2020/07/25 のログ
ご案内:「人気のない廃屋」にトゥルーバイツ構成員さんが現れました。
トゥルーバイツ構成員 > 新島省吾が異能に覚醒したのは、9歳の時だった。
丁度それを二倍にした18歳が今で、省吾は根っからの違反部活生だった。

省吾は、家族に殺されかけた。

普通の話だった。
掃いて捨てるほどある話だった。
だから、省吾も日ごろそれを語る事は特になかった。
つまらない不幸自慢でしかないし、聞かされる方も困るだろうと思っていた。
実際、だいたい喋ったところで知ったような口を利かれるだけだった。

だから、省吾はいつからか、笑う以外の表情を忘れていた。

他は、必要なかった。
へらへら笑っていれば、みんな幸せ。
省吾も幸せ。
少なくとも、そう思い込むことくらいは出来た。

トゥルーバイツ構成員 > 「だっはははははは!! だっせぇええ~~みんな死んでやんのぉ~~!!」

甲高い声で笑いながら、真っ赤な液体が入ったボトルを煽る。
中身は酒や清涼飲料水ではない。
生血だった。
人間の。
それも、処女の。

それしか、新島省吾は口にすることを許されていない。

新島省吾は……吸血鬼だった。
正確には、それになってしまう異能だった。

トゥルーバイツ構成員 > 省吾は、最初それになったときは喜んでいた。
だが、喜んだのは最初の一日だけだった。
あんなに大好きだったオムライスが食べられなかった。
気持ち悪い味と匂いしかしなくて吐き出した。
昼間に起きていられなくなった。
日の光は省吾の身体には須らく毒で、蛍光灯の光すら危険だった。

衰弱し続ける省吾を楽にしようとした両親の選択は、ある意味で無理からぬものだった。

トゥルーバイツ構成員 > あとはもうお決まりのコースだ。
異能によるものとわかって、省吾は定期的に生血を与えられる事になった。
輸血パックだけが省吾の食事となり、常世島に『隔離』をされた。
家族は全員、省吾の事は綺麗さっぱり忘れている。
忘れさせられた。
放っておけば、自殺しかねなかった。
故に……仕方ない選択だった。

今も省吾の家族は生きている。
省吾の事は綺麗さっぱり忘れて、省吾の弟を『一人息子』として可愛がっている。
そう聞いている。
詳しいことは知らないし、省吾も興味はなかった。
興味はないと言い切る事しかできなかった。

トゥルーバイツ構成員 > 「つっまんね」

地面に足を投げ出して、省吾は呟いた。
省吾は『デバイス』の起動はまだしていなかった。
ギリギリまで『楽しむ』つもりだからだ。
日ノ岡あかねは気に入らない女だが、『楽しもう』という言葉だけは省吾も多いに頷けた。

楽しいことは良いこと。
楽しくないことは悪いこと。

それだけ考えていれば、楽だった。
 
「やっぱ血は生に限るわぁ~~!!」

違反部活生になった理由など単純だ。
やはり、血は新鮮なものに限る。
適当にナンパした女から吸うに限る。
襲うのは非効率的だ、後が面倒くさい。
そも、そこまでやってたらとっくに風紀か公安に殺されている。
省吾は慎ましやかだった。
他に選択肢もなかった。

そも、『表』で貰える処女の生血の量では足りないのだ。
育ち盛りなんだから仕方ない。

トゥルーバイツ構成員 > まぁ、しかし、その意図はわかっていた。
省吾の異能は血を吸えば吸うほどに強くなった。
吸血鬼としての様々な特性を顕現させ、昨今は夜なら何をされたって塵になるだけで済んだ。

