2020/06/20 のログ
■ヨキ > 小首を傾ぎ、頭を撫でる手に応える。
ひととき目を閉じると、それはまさに大型犬のような顔だった。
その犬が。
「は」
笑った。
「なあに、ヨキは委員会からは距離を置くのがセオリーでな。
風紀からも公安からも遠いところで、『現場』を巡るのがこのヨキだ。
云わば、第三勢力とでもいう奴さ」
あかねの瞳に見据えられるのは、ヨキの紺碧。
さながら星空のように金砂の煌めきがちらつく。
「そうだな……ヨキも全貌を把握している訳ではないが。
迷いのない者と、迷いの多い者が極端なように見受けられるな。
警察を通り越して、まるで軍隊のように見えるときもある。
いずれは落第街が更地になるのではないかとすら思うね」
■日ノ岡 あかね > 「また、思ってもない事言って」
楽しそうに、あかねが笑う。
夜の黒に、星屑の煌めきが映り込み……夜が薄く細まる。
静かに、移り変わる月のように。
「更地になんて……意地でもさせないつもりの癖に。それこそセンセの目が黒いうちはね」
ヨキの活動を、あかねはほとんど知らない。
あかねが知っていることは……彼がただ、夜を往く猟犬であるという事だけだ。
それでも、『噂』くらいはいくらでも聞く。
この街にかつていたのなら……それこそ、いくらでも。
だからこそ、日ノ岡あかねは。
「ねぇ、センセ……もし、私がまた『何かしたら』……手伝ってくれる?」
教師であるはずのヨキに。
己に首輪をつけるはずの立場であるヨキに。
「『今度』は私を……助けてくれる?」
そう、静かに問うた。
■ヨキ > 「――そうだよ」
薄らと笑う。
大きな口は、猟犬のそれ。
「ヨキは落第街を守るよ。
この街が表へ魔の手を伸ばそうものなら、殺してでも止める。
表からこの街へ粛清の手が入ろうものなら、手足が飛んででも止める。
可笑しいね。
存在しないはずの街が、あんなにも表の人間を悩ませる。
存在しないはずの街から、どんどん悪党が出てゆく。
変わろうとするなら、もっと変わりようがあるはずなのに」
そうして、あかねの問いに。
持っていた煙草を、するりと地面へ取り落とす。
携帯灰皿へ入れる時間すら惜しむように。
空になった手で、あかねの頭を抱く。
「…………、その『何か』にもよるがね。
君がきちんとヨキの教え子であるうちは、ヨキは君を助けるよ。
君が“補習”で過ごした一年よりも――ヨキがくれてやる一年の方が、ずっと楽しい自信があった。
それが叶わなかったのは、ヨキの力不足だ」
■日ノ岡 あかね > 愛しの教師に頭を抱かれ。
大人しく、その懐に潜り込む。
男の香をたっぷりと楽しむように身を寄せて……あかねは笑う。
「――だから、私はヨキせんせの事大好きよ」
存在しない筈の街。それでも存在している街。
強大な委員会が『黙認』する街。
生徒会が『見て見ぬ振り』をする街。
街に生きるのは人。
街をつくるのは人。
――即ち、真に誰もが『目を逸らしている』のは?
