2022/02/03 のログ
■ラヴェータ > 「ああ、ならそれにしよう。まさに昼の後だしな。
にしてもあれだ、まあ色々とお疲れ様だ
気持ちなら分かってやれる」
同情の眼差しで彼女を労うような態度をとる。
発される言葉は拙いが、態度と気持ちに嘘は無い。
「まあ、そう言ってやるな
本来は命をささげる必要すらなかった奴らに命を捧げさせているのは私たちの存在だ
お前がどうかは知らんが私は別に高尚な存在でもないうえにほら、あれだろう?
そんな私に生きてる時間を割かせているだけでも感謝はせずとも理解の姿勢ぐらいは示してやるべきではないか?」
長命の者として、短命の者を憐れむような言葉。
短命の価値観を突き放し呆れる者と短命の価値観を俯瞰し憐れむ者。どこか対照的だがどちらも傲慢だろう。
「とはいえまあそれがやつらの自慰であることは言うまでもないがな
元々気分が良い者ではない挙句対策までしているお前からすればたまったものではないだろうな」
■清水千里 > 「ああ、その通りですよ、ラヴェータ=クリークラークさん!
この地上にはばかなことが、あまりにも必要なんです。
ばかなことの上にこの世界は成り立っているのですし、
そういうばかなことがなかったら、ひょっとすると、
この世界ではまるきり何事も起らなかったかもしれないんですからね!」
清水は歪んだ微笑をラヴェータに向けた。
「彼らはとうに諦めてしまったのじゃないかと、思うことがありますよ。
私は不安なんです――なにがって、ある日突然、彼らが全てを放りだしたくなって、
そのまま与えられたものだけに満足して、それはつまり、ある日突然わいて出た、
魔術や異能、高度な科学といった、彼らの努力のひとかけらだって払われていないものを
ありがたがって、その中で満足してしまうことです。
彼らの信じたいもののために命を捧げるのは彼の勝手ですが、
しかしこれはとんだ矛盾じゃありませんか?
もし本当に彼らが嫌うような理不尽な死を何とかしたいと思うのなら、
彼らがやることはそんなことじゃないはずだ。
理不尽に意志と知恵をもって立ち向かわなきゃいけないんですよ。
なにせ理不尽というものは、一時だってこの大地から消えてなくなることはないんです」
ラヴェータの慰めに呼応してか、その告白は苦しみに満ちていた――
「ええ、あなたの言う通り、もしかしたら私は、彼らに求めすぎているのかもしれませんけどね。
でもね、実のところ私はすぐに今言ったような考え――あきらめという考えが、ばかげたものであったことを思い出すんです。
世の中にはそれに負けないように、力をふり絞って戦っている人たちがいるんです。
だから私はせめてその人たちのために、その人たちのそばに居続けなくちゃいけないんです」
彼女はあくまで、人類の力を信じている。
――その言葉からは恐ろしいほどの、人類に対する狂信的な愛を感じるだろう。
清水はウエイターを呼んで二人分の注文を済ませる。
■ラヴェータ > 彼女の告白を少女は黙って聞いていた。
この世は救いようがない事。
人類はまだ頑張れるということ。
あらがう人々の隣に寄り添い続ける必要があること。
「…お前は凄いな。よくそう背負っていられるものだ」
最後まで聞き、驚きを隠せないような表情でそうつぶやいた。
「私は異邦人というやつだが、私の世界でもそういう奴はいた。
勝ち目のない戦い出向いて死ぬことに、命令に従い殉職することに命を預けた連中は多かった
生きようとするのではなく、死ぬために向かってくる。
思い返せば、それに立ち向かうのではなく、そこで諦めた連中は哀れだな。
まあ、それを薙ぎ払って来た私が言えたことは無いがな」
ハハ、と苦笑い。
「とはいえ、そういった理不尽に立ち向かえば哀れじゃないかというと、そうでもないように感じるがな…
それにあらがう奴らを応援したい、そばに居続けたいという感情は分かる」
「ただまあ、私はお前の愛とやらは理不尽に感じるがな。
私が思うにあらがうと言うのは余裕がある者の感覚だ。
それを求めているお前の愛は人類を、いや、この星や世界を自身の箱庭か何かと思ってはいないか?
そばにいて何かしているのか?お前は」
怒っている訳ではなく、自分の中にもある感情の一端が大半を占めていう彼女を静かな瞳で見つめる。
愛するのと期待するのは、話が違う。
愛に、期待に応えた相手を愛するというのはエゴでしかないのではないだろうか。
■清水千里 > 理不尽に立ち向かうこと、清水はラヴェータの言うことを真剣に聞き入れていた。
そして、「ええ、ですから」と清水は苦笑した。
「『悪運』なんですよ、所詮、負けないために必死に抗ってるだけなんです、
人も私も――いえ、こんな区別でさえ、本当は必要ないのです、どちらにしたって勝てっこないのですから。
――いったい、何に勝つっていうんですか? ただ、負けないだけなんです」
「だいたい、”そばにいて、何かしてやれる存在”は、あまりに多すぎました。
それが今の今まで人類がしてきたことです。
まさしく、国家も宗教も、あるいは魔術の神聖な権威だって、
最初は目の前にいる人を救おうと思ってできたに違いないんです。
なぜかって、その光に導かれるようにして集まった人々に、
世界の理不尽を知る人々は、まさしく救いを与えられるからですよ。
諦めと言う救いをね。そうすれば、余裕のない、弱く、卑しい人びとだって、
今日に希望を持って生きられるんだというわけなんです」
「しかし、そんな世界を、私は認めるわけにはいかないんですよ――なぜだと思いますか?
