2020/07/08 のログ
ご案内:「落第街大通り」にヨキさんが現れました。
ヨキ > 歩き煙草の教師がひとり、通りを歩いている。

中間試験前の気晴らしに、足を伸ばした落第街。
夜を迎えて賑わう人込みを、慣れた顔で進んでゆく。

手には買い物帰りと思しき、くしゃくしゃの紙袋。
流行りのバンドの鼻歌が、雑多な騒音に紛れて消える。

ヨキ > 慣れた顔、といっても、緩くはなかった。

ここがどんな街かを知っている。
だから、愛すれども身を任せはしない。

湿っぽい夜風に、紫煙を吐き出す。

ご案内:「落第街大通り」に羽月 柊さんが現れました。
羽月 柊 >  
裏の街に眠りは無い。
夜毎溢れる喧騒も、暗がりに消えゆく矯声も、止むことは無い。

むしろ夜こそが我らの時間であるとばかりに開花する。


ヨキがヒトの群れを縫い歩く中、
一本外れた裏の道から、夜灯を反射する動物の小さな目。

カツリ、と雑踏の音に混ざるかのように、
黒のスーツを着た紫髪の男が2匹の白い小竜を連れ、現れた。
その男、柊はヨキに気付いているという訳もなく、
こちらもまた、ここの空気に慣れた様子でいた。

ヨキが彼を見つけたならば、
表の世界に居た時とは随分と印象が違って見えるかもしれない。

ヨキ > 不意に気付く。
視界の端に、人と異質な光を宿す獣の目。

それが過日にカフェテラスで言葉を交わした男であることは、間もなく察せられた。

「――ああ」

足を柊へ向け、そちらへ歩み寄る。

「こんばんは、ヨキだ。先日は世話になった。
君も斯様な場所を出歩くのだな」

人には公私があるもの。
ゆえに、柊の見せる雰囲気の差には然して気を払わない。

羽月 柊 >  
誰もが彼らを置いて歩いていく。
皆、生きる事に必死になって、片隅のやり取りなど目には入らない。

ここには夏の虫の聲も届かない。

男はカフェテラスで見せていた父の顔ではなく、
油断を見せぬ1人の男の表情であった。
声をかけて来たヨキに一瞬桃眼を見開き、すぐに平静を取り繕う。


「これは…こんばんは。
 ……少々用事があってな。
 
 …そちらは見回りか何か、か?」

仮にも教師が落第街の方にいる理由を探して、そう問うた。
こちらは裏の道から出てきたのを見られている。
故に、男は内心でどうしようかと考えあぐねていた。

ヨキ > 街の光を背にしたヨキの碧眼は、黒と紛うほど昏い色。
そこに金砂をちりばめたかのような光が、ちらちらと瞬いている。

柊と向かい合ったヨキの顔が、あのカフェテラスの時のように和らいだ。

「ああ。ヨキの教え子は、島じゅうに暮らしておるのでな。
こうして毎週、ひとりひとり訪ねて回っておる」

背後をゆく人々が、自分たちに興味を向けないことを確かめてから。

「安心せい、羽月よ。
ヨキもこれから、“奥”へ行こうと思っていたところだ。
顔見知りがどこで何をしようとも、動じるヨキではないよ」

落第街の奥、即ちスラム。存在しないとされる場所。
ヨキは教師でありながら、この落第街をゆくことを隠しもしなかった。

羽月 柊 >  
闇を背にする柊の瞳は雑踏の灯に照らされ、
色素の薄い桃眼は、ヨキの瞳に宿る星空の下咲く桜のようだった。

油断できぬ状態と僅かに構えていた柊とは裏腹に、

なんともはや、
柔和な笑みを浮かべて紡がれた言葉へ
こちらは無表情を崩さぬまま目を微かに伏せる。

「……教え子。この街に教え子、か。」

二級学生を筆頭に、不法入島者、
子供達の間に出来た故に捨てられた子供、
闇に潜む学園を良くは思わないモノ達の欠片。

そんな面々が頭を過る。

闇市場や裏競売に顔を出す柊にとって、
"雑音"として処理し無視する対象に、ヨキは関わっているというのだろうか。

「…どうやら貴方は余程に柔軟な思考のようだな。
 ここから奥へ行くのは、物好きだとは思うが。」

ヨキとは反対に柊は無意識に相手を名で呼ぶことを避けた。
安心しろと言われても、奥底で警戒が解けていないのである。

ヨキ > 柊の言葉に、ヨキは迷わず頷いた。

「そうだ」

教え子。その語が揺らぐことはない。

「いかなる出自とて、学ぼうとする者、生きようとする者、それらの意欲なき者らもみな等しくヨキの子だ。
この島に生きる子どもたち、全員がな」

それは柊の思考を真っ向から肯定する証。
誰しもが、誰しもが己の子どもなのだと。

「柔軟か。ふふ、よく言われるよ。
物好きと呼ばれることも承知の上だ」

他愛のない世間話のように、ふっと笑う。

「この島に生きるものみな教え子であるというヨキは、何か可笑しいことを言っておるかね。
それが教師であり、父としての役割なのでな」

羽月 柊 >  
「いいや、よくよく懐の広い人間だと感心するとも。」

最近出逢ったばかりの柊はヨキの元の姿を知らない。
相手を人間として扱い、人間として見ている。

「自分には真似できない…いいや、
 大半の大人は目を逸らすこんな場所のモノの所にも手を差し伸べられるものだと。」

だからこそ、自分やその他大勢のこの島で暮らす大人と比較してしまう。


裏への道を長いこと塞ぐのも諍いの元だ、と思いだし、
近くに居れば、柊の質の良い革靴の音が耳を揺らすまま、
崩れそうな違法建築の建物の角の小石を踏みつけて、大通りに出る。

緩くウェーブした長い紫髪と、右耳の金のピアスが揺れる。

ヨキ > 「お褒めの言葉を有難う」

通りへ出る柊の横顔を見る。

「確かに、誰も彼もを救おうとするには、ヨキひとりの手では足りぬ。
だからといって、ヨキがこの街の子らを放っておく理由にもならない」

空いた手を、ぱ、と広げてみせる。

「この奥に、いかなる店や施設があるかも承知しておる。
ヨキはそれらに金を落としもする。

教師らしくない、とはよく言われるがな。
ひとりくらいは、斯様な教師が在ってもよいだろう」

柊が連れている小竜を眺めながら。

「今日は、カラス君は一緒ではないのか」

羽月 柊 >  
一度大通りに出れば、
警戒も兼ねて近くを飛んでいた小竜たちも、柊の肩と頭の上に乗る。
乗ったとしても、身長の高いヨキに届くことはない。

そんな朗らかに笑う相手を見上げる。

近い顔は、柊が30代だと分かる程度に年齢を小さな皺に刻んでいる。

「あの子に戦う力は皆無だ。
 戦えぬ息子を連れてここを歩ける程、俺は強く無い。
 それに、あの子には闇を見せたくない。」

身長差が、そのまま許容の差のようにさえ見える。

「…確かに貴方は教師らしくない。
 少々失礼だが、大人の割り切りを感じられない。
 ……俺には、少々羨ましくもあるがな。

 裏にも堂々と入って行けるなら、それだけ色々、強いのだろうと。」