「安心して……私はアナタの大事な教え子。だから、私を――」
■日ノ岡 あかね >
「――信じてね?」
■日ノ岡 あかね > するりと、あかねが身を離し。
「またね、センセ」
薄笑みを浮かべて、夜の街へと消えていく。
深い深い路地の向こう。
月明りも届かない、闇の奥底。
まるで野良猫が棲み家に帰るかのように……日ノ岡あかねは、姿を消した。
ご案内:「落第街大通り」から日ノ岡 あかねさんが去りました。
■ヨキ > 「信じているともさ」
あかねの頭を、ぽんと叩く。
限りなく優しく、寝物語めかして。
「――信じるほかにないんだ、ヨキはな」
その信頼が貫かれようとも。
裏切られようとも。
守られようとも。
欺かれようとも。
いかなる委員会からも遠い“第三勢力”には、後ろ盾などなく。
だからこそ身軽で、だからこそ自由で。
傷付いたとて、失うものはない。
だからヨキは、愚直なまでにそんなことが言えるのだ。
「ではね、日ノ岡君。……ヨキの大事な君よ。
どうか安らかに眠れるように」
おやすみ、と。軽い足取りで去ってゆく背中を――見送る。
■ヨキ > そうしてヨキもまた。
落第街の奥へ。奥の奥、そのまた奥へ。
裏通りを抜けて、最奥のスラムまで。
惑わぬ足取りが、街を突き進んでゆく。
何故ならば。
ヨキは常世島のどこにでも在る。
教え子は、島の何処にだって居るからだ。
ご案内:「落第街大通り」からヨキさんが去りました。
ご案内:「落第街大通り」に黒龍さんが現れました。
■黒龍 > (この世界に飛ばされて、一つ確実に気に入ったものがあるとすれば――それは煙草である。
昼下がりは既に過ぎ、夕刻にはまだ少々早い宙ぶらりんな時間帯。
落第街の大通りを一人歩きながら、堂々と咥え煙草にて暇潰しに周囲を冷やかして見て回る。
既に火の点いた煙草から紫煙をゆらゆらと燻らせながら、さて…何か興味を惹かれるものでもあるだろうか、と)
「――つっても、1,2年も暮らしてりゃある程度目ぼしい場所は抑えちまうしな」
(移り変わりが激しい混沌とした街なれど、変わらぬものもまた多く存在する。
左腕の義手の調子を確かめるよう、時々軽く動かしながら顔馴染みと遭遇すれば、ぶっきらぼうな挨拶を擦れ違いざまに交わし歩みを続ける)
ご案内:「落第街大通り」に黒龍さんが現れました。
■黒龍 > 「……チッ」
舌打ち。2本目の煙草を吸おうと懐から黒いパッケージの煙草を取り出したが。
中身が残り3本…買うのをすっかり忘れていた。面倒だな、と思うが仕方ない。
落第街でも煙草を扱ってる店はちらほらとある…が、自身が利用するその店はここからだとやや距離がある。
「――面倒くせーな」
魔術を封じているので、空中飛行や転移も出来ない現状。
別に徒歩でも凄い時間が掛かる、という訳でもないのだが気分的な問題だ。
結局、2本目の煙草を吸うのは我慢して懐に煙草を戻して、またブラブラと目的も無く大通りを歩く。
■黒龍 > (結局、この時は特に何事も無くぶらぶらと散策するに留まったのだろう)
ご案内:「落第街大通り」から黒龍さんが去りました。
ご案内:「落第街大通り」にフィスティアさんが現れました。
■フィスティア > 「落第街の見回りならケーキは食べたくなりませんからね。
ちょっと怖いですが、風紀委員会ですから」
...本当は落第街、とても怖いです。
でも、私ならそんな死んでしまったりはしないでしょうし、あくまで見回りです。そんな怖い人や怪異に遭遇することだって稀でしょう...きっとそうです。
そこまで強いわけでもないのだが、鎮圧能力がそれなりにあり、現場の破壊も少ない。何より誰一人として殺さないこの少女は風紀の穏健派にとっては担ぎ上げるに持ってこいの人材である。
であれば、彼女に何かしら実積を上げさせたい。なんて思いで見回りに駆り出している。流石に違法部活の鎮圧はこの少女には荷が重すぎる。
少女は、いつでも抜剣できるようにしつつ、辺りを落ち着きなく警戒しながら、端的にいうとビビりながら落第街を奥へ奥へと進んでいくだろう。
ご案内:「落第街大通り」にキッドさんが現れました。
■キッド > 大通りを歩く少女の背後からゆったりと忍び寄る影一つ。
男は目深にキャップをかぶりながら、紫煙の立ち上る煙草を咥えて歩いていた。
匂いのしない妙な煙草だが、煙を撒く以上はそれなりに周囲は煙たい。
男は口元を緩ませ、ゆっくり、ゆっくりと、なるべく足音を立てずに少女へと近づき──……。
「────背中ががら空きだぜ?お嬢さん。」
背後から声をかける。
接近を許してしまったのなら、耳元にふぅ、と息を吹きかけられるだろう。
緊張している所に仕掛ける、タチの悪いドッキリだ!
