2020/08/20 のログ
神代理央 >  
「…いや、そんな事は無い。私一人がこうして負傷して戦線から離れていても、委員会は何事もなく回り続ける。
それでも、背負った役目に対する責任は、果たさねばなるまい」

風紀委員、という組織と権威の中に所属している以上、果たすべき義務はある。
それを重んじているだけだ、と小さく苦笑いを浮かべながら、言葉を紡いでいたが――

「……自分の不安を無くす為、か。……私は、治療を受けながら懺悔室にでも入ったかな。それとも、マリーは存外、人を見る能力が高いのか。
しかし、そうだな。仕事に没頭していれば、紛れる事も、ある。穏やかに深呼吸する程の余裕も無かった程にな」

「……其れを気にする事はあるまい。私が自分で選んだ道だ。年齢どうこうなど、些細な問題に過ぎぬ」

彼女の言葉に、少しだけ真面目な顔をして。
治療の成果か大分喋りやすくなった唇から、昨今の己の精神の乱れを言い当てた様な彼女へ、賞賛と驚きを滲ませた言葉を紡ぐだろう。
とはいえ。

「……なんて、呼べば、だと?別に好きに呼んでも構わぬが。
マリーの方が年上であれば呼び捨てでも良し。呼び捨てを気にする様なら、適当な敬称でも何でもつけるとよい」

名前の呼び方。何と『呼ばれれば』良いのか。
そんな事気にした事も無かった。今迄、多くの人々は『風紀委員』か『神代家の跡取り』としか、己を見ていなかったのだから。

だから、何と呼んでもらえれば良いのか、寧ろ此方が問いかけたいくらい。首を傾げながら、好きに呼ぶと良い、と答えるのだろうか。

マルレーネ > 「それは、怪我が治った自分が背負うべき事柄です。
 負傷兵が増えた方が、戦力的には弱くなるそうですよ?
 責任には、それに応じた取り方があります。
 今は、一端横に置きましょう。」

こほん。
一つだけ咳払いをして、片目だけを開いてちょっと悪戯っぽく。

「ではー、理央くん。」

呼び捨てよりも更にフランクな呼び方をしながら。

「ちょっと言葉遣い固くないです?
 それに、目の前で一生懸命に何とかしようとしている人を捕まえて神の慈悲かー、って。
 私に失礼じゃないですかー?」

明るく笑いながら、隣に座り、頬を指でつんつんぷにぷにと突いて、にひ、っと笑顔。
意地悪をしながら、肩に手を当てて痣を癒す。

神代理央 >  
「…成程。今の私は、悪戯に戦力を落とす負傷兵、ということか。
であれば、治療に専念するべきなのだろうな。完治して、早く戻る為に――
……いや、それすらも横に置かねばならんのか」

難しいな、と困った様に笑みを浮かべれば。
悪戯っ子の様な口調とウインクで己の名前を呼ぶ彼女に。
ちょっと気恥ずかし気に、視線を彷徨わせる。

「……別に、構わんが。構わないんだが……」

まさかの君付け。年頃の少年としては、相応の羞恥心も持ち合わせているが故に。むむむ、と悩まし気に視線が右往左往。

「…言葉遣いは癖の様なものだ。多少は崩す事もあるが…普段からこんなものだ。気にするな。
…いや、まあ。それは…そうだな。治療を施してくれるマリーに、礼を欠く発言だった。すまなかった」

朗らかな彼女とは対照的に、堅苦しい程真面目に己の失言を詫びる様は、真面目と言うか最早頑固の部類か。
とはいえ、頬を突かれれば。むう、と言いたげな表情を浮かべつつ。
素直に、大人しく。彼女の治療を受け入れているだろう。

マルレーネ > 「何でもいい、って言いましたよね? 好きに呼んでいいと。
 いやー、悩んだんですよね。呼び捨ても捨てがたいですし、マイブラザーって決めるのもいいですし。
 それともちょっと意地悪してパン一って呼ぶのも考えたんですけど、それは流石に極悪非道ですしねー?」

恥ずかし気に迷う少年相手に、にひひ、と片目を閉じて。
意地悪を幾つかしながら、ころころと笑う。
パン一にしたのは自分だし。


「そうでしょう? 理央クンはこの場では年下でしかないんですから。
 素直に思うままを口にすればいいんです。
 でも、そうですねー?」
「こういう時は、謝罪じゃない方がうれしいですかね?」

