2022/10/13 のログ
ご案内:「歓楽街」に街頭ビジョンさんが現れました。
街頭ビジョン >  
歓楽街、そして常世渋谷、若者たちの行き交う遊びの街。
快楽の伏魔殿を構築するビルに、額のように設えられたビジョンには、
島内の部活や委員会の広報から、外部からの広告など、
夜闇をぎらぎらと照らす情報の洪水が撒き起こっている。

時にノイズのような音楽さえ流れる発信基地は、
正常に、予定された通りの順番と時刻に放送されている。

街頭ビジョン >  
そのとき、無数に不規則に街を照らす光源のひとつ。
対面に明かりを投げかける中規模のビジョンが、不意にぷつん、と暗転する。

街頭ビジョン >  
もはや数十年単位で久しくなったざらりとした白黒ノイズが走った後、
画面に表示されたのは、闇のなかに浮かび上がる獰悪なる一対の眼光。
その真下には、横倒しの三日月が、じぐざぐに割れている。
牙の並んだかのように笑む口元、それもまた、眼と同じようにオレンジの輝きを放っている。

凶相を頂くのは、うねうねと湾曲した楕円形のシルエット。
それを見上げたものが、不意に傍ら、店舗に飾られたマスコットへと注がれたのは、
ごく自然の成り行きだっただろう。

街頭ビジョン >  
提灯ジャック、あるいはジャック・オー・ランタン。
ハロウィンの到来を告げる悪戯妖精が、そこに現出していた。

街頭ビジョン >  
『HO!HO!HO! 御機嫌よう、諸君!』

語りかけるのは、異常によく通る、美しい女の声だった。
躁めいた明るさで、枚数の少ないアニメーションでカボチャの悪魔が笑った。

『ワガハイはジャック・オー・ランタン。
 無秩序の到来を告げる喇叭にして、暗夜を照らす炎なり――』

なにかに影響されたような大仰な名乗りから、その告知は始まった。

街頭ビジョン >  
『いまキミたちは満たされているかい?
 退屈を感じてはいないかい?
 肯定する者たちは、どうぞ足を進めてもらって構わない』

『だがどうだろう?少しだけ刺激が欲しくはないか?
 忘れられた過去の名残を追いかけてみたくはないか?
 いつも眼を反らしている闇のむこうを覗いてみたいと思わないか?』

『そう、そうそうそうまだこれを観てしまっているキミ!そうキミだ。
 キミのような者を、ボクたちは待っている』

街頭ビジョン >  
ふたたび画面にノイズが走る。
ご機嫌なジャズ・ミュージックが街角を飾る。

それは少々ばかりの悪事によって表舞台から消えたバンド。
落第街に落ち延びたとされる者たちの、初公開の演奏風景。
日付はつい一昨日――新たに録画されたものだ。

街頭ビジョン >  
 
 "HELL 16-2 1563 1st"
 
 

街頭ビジョン >  
『闇の中へようこそ!
 無秩序の楽園へようこそ!
 逃れ得ぬ快楽の坩堝へ、よ――――ぅこそ!』

『少しでも心が動いたら、どうか眼をそらさないで』

『キミはキミの熱に正直になるんだ。
 なにも怖いことはない。
 さあ、一緒に遊ぼう! Stay tuned!』

街頭ビジョン >  
HO!HO!HO!
けたたましく笑うかぼちゃが消えれば、いつも通りの日常が戻ってくる。
最後まで見ずに歩を進める者たち。
あるいは見上げて、悪戯と判断したか歩みだす者たち。
――そして、しばらく、元の映像が流れ出しても見上げたままの者たち。

その映像は、時間差で、複数の画面で放送された録画映像だったという。
時を同じくして、表と裏の境目、『黒街』を中心として、
小型のチラシ(フライヤー)がばら撒かれた。

今はアクセスできないURLが記された、イベント告知案内。
楽園への招待。
その最下段、小さく、主催者として記されていた名は――

ご案内:「歓楽街」から街頭ビジョンさんが去りました。