■フィスティア > 「ひぅ?!
な、ななな何するんですか?!びっくりしたじゃないですか!」
本当の本当に、すごくびっくりしました。いきなり耳に息吹きかけられてびっくりしない女性なんていません。ほんっっとうにびっくりしました。
しっかり叱ってあげないといけません。
殺意などない少年にはどうにも気付けなかったようだ。
耳に息を吹きかけられ、その場で特上の驚きを表情に出した少女は背をのけぞらせ、その場に崩れ落ちそうになるも、なんとか耐えたようで。
驚いたおかげで上手く喋れず何度か舌を噛みそうになっているがなんとか落ち着こうとしており。
「と、突然後ろから人の耳に息を吹きかけてはいけません...
というよりか...あなたは生徒ですか?こんなところ歩いてたら危ないですよ...」
耳元に息を吹きかけられたことよりも、そうです。もしかすると落第街の住民かもしれませんが...生徒がこんなところを歩いていては危険です。しかもこんな夜に...
生徒以外でも危険ですけど。
なんとか呼吸を整えて少年を叱ろうとするが、あまり迫力はない。
■キッド > 「ハハハハハッ!コイツは失礼。随分と可愛らしい背中が見えたもんでね。ちょいと、からかいたくなってみたのさ。」
満足そうに大笑いをしながら、パン、パン、と軽く手を叩いた。
中々にオーバーリアクションだ。
許してくれ、と付け加えるも全く悪びれた様子はない。
崩れ落ちはしなかったが、必死に耐えるさまを見てるとまた笑いがこみあげてくる。
くつくつと喉を鳴らしながら、男は笑いをこらえていた。
中々良い性格をしているのが見て取れるだろう。
「まぁな。常世学園一年の下っ端も下っ端……使いっぱしりさ。」
「なぁに、ちょいとした野暮用でね。何でも、右も左もわからなそうな子猫ちゃんの面倒を見ろってね。」
少年がジャケットの裏から取り出したのは、警察手帳の様なもの。
手帳が開けば、さながら刑事のように少年の名と所属、学年が記されていた。
「風紀委員刑事課、人呼んで"ろくでなし"のキッド。宜しく、白衣の天使様?」
■フィスティア > 「可愛いって...そんなこと言っても何も出ませんよ」
私を驚かせたのがそんなに楽しかったのでしょうか...全く酷い話です。
...そんなに手を叩いて喜ばなくたっていいじゃないですか。
酷い話です。頬を膨らませて抵抗します。拗ねているわけではありません。
拗ねてます。
「え...あ、す、すみません。まさか風紀委員会の仲間だったなんて...」
なんてことでしょう。まさか同じ風紀委員会の仲間であることに気づかないだなんて...!頭を下げて謝りますが、失礼なことをしてしまいました。
...私が仔猫扱いされていることは少し不服ですが、耳に息を吹きかけられて気づかなかった分、言い返せません。ぐう
腰を45度おって慌てて謝罪する。なんとも申し訳なさそうに謝っており。
「...天使だなんてそんな...言い過ぎですよ」
照れます。私なんて可愛げのない元軍人にすぎません。
■キッド > 「確かに何も出てないな。出る所も出ていないようだ。」
少年はキャップの裏で、その白い全身を一瞥した。
少女の少女らしい体と掛けた下品なジョークだ。
煙草を指先で挟み、少女にかからないように静かに煙を吐き出した。
夜空に向けて、白い煙が立ち上る。
「ふ、別に気にしちゃいないさ。見ての通り、俺は俺で勝手にやってるんでね。それに、風紀委員なんてゴマンといるんだ。ジョン・ドゥが頭の中に何人いても不思議じゃないだろ?」
それこそ、自分だって全ての風紀委員を覚えている訳じゃない。
