2020/09/07 のログ
ご案内:「落第街大通り」にアストロさんが現れました。
アストロ >   

 水たまりがぱしゃりと撥ねる。

 

アストロ >  
水しぶきが収まると、そこには朱い髪の少女。
落第街にはふさわしくない、小綺麗な少女らしい服装。

「んん、戻ってきちゃったな」

小声でぽつりと独り言。
ここは落第街の大通り。治安は底辺クラス。
スラムや路地裏に比べれば、まだマシなのだが。

とりあえず、今日の寝床を探そうか。
昨日のようには楽はできないだろう。

ご案内:「落第街大通り」にクロロさんが現れました。
クロロ >  
そんな楽させた奴がまたいました。
彼のような無法者は、表よりもこう言った場所のが居心地がいいのだ。
落第街の大通りを、今日も今日とて適当に闊歩していた時……。


──────ぱしゃり。


「うわっ」

嫌な音が、聞こえた。
思わず顔をしかめれば、予想通りの少女の後ろ姿が見えた。

「水ガキ、まーたこんな所で油売ってんのか?お前」

呆れ顔で少女へと歩み寄ってきた。

アストロ >  
「ん?クロロ君?」

うわっと声が聞こえればくるりと振り返る。

「あは、ごめんねぇ、また驚かせちゃった?
 そうだねぇ、そのつもりはなかったけど、戻ってきちゃった」

悪びれる様子もない。
昨日と全く変わらぬ少女が此処に居る。

クロロ >  
「よぅ、また会ッたな水ガキ」

相変わらず表情は不機嫌そうだが、不快感は感じていなそうだ。

「驚いてねェよ、つーか戻ッたッて……
 お前、もしかして"ホーコーオンチ"ッて奴か?」

また何処かへ行きたがっていたようだが
そんなに頻繁に道を間違えるものか?
訝しげに顔を顰めた。

アストロ >  
「偶然だねぇ」

にししと笑う。

「方向音痴じゃないよー。
 丁度いい水たまりが此処にしか無かっただけ~。
 そういう魔術なんだ、と言ってわかるかな?」

精霊の加護によって可能な手続き無しで使える魔術。
実際はコップの水程度の水面があればいいが、行き先は吟味しなければいけない。
うっかりでトイレに転移はしたくないから。

クロロ >  
「ホントに偶然かよ?」

眉間の皺が更に深くなった。
今一彼女に対する信用度は低い。

「まァいいけどな。……アァ?アー……」

後頭部を掻いて、思考を巡らす。

「要するに、"水を媒介"にして使う転移魔術ッて事か?
 その辺に水たまりでもありゃァ、何処でも飛べる。
 ただ、見る限り言う程便利でもなさそうだなァ……」

此の白紙の脳内に残っているのは魔術に記憶。
クロロは馬鹿だが、阿呆ではない。
特に、此の手の分野に関しては頭が回る。
聞く限り、見る限り、距離は問わない部分は便利そうだが
行先の制限を考えると色々苦労しそうな魔術ではある。

「で、今日は何処行く予定だッたンだ?お前」

アストロ >  
「さぁね?例えば誰かがここに
 意図して水たまりを作ったらそうじゃないかもねぇ」

そんなことはないだろう。よって偶然だ。

「そんなとこ。よくできました~えら~い。
 雨が降ったりすればとっても便利なんだけどねぇ」

理解が早くて助かる。
本来は先に水面越しに行き先を確認したりもするのだが。
話の流れで立ち去る時に使うとそうもいかない。

「行く予定?う~ん。今日は情報集めだけかなぁ?
 常世公園ってとこに行きたいんだけど、行き方まで教えてもらえなかったから」

クロロ >  
「…………確かに!」

凄く馬鹿っぽい納得!
実際馬鹿だからしょうがない。

「相変わらず腹立つなお前。そン位オレ様でもわからァ」

神経逆なで選手権全国一位の称号を上げたいくらいだ。
しかし、雨が降れば便利だと思う一方に、魔術師であろうクロロは、恐怖を感じる。
自然現象一つでこいつは何処へでも行き来出来るような存在へと成り得るのだ。
"まともな感性"を持った人間でなければ、そんな便利なものを持つのは恐怖でしかない。