あなたは、その世界で一番の苦しみを受け取るのが、誰か分かりますか?
まさしく、”理不尽を知る人々”ですよ!
彼らは、その救いを真剣に受け取ることができないんです。なぜなら、自分たちの言っている、
それがいかなる虚構で、そのために情熱と忍耐を捧げるのがいかにバカげたことであるかを、
知ってしまっているからなんです」
「私はそういう存在なんかいりません。
1のために10を苦しめることが許されないのなら、
10のために1を苦しめることも許されないんです。
私は――11のために祈るんです。なぜなら、私にとって11みなすべてが人であり、
皆愛すべき存在だからなんです。」
と、ここまで喋って、清水は赤面した。
「ああ、どうか許してください。楽しい紅茶の時間を私の話に費やしてしまったことを」
■ラヴェータ > 「…なるほどな。まあ愛というものは唱え方で形を変えるなんてことは分かり切ったことだと思っていたが……
いや、なんでもない」
歪んでいる、と思ったが。
それは言うまでもなく分かっているか、言っても無駄の二択だろう。
彼女は人類を愛しているのだろう。
人類そのものを。
その愛に個人の差はなく、きっと少女も愛される対象に成りえるのだろう。
個人としてではなく、集団の一部として。
「別に時間については構わんさ。私は年中暇さ。むしろ変に質問して申し訳ないな。
ところでだ、私はお前の言うような人類、そして世界は在り得ないと思うのだが
それでも愛し続けるのか?それともそんな世界が到来すると信じているのか?どっちだ?」
最後の質問になるだろうか。少女は何か人ではない何かを見つめた時の好奇心と、気持ちの悪い状況に整理がついたような納得のいかないような表情をしていた。
ともすれば失礼にあたるだろうが、少女にとって彼女の愛はそれほどまでに歪んでいた。
■清水千里 > 「在りますよ」
清水はラヴェータの言わんとすることを見透かしたように、しかしその結論を断固として拒絶した。
「みな善い心を持っています。善くあろうとしています――善くあろうとするから、皆苦しむんです。自分について悩み続けるんです、私も……」
と一瞬、清水は、これまで彼女が直面してきた、何か宿命のようなものに引き摺られるようにして、言葉に詰まったようだった。
「私は人間の精神が、なにか一本の明白な真理に貫き通されるようなものだとは思いません。
たしかに人間の精神はラヴェータさん、貴方の言うように、
理不尽を目の前にして立ち続けていられるほど堅牢なものではないでしょう。
けども一方で、理不尽を理不尽として見て、それに立ち向かい続けてきたのもまた事実なのですよ」
清水はラヴェータの目をじっと見つめた。
「私に人々のこと、ましてや世界の未来のことを決定する権利などありません。
私は人間を信じています。理不尽に立ち向かう知性と意志、情熱と忍耐の力を信じています。
問題は、それで”私が”どうするかだけなんです」
■ラヴェータ > 「そうか、私が知っているのは表面だけで、本当はとっくに在ったのかもしれないな」
彼女のみつめる瞳を少女は見つめ返し、
容易にうかがい知ることが出来ないだけでなと付け加え、肩を竦めた。
彼女が言葉に詰まる瞬間に、彼女なりの想いを感じたのだ。
彼女も、信じたいのだろう。自身の愛する人類を。
「まあ、それが見えるようになるにはまだまだ時間がかかりそうだがな」
瞳を閉じて一拍おいて。
「ともあれ、お前の人類に対する愛はとても良く伝わったさ
私はそれほど高尚な存在ではないとも言ったわけだし、お前のその愛に応えられるようによく生きてみるのもいいかもしれんな」
切り替えるように口角を上げて。
私は人ではないがな、と付け加え。
「ああ、ようやく注文が届いたようだな。せっかく美味いものを食いに来たのだ
美味くなるような話をしようじゃないか」
運ばれてきたお茶を手にして、アフタヌーンティーセット越しに彼女に微笑を向けてみせた。
■清水千里 > 「美味しいもの、それが一番大事ですよ!」
その笑みに応えるように、清水はラヴェータに微笑み返した。
時刻はまだ昼過ぎであった。
ご案内:「歓楽街 酒場「黒い花」」から清水千里さんが去りました。
ご案内:「歓楽街 酒場「黒い花」」からラヴェータさんが去りました。