2022/10/05 のログ
ご案内:「【高級寿司屋『寿司惨昧』】」に紅龍さんが現れました。
シチュエーション >  
【高級寿司屋『寿司惨昧』】
 歓楽街の奥まったところにある、完全個室の高級寿司屋である。
 寿司だけでなく刺身や、多彩はフードメニュー、サイドメニュー、デザート類まで、寿司屋とはなんなのかと考えさせられるほどに多くのメニューを取り揃え、それが全て高レベルの品質で提供されている。
 個室は完全防音、防諜、防魔、防異能、が徹底されており、個室で暴れようと、個室の中を探ろうとしても、外には漏れず、外からはわからないようになっている。
 

紅龍 >  
【前回までの紅龍おじさん!】

 違反部活『蟠桃会』の元用心棒、紅龍は。
 『斬奪怪盗ダスクスレイ』との闘いを終え、協力者たちの力を借り、『蟠桃会』を壊滅させた。
 『闘争の種子』をめぐる騒動は一旦の収束を見て、紅論はその間に、新たな違反部活を立ち上げた。

 違反部活『病原狩人《アンチボディ》』

 落第街の秩序を守るため不殺を掲げた、小さな軍隊は、早速の障害に遭遇する。
 『パラドックス』時代の破壊者を名乗るその敵は、一体何者なのか。
 紅龍の新しい戦いが始まるのだった。

 

ご案内:「【高級寿司屋『寿司惨昧』】」に挟道 明臣さんが現れました。
紅龍 >  
 高級寿司屋『寿司惨昧』。
 オレが取引や商談をするのに使う、最もセキュリティーの気が利いた店だ。
 ここでオレは、久しぶりに探偵――明臣を呼び出し、報告会と――奴に頼みたい仕事をいくつか投げるつもりだった。

「――よう、調子はどんなもんだ。
 『主治医』の体調管理は完璧だろ?」

 そう言いながら、運ばれてきた徳利からお猪口に、芳醇な香りの液体を注ぎ、互いの前に置いた。

「一先ず乾杯――で、早速だが本題から入るぞ」

 くい、と久しく飲んでなかった酒の味が喉を温めた。
 明臣の前に、二枚の写真を差し出す。
 一枚は狂ったバンドマン、もう一枚は、異貌の破壊者。

「『ノーフェイス』と『パラドックス』。
 明臣、お前ならもう、どっちの事も、うちの状況と合わせて把握してるな?」

 

挟道 明臣 > 情報の相互受信こそあれど対面するのは久方ぶりか。
派手な傷が目立つ紅龍を前に席につく。
 
「おう、かえって疲れるくらいには献身的だったぜ」

退屈はしなかったぞ。そう返しながら注がれた猪口に口をつける。

「当然、っつっても伝聞だがな。現状事態は把握しちゃあいるさ。
 ずいぶん派手に喧嘩売られたみてぇだな、おっさん」

違反部活『病原狩人《アンチボディ》』設立者、紅龍。
殺されてこそいないがその部員5名が襲撃され、敢えて見逃されている。

「知ってるとは思うが『パラドックス』に関しちゃあ、倒した相手を意図もなく殺さずに返すような奴じゃあねぇぞ。
 少なくとも風紀の連中が一隊あいつに消されてやがる。
 ――無敵ってわけじゃあ無さそうだが、厄介だぞアイツ」

文字通り、消滅させられたというべき有様で。
こっちの街でも"躊躇なく殺せる"奴とそうでない奴の間には大きな隔たりがある。
アイツはやれる側の危険分子だ。

「『ノーフェイス』なら接触しようと思えば難しくは無いだろ、こっち側をむやみやたらに壊すタイプの奴じゃあ無い。
 退屈させるような事でなけりゃ面白おかしく色々と話してくれるかもしれないしな」

