聞いた声。不安のあまり店の外に
向ける意識が疎かになってしまっていた。

そういえば、彼女と以前出会ったときもこの店が
話題に上った。もしかしたら何か事情を聞いては
いないかと問うてみる。

メア > 「あら、それは残念。誰かの忘れ物を返すついでに、話題のお店ちょっと試してみようかなー、と思ったんですけど」
ひらひらと、スタンプカードを見せる。
そこに押されたスタンプは1枚。

しかし、それ以上に気になる言葉を、メアは吐いている。

黛 薫 >  
「あー?忘れ物って、ココのスタンプ忘れるとか
 随分ともったいねーコトするヤツ……も……」

ちらと貴女の手でひらめくカードを一瞥。
それから店内に視線を戻そうとして……
目を見開き、狼狽した様子で振り返った。

「……待って、何?何て?今、あーた、何を」

混乱のあまり意味のない問いを吐いた口を一旦
閉じて、頭痛を堪えるようにこめかみを抑える。

「……話題のお店を、試すって。どーゆー……?
 あーた、このお店来たコトあんだろ?」

だって、前回の邂逅で言っていたはずだ。
この店は香りも良いし、マッサージの腕も良いと。
お気に入りだと──言っていたはず、なのに。

メア > 404 Not found.
「いえ、此処に来るのは『初めて』ですよ?」
思考の中でエラーを吐き出されることを少し疑問に思いながら、そう答える。

「結構話題になってたんで、気になっていたんですよ」
そう、それこそ、薫さんとも―――――

400 Bad Request.

「………あれ?」
また、エラー。

黛 薫 >  
咄嗟に手が伸びた。殆ど掴みかかるような勢いで
貴女に詰め寄る。長い前髪の下、見開かれた瞳は
今にも泣き出しそうに震えて、顔面は蒼白で。

「嘘だ」 「だって、そんな」

暗がりの中、聞いた言葉を思い出す。

"私って、誰にも見えない覚えられない"
"そんな『異能』を持ってるから"

彼女が一瞬『いなくなった』のを見たことがある。
視界から消え失せたその姿は『何もないが見える』
左の視界にだけ姿を現した。

彼女の『異能』の適用範囲の仔細は知らない。
個人のみを対象に取れるのか、それとも……?

少なくとも今、自分は覚えている。
『何もない』が見える限り、忘れない。

けれど、目の前の彼女は、メアは──。

「……冗談で、言ってるんじゃ……なぃ、のか?」

震える声で、絞り出す。一縷の望みに賭けるように。

メア > 「うーん、システムに障害が……っわ!?」
詰め寄られて、その表情に驚いて。

「ど、どうしたんですか」
狼狽する彼女を見ながら、心配する。

心配されるべきは、自分だというのに。

「冗談、って…いえ、確かに記憶領域が曖昧になってはいますけど…」

メアは覚えていない。『■■■』に関する一切の記憶を抹消されている。

黛 薫 >  
「……嘘じゃ、なぃんだ」 「なんで、そんな」

酷い目眩に襲われ平衡感覚が保てなくなる。
お店の床に膝を付きそうになって、堪えて。
メアの記憶領域が曖昧になっていた事実は
予想を確信に変えるには十分過ぎた。

店主は『異能』を使いたがらなかったはずだ。
やむを得ない事情があった?秘密にしていたなら
目の前の彼女にどう伝えたら良い?

ぐるぐると思考が廻ってまとまらない。

「……記憶が、曖昧なの……消されてるから、かも」

やっとでそれだけ伝えて、躊躇をかなぐり捨てて
店の奥の部屋まで探し始める。ロッカールームに
マッサージルーム、あとは狭い厨房がある程度で
とても人の暮らせるようなスペースなんて無くて。
何処にも店主の姿は無かった。

「……どうしよぅ……」

大した時間をかけさえ出来ずに家探しは終わる。
貴女を振り返った黛薫は今にも泣き出しそうだった。

メア > 「…消されている?」
きょとん、と。驚いてみせる。
消されている。何故?

「か、薫さん?」
慌てて部屋の奥へと消えていくのを、追おうとする。
しかし、混乱が、足を止めさせる。
記憶を、消される。何故、どうして?