「情報集めな。なンの情報だよ。つーか、公園ッて大分表じゃねェか。
 自分で歩いて行ッたりしねェのか?」

アストロ >  
(あっすごい単純)

顔に出る。

「いやいやぁ、魔術わかんない人は説明しても通じないよ?」

割と素直に感心している。言い方が悪いのは、ただの癖。
この少女はこの島にも転移を用いて来ている。
すでに、"まとも"と呼べるラインは越えているのかもしれない。
それに…少女は雨をも降らせられる。

「情報は情報だよぉ。公園の場所から行き方まで。
 他にもどんな施設があるとか。常世渋谷ってとこは人いっぱいだったね」

クロロ >  
「今、オレ様の事馬鹿にしたろ?」

ア?とにらみつけたがどうせ通じないので直ぐ溜息を吐いた。

「そうかァ?…………そうかも」

言った傍からすぐ納得した。
根本的に馬鹿な事は変わりない。
少女の言葉に相変わらず訝しげなまま、自身の首を撫でた。

「つーか、公園ならちと遠いけど、普通に案内出来るぜ?
 ア?アー、まァな。なーンか死ぬ程人が集まる場所らしいからな、ココ」

当然クロロはそんな事は知らない。
余り興味も無い。何処で人が暮らしていようが、興味はない。

「つーか、お前公園に行ッて何すンだ?住むの?」

アストロ >  
「してないよぉ?」

わざとらしく。

「特に異能に頼りっきりの人はね……ま、この話はいいや」

別にどうだって良い。
相手が魔術に疎い人間じゃないことのほうが重要だ。

「ん?公園そんなに近いの?電車~とか要らない?」

ここで初めて意外そうな顔をする。
それとも違う公園の話をしてたりするのだろうか。

「何って、そこにどんな人が来るのか、何をしてるのか見るだけだよ?
 これも情報収集ぅ」

クロロ >  
「……段々とお前の事がわかッたかもしれねェ
 火遊びしてェンなら今すぐ燃やしてやッてもいいンだぜ?」

わざとらしい挑発だ。苛立ちと一緒に吐き捨てる。

「(※フィジカル的人間の思考からすると)走って1時間もありゃ付けるンじゃね?」

コイツは魔術師だが思考はチンピラ。
肉体的強化して走れば1時間だと宣っている。
信じてはいけない、馬鹿だ!

「……お前妙な事言うなァ、人様の事情なンか覗き見てどうするンだ?」

少なくとも、そう言うのが気になる連中のやる事と言えば
大抵は"ろくでもない"事ばかりな気はした。
小さい体に、底知れぬ大きな何か。
見据える先の水底は、思ったよりも深いかもしれない。

アストロ >  
「やだー、怖いなぁ」

けらけらと笑う。

「1時間じゃ渋谷ぐらいにしか行けないよぉ。
 やっぱりクロロ君って……脳筋?」

自分なりの感覚だとそれぐらい。
大人の歩幅を鑑みても、歓楽街を走り抜けられるだろうかぐらいのもの?

「……そんなの、見てみなきゃわかんなぁい」

ニヤァ、と笑う。一瞬だけ見せる、他とは違う笑顔。

「ま、私が知りたいのは、まずはこの島の"普通"かなぁ?」

その顔は本当に一瞬で。続く言葉を放つ頃にはにっと笑ういつもの顔だ。

クロロ >  
「よく言うぜ。テメェ、案外怖いッて思う程のが少ねェだろ」

相変わらず癪に障る女だ。
吐き捨てれば八つ当たりの様にその辺の小石を蹴り飛ばす。

「ア?…………アー、まァ、そうか。普通だとそうか」

やはり馬鹿であったが割と素直だ。
確かに普通に走ったらそんなものか。

「…………」

少女の少女らしからぬ笑顔。
少なくともそれは善意ではないと、クロロは思った。
底知れぬ何か、それにクロロは機敏だった。一瞬であっても、見逃さない。
前かがみになれば、その顔を覗き込むように睨みつける。