紅龍 >  
 
「っくく、なんだ、李華に懐かれたか?」

 たまの酒を開けて良い日。
 頼んだ旨味の強い刺身に、日本酒がよく合う。

「おう、あそこまで堂々と喧嘩を売られると、こっちとしても考えなくちゃならねえからな。
 まあそれでオレもいくつか考えたわけだ、が」

 そう言って、『パラドックス』の写真にフォークを取り出しで、叩きつけるように突き刺した。

「こいつは危険すぎる。
 時代の破壊者を標榜し、対象は、この島の住人全て、無差別だ。
 そして未来の先端技術を用いた装着型のパワードスーツと、おそらく光学兵器に科学兵器を武器として用いている。
 巡回装備とはいえ、うちの小隊が圧倒されるのも必然だ。
 はっきり言って、『戦闘』にもならねえ」

 酒をあおり、お猪口をカツン、と卓に置く。

「『病人狩人』は『パラドックス』に手を出さねえ。
 それが結論だ」

 凄まじく不機嫌なのが自分でもわかる。
 まあ明臣の前だ。
 わざわざ醜態を隠す理由も、見栄を張る理由もねえだろう。
 こいつはオレの部下じゃなく、対等なパートナーだ。
 

挟道 明臣 >  
「懐くなんて可愛いもんじゃねぇだろあれは」

 殆ど襲われているようなもんだった。
 じゃれ付く犬猫の類のような遠慮のなさに加えて、見た目以上に力が強い。

「――そこだ。
 あいつの目的は金でも権力でもねぇ、そこが輪をかけて面倒だ」

交渉の余地がない。
破壊が目的ゆえに、接触すること自体が即戦闘に繋がる。

「まぁ、妥当だな。
 こっちの街だけならともかくこの島自体に敵意を向けてる奴なら、
 俺たちよりもよっぽどおあつらえ向きの連中がいる」

風紀に公安、先の件でのガスマスクの男のような正義感で動く連中がいる。
怪人退治のお役目はアウトロー向きじゃない、"ヒーロー"に任せるべきだ。

「喧嘩売られて押し黙るしかねぇってのは癪だが、命あっての物種ってやつだ。
 見逃してもらった幸運にそのままありつくとして――
 わざわざ呼び出したって事ぁ、放置する気はねぇんだろ?」

意図的な情報の流布を行って表の連中をけしかけるか、裏の連中に支援する形でアイツの動きを阻害するか。
組織として大手を振って対抗するなら俺の出る幕は無い、裏側で動けって事だろう。

紅龍 >  
 
「ヒトと関わる機会が少なかったもんでな。
 なにより、お前が希少なサンプルだったのが悪い。
 なんだ、腕に抱きつかれてもぎ取られでもしたか?」

 妹に振り回されただろう明臣を見ると、にやにやと口元が緩んじまう。
 まあ、あいつにとっても――研究室で遊び相手が出来るのは嬉しい事だろう。

「――無論、売られた喧嘩は買う。
 が、『病原狩人』としてじゃねえ。
 オレ、個人として買う。
 理由はわかるな?」

 『病原狩人』はまだ看板を挙げたばかりだ。
 そこで、組織として戦って負けたとなれば、取り返しのつかない傷がつく。
 うちは今、ホワイトな経営に人情と信用で成り立ってんだ。
 その信用に瑕がつけば、これから先は先細りの未来しか残ってねえだろう。
 

挟道 明臣 >  
「根っこごともぎ取られた上で新しく培養したもん取り付けてもらってこの通り。
 腕は確かなんだがとんだ箱入りお嬢様だな、世に出す前にもうちっと世間ってもん教えておいてやれよ。
 その内襲われんぞ」

いや、襲う側か? ひと悶着あったがさすがに肉親の龍のおっさんにこんな話できるわけねぇが。

「――」

少しばかりの間が空いて、お互い飲み干した猪口の内が乾いていく。
紅龍のおっさんの実力を信用していないわけではない。
『パラドックス』は、おっさんの殺す対象でもある『バケモノ』の側だ。
数多の死線を潜り抜けて来たとしても、死ぬときは死ぬ。

