2022/11/14 のログ
神樹椎苗 >  
 
「ああー、食べるほーですか。
 しいはたぶん、にくづきわりーてす、から――」

 『美味くない』と言う前にかくん、と頭が倒れて、その衝撃でハッと目を覚ます。
 とはいえ、触れている体温のおかげで頭がふわふわとしているのは変わりないが。

「ん、あまい――?」

 抱かれたまま、香りに首をかしげる――力もないので、視線だけで不思議そうにハンカチを追いかけ。
 眺めていたら、膝の上に載せられる。
 コートで包まれれば、その温もりでますます意識がぼんやりとしてくる。

「んふ――あったけえ、です」

 体温は子供の身体なりに高い。
 抱いていれば、カイロの代わりにはなるだろう。

「――ぅ、やべー、です。
 これじゃ、また、いしき――ぅっ」

 はふー、へふー、と細い息が漏れる。
 疲れ切った身体と頭が電源を落とそうとしているのに、必死で抗っているらしい。
 まだ、辛うじて何とか起きているが、このまま寝かせつけようとすれば、あっさり落ちてしまいそうだ。
 

カルディア >  
「ならおだしが沢山出るわねー♪いひ」

腕の中のぬくぬくを堪能しながらのんびりと。
魔女は子供を驚かして肝を冷やすのもお仕事なので……。
それはともかく、そろそろ冷え込むらしい。元冷え性の自分には温かいものが嬉しい季節。
舟を漕ぎそうな頭の上に顎を載せて自分も目を瞑り……

「……んー?」

しばらくその状態を楽しんだ後、僅かに首を傾げる。
この感覚、というか香りどこかで……

「んー、変な質問なんだけれど
 貴方、もしかしてどこかに木を植えたりしていない?」

えーっとと逡巡した後にそんな事を切り出して。

神樹椎苗 >  
 
「出汁――だしは、こんぶが好きです」

 頭の上に顎を載せられると、その重量でほんのり目が覚めてくる。
 とはいえ、今にも寝てしまいそうな心地には変わらないのだが。

「――んぁ」

 しばし抱き心地を楽しまれている間に、ほとんど寝落ちしてしまっていたが。
 声を掛けられて、変な声をあげながら浅い眠りから目を覚ます。

「んー、ん――。
 木、ですかぁ?」

 眠い頭で考える。
 魔女が何を感じたのかはわからなかったが――というより、今の稼働率では予想予測すらままならないので。
 木、とは何かと縁がある。

「植えた――ん、スラムのほうに、ひとつ」

 真っ先に口から出たのは、『友人』の墓標のように残した、自分の分身。
 いつの間にか、願い事の叶うご利益があるとか言われたりもしているらしい。
 

カルディア >  
「本当にワフーダシ、美味しいわ。
 あれは私的味覚革命だったの。本当よ?
 びっくりしたんだから」

この島の味覚系の豊富さと言ったら!
ゲテモノから本当に美味しいものまでバラエティ豊富さに目が眩むほどなので
食が主な楽しみな自分にとってはこの島は本当にいい所。
この肉まんも本当いくら食べても飽きないので……

「あー!なるほどなるほど思い当たる件があったわ。
 あれを植えたのが貴方なら納得。
 なんだか良い感触と香りがするとおもったら」

成程この他人と思えないほどの心地のよさはそういう事か。と合点がいった様子。
同じ植物に近い種族なんだなぁと思い至ればさらににっこにこ。

「種子なのね。
 まさかこの島で同族に出会えるとは思わなかったけれどこの親近感の理由はきっとそれね」

やだ可愛い同族とか嬉しい。
まぁ厳密に同じとは言わないけれど。
違うところを挙げればきりがない。

「あれ、素敵な樹ね。
 私はあれ、好きよ」

だから魔女は好意だけを口にする。

神樹椎苗 >  
 
「ん、ん――?」

 寝ぼけながら話を聞いていれば、好意満点に抱きしめられる。
 なんだか、そのふれあいには、愛情すら感じるようで。

(どうぞく――同族――?)

