2022/02/02 のログ
ご案内:「歓楽街 酒場「黒い花」」にラヴェータさんが現れました。
ラヴェータ > 背の高いカフェもとい酒場の屋上階。
階段を上がりきり、そこでも最も柵に近い外側の席に腰掛ける。
レストランだのカフェだのと言われているこの酒場だが、酒以外の評判はすこぶる良く、一度足を運んでみたかったのだ。
理由はそれだけではないが。

「ふむ、中々いい眺めだな。レビューにもかかわらず建物の背が高いなどと言われるのも納得の高さだな」

イスに腰掛け、足を組みながら通りを見下ろす。
昼すぎの盛りも相まってか、大通りではないのにも関わらずそれなりの賑わいを見せる通りを端から端までうかがい知ることが出来る。
そして気になっていたアレも。

「人間観察が趣味と嘯く輩の好みそうな場所だ。最も少し遠く見えずらい気もするが」

通りを見下ろすのもほどほどに、4人用テーブルの端に立てかけられたメニューを手にとり、目を通す。
昼すぎというのに人が少ないのには、メニューの内容がディナーのフルコースかと言わんばかりのメニューが多いからだろうか。
とはいえ、間食に向くメニューもあるとは聞いたわけで、夜は異常ににぎわっているという話も鑑み、あえてこの時間に訪れることにしたのだ。

「とはいえ...中々に値が張るものと量の多いものが多いな。本当にこれは一人用か?
オーナーはいったいどれほどの大食いなのだ」

呆れたような嘆息を添えて、対面の空席を見やる。
もう一人いればな、と。

ご案内:「歓楽街 酒場「黒い花」」に清水千里さんが現れました。
清水千里 > さて、そんな彼女と同じように憂う女性がもう一人。
と言っても、値段や量に悩んでいるわけではない。

「この時間、どうやって潰しましょうかね……」

待ち合わせの時刻までまだずいぶん時間がある。
ふらふらと手ごろな酒場に寄ってみたはいいが、退屈でたまらない。

「何か面白いことはないでしょうかね……」

きょろきょろと、若干挙動不審に周囲を観察していた。

ラヴェータ > 「まあそう都合よく見知った顔が現れるようなこともあるまいて、なんて思っていたんだがな」

等と戒めるかのような口調で冗談を口にしながら顔を上げれば見知った、というほどではないが知った顔のような顔。
会ったことこそないが、写真では見たことがある。
見間違えかもしれないがどうせだ声をかけてみても損な事は無いだろう。

「清水千里、であっていたか?そこのお前だ。良ければ私のティータイムに付き合っていってくれないか?」

私のおごりだ、と付け加えて少女を手招いた。
同じ監視対象であるということしか共通点の無い彼女に向って、ずうずうしくも声をかけた。
こちらは資料でのみあちらの存在を知った身。あちらはこちらのことを知っているだろうか?
雑で傲慢な態度にとれるだろうが、狐の少女にしては丁寧な誘い方であった。
表情はイタズラをする子供のように楽しげであるが…

清水千里 > 「……アレアレ、これはこれは」

と、目が合ったのは白い狐耳と狐の尻尾を持つ軍服の女性。
ラヴェータがそうであるように、清水もまた《クライン生命》のエージェントから伝え聞いた資料の上ではあるが、彼女の”悪行”については知り及んでいた。

「お互い、妙なところで出会いましたね?」

清水はラヴェータの誘いに乗る。知識の探究者を自称するものとして、こういう好機を彼女が逃す道理はない。

「ああでも、”おごり”は結構。
どうです、この店のメニューを見て考えるに――よさそうなものを選んで、折半というのは?」

ラヴェータの傲慢にもとれる態度に清水がへそを曲げることはないが。
ラヴェータがそうするように、彼女もラヴェータに接するだろう。
相手によっては、この方が気楽に腹を割って話し合えるということもあるのだ。