『■■■』の人物像までもが消されている以上、その自問自答は無為であった。

「薫さん、大丈夫?」
泣き出しそうな彼女を見て、声を掛ける。

原因は、自分だと言うのに。

黛 薫 >  
「……だいじょぅぶ、じゃ……なぃ……」

縋るように貴女の袖を握る。思い出してもらう
試みの無意味は理解していた。イレギュラーが
ない限り店主の異能は『完璧』だと聞いたから。

いなくなったなら、探さなければならない。
方法も分かっている。だけど思考が纏まらない。

ぐい、と貴女に押し付けるように手を差し出す。
握っているのは犬の顔を模したアロマストラップ。
南国の透き通った海の底の砂の色を思わせる香り、
そこに微かに混じるひとひらの花弁の香り。

「……この、香り。……嗅ぃだ記憶、なぃ?
 いぁ、あーしが、じゃなくて。ココに来る
 道中とか……記憶が、あれ、ば……」

メア > 「……うーん」
記憶を漁る。
エラーが起こる。
記憶に欠損がある。

思考を切り替え、『記録のみ』を漁る。
薫さんと、話したことは、ある。
この店について、話したことは、ある。
その香りも、話したことは、ある。
その時に…思っていたことだけが、記録から消えている。

「…ふむ、ふむ」
彼女の質問を無視して、自問自答に耽る。
記録を漁る、漁る。
此処に来る道中。ここに来て、何をしたか。

そう、検索を絞れば…見えてくる。

或る一定の思考と、この店に直接関係することの、一切合切が消えている。

「嗅いだことは、『記録』されてます。此処に来る道中も、『記録』されてます。ただ…『此処』と、恐らく『此処』に直接関係する思考や記録は消えてますね」

黛 薫 >  
引き攣っていた呼吸が落ち着いてくる。
感情に押し流されて寄る辺を失っていた理性は
貴女の冷静な分析を手掛かりに戻りつつあった。

「……ぅ゛、く……あぁ、うん。それは、多分……
 そぅ、なんだと思ぅ。理由は分かんなぃけぉ、
 あーしは記憶……を、消せるヤツに心当たりが
 あって。メアが覚ぇてなぃのは、そこに原因が
 ある……と、思ってる」

多少情報をぼかして伝えるのは、店主がどこまで
自分の情報を隠しておきたいか確信が持てないから。
もしメア個人の記憶を消しただけなら、知られては
困るような何かを知られたのかもしれない。

「……メア、は。思ぃ出したぃって、感じる?」

不安気に問うてみる。事情が読めない現状では
知りたがらないように適当に誤魔化した方が
良かったのかもしれないが……それは不誠実だと
感じてしまったから。

メア > 「……うーん」
そう、考えてみれば。たった一人を消すようにして記憶…記録が抹消されている。
そこから想像がつくのは…その人が消したか。もしくは、『自分から望んで』消したか。

「…ちょっと、わからないですね。
消した人の都合も、あるかもしれないですし…もしかしたら、『自分が望んだ』っていう可能性もありますし。」

黛 薫 >  
「自分から……って、メアが望んでってコト?」

訝しみつつも、あり得ない話ではない気がした。

まず、店主は自身の『異能』をあまり快く思って
いなかった節がある。その上で行使を選んだなら
やむを得ない事情があったか、そうでないのなら
『人の為』になると判断したか。

店主の性格を思えば『人の為』の方がしっくり来る。

であれば『メアが望んだから』は妥当な理由に
思えるが……何故そう望んだかまで踏み込んで
考えるとやはり分からない。

現状、手持ちの情報では答えが出せそうにない。
そう判断すると、一旦思考を中断して口を開く。

「分かんなぃのならあーしが勝手に踏み込むのは
 止めとぃた方が良さそーだな。でも、どうあれ
 あーしは『原因』っぽい相手に会って問い正す
 必要がある……と思ぅ。

 だから、忘却があーたに不都合なモノだったり
 思ぃ出しても別に支障なさそーな話だったら、
 改めてあーたに言ぃに行く。思ぃ出さなぃ方が
 イィ話だったら……言ぇねーだろーけぉ」

「……メアは、それで良ぃ?」

声音に混じる不安は『忘却』への憂慮を感じさせる。
きっと黛薫は内容が不都合な物であることを恐れて
貴女に探らせたくないと考えている。

その上で出来る限り貴女を気遣い、誠実であろうと
ラインを測っているようだ。

メア > 「そう推測したのは…『この店に関することのみ』が消えてるからなの。『記憶を消された』時の記憶が無くて、他に欠損が無いから…多分、この店で消されたのかな、って」
記憶、そして記録を一度全て確認した上での推測だ。
もし『改竄』までされていたら、それ以上はわからないけど。

「…まぁ、それが良さそうかな。記憶を消されたにしろ…あんまり、困らせたくはないから」
人としては、異常な発言。
記憶の喪失。欠落。それは大いに人を狂わせるものなのに…彼女は平然としている。
それどころか相手の心配までしている。

それに、発言の端々に人とは違う言い方をしているのに、気がついているだろうか?