「ソレ知ッてどうすンだ?テメェ。仲良しこよしで島暮らしッてタチじゃねェだろ?
 人様ンの土地……オレ様も人の事ァ言えたモンじゃねェが。テメェ、マジで何しでかす気だ?」

アストロ >  
「まーね。本当に怖がらせたら誇っていーよ?」

へらへらとしている。
腰に手を当てて無い胸を張る。発展途上。

「……ま、人の歩幅わかんないと仕方ないよねぇ」

基準が自分しかないのなら。

「なぁに?急にガンつけちゃって。そんなに私の顔が見たくなっちゃった?
 何をしでかす?さぁね?私は面白いものを探しに来ただけだよぉ?
 クロロ君も結構おもしろいけどね~?」

ふふ、と笑う。
……解釈の余地はいくらでも。

クロロ >  
クロロは動じる事はない、苛立ちに歪んだ顔が鼻先でアストロを睨む。

「笑わせるな水ガキ。オレ様に怖いものは唯一つを除いてねェ。
 少なくともソレは、テメェじゃねェ……ありえねェ話だな」

唯一つの恐怖。燃える炎の中に隠されたそれを
口に出すことはない。特に、相手にはそうだ。
此の少女に弱みを見せれば、水底まで沈むのは恐らく、一瞬だ。
クロロはそこまで馬鹿ではない。

「…………よく聞け、"アストロ"」

ドスの利いた声が、口から漏れる。

「テメェが何しでかそうが興味はねェ。
 その"面白い"モンが見つかろうが見つからまいがどーでもいい。
 だがな、"くだらねェ"真似してみろ」

クロロ >  
 
    「───────……そンときゃ、テメェをぶッ殺してやる……!」
 
 

クロロ >  
何処にでもあるようなありふれた脅し文句だ。
だが、声だけでこいつは"しでかす"意思がある。度胸がある。
此れは"警告"だ。彼なりの"矜持"がそこにはある。

アストロ >  
ドスの聞いた声。
至近距離での鋭くにらみつける視線。
普通の子どもなら、立ちすくんでしまって当然のもの。

それでも少女は動じることはなく。

「だから言ってるじゃん」

小さく舌なめずりを一度して。
 


  「殺れるものならやって見せてよ?」



歯を見せ、玩弄するように細められた目の奥からくる、
何処までも暗く暗く感じる視線が、金の瞳を見つめ返す。

アストロ >  
「ま、でも、それは今日じゃないでしょ?」

くるりとまわって1歩下がる。
そこにあるのは、いつものアストロの舐め腐った笑顔だ。

クロロ >  
煌々と輝く金は何処までもその水底を射抜く。
くすぶる炎の様に輝き、或いは灯蛾の如くか。
視線の奥底、水面からは何も見えない。
何処まで暗い水底がそこには広がっている。
唯の炎であれば、瞬く間に水に呑まれるだけだろう。

