2020/10/17 のログ
ご案内:「落第街大通り」に神代理央さんが現れました。
■神代理央 >
――今夜は、強い雨が降っていた。
昨日の戦闘において発現した己の異能。
簡単な報告書は提出したが、諸々は委員会の調査と精査を待つ事になった。
その間、己に与えられたのは取り敢えずの休暇。
任務も何も与えられず、放逐されたと言うべきだろうか。
しかし、風紀委員の制服を纏わず、一個人としても尚。
気付けば無意識に落第街へと、己は佇んでいた。
土砂降りの雨の中、傘もささず。
ぼんやりと落第街を彷徨い歩く上質な衣服を纏った少年。
天候の所為もあって元より人通りの少ない夜。少年に声をかける住民など、いなかった。
「………大丈夫。私は、大丈夫だ。
アレは、私では無い。アレは、違う。違う」
雨を吸い、重たくなった衣服を引き摺る様にフラフラと歩みを進めながら。
煌々と灯る街灯の傍で立ち止まると、懐から取り出した煙草に、火を付けようとする。
煙草もライターも、降りしきる雨粒に濡れて用をなさない。
それでも、何度も何度も。
火打石を擦る音が、雨音に掻き消されながら響いていた。
ご案内:「落第街大通り」にマルレーネさんが現れました。
■マルレーネ >
強い雨が傘を叩く。
施療院の屋根から雨漏りという話を聞いて、修道院から飛び出したシスター。
屋根の修理はお手の物。以前も商店街で修理をしました。
ずぶ濡れにはなりつつも、なんとか補修を終わらせて。
「……はー、ひどい目に遭いました。」
遠い目になりながら道を歩く。
最近はツイていないけれど、これもまた神の試練。多分。
「…………あら。」
自分もそうだからよく言われるが。
暗闇に近い雨の中、金色の髪はよく目立つ。
だから、その姿を見つけるのも特に苦労はしない。
「……よいしょ。」
背後から、そっと傘を差しだして雨を遮りながら、そのままこつん、と後頭部をつつく。
「何してるんですか?」
■神代理央 >
後頭部に、軽い衝撃。
傘によって降りしきる雨が遮られ、其処で漸く雨が降っていた事に気が付いた様に、ふるふると頭を振って髪に纏わりつく水滴を払って、ぼんやりと彼女に振り返るのだろうか。
「………あぁ、今晩はシスター。御元気そうで何よりです。
私は、今日非番なので、散歩も兼ねて落第街の視察です」
唇から零れるのは、何時もの様に流暢な風紀委員としての言葉。
しかし――その言葉に覇気も力も無く、渡された原稿を読み上げる人形の様な、そんな声色で彼女に言葉を返すだろうか。
「今夜の雨は酷くなる、とニュースで言っていました。
濡れ鼠になる前に、家路を急がれるべきだと思いますよ」
プログラムされた機械の様に、機械的な笑みを浮かべて言葉を続ける。
少年の手に握られた煙草は、ぐずぐずに濡れて崩れ落ちようとしていた。
それを咥えて、濡れたライターで火を付けようとして――火がつかない事を不思議がる様に、小さく首を傾げるだろうか。
■マルレーネ >
違和感に気が付かない女ではない。
今まで、曲がりなりにも数多くの人間と関わってきた女だ。
仲間として、相談相手として、そして命のやり取りをする相手として。
どんな時でも、相手の気持ち、感情を読み違えていい結果が生まれることは無い。
「……なるほど非番。
非番の時は、普段と違う場所を見るといい、って聞きますよ?
普段と違う景色を見ると、いつも見ている景色の違う場所に気が付く、とか。」
だからこそ、普段通りに言葉を返しながら、肩を抱くのだ。
寒さで冷えている身体を温めるように肩を抱きながら。
「では、家まで送ってもらえませんか?」
相手の行動には気が付いている。
気が付いているからこそ。
えへ、と笑いながらその顔を覗き込んだ。
■神代理央 >
肩を、抱かれる。
彼女の温かさが、温もりが。雨で死人の様に冷たくなった己に伝わって――
「――………っ…!」
その手を、払いのける。
覗き込まれた顔を隠す様に俯きながら、よろよろと彼女の傘から離れる。
再び、大粒の雨が己の躰を打ち付け、雨粒の霞の中に浮かぶのは、恐怖にも似た感情を灯して大きく見開かれた己の紅い瞳だろうか。
「あ……その、違う……違うんだ。そうじゃなく、て。
……今日は、今夜は、私は風紀委員じゃない、から。シスターを御送りする為に、頼りになる委員を手配する、から」
ぱしゃり、と音を立てて一歩後退る。
何に怯えているのか。何故、彼女の温もりから遠ざかったのか。
それすらも理解出来ない儘、俯いて首を振るだろうか。
■マルレーネ >
「何言ってるんですか。 わざわざ帰るために風紀委員を呼ぶわけないじゃないですか。
非番の、理央くんだからお願いしたんです。」
よいしょ、と転がった傘を拾い上げて。
何かがあったのだろう。 それはよくわかる。
分かったからこそ、答えと疑問を急がない。
「じゃあ、私が送りましょうか?