彼女だって、飽く迄上からの言われて見た目の特徴を覚えていただけで、名前までは覚えてはいない。
そもそも、少年はかなり自由に活動している。
風紀を取り締まる側にしても、些か無法者に近い男だ。
彼女以上に、その記憶はジョン・ドゥ(名無しの権兵衛)が無数に存在している。
「…………フッ。」
鼻で笑った。
「皮肉だよ、お嬢さん。アンタみたいな天使がいたら、此処じゃ信徒も助けに来ない。地獄の底で身包み剥がされるのが関の山さ。」
悪びれもせずに真意を言い放てば、タバコを咥える。
「……それで、今日は何処まで回るんだい?俺ァ、退屈は苦手だが……アンタみたいな美女とデートついでってなら悪くないな。ハハッ。」
■フィスティア > 「?そうですね何も出ません」
出るとことも出ない...どういうことでしょうか。
...よくわかりませんがとりあえず出すつもりもありませんし出ていないということにしておきます。
この少女は本当に理解していない。凹凸のない体付きだと言われていることに気付いていない。
よくわからないと言った表情をしているが気にしている様子ではなさそうだ。
「確かにそうですけど...仲間の顔ぐらい覚えておきたいじゃないですか」
ジョン・ドゥについてはよくわかりませんが...名前を知らない相手とかそう言った意味でしょうか?
数が多いから仲間の顔を覚えなくていい、というのは違います。
ちゃんと覚えないといけません。ですが、この少年はそうは思ってはいないようです。残念です...
「そんなこと言わないでくださいよ...そもそも落第街だって怖いんですから」
身包み剥がされるなんて、怖いこと言わないで欲しいです。
それに
「それに私だってそうなったら抵抗ぐらいします。防御には自信があります」
防御しかありませんが。
「一回りして帰ろうと思っていますが...それより、あなた葉巻吸っていいような年齢なんですか?そうは見えませんが...」
美女だなんてそんな...
なんて内心照れていたり。
ご案内:「落第街大通り」にハルシャッハさんが現れました。
■キッド > 「ヘッ……。」
両手を軽く上げて、肩を竦めた。
所謂"お手上げ"のポーズ。
如何にも皮肉が通じない所か、冗談一つ分からないようだ。
他意は名を表すというが、純一無雑、その真白の姿とお似合いだ。
「真面目だねぇ、アンタ。そんなもん覚えておいて、得になるとは思えないがね。」
おまけに大分、と言うよりかなりの真面目と来たもんだ。
何処となく気品溢れる立ち振る舞いは、"お嬢様"っぽさを感じさせる。
……何も知らない、ボンボンのお嬢様、か。
少年は胸中で舌打ちをした。
如何やら、貧乏くじをつかまされたようだ。
「やれやれ……落第街如きで怖がってどうすんだ?怖いって言うなら、学園周囲以外は何処も同じさ。此処が悪目立ちしすぎてるだけさ。……ま、所感だがね。」
スラムと言う吹き溜まりと言うのは間違いではない。
だが、全体で見れば此の島は歪だ。
一見、この落第街ばかり目立つが、何処に何が潜んでるかわかったものじゃない。
特に異邦人街方面は、治外法権と言ってもいい。
全て、自分の目線での話ではあるが、強ち間違いではないと少年は思っていた。
「そうかい。抵抗するのは良いが、そう言う連中に絡まれないのが一番だがねぇ、天使様。」
よくもまぁ、こんな状態で落第街の見回りなんてこようとしたものだ。
やれやれ、と呆れたように少年は首を振った。
そして、ニヤリと口元を歪める。
「アメリカじゃぁ16歳から吸えるのさ。」
すげぇ適当言ったぞ!
