2019/02/16 のログ
ご案内:「落第街大通り」にツクヨミさんが現れました。
ツクヨミ > 今日この日、後期試験が終わりを告げた。
各地には開放感に満ちた学生たちがこぞって出かけているのだろう。
歓楽街に面した、この大通りにもチラホラとそんな学生の姿が見える。
とはいえ、試験をきちんと受ける行儀の良い生徒がこんな所まで繰り出してくることは極稀だろう。
試験が終わって気を大きくした生徒が、肝試しで訪れることはあっても、暗部まで深入りしないのが暗黙の了解である。

夕飯の金を違反学生に握らされてそのまま外へ追い出されたツクヨミは、フラフラと大通りを歩いていた。
普段の男子学生服ではなく、今日は女子用の学生服。短いスカートにハイソックス。生白い足が薄ら寒く見える。
今日は着るものがこれしか無かったから、仕方なく着用したまで。
性差の薄いツクヨミだから、違和感はそれほどなかったが。

「なに、食べよう……」

とは呟いてみるが、食欲はあまりなく、自分で何を食べたいかも中々決められない。
キョロキョロと露天を覗いてはみるものの、どれも興味を引くことがなく、当て所もなくさまようばかり。

ツクヨミ > 時間まで、どこかで暇をつぶそうにも暇の潰し方を知らない。
空き地でぼんやり隅っこに座ってぼーっとしているのがせいぜいだ。
と、大通りの向こう側から肩で風を切る違反学生の男たちが数名やってきて
ふらふらと通りを歩いていたツクヨミとぶつかった。
体格のいい男たちと、もやしのようなツクヨミ、あっけなくツクヨミは弾き飛ばされて尻餅をつく。

「……う、」

うめいてのろのろと立ち上がろうとするが、そうするより先に男の一人に腕を乱暴に掴まれて持ち上げられた。

『なんだぁ?ぶつかっといて謝りも出来ねぇのか?』

下卑た笑い声とともにツクヨミの顎を太い指でつかみ、ぐいと顔をすがめてみる。
と、仲間内の一人がツクヨミの素性に気づいたようだ。

『こいつ、例のカルトの……教主サマだぜ』
『へぇ、教主サマねぇ……。なんでそのお偉いさんがこんなとこ歩いているのかなァ』
『男って話じゃ無かったか?スカートなんか履きやがって……変態か?』

矢継ぎ早に言葉を投げつけられて、ツクヨミは返事も出来ず
ただ殴られるのだろうか、それともひどい目に合うのだろうかとじっと考えていた。

ご案内:「落第街大通り」にレンタロウさんが現れました。
レンタロウ > 「………おい、そこの男よ。
 そう、そこで女子相手に数人がかりで凄んでいる貴様だ。貴様。」

場所が場所だけに、些細な諍いなど日常茶飯事。
故に、少女が複数の男たちに捕まっていても、周りの者は横目で見て通り過ぎるだけ。
そんな中で、その男達の内で女子生徒の腕を掴んでいる男へと小石を放り投げる男が居た。

小石を当てられ、苛立った様子で男が顔を向けてくる。
注意が此方に向き、女子生徒の腕を顎から手を離したのを確認すると、軍帽を被り直して棒読み気味にこう口にした。

「先に謝っておくぞ? …すまん、ぶつかってしまった。」

何を言っているのかと言葉を口にしようとした男の腹部へと、
次の瞬間に声をかけた位置から一気に跳んできた男の肩が深くめりこんだ。
先程、女子生徒にぶつかり尻餅を突かせた男が、今度は苦悶の表情を浮かべて尻餅をつくことになった。

「大丈夫か?手当が必要なら医者の所へ引き摺っていってやろうか?」

腕を組み、気遣う言葉を男へとかけるが、それには怒気が分かりやすく滲み出ていた。

ツクヨミ > ツクヨミを囲んでいる男たちの向こうで、
黒ずくめの軍服、マント、軍帽、それに腰元に軍刀を携えた青年が小石を放り投げた。
見事男の肩口に命中した小石、周囲で諍いの気配に野次馬として見るもの、面倒事に巻き込まれるのはごめんだと店に引っ込むもの。
掴まれたままのツクヨミは、だらりと力なくそちらを向いて
突如現れた青年をじっと見つめる。

と、男が腹部へ青年の一撃を受け、地面に尻もちつく。
その衝撃で、掴まれていたツクヨミは引き離され、とすんと軽い音を立てて地面に突っ伏した。
苦悶の表情を浮かべる男はすぐさま怒りに形相を変え、男の仲間二人がレンタロウを取り囲む。

『いきなりなんだァ……?正義の味方でも気取ってやがるのか!』
『構わねぇ、潰しちまえ!』

立ち上がった男とともに仲間たちがレンタロウに飛びかかる。
一見荒っぽく無茶苦茶に腕を振り回しているようで、
その実男たちは連携を互いに取り、身体強化系の異能でもあるのか
殴りかかる太い腕や、距離を詰める足は常人よりも異様に早い。
最初の一人がレンタロウの足を狙って払い、次の男がボディをめがけ、最後の一人が横っ面を殴ろうとする。