「まぁ、理解はしてるつもりだ。
 『病原狩人』の連中で抗える奴ってぇとアンタくらいだしな。
 選出する必要があるなら寧ろアンタ以外を連れて行くと足手まといになる」

アレ相手に誰かを守りながらなんて余裕は無いだろう。
死ぬな、これはおっさんが部員の連中に常々言い続けている事だ。
こいつは、身内に優しすぎる。切り捨てる判断ができない奴じゃないのは知っているが、その優先度の問題だ。

「ただまぁ、その、なんだ――」

概ね賛成、対策を講じて地形と罠を用意して全力の紅龍をぶつける。
用意を尽くしたとして、勝算は五分ってところか。
五分なんだ。

「――死ぬぞ」

万が一にもおっさんが死ねば残った組織はどうする?
妹は? 他の連中はどうする。

紅龍 >  
 
「なんだ、襲われたのかお前。
 どうよ、うちも妹はイイ女だろ?
 据え膳って言うのか?
 目の前に女ぶら下げられた気分はどうだったよ」

 ニヤニヤ顔は崩さず、面白くなって話を掘る。
 いくら実験サンプル相手で、警戒心がない李華とはいえ――あいつの直感は尋常じゃない。
 あいつが警戒心を解いているなら、明臣のやつは相当気に入られたって事だろう。
 もちろん、一人の人間としてだ。

「あー、まあ――死ぬな」

 明臣の言う通りだ。

「やりあったら、九割九分九厘負ける。
 うりの生え抜きにサポートさせたうえでも勝算は二割もない。
 根本のカタログスペックからして違うんだ。
 技術と経験でうめられる差じゃねえ」

 もちろん、死なずに逃げるだけなら何とでもなる。
 今、街を巡回している連中には、徹底的に奇襲対策と撤退パターンを仕込んだ。
 これ以上、うちの連中が『パラドックス』に潰される心配はない。
 だから、いよいよもって、『パラドックス』とやりあう理由はないんだ。

「逃げるだけ、脚止めだけ、それならいくらでもできる。
 だが、それじゃ足らん。
 まあなんだ、オレがやらねえといけねえ理由が二つ、ある」

 自分のさらにある分厚いトコヨシャコの身を、明臣のさらに置いた。

「一つ、『パラドックス』の限界性能を周知させる必要がある。
 それには、単純な暴力以外の技術や経験っつーもんが無くちゃならん。
 あの手この手で手札を切らせないといけないからな」

 次にどでかい、トコヨホタテのバターソテーを明臣のさらに投げた。

「二つ、オレ以外に『パラドックス』に挑もうとするやつがいる。
 そいつらの準備が整うまでの時間を少しでも稼いでやりたい」

 困った事に、オレ以外にも『パラドックス』をどうにかしようって連中はいるらしい。
 もちろん利用しようってヤツらもだ。
 そんなやつらに対して、『パラドックス』は無能力者で装備にも劣る凡人に追い詰められた。
 そういう情報を宣伝する必要があるんだ。

「オレ個人の勝算がなくとも、だ。
 オレ以外の勝算は、オレが動くだけで相応に高くなる。
 それにな――ここの若いやつらは特にだが。
 『死なない』戦いってやつを知らないんだ。
 それも当然だけどな。
 本物の殺し殺されの世界に触れてないやつが多いんだ。
 そうなりゃぁよ、玄人のやり方ってヤツを一つ見せておく必要ってのもあるだろ」

 それを、お人よしだと言われてしまえばそれまでだが。
 この島の『馬鹿者共』のおかげで命を拾ったオレには、この命でそんな『馬鹿共』をサポートする責任がある。
 だからこそ、ギリギリ『死なない』殺し合いを一度は見せる必要があるわけだ。
 

