2020/10/11 のログ
綿津見くらげ > 「よく分からぬ。
 ……が、なんとなく分かる。」
叶の語る言葉は、とても深く哲学的。
だからこそ、すぐには意味は理解できない。
が、なんとなく、その価値観はくらげも共感できる所があった。

「………。
 その、恋人がいるんだろ。
 お前には。」
チャンスは無い訳では無いのは確かだが。
しかし叶には、追いかける恋人が既にいるではないか。

「情報、か。
 ……何を教えれば良い?」
特に隠す様な情報も無いし、
教えるのは別に問題は、無い。

「いや。別に。
 何が知りたい、という訳でも無し……」
そう、ただ単に叶の異能に興味があるだけだ。
それだけなのだ。
自分の記憶の齟齬になど、気づいてもいないのだから。

梦 叶 >  
「今はフリーだよ?」

なんて、少し彼女の方を見て微笑んで。
こういう反応をされると、ついついちょっかいをかけたくなっちゃうのは悪い癖だ。

「必要なのは引き出したいものの情報。
 ”こういう事があった”とか”こういうのが見える”とか”こういう怪我をした”とか、そんな事。
 正確な情報な方が引き出せる可能性は高いかな。逆に曖昧だと、何度かやってみないと上手く引き出せない場合がある。

 例えば…あぁ、丁度いい所に。
 そこにあるビルあるじゃない。」

そういって、丁度通りかかったビルを指さす。
他のに比べ比較的真新しく見えるビルだ。

「あれ、前にここでドンパチがあった時にぶっ壊れちゃってさ。
 頼まれたから俺が治したんだよ、さっきの異能で。
 
 そのときに使ったのはー……写真かな。
 この辺に住んでる奴が持ってた写真と、それを撮った時期を教えてもらって…あとは俺もこの辺は前から知ってたから、その記憶も引っ張り出して、で壊れる前に戻したって感じ。

 だからくらげちゃんの事で何か引き出したいなら、それにはまぁ…最低でも”こんな事が何時頃にあった”みたいな情報が必要って感じかな。

 あら、知りたい事はないか。」

そりゃ残念、と言いつつ、彼女の方を見る。
知りたい事はない。
けど興味を持つのは…何かあるのかな?
そんな風に思いつつ。

「けどま……何か思い出したい事や知りたい事あったら、呼んでよ。
 縁は大事にする性分でさ。
 くらげちゃんの頼みなら情報探しから始めてもいいよ。
 俺はこっちの住人だから、裏の情報ならそれなりに入るしね。

 お代は…ま、デート1回って所で。」
 

綿津見くらげ > 「追え。
 そいつを。
 真っすぐに。」
何のために彼を追って不法入島までしたのか、と叱咤。
それに自分が相手では、例の彼ほどの魅力も無いだろう。

「ほぇー……。」
何の変哲も無いビルに見える。
……とても、破壊された後には見えない。
あんなに綺麗に修復できるとは。

「知りたい事。
 ……知りたい、記憶……。」
何の変哲も無い本土の家庭に生まれ、
大して強くも珍しくもない異能を持ち、
それ故に常世の島へとやってきて……
取り立てて知りたい様な事も、思い出したい事も無い。

いや、あるとすれば。
春、この島に来たばかり、犬に噛まれて高熱を出し、しばらく入院していた。
その時は意識が朦朧としており、どんな風に病院で過ごしていたのかさっぱり覚えていない。
それを思い出したりできるだろうか。

「……と、いう訳で。
 入院してた時の事。
 思い出せるなら。」
その経緯を叶に話してみた。
果たして、その記憶を引っ張りだしたりできるのだろうか?

「……デート。
 私と?
 物好きめ。」
お代はデート1回……
別に良いが、そんなんで良いのだろうか、などと思う少女。

梦 叶 >  
「ははは、手痛い言葉だ」

真っ直ぐに追え。
こんな風に言われるのは珍しい。
見ての通り、軽薄な人間だから。そういう奴だ、といわれる事も多いからなぁ。

そう思いながら、彼女の話を聞く。
聞くときはその人の目を見る。それは自分なりのルールのようなものだ。

表情は、情報になる。
思い出している時、何を考えているか。
無意識に何処を見ているか。
視線にはそれが詰まっている。
そこから情報に”予想”を立てるのも、自分の異能が発動しやすくなる立派な手がかりだ。

「ふぅん……」

話を頭の中で精査していく。
入院していた。理由は犬にかまれたから。
それで、意識が朦朧として、熱を出して入院をした。

それに関して、必要な情報を聞いていく。
入院した病院は何処か、入院の期間はどのくらいか。
入院した病室の事、熱などの症状は具体的にどんなものだったか。

それを聞けば「成程」と呟き、少し考える。

曖昧な情報。意識が朦朧としていたから、当然といえば当然。
でも……情報量は十分。
引き出せるかは五分って所かな。

「じゃ、デート1回って事で。
 何時でもいいよ? くらげちゃんの都合のいい時でいいから。
 不発だったり引き出された事が気に入らなかったら、ナシでもいい。

 んじゃ……やってみようかな。
 あ、一応もしも何かあったら、そのときはちゃんと表通りまで運ぶから安心してよ。」

そういって、手を差し出す。
握ってごらん、と、相手を促す。

異能は発動している。
もしも、異能が作用して目の前の少女に何等かの作用があれば。
それは彼女の脳内…”記憶”として、浮かび上がる筈だ。

綿津見くらげ > 「物好きめ。
 大抵暇だ、私は。
 好きな時に、誘え。」

春先から夏休み前までの間、
高熱を出して入院していたとの事であった。
病院は常世総合病院、島で暮らす者なら誰でも知ってる大病院。
治療中の事は、意識を失っていたので殆ど覚えていない。