次の夜には蘇る。

その蘇った時の省吾が省吾なのか、よく似たスワンプマンのような何かなのかはわからない。
どうでもよかった。
確かめる術もない。

何にせよ、今や省吾は……強力な力を持った異能者に違いはなかった。
落第街でもまぁ、異能の力だけでいうなら……『持てる者』といって差し支えない実力だろう。
……だからこそ、委員会は緩やかに省吾を『殺そう』としたのだろう。
衰弱させ、弱らせるつもりだったに違いない。
省吾はそう信じている。
事実は知らないし、どうでもいい。

トゥルーバイツ構成員 > 力は得た。
夜だけとはいえ、好き放題できる。
女も漁り放題、なんだったら金も大分持っている。
女に貢がせれば、よっぽど極端なものでなければ買える。

省吾は何の不自由もなく、夜を過ごしていた。
だが。

「……ほんと、つっまんね」

いつしか、省吾は何も楽しめなくなっていた。

トゥルーバイツ構成員 > それは、省吾にとっては……悪い事だった。
楽しい事だけが省吾の正義だ。
笑みを浮かべ続けることだけが省吾の望むことだ。
へらへら笑って、誰も彼もと面白おかしくバカをやり続ける。
他に何も望んでない。
それだけで、本当にそれだけでいい。

だが、それが出来なくなっていた。

省吾は……強くなり過ぎた。
強力な異能者になり過ぎた。
上には上がいる、当然、本当の実力者からみれば省吾はカスに違いない。
羽虫程度の力しか持たないかもしれない。
毎晩毎晩、起きるたびに即座に塵にされる程度かもしれない。
いや、もしかしたら……塵の一片すら残らず『消される』かもしれない。

だから、省吾は自分が強いとは思っていなかった。
弱いとは流石に言わないが、それでも、まぁ、ちょっと喧嘩が強いくらいに思っていたのだ。

……だが、周囲はそうは扱わなかった。
 
「別に血さえくれりゃ何もしないってのにさぁああ?」

省吾はいつしか……誰もに、怪物としか扱われなくなっていた。

トゥルーバイツ構成員 > 落第街の片隅に巣食う吸血鬼。
強大な不老不死の異能者……新島省吾。
ノスフェラトゥ。

いつしか、省吾の呼び名はそれになった。
いつしか、省吾に周囲は『さん』やらなにやら付ける様になった。

バカをしても、誰も笑ってくれなくなった。
そこにあったのは……引きつった愛想笑いか、呆れた嘲笑だけ。
弱者からは媚び諂われ、強者からは値踏みと嘲弄ばかり。

アホらし過ぎて逆に笑えた。
だから、やっぱり省吾は笑っていた。
ずっとずっと、へらへらと。

トゥルーバイツ構成員 > 端末を片手に、省吾は笑う。
他の『トゥルーバイツ』がどうなっているか、逐一生体反応で確認する。
最近の省吾のマイブームである。

「かぎりんと、あかねちゃんは……まだ生きてんじゃーん!!! ギャハハハハ!! うける~~! どんだけ高い理想なんだよお前ら!!」

『願い』は複雑で難しければ難しい程、接続まで時間が掛かるらしい。
おいおい、『真理』サマでも難しいってかぁ~~?
嘘だろ~~?
全部大差ないだろぉ~~?
どうせ、まだ起動してないか、マッド野郎のハンドメイドだから性能が安定してねぇだけだろ~~?

まぁ、答えはどっちでもいいし、どうでもいい。
省吾はそんなことに興味はなかった。

トゥルーバイツ構成員 > 「あっかりーんは……ええ、生きてるぅ? キョーカちゃんと心中するんじゃなかったっけぇ? あ、大失敗って奴? ハハハハハ!! あっかりんだけ死んでやんの!! かわいそ!!!!」