挟道 明臣 >  
「知り合いの妹でなけりゃそそるもんがあったかもな。
 オフの時にガス抜きはしておくべきかも知れねぇって教訓をありがとさん」

二回り以上身長が小さいとそういう欲望よりも先にストッパーが働いてしまう。
やや危うかったが、人間に備わっている理性ってもんは存外優秀なもんだ。

「限界性能って部分は、まぁそうだな。
 直接やりあった『ノーフェイス』にある程度の話は聞けるかも知れねぇが、
 そもそも技術のスケールが俺たちの認識とは違う時点で底が見えねぇからな」

目の前の皿に乗せられたトコヨシャコに本わさびをすり下ろす。

「俺としちゃあその『挑もう』としている連中に押し付けちまうのも手だとは思うんだがね。
 風紀の連中だって一部隊が『パラドックス』に消されている。
 誰も死なねぇって事ぁ無いだろうが、まぁ少なくともアンタは無事だ」

投げ込まれたホタテのバターソテーに醤油を垂らす。

「でもまぁ、冗談言ってる眼には見えねぇからな。
 やるんだろ? 決めたんなら二度は止めねぇよ」

 死ぬ気はねぇんだろ。そう言いながらおっさんの皿の上に頼んだ寿司のシャリだけを乗せていく。
ウニ、甘えび、ハンバーグ。
僅かにそれらの残滓を残した酢飯を丁寧に並べていく。

自分の皿に残ったシャコとホタテに箸をつけるが、味は良く分からない。
安くない店なだけあって強い歯ごたえと歯ごたと鮮度だけが舌の上で踊っている。
この寿司屋は多分いい仕事してやがるんだろう。

紅龍 >  
 
「ああぁ?
 オレの妹じゃ勃たねえってか?
 さてはお前――」

 深刻な性癖の持ち主なのか!?
 まずいな――パートナー関係見直すべきか?

「ん。んん、まぁ――オレが無事って事を考えりゃあそうだけどな。
 わかっていってるんだろ、お前も。
 オレは黒いお姫様と『約束』しちまったんだよ。
 手の届くもんは『守る』ってよ。
 だからまぁ、死ななきゃいいって事じゃねえんだ」

 あのお姫様との約束は、そんな簡単なモノじゃない。
 オレの信念が掛かった約束だ。
 だからオレなりのやり方で、最大限『守る』。

「おう、散々死に損なった命だ。
 簡単にくれてやるつもりはねえよ。
 ただ、りんごジュースは必須になるだろうけどな」

 積まれたシャリを丁寧に明臣のさらに差し戻す。
 なんだよこいつ、寿司屋で寿司頼んでんじゃねえよ。
 シャリ要らねえなら刺身食え刺身。

「んで、だ。
 そこで、お前に頼みたい仕事が――あー、なんだ。
 お前に頼みたい仕事が四つある。
 どれも、表向きに堂々と動けるお前にしか頼めねえ仕事だ」

 そう言って、トコヨサーモンの分厚く脂ののった身を柚子醤油で頂く。
 ウメエなこれ。

「一つはそうだな。
 『パラドックス』の情報をなるべく多く拡散しろ。
 お前の出来る範囲でいいが、徹底的にだ。
 その方が、オレが身体を張った時の戦果がデカくなるだろう。
 見てくれる目は多ければ多いほどいい」

 明臣の皿に残っていた、卵焼きを奪って口の中に入れた。
 ほう、出汁が利いてんなぁ。

「で、二つ目だが。
 『ノーフェイス』について、知ってる事をはなせ。
 あいつとも一度コンタクトを取っておきてえんだ。
 ――つーか、そもそもあいつナニモンだ?」

 あのパラドックスとやりあったバンドマンの姿に、オレの直感がビリビリと訴えていた。
 『アレ』は尋常のものじゃない、と。
 これは『異物』を狩り続けてきたオレだからわかる感覚なのかもしれないが――。
 間違いなく、あの『ノーフェイス』は異質だった。
 