「それじゃ、天使様。此処はろくでなしがエスコートしようか。お手を拝借した方がよろしいかな?」
くつくつと笑いながら、からかっている。
■ハルシャッハ >
――落第街。様々な客分の居る中で、平均より下の者達が住まう街。
その中には、真面目ながらに暮らすのが下手くそであったり、
何かしらのクズさを抱えて生きている生き物も沢山いる。
――男自身のように。
男は異邦人街の住まいだが、
その中でも自身の中にあるクズさは理解していた。
故に、盗賊という職に落ち着かざるを得なかったのだと思えるが。
その中で、警察や警邏に近い職の者が要ると聞いている。
そんな連中にぶつかれば、自分などは何かと言われそうなものだ。
しかし、こんなクズな男でも外道ではない。
男女のキャッキャウフフを見ていて、ふと不安にどこか駆られたのだ。
どこか遠巻きに、ゆっくりと距離を詰める。
その動きは軽く不審なものでは有るが、悪意を持つ敵の動きではない。
盗賊の中でも比較的軽業と荒事を正面からやる職の癖と言えた。
ご案内:「落第街大通り」にフィスティアさんが現れました。
■フィスティア > なんでしょうか。少年がおてあげ...でしょうか?よくわかりませんが...
「私は得とか得じゃないと思いますが...あなたはそうは思っていないみたいですね
。
そういえば、知っているかもしれませんが、私は風紀委員会のフィスティアと言いますよろしくお願いします」
名乗り忘れていました。
名前を覚えないことを別に悪いとは言いません。そこはどうにも意見が分かれるようです。
でも、私はちゃんと仲間の顔は覚えておくべきだと思います。
だって、ちゃんと覚えておかないと名前で呼んだりできないですから。
...それに、死んでしまった時誰かわからないのは嫌ですから。
過去、軍人として過ごしてきた少女にとって、死んだ仲間の名前がわからないなんてことは、到底許せない、自分を責めることの一つであったのだ。
「確かにそうですが...それでも怖いものは怖いです。落第街やスラムには犯罪者や怪異だっているんですよ。」
「そうですよ。だから最初は本当に驚きました。」
ただ耳に息を吹きかけられただけでしたが...耳が気になってしまいます。
それにしても、この少年私を怖がらせて楽しいのでしょうか?酷い人です。
「そうなんですか?知りませんでした」
適当を素直に信じました。はい。
「大丈夫ですよ。エスコートなんてしてもらわなくても」
本当にからかうのがお好きなようです。困った人です。
と、心中苦笑いしている。
…殺意もないようであれば、こちらへと近づいてくる男には気付いていないようだ。先ほど少年の接近に気づかなかったのと同じように。
■キッド > 「善意だけで動く人間なんてものは気持ち悪いからな。だが、アンタはその気持ち悪い方に部類するらしいな。流石は天使様、お手上げだよ。」
何とも天使と言うのは強ち間違いではないらしい。
施しの天使か、或いは善意の女神か。
何にせよ、こんな吹き溜まりには似つかわしくない少女だ。
おめでとう、なんて皮肉たっぷりに拍手をしながら、くつくつと喉を鳴らして笑っている。
「どうも。……ま、怪異だろうと何だろうと、鉛が当たれば人間と変わりないさ。守ってやるよ、フィスティア。元々そう言う仕事だからな。」
ひとしきり拍手をし終えると、キッドの右手がゆっくりと自身の腰へと下ろされる。
そう、キッドは"酷い人"だ。
少女の純朴さも疎ましく思う位に捻くれている。
どちらかと言えば、この吹き溜まりの様な空気がお似合いだ。
自分にもその自覚はあった。だからこそ、"周囲"には敏感だった。