黛 薫 >  
「……ん、じゃあそーする。……ありがと」

安堵から無意識に付け加えた感謝の言葉は
貴女に届くのだろうか、と一抹の不安を覚える。

『忘却』を『欠損』と表現し、自己の不利益より
未だ意図が不明瞭な『記憶を消した者』を気遣う。
根本でヒトと断絶した価値観は、前回の邂逅でも
意識せざるを得なかった部分。

怖いほどに魅力的なのに、理解が及ばないが故の
恐ろしさがある。自分は会話をしているつもりに
なっていたけれど……本当にそうなのだろうか?

その有り様はまるで望むことを望むままに返して
くれる機構のようで、会話のつもりで一人相撲を
していたに過ぎないのではないか……と。

メア > 「うん?感謝されるようなことは、した覚えないんだけど…」
ありがと、と言われて。疑問符を浮かべる。

あくまで事実を話しただけだし、目の前の少女は取り乱してすらいた。
こちらが謝ることはあれど、感謝される覚えがない。

「私、なにかしたっけ?」
とぼけた様子で、薫に聞く。
そうすれば、自分の理解していない何かを、理解出来るかもしれないから。

黛 薫 >  
「あ、いぁ……何て言ぅかな。あーしはあーたに
 色々問ぃ掛けたけぉ、それってこう言われたら
 どうしよぅ?の裏返しみたぃなモノだったから。

 意図してかどーかまでは分かんねーですけぉ、
 言われたら怖ぃコト、探られたら話せなぃコト、
 避けてくれてるみたぃなキモチになって。

 『人の為』っつーと語弊がある、かな?
 でも、あーたがあーたらしくいてくれたから、
 あーしもちょっとだけ落ち着けたっつーか」

んん、と喉の奥で唸るような声を漏らす。
違和感なく自分の感情を言葉にするのは難しい。

「上手に言えねーですが、あーたの言葉があーしの
 言って欲しかったトコ、キレイになぞってくれた
 みたぃな?そーゆー感覚がありまし、た。はぃ。
 いぁ、それがあーたの為になんねーかもみたぃな
 引け目も無ぃと言ぇば嘘かもですけぉ。何だ?
 あーしヘンなコト言ってるかも……」

メア > 「…つまり、私は『求められた回答』が出来たから、感謝された…でいいのかな?」
ものすごく要約した。

「でも、私も殆ど事実を言ったまでで…取り乱ししてないように見えるかもしれないけど、内心『おかしいな』、とは思ってるのよ?これでも」
その、『おかしいな』で済むのがおかしいのだが。

「でも、感謝されたなら、返しておかないとね。『どういたしまして』」

黛 薫 >  
「……まあ、その『おかしいな』で済んでんのが
 あーたの強み……なのか?当事者のあーたより
 あーしのが取り乱してんだもん」

ため息ひとつ。彼女が人間でないのは前回の邂逅で
既に聞いている。そのお陰……という訳ではないが
どうしても意識してしまう。

「あーたの話じゃねーけぉ『人の為』が生き甲斐で
 それが自分のやりたいコトだって言ってるヤツが
 いてさ。でも、ソイツにも嫌なコトくらぃあって、
 嫌なコトを『人の為』だからやれって言われたら
 どーすんだ、って話したコトあんだよな」

似ているようで違う誰かについてぼやく。

「だから、キレイに『求められた回答』が出来る
 あーたに思ぅトコがあったのかもしれねーのな。
 どーしよぅもなぃ存在意義みたぃなのがあって、
 その為なら自分も蔑ろに出来ちまうんじゃって」

「……いぁ、蛇足だったな。ともあれあーしは
 そーゆーワケで『ありがとう』が言いたくて、
 『どういたしまして』が返ってきたコトに
 ちょっとだけ安心してんだ」