「…………」

領分は弁えている。
そうだ、彼女の言うように今日じゃない。

「フン」

鼻を鳴らし、ジャケットの両ポケットに手を突っ込んだ。

「その日が来たら、"覚悟"しとけよ?」

舐め腐った笑顔に何時もの様に、不機嫌そうな顔で答えた。

「ンで、コーエンだッたか?地図とか読めるのか、お前?
 つーか、今日の寝床とか決めてンのか?」

アストロ >  
「もちろん、楽しみにしてるよぉ」

目を細めて無邪気に笑う。
前後に何もなければただの可愛らしい少女だ。

「もちろん読めるよ~。手に入ればだけど。
 落第街、ちゃんとした地図はないらしいし?」

少なくとも、表で流通しているものはほとんど無く、
歓楽街で道が途切れている物が多い。
まぁ、入手するにしてもお金はないのだが。

「寝床ぉ?今から探すとこだよ~」

クロロ >  
「チッ……」

如何にもこういう態度は苦手だ。
掴み所が無い、と言うより掴ませる気は無い、弄ばれている気分だ。
ハァー、と毒気が抜かれたように溜息を吐いた。

「地図、一応あるぜ。"拾ッた"。
 ……まぁ、焼けてンだけどな」

しれっと言ってのけた。
ポケットから取り出したのは紙の地図。
但し、落第街方面が綺麗に焼け落ちていて余り地図として機能するかは怪しい。

「またかよ。いい加減寝床決めとけよ。
 ……ホテル、泊まるか?」

なんやかんや、人がいいタイプだ。

アストロ >  
「おお、いいなぁ。ちょっと見せてほしいなぁ~」

地図を貰うまでもない。
公園の近場の水場が調べられれば、すぐにでも行ける。
ちゃんとした街なら、町中に案内板だってあるはずだ。
なんとかなる。

「んー。見つけなきゃねぇ。それも1箇所じゃダメ」

考える仕草をした後。

「……ベッド分けてくれる?」

上目遣いで見上げた。

クロロ >  
「ア?……まァいいか、ホラよ」

一瞬、悩みはした。だが、もし自分のせいで何かあれば
その時は"警告通り"動くだけだ。
ずいっと無造作に地図を差し出した。
確かに焼けてはいるが、意外と地図は細かく、水場もちゃんと乗っているだろう。

「……一ヵ所?本当にお前、何する気だよ。ア……?」

不意な上目遣いに滅茶苦茶露骨に嫌そうに顔をしかめた。

「…………」

「……しょうがねェな」

許した!
多分前回色々あったんだろう(一敗)

アストロ >  
「ありがとぉ~。後で傘要らずの精霊魔術教えてあげるねぇ」

他に渡せるものもないので、誰でも喜びそうなものを。
ささっと地図で公園を探す。なんと公園に池があるではないか。
これは手っ取り早い。今度早速行ってみるとしよう。
ついでに大きめの水路を探しておく。それから地図を返す。

「何をする、って迷惑かからないようにするんだよ~。
 クロロ君が言ったんだよ?余計なしわ寄せ」

くるくるとまわって。

「やったぁ」

わざとらしく跳ねて喜んで見せる。

クロロ >  
「アァ?一応教わるだけ教わッてやるよ」

体質的にありがたいと言えばありがたい。
雨が降ると本当の意味で死活問題だ。
傘を差さない必要が無いのは、喧嘩もしやすくて助かる。

「…………」

疑いの眼差しだ。
その辺りの信用度は低い。

「まァ、何をしようがしらねェがな……、……お前さァ……」

「ソレ、可愛いと思ッてやッてンのか?可愛くねーぞ、水ガキ」

ストレート暴言!

アストロ >  
「けっこう便利だよ~応用したら車の水跳ねとか油はねとかも止めれる」
 
 生活に密着した魔術!皆も覚えよう!

「あは、クロロ君にはわかんないよねー」

暴言もどこ吹く風。
癖でもあるのだが、伝わらない相手というのもわかっているので、
むしろ気にしなくていいか、と言った感じでお構いなし。

クロロ >  
「マジ?便利だな……」

感心ヤンキー。凄い興味出た。

「ア?」

コイツ本当に人の事を馬鹿にするのが上手いな。
怒りの導火線は常にあぶられているので短いというもの。
イライラと奥歯を噛み締め、睨みつけた。

「テメェコラ、水ガキ。わからせンぞコラ」

※物理的な意味で

アストロ >  
「ふふ、わからされるのはどっちかな~?」※相性的な意味で

怖がる振りではない反応を返してみる。
一辺倒な返しも飽きられるというもの。

そんなこんなで、昨日と同じホテルへと向かうのだろう。

クロロ >  
「ア?負けンが?なンなら今日は勝つが???」※一敗済み

滅茶苦茶すごんでるけど既に何かしらに敗北している。
何に敗北したかは分からない。だが今度こそ勝つらしい。
そんなわけで、再び同じ歓楽街のホテルで、互いに一夜を過ごすのだろう。