「──────で、お前さんは何用だい?用があるのは俺か、或いはそっちの天使様か?」
振り返ることなく問いかける。
勿論、フィスティアへの問いかけではない。
自分達へと近づくハルシャッハへの問いかけだ。
キッドの右手は腰のホルスターに添えられており
目立つ程大きな銀の拳銃に添えられている。
銃器、早撃ちの扱いには自信があった。
ハルシャッハが妙な動きをすれば、何時でも抜ける。
微塵の油断も無い警戒だ。風紀を取り締まる者として
アウトローとしての機敏。
キャップの奥深くで、碧眼は鷹のように鋭くなっていた────。
■ハルシャッハ >
ゆっくりと歩み、そして距離を適切に詰める男の歩みは正確だ。
時々男の輪郭がブレるのは、盗賊独特のフラフラとした動きのためであるが。
近づきながら男は思う。
二人の心情――いや、雑な言い方をすればキャッキャウフフを遠くから見て、
男は声がかけづらかったところも正直あった。
いくらクズと言えどもその雰囲気をぶち壊しにするほど空気の読めない男ではない。
そして、両方とも獲物を持っている様子を見れば、
そう無防備というわけでもない。 本来ならば何も言うことはない。
しかし、それでも不安はあったのだ。あまりにもふわふわとしすぎていて。
だから、近くに寄ることで力を添えることになれば、程度だった。
そんな中、言葉が投げられれば男はただ、ゆっくりと対話の距離へと近づきつつ、
両手をそっと上へと上げて。 距離感を言えば、武器種的には男も負けない。
「――両方だ。 いや、不安になったもんでな。空気感的に。
――緊張感が抜けていやがる。まるでバンピーだ。
俺みたいな盗賊の下っ端でもわかるくらいには柔らかすぎらぁ。」
包み隠すということも下手くそだった男は、
腰の武装に目線だけ投げて、静止する。 回避の腕は下っ端でも一線級だ。
『5人相手に組み手して、攻撃を抑えて逃げる』ことが見習い卒業試験だった。
その程度には腕は有る。
■フィスティア > 「...覚えておいた方がいい時だってあるんですよ」
やっぱり、この少年は私の考えを理解してくれないのでしょう。
それにあなたはやっぱり酷い人です。そんなこと言わなくたっていいじゃないですか。
悲しくなります。
あなたは私のことを天使を言いますが、私からあなたは悪魔のように見えます。
天使を唆し堕天させる悪魔に。
ですがー
そうやって言いながらも、任務とはいえ私を守ると言うあなたを悪魔とは言えません.........悪魔との契約は絶対と言いますしやっぱり悪魔かもしれません。
悲しい表情をしながら、自信なさげな声で反論するが、その声は勢いも当然持たない。なんなら目の前の少年に届いていないかもしれない。
しかし、自分はしっかりと持っているようだ。
ただ、それを少年にうまく伝えたり説得する術を持たない...感情論とはそう言うものだ。
「待ってください!」
そんなすぐに構えてはいけません。
当たって殺してしまったらどうするんですか。
まずは聞くべきです。彼が誰なのか。
ここまでで一番勢いのあるはっきりした勢いで、いつでもその銃を抜けるようにしている少年を静止する。
一応自分も警戒しているが、攻撃したりする気はないようで。
「あなたは誰ですか?生徒...でしたら保護しますし、帰るところがないようでしたら私たちが保護します。それとも...敵意があるんですか?」
そう、静かに問いかけるであろう。
■キッド > 「両方、ねぇ……。」
此の落第街の住民であることは間違いなさそうだ。
口から白い煙を吐きながら、キッドは軽く肩を竦めた。
当然自身の腕には自信があった。
仮にこの男が、ハルシャッハが危害を加えようとしても