どうせ風紀か何かに片方だけ保護されたんだろう。
あーあ、モタモタしてるからそうなんだよ。
同じくモタモタしてる省吾がいうことではないが。

「俺んところ誰もこないのにさ!! あっはははははは!!」

省吾が『真理、挑んじゃいまーす!!』と言った時、誰もが諸手で『笑って』送り出してくれた。
誰もが省吾を祝福してくれた。

そう、省吾の……死を。

両親と同じように。

トゥルーバイツ構成員 > 「まーじで、誰も来ないでやんの」

へらへらと、省吾は笑った。
省吾はずっと、初日から此処にいた。
動いていなかった。
血は既にたっぷり持ち込んでいる。
昼間は鍵も掛けずに寝ている。
それでも、誰もこなかった。
誰も。

「んだよー!! ピザとかもとっちゃうのにさぁ~~!!」

自分が食べられもしない菓子や飲み物も準備している。
それも、当然……減っていない。
省吾は最強からは程遠いとはいえ、強力な異能者だ。
並の異能者では数人掛かりでも片手で薙ぎ払える。
だからこそだろうか、その廃墟は……省吾の終の棲家は、ただ遠巻きにされていた。
何もかもから。

ご案内:「人気のない廃屋」に園刃 華霧さんが現れました。
園刃 華霧 >  
「マジ?
 ピザ喰って良イの?
 なンだ省吾クン、太っ腹じゃン!」

ぬるりと、闇から湧いて出てくる女

「なンだよ、此処ー
 隠れ家っテやつー?
 ピザとカとれンのマジで?」

ひとしきり、目の前の人物に文句を垂れる

トゥルーバイツ構成員 > 「えええ!? かぎりんでしょその声!!??」

両手を広げて、階段から駆け降りる省吾。
満面の笑みを浮かべて、生血の詰まった瓶を一口煽ってから。

「ハッピートゥル~~!! はい、俺が考えた掛け声です、流行らせていいぞぉ~? はい、隠れ家でーす!! 住所もSNSで公開してまーす!! よろしく!! あ、配信はなんか止められてるんで無理でーす。公安とかのせいでーす、たぶーん」

言いながら、ピザを注文する省吾。
繋がらない。

「はい、くそ~~、というわけでレンチンでーす」

即座にレンジに冷凍ピザを叩き込む。
めちゃ高い奴だった。

「かぎりんまだ生きてんねぇ!! 楽しんでるぅ、真理ぃ?」

園刃 華霧 >  
「はっぴー、とぅるぅ~?
 おまえ、ちょっとソのセンスはどうナん?」

思わず胡乱な顔をする。
センスについては自分も大概だとは思うが。
何しろつけた名前がコレだし

「ハッ、まあ上々ダよ。
 お陰様デ、楽しイ放浪生活サ。
 省吾クンはドーなのヨ?
 っテいうカ、ピザ、結局トれないンかよ!」

妙なテンションの相手を見ながら
つっこんだ

トゥルーバイツ構成員 > 「イカしてるセンスだろぉ~? ピザはとれないけどなんと一枚3000円の超高級レンチンピザはできました!! はい、これ食って笑顔になりましょう!! 飲み物は、冷蔵庫に一杯あるから好きなの飲んでいいからネ!! コーラからビールまでなんでもありまーす!!」

実際、冷蔵庫の中は様々な高級食材と飲み物で一杯だった。
省吾は財力がある。
なので、贅沢が好きだった。
それくらいしか、金の使い道がないともいえた。

「俺はねぇ!! ここで楽しくあれだよ……最後の宴って奴?? まぁ、最後にする気ないんだけどね~~! 俺強いしぃ!! あ、バトる? バトっちゃう? それもいいぜぇ!! スマブラでもいいぜぇ?」

