2023/02/23 のログ
ご案内:「歓楽街 地下焼肉店」に黛 薫さんが現れました。
ご案内:「歓楽街 地下焼肉店」に鞘師華奈さんが現れました。
黛 薫 >  
歓楽街の中でも異邦人街に近い一角。
割れたタイルの階段を降りて辿り着く雑居ビルの
地下街にある寂れた店を2名の女子生徒が訪れる。

「予約してた黛です。2名で」

立地の悪さ、看板のボロボロっぷりから初見の客は
まず入らないであろう店。元々店ですらなかったと
思しき個室は座敷牢を思わせる。掃除は行き届いて
いるのだが、古ぼけた雰囲気は不潔と勘違いしても
おかしくないほど。

「見てくれは……ちょっと、いぁかなりアレだけぉ。
 元々は迂闊に言ぇねー的で使われてた建物だから、
 話はぜってー漏れねーの。店主もあんまし日本語
 得意じゃねーしな」

実際、手渡したメニューはかなり日本語が怪しい。
理解出来ないほどではないが、値段もやや高く見えるか。

鞘師華奈 > 歓楽街。普通に何度か訪れた事もあるが、異邦人街に近いこちら方面はあまり出向いた事が無かった。
彼女の案内を受けつつ、割れたタイトルに靴音を軋ませながら地下へと。

「……へぇ。」

この辺りはあまり足を運んだ経験が無いのもあり、癖でつい周囲を観察しつつ。
ちなみに、スーツ姿なのは前日まで”バイト”があったからだ。そこは許して欲しい。
しかし、立地条件、看板の錆びれっぷり、その他諸々からして――…

「…うん、正直かなりアレだけどこういう場所こそ密談とかには丁度いいかもね…。」

納得したように頷く。確かに店主はかなり片言というか危うい日本語だった気がする。

そして、手渡されたメニューを眺めるが…僅かに悩ましい顔になる。若干?日本語が怪しい。
それでも、まだ読み取れるレベルだからマシといえばマシなのだろう。
ただ、値段の方はそこらの相場と照らし合わせるとちょい高め、という感じだ。

「…そもそも、考えたら誰かと焼肉店とか初めてだなぁ、私は…。」

思わずぽつり、と呟きながらメニューと睨めっこ。あまり胃に凭れないのが好ましいが…。
少食という訳ではないのだが、大食いでもないので程々が中々難しい。

黛 薫 >  
「へぇ、なんかちょぃ意外だな?
 スーツのお陰なのかな、ビジネスとか接待とか、
 そーゆーの慣れてるイメージあったかも」

"誰かと焼肉" のイメージで友人と食べに来るとか
お祝いとかより先に仕事の印象が浮かぶ。黛薫も
親しい相手との食事はあまり慣れていないらしい。

「カフェんときの印象からすっと、華奈って別に
 大喰らいってワケじゃねーよな? そーだったら、
 いぁ、そーじゃなくてもこのお店では少なめで
 頼んだ方がイィかも。1品の量多めだから」

お店について触れる傍ら、ショルダーバッグから
一枚の手紙を取り出す。ふわりと良い香りがした。

「で、魔術談義の前に。あーし華奈からクリスマス
 プレゼント貰ったろ。そのお返しを先にしとくよ。
 並大抵じゃ釣り合わねーもん貰っちまったから、
 あーしが思いつく1番のヤツ」

どうやらそれはお店の紹介状らしい。
店名は『Wings Tickle』、立地は歓楽街。
アロマとリラクゼーションのお店のようだ。

「華奈、いっつも仕事で忙しそーにしてっから
 イィ羽休めになると思ぅ。紹介状分の利用は
 お代要らなぃよーになってっから」

鞘師華奈 > 「あー…バイト先の同僚とは軽く飲み食いは偶にあるけど、焼肉は流石に無いかな…。」

あと、接待とか私は慣れてないし苦手だよ、と苦笑気味に右手を左右に振る。
出来ない事は無いが、そういう事をあまりしたいと思わない。
どちらかといえば、喫茶店とかバーとか落ち着いた雰囲気が好みなのもある。

「うん、少食って訳でも無いけどね…大食いではないかな。
了解、じゃあ品目は最小限で良さそうだ。」

とはいえ、ついついタンとか脂身成分が少ないのをチョイスするのは仕方ない。
さて、メニューと軽く睨めっこしながら友人と会話をしていたが、ふと香りに気付けば顔を上げて。

「…ん?ああ。いや、まぁ別にお返しを期待した訳じゃないんだけど…有難う。」

その不思議な香りの手紙を見つめて。香りは素人なので詳しくは無い。
ただ、良い香りだと思うし少し落ち着くような気もする。

「――…『Wings Tickle』…か。歓楽街にあるなら普通に行ける距離だね…。
アロマ…リラクゼーション……。」

珍しく、若干だが目を丸くして。何せ全く縁が無い方面のお店だったからだ。
まぁ、能力も相俟って”疲労が蓄積しやすい”のもあり、そういう意味では丁度いいかもしれない。

「……いや、有り難いんだけど…薫から見て、私ってそんなに多忙そうに見える?」

なるべく疲れとかを顔や仕草に出さないようにしているつもりだが…。
何だかんだ、友人にはばっちり気付かれているのだろうなぁ、と。
ちなみに、そこそこ忙しいのも事実なので全く彼女の言葉は否定出来ない。

手紙を貴女から受け取ったならば、もう一度目を通してから紹介状を持った手を軽く一振り。
懐に収めるより、【隔離収納】の魔術で保管した方が色々安全だし紛失の心配も無い。

「…うん、でも改めて有難う。折りを見て尋ねてみる事にするよ。」

事前連絡とか予約が必要なら、早めにそうしておいた方がいかなぁ、と思いつつ。
彼女のお返しに微笑んで小さく会釈を。折角の紹介状だ。

黛 薫 >  
「多忙そーに見ぇる……ってか、今日スーツなのも
 大方直前まで忙しかったんだろ。偶に寮の外から
 様子見ても、華奈の部屋大体照明消えてっし。
 華奈の性格と異能も考慮すっと、勤務時間以上に
 疲労も溜まりやすぃだろーし」