フィスティアを守り抜き生還する自信は。
勿論、無傷とまではいかない。
全てが測れるわけではないが、相当な身のこなしだ。
簡単に銃弾を当てれる相手では無い事は、ひしひしと肌で伝わる。
油断も無いからこそ、軽い口とは違って、相手を軽視したりはしなかった。
「……隼を撃ち落とすよりは、苦労しそうだな。」
ハルシャッハに対する賞賛だ。
フィスティアの張り上げた声に、思わず口元がへの字に曲がった。
「"待った"してる間に、大人しく食い殺されろってのかい?俺達は、野良犬の餌になりに来たわけじゃないんだぜ?」
だが、フィスティアの言う事も一理ある。
敵かどうかの真意はわからない。不意打ちくらいは出来ただろうに。
だからこそ、構えこそ解かないが、自ら仕掛ける事はしない。
その手の質問は、彼女に任せる事にしよう。
■ハルシャッハ >
片割れの女の狼狽えと、優しい言葉に『悪人でない』ことは容易に知れていた。
悪意がある人間でも同じ口調で話はするが、動作がもっと別だ。
そんな中で、己の出自を問う言葉が一言投げられる。返答は、シンプルだった。
「――俺か? 『案内人』さ。 宵影の。」
――『食い破る』ならばとっくに仕掛けている。
非探知、かつ初撃で最大の攻撃を加えるのが戦闘においては至上だ。
こうして、声をかける時点で戦意はないに等しい。
相手も相手で相当の使い手であろう。無論気は抜かない。
しかし、男からすれば、いささか間の抜けたやり取りにさえも見えていた。
「――撃つことしか脳にねぇのか? 馬鹿野郎。
盗賊の信条は『隠密の必殺』だ。仕掛けるんだったら声すら掛けやしねぇよ。」
あのさぁ、と言わんばかりの砕けた顔で、ため息交じりの声が飛ぶ。
識別証があるかどうかは知ったことではない。
しかし、腕のワッペン等がないかは軽く目を向けた。
所属はわかるだろうか? そうであればまた話が変わるだろう。
「野良犬と一緒にすんな。
俺みたいなクズでも、そこらへんの犬よりは分別あんだぜ。」
どこか呆れ顔だ。仕掛けない時点で察しろと言わんばかりに。
互いに仕掛ける前のセオリーなどとうに過ぎている。
裏通りには裏通りのルールが有るのだ。 それを案内しに来たに過ぎない。
■フィスティア > 「だからって言ってそんないきなり露骨に警戒するものじゃないと思います...私だってただ食べられるつもりはありません」
こうやって相手に問いかけることが自分達にとって危険なことであることは私もわかっています。
だからちゃんと警戒しているんです。
それに、あなたは私を守ると言いましたが守るのは私です。あなたは私が守るだけではどうにもならなかった時のための剣です。
武器は銃ですけど。
「案内人...ですか?敵意はないみたいですね。何か私たちに御用でしょうか?」
元々殺意を感じなかったのでそう言うつもりではない気はしていました。
それでも一応...正直に敵意があるなんて言ってくれる人はそうそういないので意味があるかどうかは微妙ですが。
それと...敵意は無くても案内人という言葉と、先ほどの緊張感が抜けているという言葉が気になります。
仕留める気はないかもしれないが、攻撃される可能性はあるかもしれません。
少しホッとした表情で、しかし警戒は緩めず。
案内人、と言った言い回しなどを妙に気にしているようで、一応いつでも抜剣に持っていけるようにはしている。守り重視であるために、手を添えたりまではしないようだが。
「彼は私を守ろうとしてくれただけです。そんなに言わないでください」
彼は、そう悪魔です。
私を守ると言う契約を果たそうとする悪魔。
ですので、悪いのは私です。その契約を結ばせてしまっている私です。