テレビに繋ぎまくったゲームも付ける。
どれも全然遊んだ様子がなかった。

「ま、飽きたら真理挑んじゃおっかなってさ!! かぎりんもそんな感じじゃね?」

省吾は、へらへらと笑ったまま。

「つまんないまま死ねないでしょ」

そう、呟いた。

園刃 華霧 >  
「アー……そーダな。
 アタシも、ソうだ。つまンないまま、死ねヤしなイ。」

楽しく、最後にする気はない、つまらない、
どれもこれも聞き覚えの言葉だ

「バトんのは、ちょットなー。
 アタシ喧嘩は滅多にシないッテ決めてっかラさ。
 ゲームでもスっか。アタシろくに知らンけど、それで良けリャな?」

これか?と適当に転がるゲーム機器を触る

「………アタシは……
 いヤ、そウだな。飽きタら、そう、かもナ」

トゥルーバイツ構成員 > 「あ、やっぱりぃい? ってぇえ、かぎりん!! それ、それダメだって!! 禁止でしょぉ~~~? つよきゃら~~!! はい、カスクソ~~!!」

適当な流行のゲームを二人で並んで遊ぶ。
省吾は驚くほど下手だった。
それでも、楽しそうだった。
とてもとても、楽しそうだった。
大量の食べ物と飲み物をテーブルに並べて、ただただ遊ぶ。
省吾は、そのどれにも手を付けない。
付けられない。
生血の詰まったボトルだけを、時折傾けるだけ。

「まぁ、俺もそんなとこかな」

笑ったまま、省吾は答える。
また、ゲーム内では操作しているキャラクターが死んでいた。
だが、直後には……死んだキャラクターがすぐに生き返っていた。
何でもないみたいに。

「まぁでもさぁ!! みんなガンガン死んでるじゃん!? なんか風紀とか公安とか、違うのにも捕まったりさぁ~~!! ヨキセンに泣きついた子もいるらしいじゃん!??! 笑えるよなぁ!! だからさぁ!!」

大声で、省吾は笑う。

「まぁ、全部俺が見て覚えてからで、俺はいいかなってさ」

へらへらと、笑う。
へらへら、へらへら……ただ、へらへらと。

「ほら、俺強いしさぁ~~!! 強者の務めってやつぅ? カッコいいだろぉ?」

園刃 華霧 >  
「いヤ、知らンし。初めテだって言ってンだろ。
 操作とか知らンし!」

本当に初めてだった
互いにド下手同士
知る人間が見れば見るも無残な有様が繰り広げられて

それでも、ゲームは続いた
ただただ続いた

テーブルに置かれたものは
時折、水に手が伸ばされるだけ

「あぁ……死んデるナ。
 この間も、アタシは一人、見かけたヨ」

華霧の操るキャラクターが操作ミスで奈落に落ちていく
次の瞬間、またそのキャラクターは戻ってきていた
当然のように

「務め、ねぇ……
 そうイやさ、省吾クン
 どンな『願い』ダったかっテ、聞いてナかったネ。」

また、画面内でキャラクターが吹き飛ばされていく

トゥルーバイツ構成員 > 「あ? 俺の『願い』? え、いってなかったっけ?」

ゲーム内で、ついにキャラクターが生き返らなくなった頃。
あっさりと『ゲームオーバー』と表示された画面から目を逸らして、省吾は笑った。

「めっちゃ大願だぜぇ? 聞いて驚けよ!! デカすぎてビビるぜ? 俺の『願い』はなぁ!!」

大声で、大きな声で。
白銀に輝く真っ白な長髪を揺らして、真っ赤な瞳を見開いて。
省吾は、自慢の八重歯を見せながら、右手でサムズアップをしながら。

「『腹いっぱいオムライスを食う』……だ!!」

満面の笑みで、そう呟いた。

園刃 華霧 >  
「そッカ。
 オムライス、旨いんダろうナぁ。
 確かに、デカイ『願い』ダ」

満面の笑みを見て、羨ましそうにつぶやく
ああ、こんな笑顔、アタシは浮かべたことあったか?
アタシの願いのほうが、よほどちっぽけに思えてくる。

「で、『がめおべら』?
 なんダい、こりゃ?」

画面を指差して首をかしげてみせる
本当に、ゲームには縁がない

トゥルーバイツ構成員 > 「え!? かぎりんしらねぇのぉ!? それはねぇ!!」

ギャハハハハと大声で笑ってから、省吾はテレビの電源を落とす。

「もう、おしまいってこと」

ゲームのBGMが消えて、部屋が静かになる。
空調の音だけが、聞こえていた。
省吾はもう暑いだの寒いだのは肌ではほとんど感じない。
だが、他の人はそうではない。
空調は、いつも付けっぱなしだった。

