2022/10/27 のログ
■ノーフェイス >
みずからの顎に指先を触れる。
わずかにスタンスを開ければ、見上げる必要はなかった。
異様な風体に溢れんばかりの自信、あるいは矜持か。
「いろいろとすっとばして要件から言うと――」
魔法少女の装いの男と、歓楽街中枢の道端で向かい合ってすることではないかもしれないが。
しかしてそれを恥じて眼の前のものを無視するなんてあまりに勿体のないことだ。
「ボクらの『挑戦』に一枚噛まないか。
ちょいとした部活をやってるんだ……いまはまだふたりしかいないんだケド。
比喩的に言えば花の咲かなさそうなところに花を咲かすようなことをしているし、
具体的に言えば全力で悪ふざけとか楽しいことすることを追い求めてる」
顎にふれる指にわずかに力が籠もった。
周囲が何だこいつらという目を向けていようと気にしない。
なんなら、もっと凄いことをしようというのだ。
なにひとつ痛痒もない女だった。
自分が彼と同じ格好をしようがバニーガールになろうが何一つ恥じなかっただろう。
「かつて、いつか」
女からみても、いつか、自らが識らない時の記憶。
「この地球を横断して灼いたという、"黄金の夏"を感じたい」
だけれど、なぜか識っているような感覚をたどるように。
時折現れる、あまりに熱い時間。
「キミというニンゲンが欲するところを識らないから、
メリットとか交渉は、キミに引っ張ってもらうことになるが……、
なんだろう、キミがいてくれるなら、ボクの気が緩まずに済みそうなんだ」
その瞳に宿るのは、青年に対する純粋な――対抗意識だ。
敗けたくないとか、ならば自分は、とか。
獰猛な愉しみだった。試練に挑む者としての、激しい刺激を受けた時の反射的なものだ。
「ちなみにボクは犯罪者だが……どうかな、一緒にやらない?」
欲しいのは、部下じゃない。仲間、とも少し違う。
自分や彼女と同じ、夜に吼えるものが欲しい。
■オダ・エルネスト >
面を食らったのは、今度はこちらの番だったというか。
思わず、視線も意識も外して本気で少し笑った。
「くくく、いい……いいじゃないか」
やりたい事が犯罪。
やりたい事のため、咆える。
大いに結構。
「結論から言えば、『犯罪』には手は貸さない」
白い歯が街の光に輝く。
「だが、『挑戦』には手を貸す。
君自身の背景は君の問題だ。
どう成るかはノーフェ自身が決着をつければいい」
自身の顔の前で親指と人差し指を立ててL字を作る。
「詳しく何をするかは知らないが、
すべてを手伝えると言うほど私は無責任じゃない」
その手を前に出して掌を上にして開く。
「面白そうだから、
それでいいなら私は消閑の挑戦者となってもいい」
自分勝手な協力者でいいならばよい。
今この男が求めるものの一つは最高の娯楽である。
■ノーフェイス >
「ボクが欲しいのは忠実な手足でも、都合のいい手駒でもない。
キミとボク、そしてアイツは対等で、ノーを言う権利はある。
心に浮かぶ"イイね!"で動いてくれるようなヤツが、イイんだよ」
彼のスタンスを引き受ける。
むずむずする。話していて燃え上がる、期待と悔しさ。
こいつはとってもたのしいヤツだ――それが自分を飛躍させる超克の対象となるやもしれない。
油断ならない女と、負けたくない男がそばにいる。
刺激だ。目を覚ますにはもってこいの。
「そのうえでそんなカオするんだ、色々たのしいコト考えられるヤツなんだろ、キミは?」
みずからのこめかみに、人差し指を押し付けて。
脳に奔る快感の稲妻に身を浸すこと、それが日常を彩る刺激なのだ。
「まず、殺しはやらない。それはボクが始める時に敷いた数少ないルール。
そのうえで、あくまで"ボクは"、反体制のロックなヤツとして。
体制に喧嘩を売って、彼らと遊びたい――から、好き勝手やるし」
手を振り上げた。
差し出された手に、自分の平手を振り下ろし、乾いた音を立てる。
「近く、祭りを開くから、ノりたいようにノってくれ。
その夜を盛り上げることが、ボクの――最初の『挑戦』だ。
馬鹿騒ぎするだけなら犯罪じゃないしな?