レンタロウ > 「俺が正義の味方?ハッ、面白いっ!ならば、貴様らは悪の手先か?
 単純に貴様らの行いが気に入らないから邪魔をしているだけのことよ!」

自分を取り囲む男たちへと臆する様子もなく堂々と言ってのける。
都合良く自分たちの周りから人が引いて行き、
因縁をつけられていた女子生徒が盾になることもなさそうで内心で安堵する。

そして同時に自分へと連携して仕掛けてくる男達に、腕組を解いて応戦する。
常人よりも速い腕や足の動きに、恐らく何らかの能力を使っているのだろうと察する。

脚を払おうとする蹴りを、鋼を仕込んだ靴で骨を砕くつもりで上から思い切り踏みつけて防ぎ。
腹部を狙う拳を両腕を交差して防ぎ切る。だが、再度の顔面への一撃は避け切れずに食らってしまった。
視界がぐるんと回り、痛みが走る感覚に一歩ふらつく。

「…良い拳だな、危うく意識が飛ぶ所だった。
 故に、敬意を表し十倍返しだッ!」

そちらが異能を使うのならば、こちらも異能を使うまで。
深くしゃがみ込み、跳び上がると同時に顔面に一撃を入れて笑う男の顎を下から拳で殴り上げる。
異能で強化した跳躍の勢いをそのまま乗せて一撃は男を大きく上へと弾き飛ばした。

「はぁッ!!」

宙へと跳んだ状態で軍刀を手にすると鞘に収まった状態で、
自分の腹部を狙った男の脳天へと重力の引力を乗せた一撃を叩き込んだ。
文字通り、頭を割るような一撃を受けた男は、そのままふらふらと蹈鞴を踏んだ後で卒倒した。

ツクヨミ > レンタロウへ足払いを狙った男は、鋼の仕込まれた靴で骨を砕かれて逆にのたうち回る。
腹部への攻撃を防がれた男は、素早く身を引いて次なる攻撃へ体勢を立て直そうとする。
その隙間を縫って、顔面を殴りつけた男が確かな手応えにニィ、と笑い
ザマァ見ろとばかりに追い打ちをかけようと踏み込んだ。

だがそれより早く、十倍返しと叫んだレンタロウが大きな跳躍とともに顎へと強烈な一撃を見舞い、
まるでアッパーカットのように男は大きく仰け反って吹き飛んだ。
さらに腹部を狙った男へ、軍刀の一撃。頭から真正直に受けてしまってはいかに異能で身体を強化しようとも昏倒は免れない。
どう、と音を立てて地面に倒れ伏した二名の仲間に、足を砕かれた男が情けない悲鳴をあげる。

『ちくしょう!覚えておけよ!!』

這いずるように男はその場から逃げ去り、残されたのは大立ち回りを成し遂げたレンタロウと、
その場にうずくまって事の成り行きを見守っていたツクヨミと
気絶した男二名。その他大勢の野次馬。

ツクヨミはというと、ぼんやりとレンタロウを見上げ、どうして自分を助けてくれたのかわからないでキョトンとしている。
ただ、こんなに強い人に狙われたら、自分の命は無いのだろうなと思って、
じっと逃げることも出来ずにいた。

レンタロウ > 着地を狙われるということもなく、両脚を地面へとつければまだやるのかと足を砕いた男を睨み付ける。
これ以上は流石に加減が難しいかと思っていれば、悲鳴をあげて気絶した二人を置いてさっさと逃げてしまった。

「…逃げるのならば、仲間の二人も連れていってほしいものなのだがな。
 ほら、喧嘩は終わった。面倒事に巻き込まれたくなければ、さっさと行くのが賢明だぞ?」

激しく動いたおかげで乱れた服装を正す。
殴られた際に口の中を切ったようで、地味な痛みを撃感じながらうずくまっている女子生徒へと顔を向ける。

「其処の貴殿。怪我は無いか?立てそうか?」

うずくまっている女子生徒の前に行くと、そこへしゃがみ込む。
なぜかきょとんとしているようにも見える女子生徒が、怪我などしていないか確認しようと言葉をかけた。

ツクヨミ > 喧嘩は終わったとばかりに、周囲の野次馬が徐々に散り、
店に引っ込んでいた学生たちも表通りへ恐る恐る出てくる。

自分に話しかけていると数秒経ってわかったツクヨミは、ぱちぱちと瞬きを繰り返し
こっくりと怪我がないことを頷いて相手に知らせる。
もたもたとその場から立ち上がり、泥の汚れたスカートを払ってじっとレンタロウを見つめた。
口の端を切っているらしく、殴られた頬が痛そうだった。

「……大丈夫?」

まるで自分が心配されていることなどわかっていないような口ぶりで
逆に自分を助けてくれた相手を心配している。
そっと傷に触れようと、細い指先を伸ばした。

レンタロウ > 自分の質問に数秒立ってから頷く女子生徒に怪我が無いことを理解する。
ぱちぱちと瞬きするので、もしかしたら気付かれていないのかと首を傾げかけたが杞憂だったようだ。
怪我が無くて何よりだと笑い。