「オムライスはなぁ、めちゃうめぇんだよ……マジ、この世界で一番うまいね。間違いない。だって俺、今でもオムライス食いたくてしかたねぇもん。だからさ、オムライス食ってれば……きっとあれだよ、世界、取れるぜ?」

そういって、生血の詰まった瓶を掲げる。
また、一口。
それを飲んでから……省吾は笑う。

「少なくとも、これの5兆倍はうまいぜ。オムライスはな」

へらへらと、省吾は笑い続ける。

園刃 華霧 >  
「マジか。
 おしマいか……おしまい、なンだなァ……」

黒くなった画面を見つめる
そこに映った自分の顔は……

ああ、なんだ
肌寒くなってきた
空調、効きすぎだろ?

「めちゃウまい、カ。
 世界も取レるってンなら最高ダな!」

ひひひひ、と笑う
楽しく、楽しく
愉快に愉快に



「………………」


ひとしきり笑って

「なァ省吾クン。心残りトか、アるかイ?」

トゥルーバイツ構成員 > 「わかんね」

あっけらかんと、省吾は答えた。
笑ったまま。省吾は笑み以外の表情を浮かべない。
それ以外の表情は……一切、省吾は持たなかった。

「わかんねぇから、オムライス食いたいんだ」

省吾は笑う。楽しく、楽しく。
楽しそうに。
ずっとずっと、省吾は笑っている。

「なんか、わかんねぇって思う時ってさ……ネットでみたんだよ! こういう時ってさ、『好きなモノ』を食べたり、『楽しい事』をするといいってよ!! だから、色々してみたんだけどよぉ……なんか、全然それでも『わかんねぇ』からさ」

月を、見上げる。
省吾がずっと見てきた月。
それしか見れない月。
太陽はダメなのに、月が大丈夫なのも妙な話だ。
どっちも同じ日の光だろうに。

「だから、『じゃあもうオムライスしかねぇな』ってさ!! へへ、冴えてるだろ?」

オムライスの材料も、冷蔵庫には入っていた。
どれもこれも、最高級品だった。
だが、どれも。
……使われた形跡は、一切なかった。

園刃 華霧 >  
「そっかァ。
 省吾クンも『わかんない』カぁ……」

わからない
わからない
アレも、コレも、ソレも
アタシにはわからないことが多すぎた

「なヌ! ネットで調べたとカ、マジ冴えてンな省吾クン!
 でも……『好きなモノ』食べる、『楽しい事』をする、か……」

それは、今まで多分ずっとしてきてる
してきている、はず、のこと

月明かりが目に映る
なんだか眩しい気がする

「アタシも、ダなぁ……
 なーンも、『わからない』。
 省吾クン、凄いナ! アタシは本当にナんも思いつカなかったカらサ。
 『とりあえず全部で』!だぜ?
 あったま悪くね?」

ひひひひひ、と笑った
本当に、おかしくてしかたがない、と
嗤った

トゥルーバイツ構成員 > 「いいじゃん!! 全部とか超欲張り!! 俺、そういうの好きだぜぇ~~? まぁでも俺全部よりオムライスが今はいいからさぁ~!! オムライスだけ欲しいんだよ!!」

へらへらと笑う。
月明りの差し込む窓辺、見るからに高そうな皮張りのソファに腰掛けて、ボトルの血を啜りながら。

「全部とか、一杯あっても、どうせ使わねぇしさ。一人だと」

省吾は笑いながら、呟いた。
廃屋には様々なものがあった。
売れば即座に現金化できそうな代物もある。
この廃屋は、一種の宝の山といえた。
それでも、今まで……華霧が来るまで、誰も来なかった。