推測の論拠を示しつつ、彼女も脂身の少ない赤身を
チョイス。注文を終えたら本題、魔術についての話。

「華奈の方は何か進捗あった? あーしは華奈から
 貰った "端末" を用ぃた使ぃ魔の機能拡張、と
 組み込みを済ませたトコ」

話題を切り出したところでお通しの塩キャベツが
運ばれてくる。普通サイズの丼、鷲掴みにして
盛ったのではないかと勘繰る量。それが2人分。

因みに席料とかお通し代は無い。無料でこの量。
少なめで頼んだ方が良いという忠告を裏付ける。

鞘師華奈 > 「…まぁ、うん。その通りなんだけどさ…。
と、いうか薫が何だかんだ私の事を気に掛けてくれているのは普通に嬉しいね…。」

偶に、とはいえ照明のあれこれまで把握しているのはそれなりに気を回していないとスルーしがちだ。
自惚れでなければ、だがこの友人は自分の事を彼女なりに気遣ってくれている、と。
そこは素直に感謝であり、ちょっと申し訳なくもあり。
まぁ、この女が目を離していると普通に無茶をしがちなのもあるのかもしれない…。

「うん、魔術を『結晶化』して隔離収納するのは成功したよ。後で実演してみせるつもり。
だから、結晶化が前提だけど魔術も空間に収納するっていう課題はクリアしたかな…。
次の課題は…んー、収納した物の『射出』と『一部展開』になるかな。」

そちらはノータッチ、とまでは行かないがまだ成果は出ていない。
最優先が魔術を結晶化して『物体』として空間に隔離収納する事だったから。
友人の方の進展には、「それは良かった」と微笑む。少なくとも”プレゼント”は役立ってくれているらしい。

さて、目の前に運ばれてきたお通しのキャベツなのだが…。
普通サイズの丼、豪快に鷲摑みして盛りつけたとしか思えない量。
しかも、二人まとめてではなくそれぞれ一人分ずつだ。

「――うん、薫のさっきの忠告の意味がもう分かった気がするよ…。」

いや、まぁ頂きますけけども。流石にちょっと困り笑いを浮かべつつ。

黛 薫 >  
「つまり華奈の『隔離収納』の欠点の1つだった
 "形のない物は収納出来ない" が克服に向けて
 1歩進んだコトになるな。

 結晶化術式の練度が上がるほど収納出来る対象の
 範囲も広がるワケだから……収納にタイムラグが
 無ぃって強みも併せて考ぇっと、収納してすぐに
 出せば擬似的な短距離転送としても扱ぇるか。

 一瞬だけ収納して同じ場所に展開するだけでも、
『透過』に近ぃ運用が出来るかもだな?」

華奈の魔術はシンプルであるが故に奥が深い。
出来ることの範囲さえ広げれば発想次第で
応用が効くだろう。応用の幅が広くなるほど
華奈が理想とする『汎用性』に近付くはず。

「やっぱし華奈の『隔離収納』の破格なトコは
 ラグの無さよな。例ぇば次の課題に『射出』を
 選んだとして、ラグが無ぃなら収納→即射出で
 吹っ飛ばしに近ぃ挙動になんだろ。

『一部展開』がどーゆー挙動になるかは今んトコ
 予想出来ねーけぉ、収納口? みたぃな出口が
 定義されるなら空中固定みたくなるかもだし、
 展開部分で切断されるなら、それはそれで別の
 使い道が見ぇてくるもんな」

キャベツを齧りながら思考を巡らせる。

鞘師華奈 > 「そうだね…だから、残る課題があるとすれば結晶化の速度と正確さの突き詰めかな。
まぁ、こればかりは試行錯誤をひたすらやって地道に感覚を掴んで行くしかないかな。
結晶化のプロセス自体は私なりにマスターしたから、課題はまぁクリアしていると見ていいかもしれない。」

後は、結晶化の規模などで矢張り速度差が生じるのでそこを出来るだけ切り詰めていかなければ。
擬似透過運用に関しては、薫の言葉にふむ、と考えるように頷いて。そっちまでは考えてなかった。
女の魔術は補助系特化であり、威力云々は除外しても応用の幅は広い。
つまり、工夫や発想次第で伸び代はまだまだある、とも言える。
こういう時、実践派な自分より理論派な友人が意見を出してくれるのは本当に有り難く。

「そうだね…現状、私を基点として半径10メートル以内なら魔術の効果圏内だから…
『射出』を修得できれば、吹っ飛ばしもそうだけど間接的に射程が伸びるし。
ついでに、ラグがほぼ無いから完全な不意打ちとかにも使えるし。」

不意打ちでなくても、即座に手元や効果圏内の場所にピンポイントで出せるのは強みだ。
薫の言葉に、同じくキャベツを食べながら少し考える間を於いて。

「そもそも、隔離収納が『空間系』に属するからね。
一部現出の応用で空間切断…が、適切な言葉かは分からないけど切断現象に近いのは起こせるかも。
あと、単純に一部だけを出して即座に引っ込めたり出来るのはそれはそれで強みかな。」

全体を出す必要が無いので、例えば大きな物体でも一部だけ出す事が可能。
極端な例えになるが、砲台があったとしてその砲身の部分のみを空間現出して砲撃、即座に収納とかも出来る訳だ。

黛 薫 >  
「あーしらが『隔離収納』に焦点当ててんのは
 求める『汎用性』に絡めて広げやすぃからで、
 華奈の適正にゃ『偽装』や『透過』もあるって
 聞ぃてっからな。不意打ちって用途で見るなら
 相乗効果が見込めるかもだ」

