2019/02/03 のログ
ご案内:「落第街大通り」にΛ1icθさんが現れました。
■Λ1icθ > 何時からだっただろうか。
息が白く凍り付くような寒さの中、同じように冷たい光を瞳に宿した少女が
まるで吊るされた人形の様に逆さに宙に浮いていた。
周りが無重力状態になっているのか
癖のある長髪やドレスの裾がゆらゆらと無秩序に揺れている。
「くふ」
眼下に立つ少年を見つけるとそれはくすりと微笑み、
くるりと回転すると少年の首に腕を絡めるように抱きつき後ろからその眼をふさぐ。
さらさらとした少年の髪の感触にその口元が半月を描いた。
「だーれだぁ」
そのままぎゅっと抱きしめる。
その体を少年の背に預けながら耳元に口を寄せ、
秘密を見つけた恋人のように甘く小さな声で囁いて。
■神代理央 > 突如塞がれる視界。武術の心得等無い少年は、視界が閉ざされるまで彼女の存在に気付く事は無かっただろう。
一瞬、異能を発動させようと身構えるも、耳を打つ砂糖菓子の様な声と目元を塞ぐ柔らかな感触に思わず安堵した様な息を零した。
「……心臓に悪い挨拶は控えて欲しいものだな。これでも、一応仕事中なんだが」
それは"昔から良く知る"少女の声。
"聞き慣れた"その声に安堵と呆れを滲ませながら、目元を塞ぐ少女の手に触れようとするだろう。
――理性が叫ぶ、僅かな違和感に内心で首を傾げながら。
■Λ1icθ > 「くふ」
自分がだれかという事に疑問すら持たない様子に
嬉しそうに笑みをこぼすと目を隠した手に添えられた手を握り、
ますます嬉しげに体を押し付ける。
「だいじょうぶ、だよ?
私がお仕事の邪魔をするわけない、でしょう?」
耳元に口を寄せたまま囁くとくすくすと笑う。
宙に浮いたままの足がご機嫌にぱたぱたと振られる。
「悪いヒト、みつかった?」
握っていない方の腕で薄暗闇になった場所を指でっぽうで撃つ真似をしながら
無邪気に尋ねて見せたりして。
■神代理央 > 「…そうだな。お前は、何だかんだ聞き分けの良い子だったからな。だが、何時までも目隠しされるのは余り良い気分では無いぞ?」
背中に押し付けられる少女の柔らかさを感じながら、小さく苦笑いを零しつつ己の目を塞ぐ少女の片手をゆっくりと下げようとする。
そのまま、耳元で囁く少女に僅かに頭を傾けて、己の眼前に来ないかと視線で指し示すだろう。
「…ああ、そうだな。沢山見つかったさ。此処は吹き溜まりだ。塵芥を搔き集めた出来損ないの塵箱だ。此処を全て吹き飛ばせれば、実に愉快なのだがな」
無邪気に尋ねる少女とは対照的に、己が浮かべるのは獰猛かつ冷淡な口元を歪めただけの笑み。
"己の内面を良く知り、それを全て受け入れている"少女相手に、今更己の昏い本性を隠す必要も無い。
――再び、そして先程よりも強く感じる違和感。それを振り払う様に、僅かに首を振った。
■Λ1icθ > 「そうだよ?ありすは良い子だからね」
首に手を絡めたままふわふわと宙を漂い
ゆっくりと前方へと回り込む。
相手の吐息を感じるほどの距離のままにっこりと微笑んで
「そうしたい、けどしょうがない、よね」
それが許されるならば今頃この辺りは灰燼に帰している。
結局の所、風紀委員と言えど思うが儘に振舞えるわけではない。
だからこそ今は”我慢”している訳で……
「ふふ、大丈夫、すぐ、キモチヨくなれるから」
望むなら私がそうしてあげると微笑んで
僅かに戸惑うような雰囲気の少年の頬に唇を寄せる。
「だから、ね?」
堕落に誘う甘い蜜のような口調で囁いた後、そこに啄む様な口付けを残す。
■神代理央 > 視界を覆う様に、ふわりと宙を舞う様に現れた少女の姿に満足そうに僅かに目を細める。
擽る様にかかる少女の吐息は甘く、まるで何時ぞやの紅茶の様な――
其処迄意識が回りかけた時、少女の言葉でその思考は中断される。
「…しょうがない、か。そうだな。俺の求める闘争を。俺の求めるモノを世界が求める訳ではない。だが、それは実に不愉快な事だ」
少女の言葉に、忌々し気な口調で言葉を吐き捨てる。
そこに、普段の少年が被る善良な生徒の仮面も、小生意気な資産家の子供の面影は無い。
闘争と支配。嗜虐と狂気。それらが入り混じった本性を、辛うじて抑え込んでいる様なモノ。だがそれは、囁かれた少女の言葉によって違うモノへと変貌する。
まるで、猛毒の様に己の深淵へと注がれる甘い蜜。頬に感じる柔らかな感触によって、本来あるべき傲慢な闘争心は、獲物を喰らう獣の様な狂気へと軋んで変化する。
