2021/02/28 のログ
神代理央 >  
笑みを浮かべ、演舞の如く枯葉を四散させた彼を、じっと見つめた後。
吸っていた煙草を異形の砲身にぽい、と灰皿代わりに放り込んで立ち上がる。
そのまま、ひらりと身軽に玉座から飛び降りて――勿論、肉体強化の魔術を行使して――彼の前へと着地。

「確かに、未だその拳は戦に耐えうる様に見える。見える、と言うよりも実際に通用するのだろう。相変わらず、見事なものだ。
理合……お前と言い、剱菊と言い、偶に良く分からない用語を使うな。間合いとか、そういう認識でいいんだろうか?」

風紀委員の癖に、理合や理法といった武術の基本を押さえていない方が如何なものかと我ながら思わなくも無いが…其処は気にしない。

「しかし、万全の状態である様にも見えない。躰の芯に溜まった疲労を、その技術と肉体能力で押し隠しているだけ…の様にも見える。そんな同僚に、私が背中を預けると思うのかね」

確かに、彼の戦闘能力は未だ健在なのだろう。
しかし、己が見て分かる程に疲労の色を濃く浮かべた彼を一瞥すれば、僅かに首を振るのだろう。
一体何をすれば。何をし続ければ。体力には自信があった筈の彼が、此処迄追い詰められるものなのだろうか。

「…おや、違うのか。てっきり、そういう類の話かと思っていたが…。では、何か別件の用事かな。
私は此処では大分評判が悪いからな。余り世間話に現を抜かしていては、此の街の住民がお前を見る目も、悲惨な事になってしまうぞ?」

と、愉快そうに笑いながら肩を竦める。
周囲の視線には、今更慣れっこだと言わんばかり。

山本 英治 >  
「理合は理知の力で拳を振るうこと、合理的な体捌きですよ」

ニカッと白い歯を見せて笑って、目の前に来た彼と向かい合う。
相変わらず街中で見たら男でも振り返るレベルの美形だなこの人。

ポケットに両手を突っ込んで自然体に構える。

「ごもっとも」

続く厳しい言葉に、首の裏をガリガリ掻いて答える。
万全ではない。その言葉の裏に、心配と優しさを感じながら。
それでも彼には伝えなければならない。

あの日、何があったのかを。

その機会を伺って近場で買ったビンロウを取り出す。
落第街に近いと面白いものが売ってある。

「ああ、その………まぁ、今話したほうがいいか…」
「俺の体調の話と………ディープブルーと…………」

ビンロウを右手で軽くお手玉する。

「まぁ…最終的には俺が松葉雷覇を付け狙ってるって話になるんだが……」

爪先で蹴り上げた石を左手で放ると、廃墟のガラスが割れた。
その隣にいた狙撃手がそそくさと退散していった。

「どっかで見たと思ったらあいつ種村か……」
「半年もすれば、変わるもんだ。この街の……顔ぶれも」

遠すぎる周囲の距離。二人だけの会話。

神代理央 >  
「ふーむ………体幹を上手く使う、とか。そういう話なのかな。
やはり直接躰を動かすのは、どうにも難しそうだな」

やれやれ、と小さな溜息。を吐き出して彼に視線を向ける…というか、見上げる。
身長差は勿論の事、彼と並べばその特徴的な髪形と相まって本当に大人と児童の様な体格差にも見えるだろうか。
鍛え上げられた肉体と武術。純粋な努力によって勝ち得たもの。
己ではまだまだ手が届かないものを、ほんの少しだけ、眩しく感じる。

「……お前の様子が、ディープブルーの一件以降芳しくない事は、風の噂で耳にしていた。きっとあの戦いで何かあったのだろう、とは思っていたが…。」

「…それが、松葉雷覇に繋がる話になるとは思いもしなかったな。
刑事課や公安ではなく、頼るべきは身近な同僚だったということなのかな」

器用にビンロウを手先で弄ぶ姿を眺めながら、少し考え込む様な素振りを見せて――
蹴り上げられた小石の行先を視線で負って、小さく苦笑い。

「不変のものなど在りはしない。どんなものでも、時が流れれば変化するものだ。
その変化が是であれ否であれ、それを止める事は出来ない。それでも私達の仕事は『表の平穏』を不変にするものだ」

