2022/02/13 のログ
■真詠 響歌 >
「おー、自己判断できるならへーきだ」
いつものことで自由な時間がない、なんて言ったら怒らなきゃだったけど、
手隙の時間ならいいのかな?
「出会い……ないかな? 学校も行ってるなら部活なんかもあるし。
って私は部活入ってないんだけど」
あの学園には色んな人がいる。男の子も女の子も、それ以外の人も。
こうして何の気もないショッピング中にも出会う人だっているんだし。
なんだか自分には縁のない事って突っぱねてるみたいにも思える。
「タチの悪い人ばっかりだからね……。
したい事したいようにできないし、会いたい人にも自由に会えないし」
欲を言えば、私だってお泊まりとかしたいよ?
ただ、それでなくともお出かけひとつが要申請なのに誰かと、なんて夢のまた夢。
自分と、誰かを守るための制限、それと監視。
「おー、理性的だ安心安心。でも嬉しいんだ……正直ものだね……」
「ん、っとようやくだ。
この限定ジュエリーショコラ5つください」
個数制限ギリギリ。
結構いいお値段だけど、あんまり普段お買い物にも出れないしこういう時はね。
店員さんから手渡された袋からひ一箱だけ取り出して。
「はい、ハッピーバレンタイン。爆発させられたら困るから、これで君もリア充だー!
……なんてね?」
■笹貫流石 > 「ま、言いなり奴隷君って訳でもないんで…ある程度、俺も処世術ってーのは心得てんすよ。」
適度にパシリは引き受けるが距離は置くし毎度は安請け合いはしない。
自分と相手の『距離感』…これには、我ながら少し神経質だとも思うが。
「俺、そもそも友達男女問わず殆ど居ないし、帰宅部すからねぇ。」
と、中々寂しい実情をあっけらかんと語る。『知人』はそれなりに多いつもりだが。
部活も、自分の『仕事』の都合もあって所属はしていない。
そもそも…
(学生生活を謳歌してる、というには程遠いしなぁ。)
人並みの青春は送りたい?当たり前だ。年齢相応の願望を棄てた訳ではない。
だが、監視対象という立場は微妙なもので、学生生活にも大なり小なり響いてくる。
縁が無い、というよりも…縁があっても、立場と事情故に『線を引いている』ようなもの。
「あ~…”気持ちは分かるよ”。自分の思い通りに出来る事が限られてるっていうのは。」
少しだけ、おどけた調子が消えたけれど直ぐに何時もの軽い態度に戻る。
中途半端な共感や同情はむしろ彼女に失礼だろうと。だから何時もの『軽い』態度は崩さない。
「色々抜きにしたらって仮定すよ仮定。俺だって一応は男子の端くれなんで。
そもそも、響歌の姉さんは顔もスタイルも良いんだから、そりゃ思う所はあるって話すよ。」
と、肩を竦めて。別に見た目だけで人を選ぶほど浅いつもりは毛頭無いけれど。
ともあれ、こちらも彼女に続いてチョコを購入したのだが…。
「……はい?……あ、うん。その、どうもっす。」
完全に予想外だったようで、若干驚きというかそんなニュアンスが混じる。
直ぐに、一呼吸置いて笑顔で「じゃあ、ありがたくー」と、軽い調子で受け取るけれど。
「こりゃー参った。じゃーホワイトデーにはお返しちゃんとしないといけないっすねー。」
先ほどの若干の驚きと戸惑いは鳴りを潜めて、軽い調子のままそんな言葉を。
■真詠 響歌 >
「ふふっ、私のマネージャーだって嫌な時は嫌って言ってくれるし、
やりたい事とできる事、やりたくない事とできない事ちゃんと切り分けてくれる人の方が声かけやすいんだ、きっと」
何気なくお願いした事でも、負担になってしまう事がある。
それはマネージャーだったり監視役の人だったりするんだけど、本気でダメな時はダメって答えが返ってくる。
だから、安心して駄々をこねていられる。
「えー、バスケとか得意そうなのに帰宅部なんだ」
背が高い人はバスケが得意。すっごい偏見だけど実際どうなんだろう。
しかし友達がほとんど居ないというのはこれも意外。
ただの学生同士ならそれこそ立ち話をしただけでも友達って言ってもおかしくないのに。
(ワケアリなのかなぁ)
昔、人付き合いで失敗したとかそういうのかも?
一線を超えないように歩いているような、そんな感じがする。
「なんでも思い通りにいかないのは当然なんだけどね。
とんとん拍子に行ってたはずのアイドル活動も頓挫するような形になっちゃったし」
「仮定でも何にも感じませんって言われるよりは私は嬉しいかな……こればっかりは人によると思うけどね?