「……ほう?生意気な事を言う様になったな、ありす。先に快楽の坩堝に溺れるのは、お前の方だと賭けても良いが」
啄む様な口付けを残す少女の頭を抱き寄せ、その髪を手櫛で梳かす様に撫でながら、吐息を吹きかける様に、低く少女の耳元で囁いた。
■Λ1icθ > 「くふ」
不愉快気に呟かれる言葉にも少女は笑みを崩さない。
願いは叶えられない時も必要だ。その時間は酷く不愉快でも。
そんな不快な我慢もいずれ来る解放のためのスパイスにしてしまえばいい。
心のままに、欲望のままに荒れ狂うために必要ならば、雌伏の時もまた甘いもの。
余計な思考なんて、必要ないもの。そんなものは捨ててしまえばいい。
「ぜぇんぶ、邪魔なもの、壊しちゃえばいいよ。
その時が来るまで、沢山沢山楽しんで
そして最後は全部、足元に踏みつけてしまおう?」
仮面の奥から湧き出るような欲望を敢えて口にする。
瞳の奥に渦巻く衝動と狂気に水を与えるようにゆっくりと囁く。
そう、それで良い。
破壊衝動も、支配欲も、全て満たしてあげる。
私が私であるうちは、”絶望”なんてさせはしない。
願って、もっと願って。
そんな言葉を染み込む毒のように囁いて。
「……それが貴方の願いなら」
どれだけ狂って軋んでも叶えてあげる。
悪魔の囁きを口にしながら酷く優し気な笑みを浮かべてそれは笑った。
■神代理央 > 「その時が来るまで、か。そうだな。焦って事に及んでも、満足出来るものでもないか。不愉快な塵芥共が俺に隷属し、服従し、平伏するのを踏みしめるまでは、大人しくしているしかあるまいな」
少女の言葉は、強靭な鎖となって己を縛る理性を溶かして壊す。鉄鎖に注がれる強酸の様に。芽吹いた狂気を咲かせようとする真水の様に。少女の言葉は、己を壊す。
「…そうだ。貴様は、ただ俺の為にあれば良い。俺の力となり、俺の道具となり、俺の望むがまま、その為だけにあれば良い。そうすれば、嘗てお前が告げた言葉通り、お前の望みを叶えてやるとも、ありす」
眼前の少女は、己を決して否定しない。
それがどれだけ危険な事なのか"嘗ての自分"ならば大いに警戒しただろうに――
と、そこまで至る思考と、僅かに鳴り響く警鐘を、自ら掻き消す事になる。今はただ、此の少女を貪り喰らう事だけを考えていれば良い。差し出された供物を浅ましく喰らう獣の様に、下限も遠慮もなく、噛みついてしまえば――
そんな思考と共に口を開きかけた瞬間、無遠慮に鳴り響く電子音。委員会からの帰還命令を告げるメッセージを、己の端末が賢明に伝えようと努力していた。
「……やれやれ。宮仕えは辛いな。仕事に戻る。お前も、遅くならないうちに帰ると良い。………何なら、俺の家で休んでいても構わん。どうせ、鍵など渡さずともお前ならば入れるだろう。お前に風邪でも引かれたら困るからな」
少女を抱きかかえてそっと地面に下ろせば、その髪を緩く撫でた後、コートを翻して大通りの入り口へと向かう。
その間際、振り返って少女に投げかけた言葉は、自分でも驚く程優し気な、そして穏やかな口調であっただろう。その事実そのものに自分でも驚いた様な。困惑と違和感が入り混じった様な表情を一瞬浮かべた後、気のせいかと再度首を振り、少女に背を向けてしっかりとした足取りで此の場所から立ち去るだろう。
■Λ1icθ > 「うん。待ってる」
全てはただ彼の願いの為に。
自身を縛る全てが無価値だと気が付くまで
小癪にも彼を引き戻した警笛や首紐を引きちぎり
それらを冷然と自ら踏みにじる時が来るまで
……唯々愛情に似た何かを注ぎ続ける。
「……いってらっしゃい」
そう呟いて小さく手を振ったそれはまるで
朝出かけていく愛し子を見守る母親のような表情で……
その背中を見送り、見えなくなると同時にふわりとまた宙に浮かぶ。
「……だから」
もう貴方達に、用は無いの。
そう呟くと同時に暗闇に血飛沫が舞う。
それを見て、何ら表情を変えることなく少女は廃墟の奥へと消えていった。
翌朝の風紀委員の報告では
とある委員の警邏範囲だけ、事件が全くなかったとのこと。
ぽっかりと穴が開いたようなその報告は珍しがられこそすれ、
警邏に回った学生の働きが良かったのだろうと特に疑問なく受け入れられる。
……まさかそこに居た問題分子が文字通り永遠に”大人しく”されたなど誰も知る事無く。
ご案内:「落第街大通り」から神代理央さんが去りました。
ご案内:「落第街大通り」からΛ1icθさんが去りました。