なんて、隣に座ったままパチリとウィンク。
年上ではあるのは間違いないが、その所作はまだまだ少し子供の様子が残る女。

神代理央 >  
「パン一」

其処で、もう一度自分の姿に視線を落とす。
成程、確かに今の自分の姿は――

「風紀委員に対する侮辱罪と何か適当な罪状で訴えてやる」

めっちゃ真顔である。声色も凄く真面目。慈悲は無い。
……尤も、そんな表情は直ぐに崩れ、彼女に合わせる様に笑みを浮かべて。

「…冗談だ。しかし流石に、パン一はあんまりだぞ。それに比べれば、君付けの方が大分マシというものだ」

とはいえ、恥ずかしいものは恥ずかしいので。
ちょっと頬を赤らめてはいるのだろうが。

「……全く。年上の余裕、という奴か?私の呼び方といい、まるで姉にでもなったのかの様な言いようだな」

「謝罪じゃない…ああ、そうか」

と、納得と理解の色を浮かべると。
ふわり、と笑みを浮かべて。

「……治してくれて、ありがとう。マリー」

穏やかな笑みを浮かべて。
ほんの少し子供っぽいウインクを見せた彼女に、応えよう。

マルレーネ > 「写真撮って修道院の看板にしますよ。」

相手の言葉に、こちらもふふん、っと鼻を鳴らして言い放つ。
その上で、当然ころりと笑って。

「ですから、ちゃんと理央クンと。
 あ、そうですねー。 お姉ちゃんとでも呼んでくれてもいいんですよ?

 私はどこぞから来た異邦人。
 どこに行くかもわかりませんが、だからこそ。
 そうやって呼んでも何も後悔しなくていい。
 それに、ここなら今は、だーれも聞いていませんよ。」

にひ、と笑って頭を撫でて、ありがとう、と言われれば目を閉じて。
きゅ、っと抱き寄せる。

傷が痛まないようにしながら、よし、よしと。


こんな小さな体でやらざるを得ない、そんな世界を思い、憂う。
身体が大きければいいのか。 違う。
大人ならいいのか。 それも違う。

でも、やっぱり簡単に腕にすっぽり収まる身体にかけるべき負担ではない。
胸の内にそう考えながら、………素直なお礼への返答に隠して、頭を撫でる。

神代理央 >  
「…それは何というか。止めておいた方が良いんじゃないかな。とても修道院とは思えない画になりそうなんだが…」

パン一の己がこの修道院の看板。悪夢かな?
冗談の応酬とはいえ、思わず真顔で突っ込んだ。誰にだって、護りたい尊厳は、ある。

「……何だそれ。私に姉と呼ばれて、何かがどうとなる訳でもあるまいに」

可笑しそうに笑おうとする――が。その言葉を笑い飛ばすことは出来なかった。
異邦人だから。此処には誰もいないから。――そんな理由ではない。
ただ少しだけ、甘え方というもの知りたい気がした。そうアドバイスしてくれた者がいた。
だから、という訳ではないが。懸命に己を治療してくれた彼女に。己の血に汚れながら、笑う彼女に。

「………お…おねえ、ちゃん」

と呼んで。
顔を真っ赤にして俯いた。

だから、抱き寄せられる事にも気付かず、ぽふりと彼女に身を預ける事になる。
慈しむ様に撫でられて、張り詰めていた緊張が、解ける。

「……私よ、り子供っぽいところもある癖に……本当に、姉の様に、振る舞うの…だな………」

と、ぼんやりとした声色で呟いた後。
其の侭彼女の腕の中で、小さな寝息を立ててしまっているのだろう。
もう、痛みに堪え、己を叱咤して立ち上がろうとしていた"脆さ"派ない。ただ穏やかに。『姉』に抱かれて眠る少年の姿が、其処にはあっただろうか――

マルレーネ > ええ、どうにもなりません。
ほとんど何も変わらないからこそ、呼び方一つだけなら、今すぐにでも変えられる。

彼も、あの子も、あの人も、きっとこの世界でたくさんのつながりを持っているはず。
これから持つこともできるはず。

だから、少しだけ持ち上げてあげるだけでいい。
私がいる間だけは、ちょっとだけ持ち上げてあげればいい。


「………何がどうとなる。
 そんなことはないですよ。
 ほら、こんな顔で眠れるじゃないですか。」

優しく姉と呼ばれた存在は、そっと抱いたまま、頭を撫でる。
本当の家族を知らないままに、ただ思うまま言ってしまうことに、ちょっとだけ罪悪感。


「………ごめんね。」

頭を撫でて、寝息が深くなるまで、じっとそのまま。

神代理央 >  
こうして、少年は一夜を此の修道院で過ごす事になる。
翌朝、任務を終えて、迎えに来た風紀委員達が、一体何を見たのか。
それは正しく。神のみぞ知る、と言ったところだろうか。

ご案内:「落第街-施療院」から神代理央さんが去りました。
ご案内:「落第街-施療院」からマルレーネさんが去りました。