2022/09/25 のログ
ご案内:「歓楽街 ラーメン屋『濁』」にモールディングベアさんが現れました。
■モールディングベア > のそのそと巨体を揺らし、かがむようにしてお店の入口をくぐる。
すぐさま、異邦人と思わしき店員さんが表れて、こちらに話しかけてきた。
「ラッシャセー、テブル席、カウンタ、ドッチデスカ?」
この異邦人は、自分よりはここの言葉に慣れていないらしい。
「テーブルでおねがいします」
ゆっくり、はっきりと発音すると、店員さんは少しだけホッとした表情を見せ、テーブル席へ案内してくれた。
テーブル席につくと、椅子に腰をそろそろと降ろす。
自分の図体だと、勢いよく座ると他のお客さんがびっくりしたり、
下手をすると椅子を壊してしまうかもしれないからだ。
このお店は大事にしたい。
ふと壁に目をやると、新しい張り紙が追加されていた。
『チャレンジメニュー:濁盛り!!!
当店自慢の特濃スープと濁流の如き麺があなたを襲う!!!』
ふ、と小さく笑う。 この紙が追加されたのは、自分が原因なのだ。
大きな体を駆動させるのに必要なエネルギーは多い。
そして、異能なり何なりを使えばさらに腹が減る。
もともとガッツリタイプの盛りを提供してくれるこの店は、
自分にとってうってつけではあったのだが、自分の食べっぷりを見て、
店長が新たな看板メニュー…つまりドカ盛りを考案したのだ。
これこそが『濁』盛りなのである。
■モールディングベア > 少し考えてから、卓上にある呼び出しボタンを押す。
「注文ドウサレマスカー」
先程の店員さんが、注文書を片手にやってきた。
「濁」
壁の張り紙を指差して、ゆっくりと告げる。
「チョット待ってー」
いそいそと戻っていった店員さんは、
奥で二言三言話すと、すまなさそうな表情で戻ってきた。
「アノ、お客サンモウクリア済だから、通常料金…」
想定済である。 力強くうなずいた。
「うん。それでもいいの。」
濁盛りの料金は、普通に頼むより少し高い程度だ。
別段困るような金額でもない。
そしてなにより、自分はお金が欲しくて食べに来ているわけではなく、
あのボリュームを腹に収めたい…つまり、お腹がすいているのであった。
店員さんが奥に戻ったのを見届けると、出来上がるまで物思いに耽る。
今日はとっても楽しかった。 商店街の布生地屋さんにいってお買い物をし、
足りない分はちょっとだけ拝借して、風紀委員の2,3人も薙ぎ払ったり
”可愛く”したりして帰ってきたのだ。 いっぱい遊ぶとお腹がすくのは当然である。
あんまりよくないとは分かっているが、さりとて欲望を止めることもできないものなのだ。
■モールディングベア > 「”濁”デース」
ずん、と重苦しい音が卓上に響いた。
自分が見ても大きいサイズに見えるそれは、
普通の人間からすればもう大食いチャンピオンなどの類に相当する。
巨大なすり鉢に、なみなみと注がれた鳥スープ、そして暴力的な量の麺。
まさにチャレンジメニューの名前の通り、壁として挑戦者を待ち受けるにふさわしい威容であった。
「いただきまーす」
だが、それは普通の体格の人間の話である。
デカく、腹が減り、たっぷり食べる自分の的ではない。
大きな手がすり鉢サイズの丼をがっしりと持ち上げ、もう片方の手でおはしを構えた。
湯気が立つスープをおはしでかき分け、麺を引っ張り出してすする。
熱さの後にやってくるのは、極限まで凝縮された鶏のおいしさだ。
細い麺がたっぷりとまとった、とろみのあるスープが口の中で爆発する。
うまい。 夢中でお箸をすする。 時折レンゲを使い、スープを口に運ぶ。
周りの客は、デカい女がデカいラーメンをすすっている様子に圧倒されていた。
クマが川に飛び込み、鮭を貪っているかのような光景…。
大自然が織りなす風景を幻視するかのような、夢中の食事。
生物としての根源を見るような”食”に、周りの人間はお箸を止め、ただ見入るばかりであった。
■モールディングベア > 汗がぼたぼたと垂れる。 口の中が熱い。
しかし、おはしを止めたりはしない。
今はただ、目の前のラーメンを平らげる、
その一心が自分を、そしてお箸を突き動かしているのだ。
「ッフーっ、フーッ…!」
勢いは止まる様子を見せず、眼をギラつかせながら
たっぷりあった麺をすすり尽くす。
お箸を両手でしっかりと丼を持ち、口をつけてぐっと傾ける。
喉が数回動き…ゆっくりと丼をテーブルに置いた。
丼の中には何も残っていない。 完全完食である。
お口を紙ナプキンで拭い、額の汗を手で拭ってから、コップにあったお水を少し飲む。
口の中の塩気を洗い流してから、店員さんに手を合わせ、頭を下げた。
「ごちそうさまでした!」
何故か店内には拍手が満ちた。 戦い抜いた戦士への賛辞なのか、
野生の風景を垣間見た美しさへの感動なのかは、拍手する人によって違うのだろうが。
落ち着いてから、お金を払ってさっそうとお店を出ていく。
ラーメン濁 濁盛……ボリュームも味も最高だった。
ご案内:「歓楽街 ラーメン屋『濁』」からモールディングベアさんが去りました。