懐から取り出した、二本目の煙草。
火を付けて、紫煙が二人の間を漂う。
流れていく甘ったるい白煙の先に――二人の会話に水を差す者も、聞き耳を立てる者も、いない。

山本 英治 >  
「先輩には強力な異能があるから得手不得手ってのは釣り合いが取れてるさ」
「いややっぱ納得がいかねぇ……」

キンマの葉に包まれたビンロウを口の中に放り込み。

「その美形と異能じゃ天に二物を与えられたに等しいぜ」

アルカロイド系の高揚感が精神の負荷を抑える。
ビンロウは噛みタバコのように使うものだ。
石灰と唾液とビンロウの成分が反応して、口の中に赤い汁が溜まる。
これは普通、胃を痛めるため飲み込まない。

「……ディープブルーのブラオを殺した時」
「あいつは俺に呪いをかけた。死後も残る異能だった」

「それから俺は未来の……死んだ幼馴染に罵られる幻影を見続けている」

彼の煙草の匂い、ビンロウのじわりと広がる味。
吹き抜ける風の音。

「焼きが回ったもんだが……けじめとして松葉雷覇と決着をつけたい」

口の中に溜まった液を吐き捨てる。
血のように赤い、ビンロウの残り液を。

「今までの文脈と関係なく、俺の心残りを潰すためにだ」

口元を指先で拭って。

「どんどん力は衰えている。明日には倒れてるかも知れない」
「そうなる前にヤツを倒したい……」

目元だけで笑って。

「俺たちの仕事って言葉は……嬉しいなァ…」
「いつまで、風紀委員を続けてられるか…ワカんねぇからさ………」

紫煙が広がり、散る。仰ぐ空は、どこまでも憂鬱な。
凍てついた虚空。

神代理央 >  
「…異能は兎も角、容姿を褒め称えられるのは慣れぬな。
それに、私から見ればお前だって十分羨ましいさ。
お前は何時も大きくて、真直ぐで、強く見える。
……いや、今のお前は、少しだけ危うく見えるがね」

「……ビンロウか。珍しいものを嗜んでいるな。
素直に噛み煙草にしておけば良い物を」

ビンロウを口に含んだ彼に、へぇ、と言わんばかりの視線と言葉を向けた後――
次いで投げかけられた言葉に、少しだけ。ほんの少しだけ、沈黙しする。
彼にかけられた呪い。彼を蝕む親友の影。そして――松葉雷覇との、決着と。風紀委員としての、終わり。
その全てを聞き終えて…僅かな静寂と紫煙が、二人の間を駆け抜けて――

「………そうか。だが、慰めはしないぞ。
その呪いによって仕事に支障が出るなら休め。
生活に支障が出るなら、祭祀局辺りの世話になれ。
だけど…"そうじゃない"んだろう?」

「なら、私はお前の境遇に同情などしない。
私には、お前の苦悩も苦しみも分からぬし、その咎は私が背負うべき呪いでもない。
その苦しみは、私が横取りして良いものではない。
その呪いも、その苦悩も、それはお前が抱えるべきものだ。
お前が、拭い去らなければならないものだ。
だから、そうだな。私がお前に言葉をかけるとしたら」

「……まあ、なんだ。気の済むまで松葉雷覇をぶんなぐってやれ。応援は、する。がんばれーって、ボンボンを振ってやってもいい。
それだけだ。ああ、必要と見たら休暇願を書かせるけどな。
休まなかったらアフロバリカンで剃ってやる」

彼の苦しみを、共に背負う等とおこがましい事は言わない。
大変だな、とか。辛かったな、とか。そんな優しい言葉もかけない。
唯『ぶんなぐってやれ』と。それを叶える為に応援はすると。
それだけ。それだけを、彼に告げて。

「……別に、風紀委員だけが此の島の仕事ではない。
此の島で、学園で暮らしていくのなら、幾らでも道はある。
でも、そうだな。もし仮に、本当にお前が風紀委員会を去る日が来るのなら」