挟道 明臣 >  
「ちげぇよッ!」

何勘ぐってんだこのおっさん!?
いい歳して性癖の暴露大会やるってのか? 寿司屋で?
寿司食ってろよ。

「あぁ――『裏切りの黒』のお嬢さんか」

手の届くもんってのは、難儀なもんだ。
俺とは違って、このおっさんはどいつもこいつも面倒見たがる。
それゆえの人望と勢力ではあるが、それを『守る』ためには脅威を除く他手段も無いか。

「1つ目は了解。
 裏と、風紀の方にも流しておくか。
 あとは表の連中でも知ろうと思えば知れるくらいにはしておくが、
 まぁそこは要検討か。面白半分で来られても困るからな」

既にネタを腹の中に納めた後に返されたシャリをまとめて鯛だしつけ麺のつけ汁に放り込む。
見た目の悪い茶漬けではあるが、焦がしたほぐし身の香ばしさが鼻腔をくすぐる。
それを殆ど呑むようにして胃の中に流し込んで、椀を置く。

「2つ目に関しちゃ、ずいぶん前に身分証の偽装を依頼された程度でな。
 落第街の隅っこを塒にしてるって話だったが、今聞く話じゃこの反体制派を名乗るミュージシャンとしか。
 探すの自体は裏の街で派手で見た目の良いバンドマンとでも言って探せば2日もかからねぇだろ」

持っていかれた卵焼きの追加オーダーをしながら、端末から写真を辿る。
血のように赤い髪 炎のような橙の瞳。
腹立たしくも自分よりもタッパがあったことは覚えている。

「ただ、まともじゃねぇってのは同意見だ。
 記憶力は良い方だと思ってんだが、初めて会った時点で『見覚え』があった。
 それと、身分証の依頼を受けた後に引っかかって調べた事だが――」

「――アイツの《うた》を聴いたって二級のガキの話と、風紀の特務広報部の報告に妙な点があった。
 どっから流れてきた話かってのは情報源の奴の為にも伏せておくが……
 起こっていたのは精神状態の異変と、異能の異常な急成長。
 肉体か精神か、あるいはどちらにもか。その辺りは分からねぇがな」

紅龍 >  
 
「ちげえならなんでヤってねえんだよ!
 あいつなら、相応に食い頃だろうが!」

 卓を叩いて身を乗り出しちまった。
 あぶねえあぶねえ、少し落ち着こう。
 オレはクゥゥゥルだ。

「ま、その辺の拡散する加減は任せる。
 情報を扱う事なら、オレよりもお前の方が適任だからな」

 オレじゃ届かない場所まで、情報を届かせる事が出来る。
 その上、その扱い方も上等。
 持っているコネやパイプ、その辺を含めて、オレは明臣を信用してる。

「――ふうん、なるほど。
 わかった、『ノ―フェイス』に関しちゃこっちで見つける。
 しかし、『うた』、ねえ。
 狩る相手が増えねえと良いんだけどな」

 今のところ、うちにとっては『病原』じゃねえ。
 放っておいてもいいが――面は合わせておいた方がいい。

「さて、三つ目だが。
 川添春香って女子生徒がいる。
 『パラドックス』と正面からやりあって、きっちり痛み分けした立派な嬢ちゃんだ。
 うちとしては、『パラドックス』に対する基本方針として、この嬢ちゃんのサポートを中心に動いていきたい。
 つーわけで、お前、この嬢ちゃんに表側で動けるだけのサポートをしてやってくれ。
 裏に来るならそんときはうちの連中をつけさせるが。
 普通に学生している間は、堂々と助けてやれねえからな。
 情報面と、装備面で助けてやってくれ」