「そーなると次の課題はどっちから手ぇ付けるか。
『射出』は収納を除く華奈の適正ともシナジーが
 ある。ただし元々範囲内なら出し入れ出来るって
 特性を思ぅと、戦闘方面にツリーが伸びるのかな。
 収納と射出の組み合わせはタイミング合わせりゃ
『反射』に近い挙動も出来そーだし。

『一部展開』は戦闘以外にも応用出来そーなのが
 強みかな? 一部だけ出してるって状況の持続が
 可能なら『固定』として機能するし、切断に
 派生出来るなら、日常でも使ぅ場面ありそーだ」

次の課題に向けて要点を整理しているところで
注文の品が運ばれてきた。値段の印象からすると
少し高いかな? と思えた品々だが、量を見ると
値段相応……いや、値段の割にやり過ぎなくらい
肉が重なっている。

もし少なめで頼んでいなければ、お通しよろしく
鷲掴みサイズで提供されていたのではなかろうか。

鞘師華奈 > 「まぁ、凄い大雑把に纏めると、自分自身とその延長に対しての補助効果が私の得意な系統だからね。
まぁ、透過とか偽装は私と距離が近かったり直接触れてれば相手にも適用可能だけど…。
うん、まぁ少し物騒な話題でアレだけど、私の戦闘手段が割と奇襲や不意打ちに比重が傾いているのもあるかも。」

そういう意味では、得意な魔術系統と己の戦闘手段の相性が抜群だ。
と、いうより魔術系統に合わせて己の戦闘手段を構築して言ったというのが正しい。
ただ、最終目標が『汎用性』なので、戦闘以外の用途も広げていかなければならない。
あくまで、戦闘”にも”応用出来る魔術であって日常でも普通に使えるのが理想。
とはいえ、例えば今の焦点の隔離収納などは普段から割と使っていたりするが。

「んーー…個人的な感覚も込みだと、一部展開を先に習得目指そうかな、と。
戦闘に関しては現状で手札は結構あるから、一部展開の方が幅は広げ易いかなって。
――一部展開の『持続固定』と、展開による擬似的な切断現象を掴めれば、日常の応用に使えるから…
うん、まず日常への利便性を今は重視したいから、やっぱり一部展開を次の課題に据えたいね。」

薫の言葉を受けて、一先ず『射出』より『一部展開』を優先する事に。
戦闘応用ばかりに気を取られていては本末転倒だ。日常でも使える所をきちんと目指さねば。

と、そんなこんなで運ばれてきたお肉に視線を移す。
値段を思い返せば、この量は妥当――訂正、ちょっと多くないだろうか?
うん、矢張り友人が言っていた忠告は正しかったんだな、と確信しつつ。

「取りあえず、食べようか…。」

話題も大事だが肉も食べたい。ちなみに女はタンが矢張りメインであった。あっさりが好み。

黛 薫 >  
「おっけ。じゃあ華奈の次の目標は『一部展開』。
 以前話したときを基準にするなら『射出』とは
 違って、工夫次第でイケるかもって話だったか。
 目標の近さ的にも噛み合っててイィ具合」

タンはお手頃価格の焼肉店だと1皿当たり薄切りが
数枚程度でもおかしくない部位。それがずっしりと
重みを感じる量重なっている。盛り付けこそ雑だが
このお店のスタンスを如実に表している。

黛薫が注文したのはタレ無しで食べられる味付きの
赤身肉。大きさも厚みも手のひら並みの肉が数枚
折り重なっており、備え付けのキッチンバサミで
切らないと焼くのにも一苦労。

「……あるぇ、前よりデカくなってね……?」

少なめってなんだっけ、と思いつつ肉を網に。
因みに量ばかりで味は微妙なんてこともなく、
寧ろ美味しい部類に入る。味と量以外の全てを
ぶん投げているが故なのだろうか……。

「と、丁度イィ区切りだから、あーしの成果も
 出しとこっか。華奈から貰った情報集積端末を
 組み込んでみた、って話したよな」

腰に下げていた水筒の蓋を開く。
ふわりと中から現れた水球はデフォルメされた
人型を象り、ちょこんとお辞儀してみせた。

「魔導電子情報集積端末『ピクシー』を組み込んだ
『ジェリー』の統率個体。さしずめ『ニクシー』って
 いったトコかな」

鞘師華奈 > 「うん、そこをまずは目標にして、達成したら『持続固定』と『擬似切断』かな…。
うん、やっぱり薫が居てくれると方針が明確になり易くて助かるよ。」

と、素直に感謝の笑みを浮かべる。本当に得難い友人を得たものだとつくづく思う次第。
勿論、魔術あれこれを除いても彼女の負担にならぬように交友は深めたいものだ。

(――タンがこんなに分量並んでるのは初めて見たなぁ)

と、思わず内心で呟く程度にぎっしり並んでいるタンを眺めて。
盛り付けの雑さには目を瞑るとして、早速焼き始めていこうか。

「――薫の方も凄いね量が…切るの手伝おうか?」

と、申し出つつも二人して肉を焼いていく間。
香ばしい肉特有の匂いも漂い始めた頃合。

「――ん、それは是非。気になってたからね…。」

薫の言葉に頷いてみせて。彼女なら組み込み等は問題ないと思っていたが。
彼女が腰に提げていた水筒。その蓋が開かれれば、中からふわりと浮かぶ水球。
直ぐにそれはデフォルメ化された人型へと変化して…器用にこちらにお辞儀をしてみせた。

「――へぇ、凄いな…もう完全に端末を使いこなしてるんじゃないかな、これ。
…『ニクシー』か。うん、よろしくニクシー。」

と、律儀に挨拶をする辺りがこの女の性格が滲み出ている。
そういえば、端末はもう彼女のものだが、一応テスターでもあるから情報は送っているのだろうか?