決着の行方はどうなるかは、わからない……。

ご案内:「落第街大通り」からアストロさんが去りました。
ご案内:「落第街大通り」からクロロさんが去りました。
ご案内:「落第街『リバティストリート』」に山本 英治さんが現れました。
山本 英治 >  
輝ちゃんからメールが来た。
最初は何かと思ったけど。
文面を読めば、マリーさんがいなくなったということ。

不安だ。言い知れず、不安だ。
あの雷覇の野郎か? いや、わからない。
マリーさんを目の上のたんこぶくらいに思っているヤツは結構いるだろう。
確信は持てない疑いは持たない。

先入観は真実から最も遠い視点だからだ。

絶対にマリーさんの行方を。その手がかりを。
掴んで見せる。

 
路地裏で情報通に話を聞く。
アレックス・ハウンド。ケモミミがチャーミングなナイスガイだ。

「ハァイ、アレックス! 今日は気持ち良いくらいの晴れだねぇ」
「別にガサ入れとかじゃないってー、ただ聞きたいことがあってさー」
「この写真のシスター、今朝くらいから見てなぁい?」
「わかんないか、そだねー、すまないすまない。なんでもないんだ」

ダイムノヴェルのダークヒーローみたいに。
相手の指を折って情報でも吐かせれば早いのかもしれない。
でも、そんな方法で手に入る情報に意味はない。信憑性も。

だったら……焦らず少しずつ。足を使うしかない。

ご案内:「落第街『リバティストリート』」に羽月 柊さんが現れました。
羽月 柊 >  
路地裏の雑踏に混ざる。

黒いスーツに竜の仮面を被って。
表の世界に出たとて、男の行動はそう変わらない。

仮面を被ったとて、その長い黒紫の髪と、連れている小竜たちは隠していない。
それはただ、表情を読み取られ辛くする為の、
裏の世界に立つ為のシンボルのようなモノである。


──聞き覚えのある声がした。

裏のモノ達の流れの中で立ち止まると、
そこには聞き込みをしている友人の1人が居た。

声をかけるかかけまいか。

今、自分は裏を歩く姿故に。

山本 英治 >  
「ああ、そこのアンタ、時間は取らない! 15秒俺にくれ」
「この写真の女性に……そうそう、人間の、メスの…」
「竜人以外は見分けがつかないってぇ? そりゃ失礼…」

「ハァイ、ケリィ。今日もイカした魚鱗してるねぇ」
「この写真のシスターに見覚えは……そうか、ありがとう、またなケリィ」

「よぉ! そこの綺麗な君ぃ、いやナンパじゃないんだ、探し人……」
「そうだ、この写真の人だよ。どうだい? 見覚え……」
「見た!? 一昨日か……それ以降は? ああ、すまない…またなジュンヌ・フィーユ」