自分自身が商材みたいな物だから、褒めてくれる人のことは大好きだよ」
そういうのを嫌がる人もいるのはわかっているけど、自尊心とか自信とか。そういうのが無いとやっていけないから。
「ホワイトデーは3倍返し……なんて事は言わないけどくれると嬉しいかも?」
不意を打たれたような笹貫くんの表情が見れただけで満足ではあるし。
距離を置いたような軽さは消えなかったけれど、まぁ良いかな?
「それじゃ、私はここで。
新曲は……多分出せないんだろうけど、いつか出たら聴いてね?」
■笹貫流石 > 「そりゃ、出来ない事まで安請け合いして墓穴掘る事はしないよーにはしてますけどねぇ。
つーか、俺もそこまで器用で世渡り上手って訳でもないんで。」
そういうのは、むしろアイドルだとかモデルだとか、自分自身を切り売りして人の目に晒される目の前の先輩の方が世渡りや人の心の機微を捉えていると思う。
自分は、単に――線を引いてしまっているだけだ。
それに対する罪悪感や後悔が無い訳ではない。
だが、そうしなければならないし…そうせざるをえない。
(――誰かに重荷を背負わせる、なんてーのは…ま、嫌なもんだからなぁ)
「んー、それなりに身軽なつもりっすけどね。
あんましスポーツの類はやった事が無いから何とも言えないっすけど。」
自分も彼女も表向きはただの学生で、それで終われたらいいのだがそうもいかない。
こうして、気軽に会話する機会も実を言えば限られているであろう事は明白で。
多分、己も彼女も、本来ならそういうのは気にしない所なんだろうけど――…
「あー…まぁ、アイドル活動は残念っすよね。良い歌だから、これからも聴きたかったんすけど。」
それは本当だ。そうでなければ、わざわざお気に入りの曲リストに入れていない。
彼女の立場云々は抜きにしても、アイドルとしてこのまま輝いて欲しかったとも思う。
「ま、俺だってそこらの男子と変わらねーっすよ結局。
人並みに女の子に興味あるし、チョコとか貰えたらそりゃ嬉しいもんで。」
そう、根本的にそこらの学生達とは何も変わらない。
ただ、それぞれの事情で各々が縛られているだけであって。
自分達は決して『特別ではない』のだから。
「うーん、予算次第すけどお礼はきっちりするっすよ。
流石にチョコ貰っておいてお返ししない、ってのは礼儀知らずにも程があるんで。」
と、笑いながら先ほど貰った一箱を軽く掲げて見せつつ。
彼女はそろそろ帰るようなので、こちらもパシリの役割を果たそうと歩き出して…一度足を止めた。
「あ、そうそう響歌の姉さん。」
そう、一度だけ呼び止めれば…小さく笑って。
「――君の『歌』は死んでない。だから、今は無理でも必ず歌える時が来るよ。
……歌に『境界線』は無い。”俺と違って”君はそんな立場で燻る子じゃあない。」
だから―――…
「――頑張れ【共感者】。また、その歌声で誰かに幸せを届けられるように。」
――今は『叫喚者』でも、いずれ誰かの『共感』を齎す為に。
少し口が滑ったなぁ、と内心で苦笑いを零しながらも、「じゃーまたなー響歌の姉さん!」と。
少年は軽いノリは絶やさずに、軽く手を振って反対方向に歩き去るだろう。
ご案内:「歓楽街」から笹貫流石さんが去りました。
■真詠 響歌 >
線を引く。これは私もそうだ。
本来なら私ももっと徹底的に誰かと話したりというのを禁止されてもおかしく無い。
許された範囲の自由でお話をして楽しんで、収監されるようにあの家へ帰る。
気の置けない友達も、嘘もなく甘えていい恋人も直接制限されたわけじゃないけど、作れないでいる。
「───?」
呼び止められて、疑問符を浮かべながら振り返る。
年相応の笑みを小さく浮かべる少年の姿が見えて───
『頑張れ共感者』その言葉が心にすとんと落ちてきた。
「たはー……聞き間違いかな……」
見送りながら歩き出して独り言。共感者と叫喚者、どっちも私を指す言葉だ。
監視対象の冠がつかないその響きは、私を知っている人だけが声に出す。
境界線が無いなら、きっとあの線の向こう側まで届くよね。
「”俺と違って”なんて……」
送り出すようなエールの中に添えられた一言がチクリと胸の奥に刺さっていた。
石ころ蹴飛ばしたりなんかしないけど、なんだか悲しくてふらふらしながら帰路に着く。
嬉しさともやもやを抱えたまま辿り着いた我が家ではジュークボックスに繋いでいたコンセントに電気が来ていなかった。
え、あの……笹貫くん? あのーっ!?
ご案内:「歓楽街」から真詠 響歌さんが去りました。