「あ、そうそう薫。テスター関連のアレだけど、情報を”全部”送る必要は無いよ。
薫が秘匿したい情報とかもあるだろうし、そこは切り分けて大丈夫。
あっちは運用試験データが欲しいだけだから、薫個人のあれこれに干渉はしないしね。」

と、もしかしたら既にそこはやっているかもしれないが一応補足をしておきたい。

黛 薫 >  
華奈の挨拶に合わせ、手を振る『ニクシー』。
人型になるだけでも意思疎通は随分やりやすい。

自我を保有している訳ではなく、あくまで黛薫の
分割意識の延長。しかし人間の意識は元々単一では
ないものだ。仕事とプライベート、SNS上で性格が
全く異なる人間なんてありふれている。

そういう意味では『ニクシー』の人格は黛薫の
ペルソナ。自己という軛から外れた新しい成長を
遂げる可能性もあるのかもしれない。

「ん、手伝ってもらぇっと助かるかも……。
 華奈も食べたかったら切ったヤツ自分で食べても
 全然構わねーから。てかこの量じゃシェアしても
 大して減った気しねーもんな……」

最初こそトングで掴んでハサミで……と考えて
いたのだが、分厚いし重いしでなかなか難しい。

結局、黛薫がトングでぶら下げるように支えて
『ニクシー』がスパッと切り落とした。
『ジェリー』に出来ることは概ね出来るようだ。

「テスター関連の情報送信につぃてはへーき。
 規約にちゃんと書ぃてあったよ。あーし個人の
 研究内容と無関係な『ピクシー』の機能なら
 ちゃんとフィードバックしてる」

黛薫、規約を全部読むタイプ。フィードバックも
律儀過ぎるほどにきっちり整理して送っている。

鞘師華奈 > (ちょっと可愛いな…)

と、思ってしまう程度には中々にコミカルだ。
ただ、同時に人型且つ精度の高い動き。
組み込みだけでなく、調整その他諸々が高レベルだ。
女はそこは専門外だけど、それでも理解出来る程に。

(…まぁ、薫の役に立ってくれているなら万々歳だし)

それでこそ、少し頑張ってプレゼントをした甲斐がある。
勿論、その苦労を言葉や態度には一切出さないのだけど。

「既にこの精度だと…これから先が楽しみだね」

ぽつり、と漏らすように。『成長進化』の可能性の塊。
最終的にはもう一人の薫、と言っても差し支えないものになるのかもしれない。
まぁ、それでも薫は薫、ニクシーはニクシーだ。そこを取り違えてはいけないが。

「了解――…って、ニクシーが居れば私の出番は無い気もするけど…。」

と、ニクシーの見事な切り落としを眺めて微笑みつつ。
逆にこちらはタンをお裾分けしつつ、彼女の味付き赤身肉を貰いつつでシェアもしていこう。

「…食べ切れなかったら、勿体無いし私の空間に『保管』しておくよ。
内部は時間が静止してるから腐敗の心配も無いし。」

地味にこういう時にも便利な隔離収納。何気に日常で使える一面を発揮している。
とりあえず、いい感じに焼けたタンを頂きつつ。

「…ん…それなら大丈夫かな。まぁ薫はそこしっかりしてるし心配はしてなかったけどさ。
とりあえず、向こうからなんか変な要求されたら私に連絡してくれていいよ。
契約とか纏めたの私だし、そこはきっちり『契約外』だって突きつけてやらないとね。」

友人に余計な手間を掛けさせるのは我慢ならないので。
まぁ、杞憂かもしれないがそう申し出ておくのだ。
ちょっとお節介に過ぎるかもしれないが…これも鞘師華奈という女の性分だ。

黛 薫 >  
「手前味噌だけぉ、機能に関しちゃ満足してる。
 ただ、それが逆に弱点でもあんのよなー……。
『ニクシー』はあーしが運用する魔術の要だから、
 機能不全に陥ると打つ手がなくなっちまぅの。
 戦闘は勿論として、日常の利便性も全部」

黛薫の魔術適正はお世辞にも高いとは言い難い。
低い適性を補う最も有名な方法が魔法具の利用
──つまり、杖や魔法書を媒体として扱うこと。
腕力の不足を剣の切れ味で補うようなもの。

『ニクシー』は黛薫の魔術の起点、杖に当たる。
その上、彼女の扱う『電脳魔術』はパソコンや
スマートフォンの代替でもあり、虚弱な体質を
カバーするためにも常用している。

要は『ニクシー』の機能不全は、杖とスマホと
車椅子が全部一辺にダメになるようなものだ。
"本体が弱いテイマー型" の魔術師でありながら、
使い魔側もウィークポイントになり得る。

「時間の経過を無視出来る、劣化を止められる。
 それも使い途ありそーだな? 例ぇば準備に
 手間が掛かるけぉ、効果が一瞬しかない魔術。
 結晶化と併せりゃ準備時間をスキップ出来る。

 もし生物の収納が可能だったら救急救命にも
 活かせそーだけぉ、難易度高そーかな……」

考えていたらテーブルに肉の脂が落ちてしまった。
『ニクシー』が拭うと脂は跡形もなく "消化" される。

「応用を考ぇるって話なら、既に汎用性の高さを
 目指して設計された『ジェリー』『ニクシー』が
 出来るコトの再現を考ぇてみるってのもひとつの
 アプローチか?

 例ぇば今『ニクシー』は掃除をしたワケだけぉ、
 華奈の『隔離収納』が細かく対象を取れんなら
 埃だけ収納、一箇所に固めて展開ってプロセスで
 掃除が出来るかも。つっても細かく収納すんのが
 簡単じゃねーかもだよな」

鞘師華奈 > 「――と、なると脅威は強制介入(ハッキング)とかかな。
防壁がしっかりしてるなら防げそうだけど…。
魔術と電子方面両方に長けた奴だと突破してくる可能性もあるし。」

薫の言葉にふむ、と一度箸の手を止めて考え込むように。
防壁、は最低限要るとして予備が何か必要か…?