フラフラとあちこち聞いて周りながら歩く。
そして黒いスーツに竜の仮面を被った男性に。

「どうも、ミスター。残暑厳しい折、如何お過ごしでしょうか」
「この写真の女性に見覚えが………」

ふと、何かを感じ取る。この香り。
以前、どこかで嗅いだパルファンだ。

「……どこかでお会いしましたぁ? ミスター」

羽月 柊 >  
眼の端に彼を捉えながら、裏を歩く。

こちらが目的にしていた知り合いの顔が見えたが、
唇に人差し指を当てて、一度引っ込むようにと指示をする。

流石に風紀委員が居るところで、堂々と情報やらのやり取りはしたくない。
来るならば対応を、来ないならば一度彼から離れよう。


そして運命は、彼を手繰り寄せる。


「……さぁ、人違いではないかな。"風紀委員"。」

男はそう話す。
山本英治。風紀委員の腕章をしているモノと親し気にここでは話せない。

「このような所で、安易に知らぬモノに話しかけるモノじゃあない。
 ……いくら『取りこぼしたくない』とはいえ、な。
 
 俺と君が『共通の認識』を持っているとも限らない。
 常識の違いで、ここで君が刺されても、そう助けは来ないぞ?」

それは、ほんの少しの合言葉。

英治、君がこの男との会話を覚えているならば、
この言葉は別の意味に聞こえるかもしれない。

山本 英治 >  
「ああ………そうかい、そういうことかいミスター」

あからさまに表情を歪めて両手を広げて一歩下がる。

「アンタと俺は『同じ』だと思ったんだけどな……人種とかぁ?」
「文化が違うなら仕方ない……別に当たるよ…」

アフロを弄ってリバティストリートを漫ろ歩き出す。
そして物陰に行って。

羽月さんに電話をかけた。

コール。2回。3回。
まさか、そういうことか。
こりゃ俺が空気を読めませんでしたなぁ、センセ!

ここで羽月さんに当たっておきたいのもある。
彼から万が一、情報を得られたら。
それは信頼できる情報だからだ。

羽月柊という男の言葉を。俺は信じている。

羽月 柊 >  
「…賢明な判断だ。」

短くそう言い残し、その場を後にする。

見た目が同じでも、異邦のモノはいる。
同じ地球のモノでさえ、常識の違いの元に齟齬を起こす。

ここでは警戒しろと、暗に促す。


ポケットに入れていたスマホが鳴り、歩きながらちらりとそれを見やる。
相手を確認すると、一度切る。

『少し待て』とメールを飛ばしてから、鞄から一つ鍵を取り出した。

その鍵は、小さな箱にねじ巻きがついた玩具のようなモノが、ストラップについている。
ねじ巻きを回せば、箱から小さな羽根が生えて、近くの扉に飛んでいく。

扉を開き、そこから"繋がった"裏の拠点の中に入る。
元々防音やら結界魔法やらを張り巡らせたアパートのワンルーム。


そこで柊側から、英治に電話をかける。

『……で、何でまた聞き込みなんてしてたんだ君は。
 まだ往来なら、相手が"俺だと分からないように"話せ。』

山本 英治 >  
掛けた通話が切れて。メールが来て。
そこでようやく自分が焦りから貧乏揺すりをしていたことに気付く。
煙草に火をつけて。

「おお、シモーヌ! ようやく繋がったのか!」

大仰に身振り手振りをしながら笑って女性相手にそうするように電話をする。
嬉しそうに。楽しそうに。心と、反するように。

「シモーヌ、聞いてくれよ。シスター・マルレーネと今朝からまるで連絡がつかないんだぁ~」
「彼女のことが心配でさぁ………何かあったら聞きたいんだけど」

おどけながら。焦る心の火を踏み消すように。

「もう、彼女のこと知ーらなーいー? ねぇ……シモーヌ」

羽月 柊 >  
『……なるほど。まぁ、これはあくまで往来側に聞こえない為のモノだが。
 君の電話自体から声が拾われていたり、聴覚系の異能や魔法にはどうもできん。』

あくまで応急措置的な対処だ。
だから、誰かがこのやり取りの正確な内容を知っていてもおかしくはない。


こちらは聞き取られない為の策は講じた。
前述のことが無ければ、好き勝手には言えるはずだ。

部屋に鞄を置いてベッドに腰かける。
小竜たちは両肩に留まり、電話の内容を聞いている。

『マルレーネ? あぁ、君が入院していた所の責任者の女性か。
 君がマリーと呼んでいた女性のことで間違いはないか?