 あの嬢ちゃんは戦う事に掛ければ一流だ。
 だが、見合った時以外は普通の嬢ちゃんでしかない。
 裏を出入りする際の情報操作や、学園への言い訳、必要なら物資や医師の手配。
 他にも表向きに整えた方がいいもんはいくらでもある。
 んでまぁ、それが迷惑になる、って事もねえだろう。
 

挟道 明臣 >  
「やれってか!?」

お互い卓に乗り出したところで頼んでいた熱い緑茶が来た。
落ち着け、落ち着いたな? 俺は冷静だ、そう。

「あぁ、任された。
 まぁ『ノーフェイス』に関しちゃ常世の島自体を壊そうとしている『パラドックス』とは方向が違う。
 反体制派っつっても常世島そのものへの敵意とは別物だ。
 妙な気にいられ方しなけりゃ大丈夫だろ、だいたいの辺りがついてるポイントをマップにつけておく」

言いつつ端末を操作すると落第街のバーや歓楽街のライブハウスなど、
島の東側を中心にいくつかの目星をつけているポイントが共有される。

「川添春香、ね。
 アイツとやりあって、それでいて生きて帰ったって訳か。
 オーケー、変に表の連中が後からついてた、なんて真似は起こらないようにしておこう。
 怪物退治ができるヒーローを歓迎しない理由がない」

ヒーロー、いやヒロインか。
おっさん自身がこうも肩入れするって事は、一回もう会った後だろう。
手の届く範囲のその一人、って訳だ。

紅龍 >  
 
「そうだよ?
 別にお前なら、構わん。
 その反応からすっと、別に勃たなかったわけじゃねえんだろ?」

 いーや、こいつは勃ったね。
 賭けてもいい。

「――よし、問題ねえ。
 うまく行けば明日にでも会えるだろう。
 ただ、うちの部員にゃ、接触しないよう厳命しておくか」

 うかつにかかわって、精神汚染されました。
 なんざ、笑えもしねえ。
 近々そっちの対策もしねえとか。
 ――とするとやっぱ、アレが今んとこ一番有力かねえ。

「そ、春香嬢ちゃんだ。
 どうやらちっとばかり、背伸びした人助けに走り回ってるみてえでよ。
 一度顔でも合わせて、堂々とサポートしてやってくれ。
 ああ、うちの名前は出すんじゃねえぞ?
 裏の『安定剤』と表の『ヒーロー』に繋がりがあっちゃ、スキャンダルになっちまう」

 とはいえ、落第街や裏町に踏み入れるようなら、こっちで全力のバックアップはするつもりだ。
 オレ達は別に、目立つヒーローになりたいわけじゃない。
 看板は、綺麗なら綺麗な方がいい。

「んで、四つ目なんだが――」

 これに関しちゃ少しだけ、言葉にしづらい。
 というのも、相手が相手なだけにだ。

「あー、明臣。
 お前、『EssEnce』って知ってるか?」

 

挟道 明臣 >  
「いや、構えよ。責任取れねぇっての」

最後の質問に対して回答しないという回答を残してお茶に逃げる。
何の責任を負うんだって話なんだが。
いつ死ぬかも分かったもんじゃねぇから、おちおち相手も作れやしねぇ。

「川添春香、川添春香……生活委員か。また妙な所に実力者がいるもんだ。
 ただまぁ、どれだけ強くても身の丈を超えた瞬間に足元をすくわれるってもんだからな。
 俺の所属も顔も割れてねぇならなんとでもなるだろ。
 『パラドックス』の奴がいつまでもこっちの街だけにいるとも限らねぇし、接触できるなら早めが良いか」

パラドックスの件だけでなく騒ぎを起こした怪異の始末もつけているらしい。
行動力とそれに足りる力がある。
ただ、恐らく完全に個人での活動だろう。支援も無ければ裏に入れば無関係の悪意に邪魔をされるかもしれない。
おっさんが目をかける理由も頷ける相手だった。