だってここには、吸血鬼がいるから。

「だから、俺……オムライスだけでいいかなってさ。ま、俺強いしねぇ~~!! だから、オムライス以外は自分で何とかするからさ!! でも、オムライスだけはなんかちょっと……甘えちゃおっかなーってね!!!」

恐らく、誰も省吾の言うオムライスは作れないから。
そのオムライスの作り方を覚えている人は、もういない。
覚えていたたった一人の……もう省吾のことも知らないとある女性は、それもすっかり『忘れて』いる。
レシピは……何処にも残されていない。

「ああ、あとさ……かぎりん、そっち、誰か来たんだろ?」

省吾は、嬉しそうに笑って……拍手をした。

「おめでとっ!! まだまだ、やることあるぜ? かぎりん!! 飯食ったらそろそろ行けって! いつここも誰が踏み込むかわかんないぜぇえ? あぶねーからなここ!!」

誰も来ない廃屋で、省吾は笑う。笑い続ける。
笑うしかない。

園刃 華霧 >  
「そウだな。なンもカんもあっテも使い切れナいかもナ―。
 失敗したカー?」

見ない
何も見ない
見ているのは、省吾の顔だけ

「ひひ! そうダな。省吾クン、強いしナ。
 マあ、食い過ぎで腹壊サないよウにナ!
 オムライスに負けマした、じゃ強者ハ締まラないダろ?」

へらへらと笑って忠告する。
へらへらと、へらへらと
省吾と同じ笑いを浮かべる

同じような笑いは得意だ
だって、今まで浮かべてきたんだから

「おヤおや、よク知ってンなぁ。覗きカー? このスケベ!」

ひゃひゃひゃひゃ、と笑う

「マ、追っ払ったヨ。デモ……そーダな。そロそろ行くヨ。
 ………デバイス刈っテる、変な連中が居るラしーぜ?
 ま、強者の省吾クンには問題ナイかもダけど……気をつけテな。」

立ち上がった。
最初に用意されたすっかり冷めきったピザだけを手に取る。

空調の音と、冷蔵庫の動作音だけがやけにうるさく響いた

トゥルーバイツ構成員 > 「まじでぇ!? そんな奴らいるのぉ!! やっべーじゃーん!! マジ、じゃあ俺そいつらボコにするわ! 省吾クン舐めんなってよぉ~~!!」

楽しそうに笑う。
二人の笑い声以外は、家電の音しかしない。
小動物や虫の類すらいない。
吸血鬼の屋敷に……そんなものは近づかない。

「ま、オムライスには勝つとか負けるじゃねぇからよ! ガッツリ楽しく完食するつもりなんで……そこんところ、ヨロシクゥ!!」

ふざけた調子で敬礼して見せて、玄関まで華霧を見送る。
省吾はずっとずっと、笑い続けていた。

「んじゃ、かぎりん! そっちもちゃんと……『楽しめ』よぉ? ハッピートゥル~~!!」

園刃 華霧 >  
「アぁ、期待しテるよ省吾クン! どっちモやっちマいなー!」

笑いながら敬礼を返す。
型とかそういうものはぐちゃぐちゃだ
ただ、手を上げただけのようなもの

「んじゃ、省吾クン!
 そウだな、そっチこそ『楽しめ』よナ?
 ハッピートゥルー!!」

笑いながら、また敬礼をして
笑いながら、その場を後にした
笑いながら
笑い声を残しながら

トゥルーバイツ構成員 > 「勿論だぜぇ!!! 誰に言ってんだよ~~!!! いつでも俺は楽しいってんだ!! じゃあなぁ~~!!」

大声で手を振って、華霧を見送る。
夜中にそれだけ声をあげても、誰も来ない。誰も何も言わない。
いつも通りだった。
だから、省吾は笑って……笑い続けて華霧を見送ってから。