 俺としては、君を見舞いに行った日に逢ったのが最後だ。

 ……それで、なんでまた"こちら側"で聞き込みをしているんだ。』

山本 英治 >  
「そうかい? 気をつけるよぉシモーヌぅ~」

紫煙を深く吐き出して。
メンソールの香りが周囲に満ちる。

 
「ああ、そうそうマリーさーん。あの人がねぇ……ちょっとわかんなくてなぁ…」
「ここだけじゃないよぉ? 学生通りも異邦人街も行くつもり~」

「探し人だからね……根気よく足を使うのが大事なのさ、ジュンヌ・フィーユ?」

コツ、コツと神経質に指で携帯デバイスを叩く。
良くない。焦りがただ、心を蝕んでいる。

「そっちでもなんか情報掴んだらさぁ、一報入れてくんなぁい?」
「お礼はしちゃうからさー、ね? ね?」

もし、マリーさんに何かあったら。
もし、マリーさんに何かをする奴がいたら。

俺の心はどう成り果てるかわからない。

羽月 柊 >  
──何かが起きている。
何かが起きている時は大体、連鎖的に何かが起きる。

それは経験上でもあるし、何かしらの予感でもある。

『…そうか。君がこんなところまで来て情報を集めねばならぬほど、
 あの女性は君にとって重要な人物か。』 

精一杯声を張っているのが分かる。
『同じ』だからこそ、無理をしている時の焦りはなんとはなしに感じられる。

『山本、前提を置いておく。
 ……これはそちらの件に関係あるかは分からん。
 大抵何かが起きる時は、連鎖的なことが多いからだ。』

自分が知っている限りを応えよう。
しかし、これが該当の情報かは分からない。


『風紀委員が死ぬことは、珍しくは無いことか?』


 

山本 英治 >  
「大事なヒトさ、ジュンヌ・フィーユ……キミと同じくらいにね」

煙草の灰を携帯灰皿に落として。
どこまでも憂鬱な青空を見上げる。

秋の空は高い。
こんなクソッタレの空の下の…どこにいる。マリーさん。

「なんでもいいから話してくれよシモーヌ? 俺とキミとの仲だろ?」

その言葉に嘘はない。
俺は羽月さんを信頼している。
羽月さんと信頼関係を築けていると思っているからこそ。
彼の言葉がただのフェイクである可能性を排除できる。

 
「風紀委員が? そりゃー困ったな、シモーヌ」
「イエスでもあり、ノーでもある……バチバチに違反部活潰してる奴は珍しくないって言うし」
「穏健派で書類書いてる人はそんなこと滅多に無いって言うんじゃあないか?」

「それがどうしたんだい、シモーヌ」

羽月 柊 >  
『ああ、俺からも情報は集めてみよう。
 …大人の立場からすれば、また別の情報が集まるのかもしれんしな。』

近年の気象で短くなったりいなくなったりするとはいえ、
秋は人間が過ごしやすい季節の一つだ。
春と同じく楽しいことが沢山ある季節のはずだというのに、
こんな季節に哀しいことは起きて欲しくはない。

『そうか、いや……先日、『九重』という風紀委員の腐乱死体を発見してな。
 死んでから何日か放置されていたようには見えたんだが…。

 …俺と、葛木……葛木一郎が発見したんだ。
 彼の知り合いのようだったんだが…。』

フェイクを使う気は無い。
大衆向けに先ほどのような誤魔化しはしたって、
伝えたいことを伝えられる"演技"は出来ると自分では思っている。

『教師に成ったからと葛木を探してはいたんだが、
 まさかの再会現場になってしまってな…。

 それで、季節的なモノを考えても、
 死体が腐るほど風紀委員会は放置するのかと思ってな…。
 駆け付けた他の風紀委員に聴取を受けたが、
 俺が葛木の知り合いを殺すメリットは全くないしな…。』

山本 英治 >  
「ありがてぇなぁ、ジュンヌ・フィーユ! それじゃよろしくぅ」

はぁ、と溜息と共に紫煙を吐き出す。
一つ一つ、積み重ねていこう。
もし、事件性がなければそれでいい。
事件性があるとしたら。俺は。

「………葛木が? 九重……知らない風紀委員だ…」
「そりゃシモーヌ、災難だったな………」

「数日も帰らない風紀委員がいたら」
「探すとは思うが………場所がよっぽど辺鄙なら『見つけられない』だろうな」
「葛木は? 何か言っていたかい、シモーヌ」

謎が積み重なっていく。
いや、少し表現が違う。

謎は膨れ上がっているんだ。
風船のように。
限界まで膨らめば、弾けて……どうしようもなくなる。
そんな気がした。

羽月 柊 >  
『葛木自体は随分と動揺していてな…。
 何か聞くという状況じゃなかったから、落ち着かせようとは努めたんだが。
 とにかく風紀委員の応援をということになって、詳しくは…。

