2020/07/09 のログ
■ヨキ > 「そうか、ここは彼には“見せたくない”場所か。
確かにそれは、真っ当な親の在り方やも知れんのう。
立場は違えど子を守る者として、よくよく頷ける話だ」
ヨキは否定をしない。
頷いて、いっそ楽しげに。
「割り切り。割り切りか。さてな、そのようなもの、ヨキには不要だ。
君が息子に見せたくないと話すように、ヨキは教え子たちに“見せる”ために活動している。
光を。闇を。楽しいことを。楽しくないことを。伝えられるだけ、すべてな」
吸い終えた煙草を、携帯灰皿へ押し入れる。
「ヨキがどれだけここの“子どもたち”に食い物にされたか、裏切られたか、傷付けられたか、話すまでもなかろう。
君の言う『大人の割り切り』があれば、そのような危機とも無縁と居られたやも知れんがな。
ヨキは傷付くことを厭いはせん。そうとしか話せぬ子どもたちが居る以上は」
■羽月 柊 >
「……本当に強いヒトだな。貴方は。」
"傷付くことを厭わない"
その言葉にやや仄暗い鈍った光を瞳に宿し、
柊は横目で今しがた通って来た裏への道を見やる。
吸い込まれそうな暗がりは、目を凝らしても、
柊の人間の眼では見通せはしない。
「そうして傷付いても、貴方はこうは思わなかったのだな。
『二度とごめんだ』とは。
……俺は割り切ってしまった。
二兎を追う者は一兎をも得られないなら、
最初から一つしか追わないようになってしまった。
見えているはずのことも、無視できるようになってしまった。」
男の語調は、表情は、その割り切りに心の奥底では、
納得はしていないようだった。
「息子は、あの子自身が抱える闇が大きすぎる。
ここにある他人の闇まで背負って歩くには、荷物が多すぎる。」
■ヨキ > 「思わないさ。
いかなる重圧にも、ヨキの心は決して折れはしない。
ヨキが折れれば、ヨキを支えとしている子どもらの手本となれぬから。
……取り零そうとも。それをなじられようとも。恨まれようとも。
正解がない以上、ヨキはそうする他にない」
少しの間、柊の顔をじっと見て。
「割り切ってしまった、か」
その短い言葉は、柊自身の納得のいかなさを汲み取っているかのようだった。
「そうか。
ではカラス君には――下手な心労を掛けぬよう、留意するとしよう。
この街に触れずとも教えられることは、たくさんあるからな」
路地の奥へ向けて、足を踏み出す。
擦れ違いざま、微笑み掛ける。
「……この街の営みに浅からず関わりながらに、息子へはおくびにも出さぬとは。
君は優しく、そして難儀なものよのう」
■羽月 柊 >
「ここに巣を作ってしまった、古い知り合いがいるんでな。」
不本意という訳でもなく、ここへ関わっていることに対してはそう言うだろう。
技術を秘する魔術師は、全てが綺麗ごとだけでは成り立たない。
「…正解も不正解も、正義も悪も人によって変わる。
昔の理数の答案用紙ぐらいのものだ、それが間違いないのはな。
それだって今は、理が崩れてアテにもならない。
……俺は貴方に悪感情を抱くつもりは今の所無い。
奥に行くことを引き留めるつもりもない。
息子にそう接してもらえると言ってくれるなら、尚更な。
貴方が対話してくれる限り、そうで在れるだろう。」
研究者故に言葉はどうしても多くなってしまいがちだ。
もっと端的に的確に相手に言葉を並べられたらどんなに良いかと、たまに思ってしまう。
それでも、柊は言葉を止めない。
いつしかヨキの教え子の1人にも話したように、
対話を止めれば悪いことが起きると思っているから。
奥を見つめる桃眼に相手が映る。
「――お気を付けて。」
そう最後にかけた声は淡々と、
柊もまた、雑踏に身を任せようとするだろう。
■ヨキ > 悪感情を抱くつもりはない、という言葉に、笑って頷く。
「それは有難う。
ヨキはいかなる者とも心を交わしたい。
言葉が通じるならば言葉で。
言葉が通じぬ者にも他の方法で。
ゆえに、この街をも見過ごしてはおけぬ。
また、それゆえに君との縁を無碍にすることも出来ぬのだ。
……ふふ。難儀な性格をしておるのは、このヨキも変わらんようだ」
ひらりと手を振って、別れを告げる。
「おやすみ、羽月。よい夜を。
カラス君にも、よろしく伝えてくれたまえ」
そうして、街の奥へ、奥へと。
ご案内:「落第街大通り」からヨキさんが去りました。
ご案内:「落第街大通り」から羽月 柊さんが去りました。