「――あ、あー」

 ようやく、相手が自分と同系統の性質だと気づいた。
 同じ植物の因子を持った者同士だった。
 少し頭が働いてきた。

「あの木は、『友人』の、墓標みてーなもんです。
 だから、そう、いわれると、わるくねーです」

 とろん、と眠たげなのは変わらないが、魔女に体を任せたまま、何とか頭と口だけ動かす。
 稼働率で言えば、普段の一割にも満たないかもしれない。

「しいは、いわゆる、ぼたいの――ぅ、えだは、です。
 しゅぞ、く、てきには、たぶん、しょくぶつですね」

 眠気に負けそうになりつつ、舌の回らない、子供らしい甘い声で一生懸命答える。

「ん――」

 腕の中で身じろぎして、甘えるように鼻を鳴らす。
 いくら疲れ切っていたとはいえ、警戒心のひとつも湧かなかったのは、おそらく近しい気配を感じていたからかもしれない。
 

カルディア >  
「随分色々と背負ってるみたいだけれど……
 見ず知らずとはいえ異邦の同族だもの。
 今くらいはゆっくりしなさいな。
 大丈夫よ。貴方がそうかは判らないけれど
 1カ月くらいはこうしていられるから」

こうして疲れ果てる程、やらなければいけないことが多かったということ。
こんなにも寒い夜空の下にしては小さな体に背負わせるものが多すぎるように見えるので
子供は子供らしく甘やかすことにする。

「ふふ、子供のころを思い出すわね。
 私も甘えん坊だったのよ?」

実際に子供なのかどうかなんてどうでもいい。
魔女が子供だと判断したらそう甘やかすの。

「んふ、続きはまた今度聞かせて頂戴ね」

そう呟くととんとんとコートの上から軽く拍を取りながら
故郷の子守唄を魔女は歌いだす。
魔女であった母から、自分が寂しかった時、辛かった時に唄ってもらった歌を。
言語も違い、世界も違う歌だから歌詞は伝わらないかもしれないけれど

『大丈夫』

そう、子供にやさしく伝える歌を。

神樹椎苗 >  
 
「んー――、どーほー――」

 そう言われてみると、自分は、神と植物と人間の混合物。
 植物の系統の魔女であるなら、親近感を抱いても不思議じゃない。

「しいも、へいき、ですが」

 親近感で世話を焼かれ過ぎるのも、とふんわり考えるが。
 頭も体も動かない。
 触れ合っている温かさで、疲労感による気絶でなく、まっとうな眠気に誘われているのがわかる。

「ん、ぅ――はぁぃ――」

 一定のリズムと、優しさの伝わる異郷の唄――。
 それは椎苗の意識を沈めるには十分すぎる。
 頭も体も働かないから仕方ないのだ。
 だから、今はこうして普通の子供のように甘えてしまっても仕方ない――。

 ――そうして、気づけばしっかりと深い眠りについていて。
 夜が白む頃にやっと目を覚ますだろう。

 目が覚めれば椎苗は、照れ隠しをするように、いずれ礼をするからと自己紹介と連絡先を教えて。
 名残惜しい気持ちになりながら、街を後にする事だろう。
 

カルディア >  
「あー楽しかった」

肩口で手を振りながらその小さな背中が消えるまで見送ったあと魔女は小さく呟いた。
短い間だったけれどなんだか色々と必須栄養素を補充できた気がする。
勿論同族の好ましさもある。あるにはある。少なくはない。
けれどそれ以上に落ち着いて眠る姿が何よりも心地よかった。
怖がらせるし、脅すし揶揄うし、本当に色々あったけれど、
それでも魔女は子供が大好きだった。

「カワイニウムをしっかり補充できたわ。役得役得。
 ……ってあらやだ。荷物の事すっかり忘れてたわ」

すっかり満足して帰宅しかけていた魔女は多数の食材とすっかり冷えてしまった肉まんの事を辛うじて思い出した。
そそくさとベンチの横の荷物に戻り、部屋に着いたらまず蒸し器を準備しようと心に決める。
これを食べた後に何を作るか決めればいい。そう。結局全部余さず一人で食べるので!!!
マイペース魔女は独りで食べる事が何ら苦痛ないタイプだった。
何なら一人で全部食べれるので一人の方が好きまである。
……が

「今度あの子を誘って鍋でもしましょっか」

折角連絡先ももらったのだし時々は誰かと一緒に食べるのも悪くない。
あんな優しい子なら特にね。
そうと決まれば善は急げ、と考えていた献立と食べたい料理に一つ付け足す。
体がうんと温まる鍋が良い。招くなら部屋も掃除しなければ。
やらなければいけない事が増えたけれど、悪くないと魔女は微笑んで

「鱈を捌く動画あるかしらね?んー、よかったちゃんとある。
 家に帰って練習するわよー。」

ぽちぽちとタブレットをつついて目当ての動画を見つけた魔女は
おー!と一人ガッツポーズを決めて、すり落ちそうになった荷物を慌てて抱えなおし
そして自らの暖かな居場所へと歩き出した。

ご案内:「歓楽街」から神樹椎苗さんが去りました。
ご案内:「歓楽街」からカルディアさんが去りました。