「知っちゃいるさ。EEなんて言われてたユニットだろ。
 妙な噂は絶えねえし実際に表向きの情報は大概がカバーだ。監視対象が絡んでくるからな。
 アンタが気に掛けるとはな思わなかったがな」

今さら解散したアイドル追っかけてノスタルジーに浸りてぇって訳でもないだろう。

紅龍 >  
 
「あ?
 別に責任取れ、なんざ面倒な事は言わねえよ。
 どっちかってーと、あいつ好奇心だけで適当なヤツ捕まえそうだからよ。
 最初がお前なら、厄介な事にはならねーだろうと思ってな」

 あいつはまだ、恋愛感情なんてもんは育ってない。
 その上で、好奇心がデカすぎるし、欲求にも驚くほど素直だ。
 それを考えると、ある程度信用できる相手に食われてた方が数千倍マシってもんだ。

「ま、そういう事だから頼んだぜ」

 風紀と公安が今、表だって大きく動いてねえのを見ると、今のところ、『パラドックス』が表の街で動いたときに抑止力となれる人間には、いて貰わなくちゃならねえ。
 そうやって、『利用』させてもらうのだから、徹底的なサポートくらいはしてやりてえ。

「そう、そのEEだ。
 監視対象もそう。
 簡単に言えばそうだな」

 トコヨシャコの身を齧って、その旨味に満足しつつ。

「その監視対象、『叫喚者』、真詠響歌とコンタクトがとりてえ。
 それも出来るだけ早く、だ。
 場所はこの店で――オレが『パラドックス』に仕掛ける前に。
 すでに研究室経由である程度根回しはしてあるが、うちが直接触れるわけにはいかねえ。
 ――できるか?」

 これに関しちゃ、出来るだろ、とは言えない。
 まあ無理なら無理で構わない。
 その時はジョーカーを一枚切れなくなるだけ、ともいえるしな。
 

挟道 明臣 >  
「あぁ、好奇心。その塊みたいな子だからな」

純粋で、まっすぐで。眩しすぎた。
その温度を温かいと思う事こそできても、触れただけで溶けてしまう。

「『叫喚者』とのコンタクト、ね。できるとは断言できねぇ。
 監視対象に接触する事自体の難易度自体は無理ってほどじゃあねぇんだが、
 あの嬢ちゃんに関しては監視体制、っつーよりも管理システム自体がほかの奴らより堅ぇんだ」

やってみる事自体はできるが、どう転ぶかは出目を振ってみねぇと分からない。

「まぁ、やるだけやってみるとしよう。
 急ぎってんなら今日明日にでも用意進めていかねぇといけないしな」

何をさせるかってのによっては答えは変わるのだろうが。

「つってもあのお嬢さんに何をさせる気だ?
 使わずに済むならそれに越したことはないんだろうが、接触すれば目はつけられるぜ?」

紅龍 >  
 
「は、監視対象相手に接触するのを『無理じゃねえ』って言うだけ大したもんだよ。
 まあできればお前とウチの関係が繋がらないように、偶然を装って会いたい。
 当然無理しろって話じゃねえからな。
 根回しはしてあるが、度が過ぎたら目を付けられる。
 風紀公安を敵にしない程度に、セッティングしてくれ」

 徳利に残っていた少ない酒を飲んで、猪口を置いた。

「ま、お前に頼みたいのはこの四つだ。
 裏での仕事よりもお前には表で動いてもらいたいんでね。
 オレには出来ねえ所をフォローしてくれや」

 裏の仕事をするなとは言わないが。
 うちから出す仕事は、今後も表向きの仕事が多くなるだろう。
 それだけ、堂々と動ける人材ってのは、ありがてえわけだ。

「――で、だ。
 結局、お前からみて李華はどうなんだよ。
 ヤりてえって思わなかったのか?
 贔屓目で見なくても、悪くねえだろ、あいつは」

 宅に肘をついて、しみじみと聞いてみる。
 こいつにその気があるんなら、オレは文句ねえんだがなぁ。
 

挟道 明臣 >  
「『パラドックス』の情報流布、『川添春香』の支援、『真詠響歌』との接触……ね。
 『ノーフェイス』は直接接触するってんなら俺からは分かったことがあれば、ってところだな。
 『パラドックス』に関しちゃ使えるルートが残ってる、注意喚起の名目でならどうとでもなる。
 問題は『川添春香』と、『真詠響歌』だな」

