2021/12/03 のログ
ご案内:「歓楽街 路地裏」にノアさんが現れました。
ノア > 泥臭い路地裏、吐き捨てられたガムの痕がこびりついた箇所を避けて歩く。
仇の足跡を辿るように、一歩ずつ。
行き止まりの果てには『Watch me』の書き文字。

「……見つけてやるよ」

落第街の各所に仕掛けたカメラのログを辿るが、
この路地に入った人の姿は無く、ひとりでに動くチョーク片が小さく映っていた。

文字通り姿を消す男の影を追いかけ続けてもう五年。
ここ数日、辿れる程に日の浅い痕跡を見つけるスパンは短くなっていた。
血の匂いを感じて地面をなぞれば不可視の粘着質な血が指に付く。

「汚ねぇ…」

手に付いた汚れを雑に壁になすりつけて、煙草に火を灯す。

ノア > 口の中に溜まった薄れた味の紫煙を少し吐き出し、
間髪入れずに息を吸って残りを肺まで落とす。

大規模な風紀と落第街の攻防こそ鳴りを潜めたが、
あの街は相変わらず安全とは程遠い所にある。

思い返すのはダスクスレイと紫髪の女。
尋常ならざる膂力と業でもって行われる命のやり取りを前に、
引く事しかできない自分の無力さに呆れて乾いた笑いが漏れる。

「撃って素直に死ぬようなタマじゃねぇだろうしな……」

必中の一射が手元にあろうと、剣と血に飢えたあの獣たちに効くとも思えない。
圧倒的な暴威を前に、無力な正しさは意味を持たない。

あれらを前に、自分は無力だ。
しかし強くなりたい、という思いは無い。
無力を嘆く意思も無い。

「こんくらいのが性に合ってら」

コートの中の黒い拳銃に触れる。
結局マトモに開かずに機械で抉じ開けたケースの中に入っていた代物。
人を手にかけるには十分な、この程度の重みが自分には調度良い。

ノア > 裏の渋谷で得た新しい力もようやく馴染んできた。
銀の眼で見えるのは対象の手折ってきた命の数。

明確な数字ではなく、自らの意思を持って手にかけてきた命の重さが、
無機質なノイズ混じりの声で査定されて、告げられる。

その時に引き金を引けば、相手と自分に不可避の弾丸がプレゼントされるのだが、
"裏"以降そういった使い方は今の所していない。

必中の弾丸などが脅威になる相手ならばリスクなど取らずに弾をばらまいた方が良いし、
効かない相手に撃てば自分だけが地面を転がるハメになる。

感度良好な殺人鬼発見装置を欲するような組織に飼われる趣味も無い限り、
この島に於いては、さほど有用でもない。

ノア > 「柊は、上手くやってっかね。
――今は窯雲だったか」

今は彼と連絡を取るような真似はしていない。
教師として生きていく者に、暗がりを這う者が触れるべきではあるまい。
少なくとも、今は。

顔向けできるのはいつになるやら。
仇を殺したら?
命を手にかけたその手を、友人に向けて振れるだろうか。

術は既に手の内にあった。
不可視であろうと、何であろうと死ねば死ぬ類の相手だ。
探知を駆使し続ければ、どこかで見つけられる確信があった。

ノア > 「今更、引き金が引けねぇなんて言えねぇよなぁ」

直面した時に、自分はこの撃鉄をおろせるだろうか。

頼めば、雲雀の面々は始末をつけてくれるだろう。
終わらせるためにこんな島まで追ってきたのだから、
幕引きは自分で行うべきだろう。

短くなった煙草を携帯灰皿に押し付けて通りに出る。
足跡を追って、ふらりふらりと。
頼りない緑のコートは、雑踏の中に消える。

ご案内:「歓楽街 路地裏」からノアさんが去りました。