ラヴェータ > 「お前が良いと言うのなら構わんさ。アレは誘うものとしての礼儀というものだ」

言ってしまっては元も子も無いがな、などと付け加えて好きに選べと言いたげにメニューを差し出した。

「にしても、私が言えた事ではないがお前はこうも自由に出歩いていていいのか?
三級とはいえお前も監視対象だろう?」

屋上階に他の誰かがいないのは最初からだし、今でも変わっていない。
少し声量は下げつつ彼女に問いを投げかける。

「それと、私はお前の事を資料でしか見たことは無いがお前は私の事をどの程度知っているんだ?
それとも名前と顔ぐらいしか知らないか?」

特段不満げな様子をみせなかった彼女に対して普段と変わらぬ態度で語りかける。
とはいえ悪意も見下す様子もない。
傲慢ではあるが。

清水千里 > 「言わなければ分からぬこともありますよ、いえむしろ、私みたいなのにはそっちの方がいいんです。
何かにつけて”質問魔”だって煙たがられるぐらいですから」

清水はメニューを見る。真っ先に見るのは飲むものだ。

「私は――無難に、ダージリンのホットを頼みましょうか、まだ日も高いですしね。
貴方は何を?」

と、メニュー表の向きをラヴェータに見やすいように向けて、彼女に渡す。そして、

「……ええ、まあ、監視されてますけどね」

と、清水は苦く笑う。

「いつも遠巻きに見てくるだけです。気にしすぎなければいいんですよ。
それに彼らが私の監視任務について、なんて言っているか知ってますか?」

と、彼女はラヴェータだけに聞こえるように肘をついて身を乗り出して。

「『清水千里から生徒を守るんじゃない、生徒から清水千里を守るんだ』って――」

そういうと、口角を少し上げた。

「過保護にもほどがありますよね?」

彼女の反応を見て、清水は元の姿勢に戻り。

「貴女は有名人ですから、過去のことも多少は知っていますけどね。
まさかそれで全部だとは思いませんよ」

ラヴェータ > 「過保護、とはいえ監視対象なのだ。それぐらい甘んじるべきさ。何しろお前は"悪運"だろう?それくらい守らないと危ないのだろうさ」

素の意味で考えれば危険なのは彼女の身。少しこじれた考え方をするのなら悪運なのは彼女を守らされる監査役達。
もしくは守らざるをえない風紀、もしくはそれよりもっと上、それとも我々か。

「私の監査役も過保護でな。普段何も行動を縛れない分中々口うるさくてな。
しかもあれだ、私の過去を知っているならわかると思うが私は守られるような身ではないのだがな。
それでも身を案じられる気分は中々に形容しがたい」

冗談のように冗談を口にする。
実際は形容しがたいと言ってももっと違う形なのだが。
自身の監査役に対して呆れるような態度を見せて。

「とはいえ、私には常に見られている感覚は理解しがたいがな
窮屈でおかしくなってしまいそうなものだが、お前は中々揺るがないのだな
ああ、飲み物だが私も同じものにしよう。普段飲まないようなものを飲んでみるのもいいだろう」

差し出されたメニューを二人の見やすい角度に調整しながら。

清水千里 > 「ええ、確かに『悪運』かもしれない」

と、清水は珍しく嘲るように呟く。しかしその言葉が向けているのは監査役でも、風紀委員でも、ラヴェータや清水たちですらない――何か宿命のような、有限の存在にはとうてい”勝つ”ことのできないものに――向けられているようだった。

「私は思うんですけどね」と清水は言う。

「過保護というのは、私たちを守っているのではないんですよ。むしろ逆なんです。
人間という種族は、その寿命の短さのせいか、どこか死を特別なものとして扱うきらいがありますね。
それでどうなるかというと、『理不尽な人の死』を極端なまでに嫌う割には――それはあまりに軽すぎますからね、
もっと重いもの――《信じるもののためになら》、喜んで自分の命を捧げられるということになるんですよ」

それで、と清水は続けた。

「彼らは私たちを守ると言っている――ほんとうなんでしょうか? 多分違います。
要は彼らは、自分たちの信じられるもの、《自分の命を捧げるに値するもの》を探しているんですよ。
それで『そうでないもの』に命を捧げるなんてのは、――それが他人の命だとしても、まっぴらごめんなんです。
だから私たちのことなんか考えやしないんですよ、当然でしょう? 『私たちのために』己を捧げてるわけじゃないんだから」

と、ここまでいって、清水は息をついた。

「ええ、私の悪い癖です――あなたの言う通り、たまには愚痴も言いたくなりますよ。四六時中見張られているのは気分のいいものじゃない。何が悲しくて住処に盗聴対策をしなきゃいけないんですかってね……」

と、返されたメニューを見ながら。

「このアフタヌーンティーセットなんていかがです? 名前からして、なかなかこういう昼下がりな時間にぴったりじゃありませんか」