2020/12/11 のログ
ご案内:「違法パブ「地獄の門」」にジーンさんが現れました。
ジーン > 落第街の入り口にあるその門は、そこを通るものを誰であれ受け入れる。通らざるを得ない者、あるいは自ら進んで通る者。
そして今スイングドアを通ったのは後者である。漆黒のスーツと髪、純白の肌と目元を覆う包帯、血のように赤い口紅とハイヒール。
ジーン・L・ジェットブラックは自らに刺さる好奇と警戒の視線をごく自然に無視しながらカウンターについた。
これ見よがしなほどに自棄酒に溺れる、明らかに未成年と見られる少女の隣を選んで。

その少女がグラスの中の琥珀色の液体を飲み干すのを見計らって、店員に声をかける。
「彼女に一杯、私にはバーボンを、ストレートで。」

少女 > 「あんた誰?」
ジーン > 突然見知らぬ相手に奢られた少女は隣を向く、薄笑いを浮かべた得体のしれない、男とも女ともつかない存在。

「キミと同じく孤独に酒を飲むしかない者さ。二人で飲もう、少しはマシになる。」
躊躇いながらグラスを手にした少女に自分のグラスを合わせ、無言の乾杯。

一息で半分ほど飲み干した少女に、さらに言葉を重ねる。
「何があったんだい?良ければ聞こうじゃないか。」

ジーン > 少女の口から溢れ出すのは身の上話から始まり、どうして落第街に住み着くことになったか、どうやってそこでやっと築き上げたささやかな暮らしをごろつきや風紀委員に破壊されたか。恨み辛みたっぷりに聞かせてくれた、酒を奢るだけでそこに住んでいる人間の生の声が聞ける。
あとは相槌を打ち、適度に同情や共感を示してやればいい。奢ってもらった酔っぱらいほど口の軽い人種も少ない。
金だけせびってガセネタをよこす情報屋気取りのチンピラを相手にするよりずっとマシだ。

少女 > 「あんたはなんで……こんなとこであたしを相手に飲んでるわけ…?」
ジーン > 一通り吐き出してようやっと疑問に思ったのか、質問が飛んでくる。
グラスを傾けてから静かに答える。
「キミと似たようなものだ。仲間が居て、家族同然に暮らしてた。だがある日、みんな散り散りばらばらさ、生きてるか死んでるかもわからない。」
嘘ではない、ジーンの家族とも呼べる魔術結社の仲間は今所在どころか生死も不明だ。この島で起きたことではないだけで。
勝手に相手が勘違いをするだけだ、落第街で暮らす仲間だと。

少女 > 「だったらあんたの仲間も、ガスマスク女にやられたのかもね。あたしの仲間はあいつにやられて、隠れ家の場所をゲロった。」
ジーン > 「ガスマスク女?奇抜なファッションだね、ここの空気はそんなに悪いように感じないけれど。」
少女のペースに合わせてグラスを傾ける。意識的なミラーリング、相手と同じ動作を行うことで親しみをもたせる。
アルコールで判断が鈍っていてもここは落第街、誰も初対面の相手に気を許すことはないだろう。
情報収集が目的だと悟られたら面倒なことになる。だから先程から背中に痛いほど突き刺さる警戒の視線にあえて無防備に構え、隣の少女にだけ意識を向けるふりをしている。

「穏やかな話じゃなさそうだ。」

少女 > 「穏やかどころじゃない、最低のサイコ野郎よ。少しでも怪しいと睨まれたら、もう終わり。心をへし折られて洗いざらい吐くまで拷問される。
しかもそれを楽しんでる、クソッタレのサディスト。風紀委員で悪名高いのは何人かいるけど、一番陰湿。」

ジーン > 「酷いもんだな。大っぴらに破壊活動を行う上に、裏では拷問か。」
風紀とは何なのか、落第街には落第街なりの秩序があり、そこで暮らす人がいるというのに、我が物顔で踏み荒らす様を聞かされれば、圧政や弾圧に近い。

「忠告ありがとう、そのガスマスク女に捕まる前に仲間を見つけるとしよう。」
風紀委員の話をして、ジーンもその仲間の可能性を考えたのだろう、少女からの視線に疑念が混じり始めた、そろそろ頃合いか。
「キミとはまた飲みたいね、自棄酒じゃなく、味を楽しみながら。」
あくまで友好を装い、半分本心でもあるが、二人分の支払いを済ませ、席を立つ。これ以上の長居は無用だ。
振り向かずに手を振りながら店を後にする。

ジーンを怪しんだごろつきが何人か、後を追って店を出たが、その姿は夜闇に溶けたように消え去っていた……。

ご案内:「違法パブ「地獄の門」」からジーンさんが去りました。