「"此処に居て良かった"と、思って欲しいものだな」

山本 英治 >  
「そうかい? お互い、持ってないものは眩しく見えるもんだな…」
「お互い、男伊達で通るかな………?」

ニヒヒッと笑って。

「近場で売ってたもんで」
「いやぁ、この街の品揃えってのも悪くない」

すぐに俺の表情は凪いで。
男が自分が認めた男に対峙する時の顔をする。

「祭祀局を頼っても……近い先の発狂を遠ざけることしかできない」
「この呪いは解けない……」

目を瞑る。
ああ、そうだ。神代理央という男は。
こういう存在だ。
口の中に残った繊維を吐き捨てて。

「わかっています、先輩」
「痛みも、嘆きも、苦しみも、怨嗟も……全部俺のもんだ」
「勿体なくってそうそう人に分け与えられはしない」

目を見開くと拳を浅く握って相手に向けて。

「ああ。ありがとう……さすが俺が認めた男だ、気休めなんか口にするはずもなかったな」
「もちろんこれを最期になんかする気はねーんだ」

「約束がある……レイチェル先輩にも、それだけじゃない…」
「みんなから心をもらった」

今、神代先輩からも。

「へへ、鉄火の支配者からこんな言葉もらえるなんて」
「良い思い出でさ……忘れられるわけがねーのさ」

笑って構えを取る。

自らに当たる銃弾を曲げる電磁力系異能……
倖せの英雄(アキレス)を持った偉丈夫、大村鬼一が歩いてくる。

「疲れてっからさ……あれだけもらって今日は帰ろうかな」
「“後は任せた”」

そう、俺には先輩がいる。
神代理央という。戦場を任せられる男が。

彼の言葉を胸に、異能犯罪者に突っ込んでいく。

俺はいつか負けるだろう。だが、それは今日じゃない。

神代理央 >  
「私は別に伊達男を気取るつもりはないさ。
それで仕事が円滑に捗るのなら、幾らでも気取るがね」

クスリ、とほんの一瞬だけ…年相応に笑みを零した後。
こほん、と咳払いと共に彼に向き直った時には、既に彼の見慣れた尊大な表情。
此処からは、そういう冗談を交える話でもない。

「そう。全てはお前のものだ。"遠山未来"が呪うのはお前だけだ。
他の誰でも無い。お前だけを見て、お前だけを呪って、お前だけに怨嗟の言葉をもって罵り続ける」

「流石にそれを掻っ攫おうとは思わないからな。
その呪いは、山本英治と遠山未来の絆が深いからこそ、お前を蝕む。そんな末恐ろしい呪いなぞ、犬も食わぬわ」

彼を蝕む親友の名だけは、資料で見て、知っていた。
其れしか知らない。それだけしか知らない。
彼の苦しみも苦悩も、自分にはわからない。
だからこそ。何時もの様に偉そうな態度と、フフン、と言わんばかりの尊大な笑みと共に、言葉を告げるのだろう。

「…ま、風紀委員会にだって前線以外に仕事は幾らでもある。
今はそんな先の事を悩む事もあるまい。
為すべき事を成してから。松葉雷覇に右ストレートの一発でもくれてやってから、のんびり考えれば良い。
レイチェル先輩も、園刃も、お前が関わった皆も。
きっと、程々に相談に乗ってはくれるだろうさ」

「……と、無粋な客だな。折角、次は巨大アフロを校則違反にするかどうかの話題にしようかと思ったのに」

『鉄火』と『暴君』の前に現れた『英雄』。
強力な異能者ではある。ネームドの異能者として、風紀委員会の警戒リストにも載っている。
その異能の性質上、恐らく己を狙った刺客なのかもしれないが――

「ん、そうだな。アイツはくれてやろう。
疲れすぎて躰も訛っているだろう。準備運動の相手にくれてやるから、手早く片付けろよ」

異形が軋む。
砲弾が効かないのなら、体当たりでも何でもすれば良い。
『彼』が、今夜敗北を迎えない為に。つまらない事で、怪我等しないように。その為ならば、多少の不利には目を瞑ろう。
彼の援護に徹し、その拳を守ろう。
大体、そもそもの話として――

「……運が悪かったな。大村。私とこのアフロが組んだ時はな。
――負けた事など、一度も無いのだよ」

ちゃっかり同僚をアフロ呼ばわりしながらも。
大村に突っ込んでいく彼に合わせて、地響きと共に異形はその重量と大きさで敵の行動の選択肢を少しでも減らす為に――動き始めた。

「なに、手柄を横取りするつもりはない。お前の拳が、松葉雷覇に届くまでに妙な傷を負われても困るからな。
さて…では、とっとと片付けよう。早く終わらせて、美味しいパフェでも食べに行こうじゃないか」