「うむ。
 では、やってくれ。」
差し出された叶の手を、小さな手で握り返す。
少し体温が低めの、ひんやりとした手だ。

そして、叶の異能により少女の記憶が………

「…………。」
何も、出てこない。

「………??
 どうした?
 思い出さないぞ、何も。」
病院での記憶が、全く思い出される様子が無い。


異能を扱う叶には、こんな手応えを感じるだろうか。
即ち、彼女から聞いた情報は全く事実では無い、と。

いずれにせよ、彼女の記憶に関して、何か不自然な事が起きているのは確かだ。

梦 叶 >  
「――――へぇ」

少しだけ驚いたように目を見開いて、すぐに目を細めて面白そうにする。

何も、思い出さない。
何も。

自分の確率では5分と思った。
だがそれは、目的の記憶を思い出せる可能性の話。
目的のものであっても”引っかかる事”があれば、それを思い出す筈なのだ。
例えば、彼女の話だったら……犬に噛まれたときの痛みや、傷等。

でも、それもない。
”何も思い出さない”

それは即ち―――――


「―――――くらげちゃんさぁ」

梦 叶 >  
「本当に犬に噛まれて、入院した事、あるの?」

綿津見くらげ > 「………?」
もちろんあるぞ、
と、叶の問いに答え……

……答えられない。
何故?
声が出ない。
犬に噛まれて、熱を出して、気を失って総合病院に………?



「………?」
灰色の窓の無い部屋
良く分からない薬を幾つも幾つも……

「………??」
赤い非常灯が照らされ
そこら中で、血の臭い

「………????」
形の無い異形が、私に襲いかかり……

なんだこれは?
何の記憶だ?
ここは病院なのか?
これが治療なのか……?

「………あ……。」
短く声を発した、
かと思えば、糸が切れた操り人形の様に、気を失ってその場に倒れた。

梦 叶 >  
「…」

倒れる少女を、支えようともせずにそのまま”観察”して。

「…へぇ」

少し、面白そうに笑った。

”引き出せなかった記憶”
それを指摘して気が付いた”なにか”

その”なにか”がどんなものか、青年は知らない。
ただ、”なにか”を知り、そして彼女は、倒れた。

”歪に捻じ曲げられた”記憶が、解れた。

「……やー。

 思い付きで話しかけたけど、やっぱ俺の勘って中々馬鹿にできないかな。
 まさかこんなに……

 ”興味が湧く相手”を見つけるなんてさ。」

倒れ、気を喪った少女を見て、笑う。

あぁ……
これは夢莉以来かな。
”中身を全部知りたい”なんて思うのは。

「ま…約束通り、ちゃんと送ってあげなきゃね。
 安心してよ、何もしないから。

 …って、あぁ。気喪ってるんだっけ。」

しゃがみこみ、少しだけその倒れた少女の髪を指先で撫で。
そして……自分のポケットからメモを取り出して、連絡先を書いて少女のポケットに突っ込む。

「手出しはしないけど…ちょっと知りたくなったからごめんね?
 ま、裏に流すような真似しないからさ。」

そしてその後、彼女のポケットを探して…
学生証や身分証等、彼女の個人情報が記載されているものがないか探る……

見つけれたなら、それを取り合えずスマホで撮り、そしてもとに戻して。
そして、彼女を抱きかかえて、落第街を後にするだろう……




…気が付いた時、少女がいるのは公園のベンチか、それともファミレスか。
少なくとも、落第街の外の……比較的安全な場所だろう。

『何かあったら連絡してよ』

そんな一文と、連絡先の書かれたメモの切れ端だけが、ポケットの中に追加されていた。

ご案内:「落第街大通り」から梦 叶さんが去りました。
綿津見くらげ > 崩れる様に倒れた少女は、
そのまま地面に横たわり目を醒ます気配も無い。

彼女のポケットには、小さな財布。
中を漁れば学生証、そこに書かれた彼女の部屋の住所、携帯番号が見つかるだろう。
どうやら堅磐寮に住んでいる様子。
ちなみに、件の総合病院の受診票らしきものは見つからなかった。


それから小一時間ほど後。
くらげが目を醒ますと、そこは見慣れた街の公園のベンチであった。
また何か悪夢を見ていた気がする、が例によって思い出せない。
そう言えば、落第街に迷い込んでいたはずだが……
叶と出会ったのも、夢だったか?

ぼんやりしたまま、家路につく。
……寮に帰って着替えようとすれば、
ポケットの中に叶の残したメモを見つけるのであった。

ご案内:「落第街大通り」から綿津見くらげさんが去りました。