「――バックアップデータとそれを直ぐに読み込める機構が必要かもしれないね。
全部をバックアップは『容量』の問題もあるから…。
必要最低限だけ別に『保管』しておいて、機能不全をトリガーに起動させて機能回復…は、難しいか?」

電脳魔術なら、そこらは上手く出来ない事もないだろうが難易度的にはそこそこ高そうだ。
それに、あくまでバックアップデータなので、逐一更新しないと最新分は失われてしまう。
ただ、少なくとも機能不全を防ぐ為の次善策の一つ、としては候補的にはありだろうか。

「――薫と、ニクシー自身とは別に機能回復の手段を用意しておくべきかもしれないね。
あくまで緊急手段ではあるだろうけど、あると無いじゃ大違いだ。」

と、そこまで口にして苦笑い。具体的なアドバイスとか出来るほど女は魔術学問に優れていない。
今回は電子方面の知識も少し引っ張り出して、それを照らし合わせての意見だ。

「…生物はちょっと今の私じゃハードル高すぎるね。
成功しても仮死状態だから、取り出した時に『蘇生』の手間が掛かると思う。
…あと、個人的なアレだけどあまり生物相手には使いたくないかな…。」

思わず苦笑いを浮かべて。あくまで無機物や魔術だから心理的抵抗が無いようなもの。
むしろ、救命装置をがっつり収納しておいて有事に取り出して用いる方が現実的だ。

ともあれ、会話の合間にお肉はもぐもぐと頂きつつ。
毀れた油をニクシーが”消化”していくのを眺めながら。

「――埃だけ収納…うーん、試した事はないかな。
今度ちょっとそこら辺りも検証してみるよ。
流石に、掃除方面へのアプローチは考えた事無かったし。」

この着眼点と発想の柔軟さが友人の強みの一つだろう。
感心したように頷きつつ、ちょっと今度試してみようと思う次第で。

黛 薫 >  
「ハッキング対策はしてるっちゃしてる……けぉ、
 魔術も電脳戦も突き詰めりゃ格上にゃ勝てなぃ。
 当たり前っちゃ当たり前だけぉ、だから二の矢や
 セーフティ、不意打ち、賭けに切り札。そーゆー
 "万が一のための手段" が必要になる。

 あーしみたぃな理論派の欠点はそこなのよなぁ。
 同じ理論派だと練度の差が如実に出ちまぅんだ。
 理詰めオンリーだと、同じ理詰めの格上相手にゃ
 どーやっても想定外を突けねーの」

こればかりは学問的魔術の宿命。
テストの得点で勝負するようなものだ。

「ハッキング以外だと、分解出来ねータイプの
 毒や汚染にゃ分が悪ぃ。"消化" だかんな。
 吸収した時点でアウトだと対処が難しくなる。

 今回の端末組み込みで、最悪『ジェリー』なら
 バックアップから復元出来るよーになったけぉ、
 そのバックアップと復元も上位の統率個体……
 つまり『ニクシー』に依存してるっつーな」

適正が低いから、実現のために優秀なただ一点に
頼らざるを得ない。お陰で発展するほどその一点が
致命的になる。

汎用性を損なわずに伸ばそうとした結果、一点が
尖ってしまったのが現状。尖った適正から汎用性を
得ようとしている華奈とは真逆の悩み。

「ま、そりゃそーか。生物相手に使ぅリスクなんざ
 避けられる限り避けたぃもんな。試行錯誤する
 段階ですらどんな事故起きるか分かんねーもん」

焼けた肉を一口齧って網に戻す。まだ早かった。
黛薫、肉の適切な焼き加減が分からない女。

鞘師華奈 > 「――理詰め同士だと、単純に優れた方が上手か。
…と、なると同じ土俵で勝負しない…いや、相手を出し抜く一手が必要だね。」

同じ土俵で勝負をしない、というのは自分が現時点で知る限りの薫の特性を考えると悪手だろう。
で、あるならば。その土俵の中で相手を出し抜ける”何か”を手札に加えるしかない。

「…とはいえ、想定外を突けないんじゃ出し抜く一手どころか見越されてる、か。
うーん、そもそも実践派の私が考え付く程度のあれこれは、薫も”その手合い”も既に想定済みだろうから…。」

同じ土俵で勝負するしかない…想定外を突けない……と、なれば。

「――その盤面を”引っ繰り返す”しかないかな。
とはいえ、具体的な手段となると難しいし…。
その相手が盤面のちゃぶ台返しすら想定してるとどうにもならないし。」

読み合い、騙し合い、知識を刃とするやり取りは女からすれば遥か高みの領域だ。
…参った。前の談義でも思ったが、友人の手助けになれていない気がする。
そもそも、自分が想定する程度の事は既に薫は想定しているだろう。

「――吸収する前で対処、は流石に厳しいだろうしね。
毒や汚染だけを”選別”して吸収を阻害するのは、不可能ではないだろうけど…。
多分、プログラミングの手間が相当だし、逐一、毒と汚染のデータを入力しないといけない。」

毒と汚染も種類は無数だ。それを全てプログラミングするのは不可能、とは言わないが無謀。
何せ、未知の汚染や毒なんて幾らでも探せば出てくるのだから。

「――尖っているから汎用性を突き詰めたい私と、汎用性を突き詰めたからこそ逆に尖った所が出ている薫と。
何と言うか――皮肉なもんだね…。」

真逆というか何というか。理論派と実践派だけでなくこういう所も逆とは。
むしろ、だからこそこうして話が盛り上がったり波長がそれとなく合う部分があるのかもしれないが。

「私も可能な限りリスクは避けたいしね。…だから、生物の隔離収納は不可能ではないけど現状は保留。
それより、その時間を『一部展開』に費やした方がいいって感じだね。」

肉の焼き加減がいまいち把握しきれてない薫の様子に苦笑を浮かべて。
代わりに、いい感じに焼けた赤身肉やタンを彼女のお皿に乗っけておく。

黛 薫 >  
「そそ、それが出来ればイィのに、こっちが
 思ぃ付くって時点で相手の想定内になんの。
 じゃあどうやって "想定外" を探すかって、
 その答ぇは実践と経験の中にしかねーんだ」