――同様に、キミの挑戦にボクが必要な時は、もちろん声をかけてくれ。
"面白そうだったら"、喜んで協力させてもらうから」
その手をきつく握りしめ、握手する。
右手の指先だ。左手よりは柔らかく、そして女としては大きめの掌、長い指。
「よろしく、オジー。
キミは今日から、『夜に吼えるもの』だ」
その部活の名が、複数形になることはない。
確かに複数人が在るからこそ、そうであることに意味がある。
■オダ・エルネスト >
燃え盛る情熱、魂の叫び。
彼女は正しく『挑戦者』だと認められる。
握られたに応えるように僅かにチカラを込める。
「――ああ、なるほど。
ノーフェイス、KnownFace、HOWLER IN THE NIGHT《夜に吼えるもの》か」
なんか前に言ったような気がするが、悪くない。
美女の手を握るのは約得、とか思いつつ。
「私の『挑戦』は何時だって刺激的だ。
君の『挑戦』を楽しくしてやろう」
不遜に傲慢にこれから大きな『挑戦』をする挑戦者に、
やってみせろと煽る。
「こちらこそよろしく頼むぜノーフェ」
ノーフェイスの瞳を覗き込んで、一言。
「I don't want to live vaguely.
I want to live.」
――漠然と生きたくはない、好きな人生を生きたい。
「私の好きな昔の映画の名ゼリフってやつだ」
■ノーフェイス >
「手にとってくれてたかい?
お客様としての立場がお望みだったなら、お生憎だが――
キミならどっちでも全力で楽しんでくれただろうな」
大胆不敵に。
巨大な荒波を観たならば、サーフボードを担がずにはいられない。
「ところで、オジー……
ボクのほうがスタァで、ボクのほうが女の子にモテるぜ」
挑戦的に笑みを深めた。
この女も随分なナルシズムの権化だ。
でなければスポットライトを浴びようなどとは考えまい。
"対抗心"は、こんなところにも。
「"Every man dies. Not every man really lives."」
数少ない、"真に生きた者"となろうという表明だった。
「やめろよ、こういう返しをしたくなっちゃうんだからな。
おすすめある? 世界が変わる前の――もう歴史資料になってる映画とか。
今度シャワルマでもつまみながら一緒に観よーよ。」
カッコつけるのだってやめられないのだ。
だがそんな格好つけの横、ウィンドウの奥からじろじろと見つめる店主の視線。
大仰に肩を竦めれば、ひょこひょことわざとらしくその場を離れる動き。
「――それじゃ、祭りの当日に!バイトのジャマして悪かった。
今日はこれからもののついでに、世界でもちょいと救っておいて。
魔法少女さん。 Sweet dreams!」
彼の肩に手を置いて、どこまでも高く駆け上がれそうな男におやすみの挨拶。
ぴょんぴょんと落ち着き無い足踏みのまま、群衆に紛れていく。
随分と上機嫌だった。そわつく心も、ぞわつく炎と燃え上がった。
これで憂いなく祭りに臨めよう。
挑戦者であることは、とどのつまり――この上なく、愉しいのだ。
この女は、恐怖や理不尽を前にしても。
■オダ・エルネスト >
「完全にお客様になるなら、断るさ。
それに私よりモテるとは面白いことを言う」
聞き捨てならない言葉であった。
「私の魅力に魅せられてしまった女の子に可愛く言われても
悔しくはないな」
少し眉がピクピク震えているので悔しくはないのかもしれないが、完全に気にしている。
完全に自分よりもモテるだと、と気にしていたが呼吸一つで切り替える。
「何、バイトなど最低限の業務責任さえ果たしていれば何も問題はないから気にしなくていい」
全くまた面白そうなやつと知り合っちまったもんだと笑う。
「良い『挑戦』になりそうだ」
魔法少女の男が満足げに彼女が去っていく雑踏を眺めた。
今、ここは気持ちいい街になっている。
ご案内:「歓楽街 中心部」からオダ・エルネストさんが去りました。
ご案内:「歓楽街 中心部」からノーフェイスさんが去りました。