飲み終えた猪口と徳利を横に除け、残っていた料理を平らげていく。

「ありがたいことに嘘の無い研究区の証明書が手元にあるんでね。
 余程の悪さでもしなけりゃ睨まれるこたぁねぇさ」

己がこの島に来た時に成り代わった分とは違う、正規の個人証明。
使いようによっては『真詠響歌』との接触に使えるかも知れねぇが、はてさてどうしたもんか。

「どうもこうも、俺としちゃちまっこい担当医さ。
 幸せになってくれりゃとは思うが、世話んなる女医に片っ端から欲情できる程若くはねぇんだよ。
 悪かないさ、上玉なのは保証する」

おっさん相手に歳の話をするもんじゃないが。
そういうのが仕事の女じゃあないのだから、抱けばそこには今までなかった情が湧く。
それに耐えられる程、俺自身が強くない。
大事な物を持てるのは、その重みに耐えられる奴だけなのだから。

紅龍 >  
 
「おう、じゃあ任せたぞ」

 仕事はこれで問題ないだろう。
 あとは――手札が揃った上でオレがどこまでやれるか、だ。

「なんだよ、お前に任せときゃ困んねえと思ったんだけどなぁ」

 まあ、本人にその気がねえなら仕方ねえ。

「とはいえ、あいつ、お前にゃ相当懐くぜ。
 なにせ『希少なサンプル』で『哥哥のおともだち』で『構ってくれる人』で『優しい大哥』だからな ま、せいぜい好きに可愛がってやってくれや」

 そう言って、卓の横にある、勘定のボタンを押した。
 

挟道 明臣 > 「あいよ、任された」

プレイヤーであるおっさんに舞台を整えるのが俺の仕事だ。
後はいざぶつかった時に死なせずに済ませられるかどうか、だ。

「困る経験をさせてやれよ、お兄ちゃんなんだろ」

まぁ、俺なら妹に変な奴が近づくような事があったら許さなかったんだが。

「懐かれる分にはいいさ。
 腕は確かだし、これからも世話になるわけだしな
 俺にとっても可愛い妹みてぇなもんだ」

自動で計算された額がデジタルな端末に表示される。

「そんじゃ、俺は早速調査にでかけるかね……。
 ごっそーさん」

5桁の会計を横目に腰を上げる。
くそっ、おっさんが変な話するもんだから、無性にムラつきやがる。
裏の通りのホテル街にでも行くか、調査どころじゃねぇ。

紅龍 >  
 
「いやぁ、あいつほっとくと、うっかり学生にでも手を出しそうでなぁ」

 というか、手を出される?
 多分、拒まないでしょ。あいつ。

「ま、襲われないように気をつけとけよ~?
 うっかり夜這いとかされるかもな」

 あいつ、フィジカルじゃオレより数段上だからな。
 明臣を組み伏せるくらい、難なくやっちまいそうだし。

 出て来た会計を見る。
 なんだ、こんなもんか。
 もうちっと食えばよかったもんに。

「――さて、あいつはこの後色町かね」

 けっけっけ。
 まったく、若いやつは面白くていい。
 さぁて。
 ――上手に死ぬ準備は、しておかねーとな。

 

ご案内:「【高級寿司屋『寿司惨昧』】」から紅龍さんが去りました。
ご案内:「【高級寿司屋『寿司惨昧』】」から挟道 明臣さんが去りました。