「だから華奈が持ってるよーな、実践を重ねて
 得た重みってのをあーしは学ばなきゃなワケ。
 こればっかは一朝一夕じゃどーにもならねーし、
 先人の経験を聞くってマジで大事なのよな……」

手助けになれていないのかも、という懸念を
"視線" から読んだ訳ではなく。華奈が黛薫から
話を聞いて自身の足りないところを想うように、
黛薫も華奈の話を聞いて不足を思い知っている。
隣の芝生が青く見えるのはどちらも同じらしい。

「以前の話を思ぃ返しても『一部収納/展開』は
『射出』よか実現の見込みあるって話だったかんな。
 一旦そこに注力すんのはイィ判断だと思ぅよ。

 今回実現した『結晶化』と合わせりゃ無形物の
 射出までは出来る見込みだから、例ぇばー……
 結晶化した魔術を射出して、刺さったトコでの
 解放、ってのも視野に入って来っかな?」

話の内容は整然としているが、取り分けてもらった
肉を食べるのに気を取られて網の上の肉にまで気が
回っていなかったり。得意分野の外では隙が多い。

鞘師華奈 > 「…う~~ん、私が得た”実践経験”は少し偏ってる部分あるしなぁ。
まず、大多数が戦闘経験で日常生活への応用とか流用は当事考えてなかったし。
あと、私の魔術で分かると思うけど、不意打ち特化――真正面からじゃなくて相手の間隙を突くのがメインだしね。
そういう意味では駆け引きと読み合いは大事なんだけど…。」

正直、頭で考えるよりそこは感覚でやっているのだ。
だから、理論立てて説明したりは残念ながら華奈では上手く出来ない。
そもそも、実践とは経験側…自分で体験しないと身につかないものだ。」

「――まぁ、そんな私から言えるアドバイスと言えば。
…大事なのは”アドリブ”だね。
一つとして同じ状況なんて無いから、次にどう動くのかを即座に判断して動く。」

魔術的に言うなら、知識を引き出す頭の回転を全て”状況判断”に振り分ける。
即断即応、少なくとも想定した動きを、咄嗟の動きをタイムラグ無しで出来るのが理想。

「――っていうのは私の経験側を元にした意見だけど、参考にはならないかな。
薫と私はまずタイプが違うから、今の話で出来そうな所だけ切り抜いてフィードバックするのがいいかも。」

と、小さくおどけるように微笑んで。
あくまで女の経験談からの話であって、丸々参考にはならないだろう。
あるとすれば、それこそ部分的なあれこれを彼女が取り入れていくかどうか。

「――多分、『射出』が地味に一番難易度高い可能性あるしね…まぁ、順当に行くさ。
――あぁ、魔術結晶の『爆弾』みたいなものだね。あるいは手榴弾か。それは使えそうだ。」

そうでなくても、例えば結晶化した魔術の種類によっては消火や土台構築なども出来そうだ。
「薫、考えに没頭するのもいいけど肉も食べよう?」と、声を掛けつつ網の上の肉もささっとお皿に移動。
女もちまちまと肉を頂きつつ、この女も女で自分の次の課題に考えを巡らせないといけない。

黛 薫 >  
「そーの自分に作用する補助を不意打ちって形に
 持ってく過程と、アドリブを加ぇられる感覚が
 尊敬出来るトコなのよなー……」

まず前回の魔術談義で実現した『結晶化』がそう。
黛薫であれば "理論的には可" までは辿り着ける。
しかし感覚を掴んで実現するまでがやや遠いのだ。

2度目の話し合いまでにマスターしてきた華奈の
感覚が経験に裏打ちされているのは間違いない。

「出来るトコから順番に。当たり前の話なのに、
 なまじ遠くに見ぇてっから簡単じゃねーよな」

どうせなら『射出』より『一部収納/展開』との
組み合わせで実現出来る展望を考えるべきだった。
先を見据え過ぎて足元が疎かになっては本末転倒。

ひとまず、今は目の前の肉に集中するとしよう。
とか考えつつ、実は結構頻繁につまんでいる筈の
お通しのキャベツもなかなか減ってくれないのだが。
やっぱり量多いよ、このお店。

鞘師華奈 > 「うーん、それこそ経験側と…あと、知識で足りない分は感覚で補ってるかな。」

結晶化の場合、結界術式の基礎を己の頭に叩き込み、一定段階まで昇華。
次に、それをベースに結晶化という形に絞って結界術式を構築、これをひたすら繰り返す。
後は、用いる魔術に応じて結晶化の比率を”感覚で調整する”。

この、感覚で調整する、というのがいわゆる実践派の特色でもあろうか。
そして、一度特徴やコツを掴むとそこからの応用が早い。

「でも、当たり前の事を一歩ずつやっていかないと何処にも辿り着けないからね。
私の場合、知識の代わりに数年単位の実践でここまで身につけてきた訳だし。
今は、薫のアドバイスとか私の自主勉強で知識も多少追いついてはいるけど…。」

肉を食べつつ、キャベツもちまちまと…あまり減って無い気がするなこれ。
とはいえ、食べるペースを上げても負担が掛かるだけなので、あくまで自分のペースを保つのが大事。

「あー…もし食べきれなさそうな場合は私が食べるよ。
私自身が無理そうなら、さっき言ったみたいに隔離収納しておくし。」

ちなみに、焼きたての肉を収納した場合、時間が静止するので取り出した時も焼きたてのままである。

黛 薫 >  
「知識を追いつかせてる華奈。
 経験を追いつかせてるあーし。
 なんつーか、ホントに対照的なのかなぁ」

食べるペースと焼くペースの折り合いを付け切れず、
だんだん皿に積まれていく肉。食べ終わってから
焼くと待ち切れないからって食べながら焼き出すと
口が間に合わなくなりがち。

