2022/05/21 のログ
ご案内:「歓楽街」に黛 薫さんが現れました。
■黛 薫 >
学園地区から南寄りの東、夜の歓楽街。
不健全な道が立ち並ぶ、不道徳故の煌びやかさ。
人気のない路地の入り口から程近い一角にて、
壁に身体を預けて休む小柄な女子生徒がいた。
インナーカラーの染め色が入った髪、複数のピアス。
端々に見える絆創膏、包帯、ガーゼ。淀んだ目付き。
不自由な身体を支えるための松葉杖も喧嘩の後に
間違われそうな有様。
小柄な体躯とちょっぴり可愛らしいパーカーを除けば
不良然とした装い。悪く言えば売春待ちにすら見える。
(クッソ疲れた……)
そんな彼女は、珍しく癒しを求めての外出中。
歓楽街は年頃の女の子が癒しを求めて訪れるには
些か不適切な場所だが、黛薫にとって馴染み深い
遊び場といえばここくらいしか無かった。
■黛 薫 >
彼女が普段にも増して目の隈を濃くしているのは
丁度この季節、学会の春季学術大会があったから。
過去のトラウマから登校もままならないとはいえ
復学、魔術研究の意欲はある。流石に大勢の前で
研究発表など出来ようはずもないが、許可を得て
論文の寄稿だけさせてもらえた。
……が、正直申請が通ると思っていなかったので
準備をしておらず、徹夜込みの突貫作業と相成った。
「……ゔー」
そして提出したは良いものの、身の程を弁えて
いないのではとか、評価されるのだろうかとか
悩み過ぎて、気疲れして今に至る。
■黛 薫 >
ここ最近はリハビリを兼ねた内職を続けており、
多少だが家計にお金を入れられるようになった。
復学支援金と合わせて、切り詰めれば2人分の
生活費に届くかどうかくらい。
安定こそしないが平均して自分の内職代より上な
同居人の収入を合わせれば、そろそろ貯金に手を
付けない生活が出来そうになってきた。
(そうでもなきゃ娯楽に金使おーとか思わねーし)
とはいえ、自分が研究にかけるお金を考えると
未だ予断を許さない状況。ガス抜きは必要だが
あまり財布の紐を緩め過ぎるのも良くない。
■黛 薫 >
大通りの喧騒から離れてノンアルコール飲料の
缶に刺したストローに口をつける。ぺこん、と
軽い音を立てて安っぽい缶の表面が凹んだ。
先月非公式の入学式を終えた常世学園。この時期は
学園に慣れ始めた学生たちで歓楽街が賑わい始める。
歓楽街が賑わう時期と言えば試験終わりの解放感と
入学後初の長期休暇が重なる夏休み前もそうだが、
その時期は風紀、公安による手入れと一般学生への
注意勧告もある。それも含めてこの時期と大差ない
くらいには収まるだろうか。
閑話休題。
そういう訳で、人が増えるのはこの時期の歓楽街は
他者の『視線』を快く思わない黛薫には少しばかり
キツいところもある。しかし初々しい学生たちの
視線が支配的になって気持ち悪い視線が隠れたりも
するから一長一短……いや、一長二短くらいか。
プラスもあるから意外と最悪な気分にはならない。
■黛 薫 >
(ホントはこんなトコ来るべきじゃねーよなぁ)
未だに違反行為を引き摺って表の街を歩くことに
後ろめたさを感じる黛薫にとって、緩い不健全さが
漂うこの街は息がしやすく感じられた。
疾しさから下ばかり向いて歩いているのもあり、
学生街や常世渋谷では未だに通り慣れた道でも
地理やお店を把握しきれていない。
その点、違反学生時代に入り浸っていたこの街は
(嫌な記憶も多いが)街並みをよく覚えている。
(あそこの店潰れてやんの。イィ気味、は言い過ぎか)
手伝いだけという触れ込みで誘われ、酔わされて
客を取らされた店の代わりに別の店が建っていた。
風紀の手入れにでも遭ったのだろうか。
■黛 薫 >
歓楽街の不健全な空気に安心感を覚えている時点で
自分はまだ『健全な学生』には程遠いのだと思う。
未だに酒や煙草の誘惑は振り切れていないし、
時々薬物依存のフラッシュバックで自傷行為に
走ったりもする。手の傷は増えたり減ったり。
すぐに精神を持ち崩すから登校は慣らしばかりで
受ける授業はリモートだけ。バイトにしても人と
顔を合わせられないから内職しか出来ない。
おまけに周囲の迷惑になりかねない体質持ちで、
異能の封印制限措置も兼ねて定期的な通院が必要。
(……自信失くすなぁ)
路地裏から煌びやかな街の喧騒に耳を傾ける。
書き入れ時に固定客を作ろうと、敢えて健全な
サービスだけを押し出す客引き。それに紛れて
聞こえる校則違反すれすれな怪しげな勧誘の声。
ご案内:「歓楽街」に黛 薫さんが現れました。
ご案内:「歓楽街」に黛 薫さんが現れました。
■黛 薫 >
退廃的な営みの刺激に見せられた初々しい学生は
大抵の場合、常世島の闇深くまでは踏み込まない。
でも、もしかしたらこの街をきっかけに騙されて、
或いは踏み外して落ちていく人もいるのだろうか。
(……なんて、な)
踏み外したのが自分だけでなくとも自分の行いが
軽くなりはしない。それでも『もしかしたら』に
慰めを見出そうとしてしまうのは性格が悪いから
なのだろうか。
飲み終えたノンアルコール飲料の缶を鞄にしまって
帰路に着く。これきりにしようと何度も心に決めた
気分転換の場には、きっと今後も世話になるだろう。
情けないけれど、そんな気がした。
ご案内:「歓楽街」から黛 薫さんが去りました。