「……かぎりん、友達一杯いるから大丈夫そうだなぁ、ははははは!!」

そう、笑った。
誰も来ない省吾とは違う。
ある程度、情報は集めている。
だから、省吾は知っていた。

園刃華霧を待つものがいることを。
園刃華霧に会うものがいることを。

省吾は……知っていた。

「まぁ、かぎりん……優しいからなぁ、いい子だしよ。『真理』もいいけど、他にも一杯……あるんじゃないのぉ? もう全部もってんじゃねぇのぉ??? アッハハハハハハハ!!!!」

楽しそうに、嬉しそうに、新島省吾は笑う。
月を見上げて、高く、高く、笑い抜けて。

トゥルーバイツ構成員 >  
 
「腹、減ったな……オムライス、食うか」
 
 

ご案内:「人気のない廃屋」から園刃 華霧さんが去りました。
トゥルーバイツ構成員 > 廃屋の扉は、硬く閉じられた。
その後について、語る事は特にない。
ただ、強いて言う事があるとすれば。

その扉は二度と……内側から開くことはなかった。

 

ご案内:「人気のない廃屋」からトゥルーバイツ構成員さんが去りました。
ご案内:「落第街大通り」に羽月 柊さんが現れました。
羽月 柊 >  
「………っつつ……。」

落第街の一画。路地に無造作に置かれたゴミ箱の上に座る。
足が割れた瓶の欠片を蹴り、か細い音を立てた。

男は『トゥルーバイツ』のモノ達と"対話"を続けていた。
柊の相性はやはり想像の通り、最悪だった。

何度も平行線を辿り、時にぶつかり、時に戦闘にもなった。
戦闘も出来るとはいえ得意とは言い切れない男は、傷だらけだった。
道中の回復の言霊すら追いつかない。

まったく泥臭く、それでも彼らと話すと決めた男は、
幾度となく取り零し、喪い、それでも闇を駆けていた。


しかし流石に身体が悲鳴を上げる。
傷を一旦治してしまわないと動けない。
全く自分に若さが無いのが恨まれる。

そんな束の間の休憩の時間。

羽月 柊 >  
彼ら『トゥルーバイツ』にとって、柊は辿って来た道筋そのもので、
男の話すことは"これからもその絶望を続けろ"と同義だった。

彼らの抱える哀しみを知っている。

彼らの声なき悲鳴を知っている。

けれど、それでも柊は生きる側だった。



『再び舞え桜、慈雨の口付け、数多なる祝いを手に…。』

血の滲む箇所に言霊を落とし、治し、己を鼓舞する。
蛍のような光が傷口で瞬く。

言葉は祝いと呪い、両方の意味を持っている。
言霊はまさにその意味合いを増幅させたものだ。
魔力を操る上で、自己暗示にも近い状態で音を紡ぐことが、
柊にとっての魔術を扱う術であった。

この治癒が終わるまではジッとしていよう。

終わればまた駆けよう。

羽月 柊 >  
小竜の一匹を招き寄せ、手に留まらせる。

……自分は、1人ではなかった。
ならば、きっと、彼らにも、独りではないと…伝えられるだろうか。

これ以上抱えきれるのか? という問いをする自分は常にいる。
自問自答はいつだって繰り返している。

それでも、走ると決めたから。

不躾と分かっていても、無礼だと理解していても、


彼らの前に立つと、決めたのだ。
彼らのこれまでの道筋に新たに道を作ると決めたのだ。
彼らの道を塞ぐことで争うことを決めたのだ。


……自分が、そう在れると、今一度、想う。

己の喪失を見つめながら。


――傷は治った。行こう。


そうして男はまた、闇へ混ざっていく。

ご案内:「落第街大通り」から羽月 柊さんが去りました。