「自分で頼んだ分くらぃは何とかなるからへーき。
 "その場で食べる" は出来っけぉ、保存となると
 あーしよか華奈の方が圧倒的に上よな」

間に合わず若干焦げた肉を『ニクシー』に寄越す。

摂食による魔力還元、味覚のフィードバックまでは
出来るものの、本体に栄養を還元しようとすると
長時間のリンクが必要。本体が食事を摂らなくても
平気とまではいかないのだ。

鞘師華奈 > 「多分、ここまで対照的な友人もそうは居ないと思うかな…。
いや、まぁ私は友人は薫とかくらいだけど。」

自分で言っていて少し悲しくなったのか、誤魔化すようにお肉をもぐもぐ。
別に友人を作りたくないとかぼっち好きな訳でもない。
単純に、自分の気質やら何やらが原因だ。まぁ、自覚していても直せるかどうかは別問題。

自分のペースを持ち直したのか、少しずつ確実に肉とキャベツは減らしていく。
何だかんだ口の中が脂っこくなりがちなのでキャベツは箸休めとして有り難い。
焦げた肉をニクシーに寄越す光景を眺めつつ。

「まぁ、実際、非常食とかも多少放り込んであるしね。
結構余裕は持たせてるけど容量限界はしっかりあるから、選別はしてるけど。
…と、いうかニクシーに空間魔術系統の応用理論を照らし合わせたり出来れば、また幅は広がりそうだけど。」

と、口を衝いて出たのは単なる思い付きで根拠も何も無い。
隔離収納はそもそも『保存/保管』に特化した空間術式の亜種だ。
かなり独自というか応用を捻っているから、最早独自の術式理論となっているが。

黛 薫 >  
「んふひ、実際華奈から貰った『位相空間』の
 魔術メモは使わせてもらってる」

うっかり墓穴を掘った華奈に含み笑いを向けつつ、
自身も肉を口に運ぶ。ちょっと楽しげにしただけで
それ以上の言及がないのは人のことを言えないから。
黛薫も交友関係は広くない。

「ただ素質とか適正とか、そもそもの魔力量とか。
 色んな要素の兼ね合ぃであーしが使ぇる空間は
 華奈には遠く及ばねーの。真似して収納空間を
 作っても半径10cmに満たなぃ球状が精々かな」

「だからこーして……別の手法と組み合わせて
『空間接続』って形で利用させてもらってる」

『ニクシー』が2つの分裂体『ジェリー』を生成。
片方に向けて箸を落とすと、溶けるように消える。
代わりにもう片方が箸を吐き出した。

「保存用の固定空間じゃなぃ、その時々で使ぅ
 非固定空間なら維持しなくて良ぃからサイズに
 融通効く。そこに "同一存在" の『ジェリー』を
 介在させて、類感呪術の手法で転送する、と。

 "取り込む" 過程があっから即時とはいかねーし、
 位相空間の中に入れっぱなしってのもムリだけぉ、
 入口と出口に『ジェリー』がいるワケだから、
 華奈とは逆で『射出』は実現しやすぃっぽぃ?」

前提が違えば使い方、向き不向きも異なる好例。
とはいえやっぱり使い魔頼みになるのはご愛嬌。

「あーしが非常食をどーにかしよーとすっと……
『ニクシー』がカロリーを貯め込めりゃイィのか?
 非常食とはちょっと違ぅか」

鞘師華奈 > 「……それは良かった。薫に有効活用して貰った方がいいからね、アレは。」

隔離収納など、術式を確立した今となっては女には不要で。
だからこそ、それを生かしてくれる友人にアレを託した。
ちょっと無表情なのは薫が含み笑いをした事で自分の墓穴に気付いたからだ。

「――成程ね、私が『収納』で薫が『接続』か。
私が空間に物体を保管しておくなら薫のそれは、物体の空間移動に焦点を絞った感じか。」

更に、彼女自身の諸々の要素の兼ね合いも考えると、薫なりに見出した利用法なのだろう。
逆に、自分は空間接続…物体異動の類は使えないのでそれぞれの特色は出ているといえるか。
あくまで、保管、取り出し、そして一部展開と射出。後者二つは今後の課題だが。
つまり、物体の移動と言うものはない。間接的に真似事は出来るがそこまでだ。

ジェリーとニクシーを用いた薫のパフォーマンスをじっと眺める。
ちなみに、見つめながらも肉は食べているので少しだけシュールかもしれない。

「――うん、調整すれば多分『射出』はむしろ薫の方に分があると思うかな。
空間移動に焦点を当てているって事は高速移動や、その運動量を保持したままの解放…射出は可能だろうし。
それこそ、ジェリーとニクシーが…大袈裟な表現になるけど、砲台みたいなものかな。」

ちょっと物騒な例えになるのは元々、戦闘方面に魔術を利用していたせいかもしれない。
カロリーについては、うーんと少し考え込む。

「…ただ。栄養の行き渡りにタイムラグがあるのを考えると早めに摂取させないと危なそうだね。」

リンク時間の事も考慮すれば、先んじて吸収させておかないとならない。
いざ、必要な時に吸収させてからではそもそも遅いだろう。

「――栄養素だけを薫の体内に『射出』出来れば、ちょっと強引だけどタイムラグ無しで直接補給は出来るだろうけど。」

難しいものだなぁ、と微苦笑を浮かべて。気が付けば女のほうは割りと肉とキャベツを平らげていた。
何だかんだ体を動かしているので、普通の女子よりはちょっぴり多めに行けるのだ。

黛 薫 >  
「そそ、こっちのメリットは『ジェリー』さえ
 待機させとけば距離の制限を受けにくぃコト。
 そりゃ地球の裏側とか、極端な例は除くけぉ、
 自室に『ジェリー』を常駐させとくだけでも
 物のやりとりはしやすぃよな。

 例ぇば好きに使ぇる倉庫なんかを買ぇば華奈の
 利用法に近付けはすっけぉ、取り込む以前に
 探す工程が入るから、ちゃんと整理してても
 ラグなしはムリ。もちろん保存にも限度がある」