 別日に逢えば落ち着いて聞けるだろう、という状態で一旦別れた。』

何が何に繋がっているかは分からない。
故に、情報を集めることは第一だ。

そこから情報が精査出来るならば、どんな情報でも必要だ。

もしそれが出来ない性分ならば、雑多な情報は与えるべきではない。


……彼が、『自分と同じ』く情報の精査が出来る友人だと、
そう信じているからこそ、話している。

『……あぁ、そうだ。『行方不明になっていた学生を発見した』とは…。
 行方不明として風紀委員の捜査上に上がっていたのかもしれん。』

羽月柊は、風紀委員とは縁遠い存在だ。
知り合いが多いからとはいえ、『部外者』には変わりない。

山本 英治 >  
「……そうか、葛木が…………」

人の死に直面して動揺すること。
その意味は痛いほどよくわかる。
その相手を知っていればいるほど。

喪失は深度を増す。

今度、葛木に会ったら話をしなければならない。
それも含めて、調査をしよう。
死と喪失から始まる、この物語を。

「それだけ聞ければこっちでも動いてみるさ、ジュンヌ・フィーユ」
「俺もホラ、風紀委員だからさ」

根本まで灰になった煙草を携帯灰皿に放り込んで。
腕章をぱんと叩いて笑った。

焦燥感に追われた。空虚な笑いを。

羽月 柊 >  
そうだ、自分たちは良く知っている。
大切なヒトを失うことの空白と痛みを…。

故に、互いをある程度信頼している。

あの"領域"で、共闘し、
あの夢のような場所で、まるで契約を結ぶように、彼の力を使って見せたからこそ。
 
『あぁ、すまないな……。
 教師も大人も、ここ常世島では君たちを頼らざるを得ないことがあるのは、
 少しばかり苦しい話ではあるな。

 …とにかく、ある程度は連携して動こう。
 同じでも、君に出来ないことが俺には出来るし、その逆もあるはずだ。』

そう言葉を結ぶ。

山本 英治 >  
羽月さんも。俺も。喪ったから。
葛木が何を喪ったのか。
少しでもわかりたいのかも知れない。

その結果、何がどうなるということでもない。
何もかも俺たちの手で解決できるのなら、俺達は痛みなんて抱いていない。
それでも。

「いいのさ、シモーヌ」
「俺とキミが力を合わせれば、4、5人力さ」

冗談めかして言うが。それくらいのパフォーマンスは発揮できる。
俺と、羽月さんなら。

「切るぜ、ジュンヌ・フィーユ。この空の下のどこかでまた会おう」

羽月 柊 >  
『ああ、"またどこかで"な…山本。』

英治の言葉に否は唱えない。
彼ならば、己に熱意を思い出させてくれた彼ならば、
互いに協力すれば出来ることは多くあるはずだ。

例え何もかもが思い通りにならない…この世界であったとしても。

自分たちは独りではないと思えるだけで、走り出せるのだ。


通話を自分の方から切る。

ベッドにごろりと寝転がって天井を見ながら、
男はしばらく思案を巡らせていて…。


そうしてフォーカスは、山本英治に戻る。

ご案内:「落第街『リバティストリート』」から羽月 柊さんが去りました。
山本 英治 >  
また、この島が動いている。
そんな気がした。

切れた携帯デバイスを握ってポケットに手を突っ込む。
もう、メンソールの匂いは消え果てていて。
青空を睨んで、放り捨てるように溜息を吐き。

「おう、そこの君ぃ時間ある? この写真のシスターを……」

聞き込みを再開する。
マリーさんに無事でいてほしいという願い。
葛木に何かできることがあればいいという祈り。

俺は両のポケットにそれを突っ込んで、この街を漫ろ往く。

ご案内:「落第街『リバティストリート』」から山本 英治さんが去りました。
ご案内:「落第街大通り」に神名火 明さんが現れました。