2021/03/01 のログ
神代理央 >  
落第街の一角。
所々舗装が剥がれているとはいえ、それなりに整備された道路。
恐らく、落第街が未だ『歓楽街』の一部だった頃には、大通りに至るまでの支線となっていたのだろう。

そんな通りには今、簡易の検問所と複数の特務広報部の隊員。
巨大な砲身を背中から生やした多脚の異形の群れ。
それらを小柄な指揮する少年委員の姿があった。

「……そうか。積載物に問題が無ければ、運転手も車両にも手を出す必要は無い。但し、全ては通すな。
荷物に問題が無ければ、通して良いのは5台に1台。
薬物や武器等少しでも疑わしい荷物があれば、事情聴取の上押収しろ」

既に何台かのトラックが、検問を通過出来ずに回れ右。
かといって、完全に封鎖されている訳でも無く、ちらほらと検問を越えて落第街へ至る車両もある様子。

神代理央 > そう、別に落第街へ至る物資を全て排除しようとか。
物流の全てを監視しようとか、そう言った事が目的では無いのだ。
『落第街への物資の搬入を風紀委員会が取り締まっている』
という情報だけ、流れればいい。

(既に、ちらほらと影響が出始めているな。思っていたよりも、反応が顕著だ。それだけ、此の街も物流には敏感に反応しているという事だが…)

ぷかぷかと紫煙を漂わせながら思案顔。
此の街に与えたかったのは『物流が制限された時、落第街はどう動くのか』という調査も兼ねていた。

落第街はそれなりに巨大な街だ。
さりとて、住民が生きていく為の物資を自給自足出来る訳でも無い。
此の街が生産出来るのは、大凡が違反薬物や武器。生体兵器等々。要するに後ろ暗い製品ばかり。
純粋な食糧。生活用品。細々した雑貨類から、インフラを整備する為の資材や機材など。その多くは『外』から搬入されている。

搬入されている、ということは当然荷主と荷受けが居て、それを運送する者もいる。生産拠点から直接輸送している物もあれば、所謂集積所としてのハブセンターから落第街まで届いている物もあるだろう。
その流れが、少しでも滞れば。先ず何より『輸送』によって利益を得ていた者達が打撃を受ける。
次に、生活必需品の不足によって住民達の懐事情が厳しくなる。
それを解決する為に。或いは住民を囲う為に――違反部活は、より闇ルートでの搬入を行おうとする。

「そのルートさえ抑えられれば、楽ではあるのだがな…」

まあ、すぐすぐ上手くいくとは思っていない。
こういう仕事は、根気よくするものだ。
今もまた、追い返されて回れ右していく大型トラックを眺めながら――甘ったるい紫煙を、夜空に吐き出した。

神代理央 >  
勿論、落第街行きであっても正規の手続きを踏んだ荷物であれば検問は通している。
5台に1台、と制限をかけているのは、書類に何かしら不備があったり、架空の荷受けであり、それでいて荷物に問題の無い車両。
きちんと手続きをした車両迄、通さない謂れは無い。何より――

「…此の街への荷物で、"正規の書類"を揃えている方が可笑しな話故な」

確かに此の街は、行政区分としては歓楽街に位置する。
それ故に、商業活動を行う部活動や、学園に認可された組織の拠点が存在していても"書類上は"おかしくはない。
だから、調べれば良いのだ。『落第街に大量の荷物を正規に搬入する理由』を、探ってやれば良い。

(まあ大方は、フロント企業…いや、フロント部活というべきかな。そういう類だろうけど)

昼間の常夜街での一件の後、結局巻きなおしそびれた左腕の包帯。
動きはするが、戦闘では使い物にならないだろう。今も、痛み止めを服用しながら仕事に当たっているのだし。
早く治さなければな、なんてぼんやり考えながら、意外ときびきび動いている部下達にちょっとだけ感動していたり。

神代理央 >  
まあ何にせよ、落第街の住民については委員会の方で囲っても良い。
特務広報部は勿論、生活委員会などの炊き出しも、さぞ感謝される事だろう。
其処で、声高に喧伝してやればいい。
『違反部活の活動によって物流を制限している。しかし、委員会は住民を見捨てない』など適当に。
酷いマッチポンプだが、世の中はそんなものだ。

「……と、漸くというべきか。やっと、というべきか」

遠くから聞こえる破砕音と銃声。
鳴り響く通信機からは、拳銃で武装した運転手が無理矢理検問を突破し、落第街へ向かっているとの報告。
書類は出鱈目。積み荷はスキャン済み。2トントラックに満載されていたのは――ガスボンベの類、らしい。

「中身に当てずに、というのは難しいものなのだがな…」

検問所に控えていた異形に思念を飛ばす。
軋む様な金属音と共に駆動する砲身がトラックを捉え――轟音が響いた。

今宵、検問所を通過した車両は4台。
積み荷は食料品や医療品の類。
引き返した車両は12台。"事故"を起こした車両は、1台。

その全てを見届けた後、少年は漆黒のセダンに乗って此の場所を後にする。
落第街と学生街の差を如実に表す様な高級車は、周囲の住民の恨めし気な視線に見送られて、街を後にした。

ご案内:「落第街大通り」から神代理央さんが去りました。