差異を比較すれば、互いの向き不向きも分かる。

『収納』に長けるのが華奈に対して『移送』に
長けるのが黛薫。しかし『移送』に含まれても
戦闘に於ける短距離転送であれば華奈に分がある。

「まー極論『ジェリー』なら食ぇるっちゃ食ぇる。
 いぁ飲める? 含有ナノマシンも人体に無害だし、
 それを除くと組成はほぼ水だし、自己消化すりゃ
 清潔さも保てるワケだし。

『ジェリー』に食事を任せて必要に応じて栄養だけ
 貰ぅダイエット的な……それこそ緊急性がありゃ
 点滴みたく……流石に素人判断じゃ怖ぇーか」

黛薫、後半はキャベツばかり食べていた模様。
入らなくなった肉は『ニクシー』と華奈の助けを
借りた。だって前頼んだときより大きいんだもん。

「ごちそーさまでした」

ともあれ魔術談義も進み、食事もやっとひと段落。
やっぱり量多いよ、このお店(2回目)。

鞘師華奈 > 「そういう意味では、私は仮に『射出』をマスターしても、物によるけど20…かそこらが限界か。
少なくとも、距離の制限はどうしても付き纏うから、その制限を受けにくい薫の空間位相は強みだね。
制約があるにしても距離制限が緩いというか範囲が広いのは羨ましい…。」

矢張り、保管は自分、移送は薫に分があるという事か。
各々の特色というか個性がハッキリ出ている気がする。
薫の詳細な説明を相槌を打ちながら聞きつつ、一足先に肉とキャベツは片付けたのでコップのお水を頂き一息。

「…うん、点滴の真似事は流石に医療知識にある程度精通してないと止めた方がいいかも。
それでミスって君がダウンしたら、君の同居人も当然私も心配するからね?」

と、一応釘は刺しておきたい。彼女はそんな真似はまぁしないとは思っているが。
ただ、自分もその傾向は少しあるが、薫も突き詰めていく傾向はあるので、うっかりやらないか心配だ。

ともあれ、薫が食べきれなかった肉は、大部分を自分、残りをニクシーが消化した。
ともあれ、こちらも「ごちそうさま」と緩く手を合わせて一息。流石にちょっと胃もたれしそう。

「――ん、ぼちぼちキリが良い頃合かな…。
私の次の課題も決まったし、薫の成果も見れたし。
何より、やっぱり君からアドバイスとか考えを聞けるのは有り難いし。」

お互いの都合もあるから、頻繁にとは行かないだろう。
けれど、やっぱり定期的に魔術談義はしていきたいものだ。
…それはそうと、例の紹介状の店も合間を見て足を運んでみなければ。

「あ、薫。唐突だけどちょっと右手いいかい?」

と、お会計とかをする前に一声かけてから、こちらも右手を彼女に差し出す。
いわゆる普通の握手だが、何故をそれをするのかと言えば…。

「――改めて言う事でも無いし、かしこまって言う事でもないんだけどさ?
――私の友達になってくれて有難う、薫。今後とも色々とよろしく頼むよ。」

改めて、友への感謝とこれからの交友を願って。
堅苦しいかもしれないが、女の中では大事な事なのだ。

黛 薫 >  
「裏を返せば、医学知識を身に付けられりゃ
 そーゆー使ぃ方も出来るってコトか……」

とはいえ、流石に本気で言っている訳ではない。
応急処置程度ならともかく、医学も学び始めれば
終わりの見えない分野。同じく終わりが存在しない
魔術を学びながら修めるのは並大抵では済まない。

と、食事を終えて会計をする前。差し出された手に
一瞬きょとんとするも、すぐに笑みを浮かべて返す。

「こちらこそ、今後ともよろしく」

合理に極まった魔術師だと握手どころか肌同士の
接触すら迂闊に出来ないと聞くが……そこまでの
用心より、やっとで出来た友人の方が大切。

そもお互いの手は既に明かし尽くしている状態。
寝首を掻かれたなら自分が甘かっただけの話だ。

ただ、それはそれとして。

「んでも、こっそり疲労抜ぃてくのはナシな」

華奈は親切でそういうことを出来てしまう、と
いうのも知っているので釘を刺し返すのだった。

鞘師華奈 > 「…やるな、とは言わないけど薫の魔術研究が停滞すると思うよ?」

医療知識は普通に難しいから、魔術研究との両立は正直ハードルが高いなんてもんじゃない。
まぁ、当の薫自身が多分一番分かっていると思うので、これ以上口煩く言うつもりもなく。

そして、女は合理に極まった魔術師とは程遠い存在だ。
魔術は扱うし、或る程度の知識もある。
だが、それはそれ、これはこれ。友人との握手に裏表なぞ全く無い。
薫と握手を交わせば、緩く上下に振ってから手を離して行くけれど。

「――あぁ、それは考えてなかったなぁ。」

ぼそり。実際本当にそこまで考えていなかったらしい。
とはいえ、今からじゃあ疲労を…とは流石にやらないが。
そもそも、自分の能力でもあくまで一時凌ぎ、その場凌ぎにしかならないのだ。
薫のそれは肉体的にも精神的にも疲労を取り除くだけでは根本的解決にはならない。
かといって、隙あらば多分やるかもしれないけれど。
まぁ、彼女もこの女のそういう気質は把握しているからこその釘刺し返しだろう。

「よし、じゃあ行こうか。どうせ同じ寮だしゆっくり帰ろう。」

さて、お会計は折半でいいのだろうか?ちなみに彼女が何も言わないならこの女は全額出しかねない。
ともあれ、そんな一幕もありつつ、二度目の魔術談義も和やかに締めとなろう。

ご案内:「歓楽街 地下焼肉店」から鞘師華奈さんが去りました。
ご案内:「歓楽街 地下焼肉店」から黛 薫さんが去りました。