「うむ!ならば良いのだ!
 何はともあれ、災難だったな。
 此処は治安が良くないから………ぃッ!!」

女子生徒が立ち上がれば、自分も立ち上がる。
女子生徒が一人でいることも然程珍しいことではなけれどと思案していると、
殴られたことを心配してくれているのだろう女子生徒の細い指先が頬に触れた。
その瞬間、強い痛みが走り顔が強張る。

「…大丈夫だとも!」

少し引き攣った笑みの浮かべたままで、問題無いと答えた。

ツクヨミ > 触れれば引きつる、相手の笑み。やはり痛いのだろう。
それはわかるが、自分はどうしてやることも出来ない。
そっと指を離して、どうするべきかまたしばし考える。
その妙に長い思考時間がレンタロウにはじれったく感じられるだろうか?

「……来て」

突然レンタロウの袖口を掴むと軽く引っ張り、近くの露店―――
どうやら薬屋らしく、怪しげな漢方などが瓶に詰められて並べられている―――へと、
彼を連れてくる。
店の主に、「傷につける、薬……」と、それだけ呟いて
自分の夕飯代として渡された金と引き換えに差し出された軟膏を受け取った。

「これ、あげる……」

軟膏の蓋を開けると、やはり嗅いだことのない薬品臭さが漂ってくる。
そのまま、レンタロウの頬へ再度軟膏を塗ろうと指先が薬をつけて触れた。

レンタロウ > 殴られた直後は興奮状態だったおかげか、然程痛みも感じなかった。
しかし、冷静になってみると異能で強化された拳を受けたのだから、軽くはない。
後になれば、青い痣ができてしまっていることだろう。

「まぁ、仕方の無いことだ。貴殿が気に病むことではない。
 時間が立てば痛みも引くだろうからな。」

頬から指が離れると、小さく細く痛みを逃がすように息を吐く。
そして、何か考えているようにも見える女子生徒へと言葉を返していると、
不意に袖口を掴まれて引っ張られる。

「お、おい、どうした?まさか先程の輩が戻ってきたか?」

引っ張られるままについていくと、近くの露店に連れられてきた。
女子生徒が店主とやり取りをしているのを後ろで眺めていると、何かを買ってきたらしい女子生徒が戻ってきた。
その手には嗅いだことの無い匂いを漂わず軟膏が握られている。

「………あ、あぁ…すまない、ありがとう。
 しかし、良いのか?安くはなかったのではないか?」

本当に効くのだろうか、と思わず片眉を上げてしまいながらも女子生徒に軟膏を頬へと塗ってもらう。
即効性があるようで、先程までの強い痛みが楽になるのを感じながらも、つい金について聞いて。

ツクヨミ > 金について聞かれると、またキョトンとして首を傾げた。
貨幣価値がきちんとわかっていないような、そんな雰囲気だ。
不器用な手付きながら、あまりしみないようにツクヨミなりの気遣いで薬を頬へと塗りつける。
きっと分量もわかっていないようだから、しばらくすれば
レンタロウの頬は軟膏でベトベトになるかもしれないが。

塗り終えたとわかると、また軟膏の蓋を閉めてそのままレンタロウへ差し出した。
帰ってからも、塗れ。ということなのかもしれない。
無表情に近い、意思の薄い瞳がまたじっとレンタロウを見つめていたが

「……、帰る……」

また突然にくるっと踵を返して、のろのろと来た道を引き返し始めた。
途中、「あ」と声を上げてまたくるりとレンタロウへ振り向くと

「…………ありがと、」

じゃあね、と小さく呟いてバイバイと手を振った。
妙な人間もいるものだと、自分のことを棚上げしてツクヨミはその場を去っていった。

ご案内:「落第街大通り」からツクヨミさんが去りました。
レンタロウ > 「………いや、どれだけ金がかかったのかということを聞いているわけだが。
 あまり高価なものだと、此方も少し申し訳ないというかだな?」

首を傾げる女子生徒に、少し困惑した様子で言葉を口にする。
あまりに高価なだった場合、それを無償で受け取るのは気が引ける。
しかし、女子生徒からの手当てを断るのもそれはそれで、と考えている内に
殴られた頬は軟膏でべっとりとしていた。

「………あぁ、ありがとう。」

女子生徒の軟膏の塗り具合からして、結構な量が塗られたのだろうなと思いながら軟膏を受け取る。
使い方がまったく書かれていないのが不安だが、恐らく大丈夫だろうと思う事にして。

「む?そうか、気を付けて帰るのだぞ。
 ………うむ!どういたしましてだな!ハッハッハ!」

帰るという女子生徒の後ろ姿を見送りながら、とりあえず姿が見えなくなるまでを思っていると、
此方へと振り向いてからのお礼の言葉に、また笑みを浮かべて此方も手を振った。
そうして、女子生徒の姿が見えなくなるまで見送って。

レンタロウ > そして、恐る恐る触れる自分の頬。
指先に感じる、少し粘り気のある層の感触。

「………拭ったりしたら、多分駄目なのだろうな。」

このまま戻るか、と軟膏を片手に歩いていくのだった。

ご案内:「落第街大通り」からレンタロウさんが去りました。