それなのに彼を責めないであげてください。
なんて、少し情けない表情で男にお願いして。
■キッド > 「へぇ。」
キッドの口角がニヤリと上がる。
フィスティアの言葉と共に、そっと右手をホルスターから取っ払い、口に咥えた煙草を手に取った。
ハルシャッハの方に向き直れば、白い煙を、夜空に向かって吐き出した。
「コイツは洒落た案内人だな。差し詰め、此の天使様は美人局かい?俺もヤキが回ったモンだねェ。」
遠回しにフィスティアのせいで変なのが出て来たぞと言っている。
何とも酷い事を言う男だ。
「フ、銃よりも強い武器はこの世に存在しねぇのさ。……が、"コソ泥"のやり方は確かに教わらなかったな。悪いな、今度勉強しとくよ。参考書は、ホームセンターで良かったかな?」
売り言葉に買い言葉とはよくぞ言ったものだ。
"ろくでなし"の減らず口は減らない。
暗喩に『お前程度コソ泥と変わらない』と言っているようだ。
鼻で軽く笑い飛ばせば、煙草を自身の足元にポイッとその辺に投げ捨てた。
風紀委員のくせに、マナーもなっていない。
「そうかい。ろくでなしって意味じゃ、アンタも俺も変わらないと思うがね?まぁいい。」
懐から新しい煙草を取り出せば咥えて、ジッポライターで火をつけた。
臭いのしない、白い煙が再び立ち上り始める。
「……とまぁ、色々天使様はご立腹みたいだが、良かったじゃないか。心強い影の案内人様だ。お礼にドッグフードでも買ってやったら如何だい?」
フィスティアにそう言われようが何処吹く風。
こんな場所で、警戒するなと言うのが無理な話だ。
本当に甘く、能天気だ。
だからこそ、"白"でいられるのだろうが。
「なぁに、天使様。言い合いじゃぁ"おあいこ"さ。案内人君を許してやってくれ。」
なんて言っているが、どう考えてもキッドの口の方が減っていない。
黙ると死ぬタイプかもしれない……。
■ハルシャッハ >
用が有るか、と問われればNoだ。
しかし、少し影を歩くためのノウハウくらいは案内してやれる。
そんな、どこかしらクズの領分ながらも柔らかい、日陰の男は警戒を解いた。
バックラーを握った手をずっと上げるのも少し疲れる。
「――要件? いや、裏通りの掟の案内だけだ。
表通りに法があるなら、裏には裏の法が有るのさ。」
軽い口ぶりで返す男は、裏では入り口の案内人ともなる。
光があるなら影も有り、表の人間の靴となるのも影の努めだ。
――そして。今纏う白梟のローブは回避を支援するためのローグの装備品だ。
影に隠れるにはあまりに目立ちすぎるそれは、
どちらかと言えば正面戦闘を意識した装備なのだが、今回はそれは目的ではない。
裏の街において、この白は安全、敵意がないことの証明も意味する。
「間抜け。 美人局だったらもっとまともな仕掛けするっての……。」
バーカバーカと言わんばかりの口癖で男は呆れ顔だ。
売り言葉に買い言葉、まさにそのとおりだが実際は悪い相手ではなさそうである。
視線の先に風紀の紋章が見えた。 そのことで、男も察する。
「――お前ら、風紀……憲兵の類か……。
むしろ、早々と依頼くれたほうが技巧師として案内できたんだがな……。」
ぼそりと。 あまりに気が抜けすぎていて一般人かと思っていた。
そして、先程の馴れ合いも道理で腑に落ちる。
「――『やり方』なんざ載ってねぇよ。
仮にあっても、少なくともテメェみたいな軽い脳みそじゃ務まらんだろうけどな。」
ヤジにサラリと返していくのは返礼だ。
ため息しか出ない片割れに、あまり返すことさえ馬鹿臭いとばかりの返答だった。
少しは黙ることを知ったほうが良いぞと露骨に態度に出た感じである。