なんにしろ、ここで一人でうろつくのも、二人でうろつくのも、同じようなものじゃないですか。」
急がないが、遠ざからない。
敢えて転がって閉じた傘をそのままに。
にへ、と笑いながら、二人してずぶ濡れ。
「………んー、雨強いですね。
修道院の方が近いですし、やっぱりこっち寄っていきません?」
濡れ鼠の姿を、あえて見せる。
自分が異常であることを気が付かせるように。
■神代理央 >
雨に打たれ、見る見るうちにずぶ濡れになっていく彼女の姿にほんの一瞬、泣きそうに見える程表情を歪める。
しかし、直ぐにその表情を隠す様に俯くと、彼女の言葉に小さく頷いた。
「………修道院までは、御送りします。それで、良いですか。
……それと、其の侭では風邪を引いてしまいます。どうか、傘をさしてください。シスターが体調を崩せば、悲しむ者が大勢いますから」
弱々しい口調。傲岸不遜が服を着た様な何時もの態度は、微塵も見受けられない。
彼女の提案に頷き、同意しながらも。その距離を摘めようとは決してしないだろう。
――それは、無意識の内に己に向けられる優しさを払いのけているが故。
また、あの異能が顕現すれば。また、己の意識の無い儘に誰かを傷付けてしまえば――
無意識に、無自覚に。
その恐怖に囚われているが故に、彼女の温もりから遠ざかろうと。
■マルレーネ >
「ふっふん、雨の中雪の中、雷の中でも旅をつづけた私ですよ?」
どやっ、と自信満々の笑顔を向けながら、この程度はへいちゃらですよ、なんて笑う。
もちろん嘘だ。 本格的に数か月単位で旅を続けるからこそ、雨の中で活動するようなことは極力しないものだ。
あっさりと、まるでさも自然のように嘘をつきながら、傘を差しだして。
「じゃあ、二人で入りましょう。
それなら考えてあげます。
さ、………傘なんてどうでもいいんです。
私は掌が寒いので、掌さえ温まればきっと大丈夫。」
そっと掌を差し出して、目の前でわずかに膝を折って視線を少しだけ相手より下に。
距離は、ゆったりと詰める。
野良猫との距離の測り方のように、ゆっくりと。
「その上で。
私の話を聞いてください。 あなたの話を聞かせてください。」
■神代理央 >
「……確かに、シスターは旅慣れていそう、ですもんね。
でも、雨に打たれるのは、駄目、ですよ」
秋の夜雨は、体力も体温も奪っていく。
僅かに震えながらも、それでも。虚勢を張る様に。何時も通りの己を精一杯演じようとする様に。
彼女の言葉に、ぎこちなく笑ってみせる。
「………掌、を――」
刹那、思い返されるのは己が変貌した巨大な鉄の"掌"
差し出された手を傷付けるのが怖い。
差し出された手を拒絶するのが怖い。
差し出された手に――縋ってしまいたくなる自分を、殺してしまいたくなる。
「……ぁ、そ、の。そ……れは……」
震えながら、怯えながら。
僅かに膝を折った彼女の瞳と、その掌を交互に見つめて。
ぱしゃり、と再び雨の中に革靴が跳ねる音。
「――……ごめん、なさい」
それは、誰に。何に謝ったものなのか。
拒絶と否定の混じった声色の謝罪。
――それでも、それでも。
ふら、と前に出た足と伸ばされた手。差し出された彼女の手に、ほんの少しだけ。
指先だけをそっと掴む様に、己の手は伸ばされた。
彼女の手を取る事は許されない。それでも、その温もりに縋る事に――
「ごめん、なさい」
譫言の様に、再び謝罪の言葉を口にするのだろうか。
■マルレーネ >
「当然分かっていますよ。」
雨に打たれることはダメですよね、と続ける。
笑顔を向けられても、それが本当の微笑みかどうかくらいは、彼女でなくてもわかるだろう。
「………ええ、掌を。
とっても寒いから、温めてくれませんか?」
寒くはない。きっと、指を絡めれば温かい感覚が伝わるだろうか。
謝りながら、濡れながら。 指を絡めてくる相手をそっと引き寄せて、抱きしめよう。
「はい。
謝罪は私は聞きました。 安心してください。
でも、ごめんなさいね。 私からも謝ります。」
「このまま、持っていっちゃいますね。」
相手の膝裏に腕を回して、抱き上げようとする。
ふはは、パワー系の名は伊達ではない。
■マルレーネ >
抵抗は無い。 あったとしても、強引に連れ去る。
ふはは、これもう誘拐犯ですかね。
あれ、これ見つかったら怒られる奴かなー。 神の試練のバリエーションは今日も豊かだなー。
遠い目をしながら雨の中、ぱしゃぱしゃと走っていく人攫………修道服。
ご案内:「落第街大通り」からマルレーネさんが去りました。
■神代理央 >
抱き締められた、かと思えば――体が持ち上がる。
情緒的な意味合いでは無い。膝裏に回された彼女の腕がいとも容易く己の躰を抱き上げたのだ。
これは所謂"御姫様抱っこ"と言われる体勢…なのだろうか。
というよりも、何故己は彼女に抱き抱えられているのだろうか。
「……し、シス、ター……!待て、一体何、を…!」
流石にじたばたと暴れる事は無いが、それでも精一杯抗議の声は上げるだろう。
風紀委員の制服を着ていなくてよかった。
もし制服を着ていたら、彼女は風紀委員を連れ去る人攫いだ。
いや、着ていなくても余り意味合いは変わらないかも知れないし、人攫いでも無いし、ついでに言えば女性に軽々抱き上げられるというのは己の矜持を木っ端微塵に打ち砕いているのだが。
「――せめて、下ろして………くしゅんっ!」
結局、言葉は最後迄形にならず。
雨霞のカーテンを切り裂いて走る彼女によって、己もまた修道院迄文字通り攫われてしまうのだろう。
修道院に着くころには、諦めて借りて来た猫の様に大人しくなった少年の姿があったとか。
ご案内:「落第街大通り」から神代理央さんが去りました。