山本 英治 >  
「紹介しますよ……」

拳を構えて悪しき英雄と対峙する。

「最高のヨーグルトパフェ出す店ぇッ!!」

そう、俺と神代先輩は。
並んだ戦いで負けたことなど、一度だって無い。

砲火と拳打と。
全ては………お互いが正しいと信じるもののために。

ご案内:「落第街大通り」から山本 英治さんが去りました。
神代理央 >  
「…む、それは楽しみだ。ではな、大村。ヨーグルトパフェが待っているんだ。手早く倒れて貰おうか」

此の日、倖せの英雄は無事に風紀委員会によって捕縛される事になる。
しかして、護送車両と共に訪れた風紀委員も。
戦いを遠巻きに眺めていた住民達も。
皆揃って首を傾げながら、安堵の溜息を吐くのだろう。

倖せの英雄は殺されず。
街の被害は可能な限り抑えられ、必要以上の砲火は振るわれず。
唯、拳を振るう男の為に鉄火は振るわれ――結果的に彼は、大勢の命と生活を、守り抜いた事に成った。

理想も、想いも、信じるものも、二人はきっと違う。
けれど、背中を預ける"仲間"としての絆は、きっとある筈だから。

だから――決して、敗北などしない。
二人の風紀委員は今宵、完璧に仕事をこなして…ヨーグルトパフェに舌鼓を打つ為に、帰路につくのだろう。

ご案内:「落第街大通り」から神代理央さんが去りました。
ご案内:「落第街大通り」に【虚無】さんが現れました。
ご案内:「落第街大通り」から【虚無】さんが去りました。
ご案内:「落第街大通り」に【虚無】さんが現れました。
【虚無】 >  
 壁にもたれるようにうつむく青年。フードを被ったその姿から表情を伺い知ることはできない。
 現地調査。昨今出ているある問題の内容の調査だ。

「……広報課。これはあまり良い事ではないと思うが」

 今出ている問題……広報課による物資の取り締まり。
 大型ルートなどが今のところメインではある。だがそれでも確実に締め上げの効果は表れるだろう。
 別にそれで薬が出なくなるだけ、だとか武器が少なくなるだけ……ならば別に問題はないかもしれない。
 しかしそうはならない。武器やドラッグの類は……決してなくなることはない。そして少なくなればなるほどその価値は増していく。
 負債を追うのは小さな違反組織そして……何の罪もないただの弱者だろう。
 その負債は金銭? 否、身体や食料。衣料品。そういった形で現れる。外部と強者からの2重の締め上げ。もしそうなれば弱者など一瞬の内に干からびる事だろう。

「これ以上悪化させてくれるなよ」

 もしこれ以上悪化させるのであれば今度は風紀側を敵対者としてみなければいけなくなる。
 正確にいうならば取り締まりをしている場所をだが。
 正直それは避けたい。現状風紀を敵にして余裕があるほどこの街は安定などしていない。
 そのまま周囲を見る。人が多いわけではない。だが締め上げの効果か薬が手に入らず放浪している人物はたまに見かけるだろうか。

【虚無】 >  
 さて、もう一つに懸念材料。だが……これに関しては言うほど大きな被害は出ていない。それは先日の戦争。
 一部スラムでは混乱などもあったが大きな騒動には発展していない。
 それこそ小さな違反組織が乱立したり、違反組織ともいえない小規模な集団が発生したりなどを警戒していたが……

「あいつらに関しては危険対象からは完全に除外できるか」

 それどころか戦争前には避難勧告まで出していたという。例の違反組織に関しては準危険対象どころか危険対象から外してしまっても大丈夫そうなイメージはある。
 たしかに方向性としては色々と問題があるのは事実だが少なくともこの街には影響が少ない。
 暴走の危険性は考慮しなければならないが現状のまま落ち着くのなら攻撃をしたりといった必要性は無いように思える。

「やはりあの2点か」

 やはり今目下は締め上げと危険人物でもある研究者の行方だ。
 前者は今後次第で攻撃対象にすらなりえる。後者に関しては……まだ謎が多すぎる。
 個人で戦争を呼び込もうとした、もしくは危険な研究をしているということなら黒。そうじゃないのなら白といえるだろうが。
 溜息を吐き出す。学校が落ち着けばこっちが忙しくなる。本当にうまくできている事だ。

【虚無】 >  
 しばらく周囲の観察をしてからその場を後にする。
 大通りを顔を伏せたまま歩き。気が付いた時には





 もうそこにはいなくなっている。

ご案内:「落第街大通り」から【虚無】さんが去りました。
ご案内:「落第街大通り」に神代理央さんが現れました。