2021/03/15 のログ
ご案内:「落第街」に黛 薫さんが現れました。
黛 薫 >  
倫理、道徳、社会性、もしかしたら良心。
それらを引っくるめて、仮に『人間性』と呼称する。
路地裏で生きていると人間性に助けられる場面など
滅多になく、代わりに齎されるのは罪悪感と強迫観念。

成長の過程で獲得してきた人間性が邪魔で仕方なくて
いっそ捨て去ってしまいたい、と思う瞬間が時々ある。

(……良い子ぶってると、自分がアホに見えるんだよな)

落第街の片隅、打ち捨てられたプレハブ小屋の中で
黛薫は煙草片手に水筒を傾ける。中身はいつも通り、
少し塩を混ぜた砂糖水。生きるために必要な塩分と
カロリーを摂るためだけの水溶液。

ホワイトデーは既に過ぎ、青春を謳歌する男女は
心の栄養と糖分を摂取して日常に戻り、残念ながら
縁無かった日陰者は売れ残りの菓子で己を慰める。

黛薫はというと、それ以前の問題。
蕩ける甘いスイーツではなくスティックシュガーを
舌の上で溶かし、フルーティに香る紅茶の代わりに
薬物混じりの煙草を飲む。

乙女の憧れが詰まったショーウィンドウよりも
優先して値札とカロリー表示を確認しなければ
生きていけない、日陰者どころかカビている。

黛 薫 >  
ここしばらく、固形物は口にしていない。
具体的には1週間ほど砂糖水だけで凌いでいる。

しかしお金や食べ物を得るチャンスがなかったのか、
と問われると別にそんなことはなく……頼る機会も
恵んでもらう機会もあって、それを自分からフイに
しているのであった。

例えば、何度か邂逅している風紀委員。
彼には隠すまでもなく自分の困窮具合を知られて
いるし、過去何度か金銭を受け取ったこともある。

多少のお小言、嫌味を我慢して頭を下げさえすれば
危ない橋を渡らなければ稼げないような額の金銭を
恵んでもらえる……と、思う。

しかし、彼と自分の立ち位置を明確に感じて以来、
どうしても彼に頼る気にはなれない。貰ったお金すら
持っていたくなくて手放してしまうくらいだし。

自分の命とどっちが大事かと聞かれたら当たり前に
命のほうが大事と言えるのに、理屈や感情に沿って
行動できないのだから何とも情けない。

ご案内:「落第街」に園刃華霧さんが現れました。
黛 薫 >  
例えば、先日古書店街で出会った女子生徒。
祭祀局に勤める彼女は自分に何かを見出したらしく、
依頼(?)を対価に金銭を含む手持ちを丸ごと此方に
押し付けようとするほどの必死さを見せた。

はっきり言って、断りさえしなければ今頃自分は
合法的に得たお金で食事を摂れていたはずなのだ。

何故断ったのかといえば……『割に合わない』と
感じたからだ。簡単な頼みを引き受けるだけで
高額の報酬を得るのは落ち着かなかったから。

(……根本的にアホなんだよな、あーしは)

落第街で生きるためには土下座もするし靴も舐める。
今更捨てるような恥もプライドも無いはずなのに、
時々……というには結構な頻度で顔を出す人間性に
損する方を選ばされてしまうのだ。

例えば、罪悪感や居心地の悪さ、強迫観念。
そんなものを感じなければ、自分はこうもひもじい
思いをせずに済んでいるんだろうな、と考えるたび
惨めな気持ちになる。

園刃華霧 >  
「アー……この辺もまー、ダいぶ寂れテんなァ……」

きょろきょろと辺りを見回してみる。打ち捨てられたプレハブ小屋がいくつか。
ちょっと前までは誰か居たような気もしたが、まあそれも此処ではよくある話。

「ってモなー。誰ゾいたリすンだよナ……ん?」

ひょいと覗いた一つの小屋の奥。
一人の少女が座り込んでるのが見えた。


「お、マジでいた。おーイ、生きテっかー?」

場に似つかわしくなく、のんびりと声をかける

黛 薫 >  
「ぁー?こんなトコで死んでたら既に身包みとか?
全部剥がれてると思ぅんすけぉ。もしかしてそんな
心配とか?要らなぃくらい平和になったんすか?」

粗悪さを誤魔化すために、違法な諸々が混ぜられた
煙草でトリップした夢心地は能天気な声に破られる。
苛立ち混じりのブラックジョークを飛ばしながら、
曖昧な意識でプレハブを覗く人影に視線を送る。

大方寝床を探しにきた違反学生、ないし2級学生か。
危機感のない声、声を潜めるという発想がない辺り
生き延びるだけの戦闘能力と自信を備えているか、
そうでないなら数日以内にドブ川に浮かぶことに
なるかのどちらかだろう。

「寝床なら奥の小屋使った方がイィすよ。
入り口崩れてますけぉ、仮設の足場経由すれば
入れるんで。知らねーヤツは入れませんから、
ココよりは安全すよ、めんどーですが」

暗がりと酩酊が災いして、未だ相手の服装には
気付いていないようだ。

園刃華霧 >  
「あン? キまってンのか? ま、こコじゃフツーな話だワな。」

微妙に呂律が回っているような居ないような、そんな言葉を聞いてわずかに肩をすくめる。
まあ、そのへんを取り締まるつもりは毛頭ないし、そもそも此処でそんなことを言い出すのもちょっと……

それよりなにより、相手の言い分ではないが平和でも安全でもないところに居座る相手に興味を持った。
で、あれば見に行くのが人情というものだ。

「親切に、ドーも。でモ、アタシはアタシで寝床決メてっかラね。
 ちょイっとしつれー。お邪魔シますヨっと」

なにも失礼と思っていない様子でずかずかと小屋の中に侵入していく。

「わー、ボロ……まあ、アタシが昔使ってタとこヨりゃマシか……」

聞かせるともなくブツブツと呟く

黛 薫 >  
「まーこの街で失礼も何もねーですよね」

貴方が踏み込んできたのを確認すると、煙草の火を
己の手の甲に押し付けて消す。1人なら気にしないが
喫煙者かどうか分からない相手がいると余計なことを
考えてしまい、落ち着いて吸えない。

反応を見るにその心配も不要かもしれないが。
それでも無意識に『他者を気遣う』方向に働く
心の動きを自覚して、また気分が落ち込んだ。

「あ、そっちの角の床踏まなぃでくださいな。
腐ってるんで、体重次第では足ハマりますよ。
別に踏み抜いてもイィんすけど。プレハブだし」

ボロボロの小屋だが辛うじて屋根は残っている。
風雨を凌ぐには十分だが、埃っぽさも相まって
居心地はすこぶる悪い。

園刃華霧 >  
「違イない。特に、コんな場所じゃ失礼もヘったクれもナいわナ」

少女の言い分に、もっともだと、けたけた笑う。
そういえば、そんな物言いを覚えたのもだいぶ最近な気がする。

「ン? タバコくラい気にスんなヨ。
 アー……」

風紀委員である自分のことを気にしたか、と一瞬思考する。
のだが、相手の話し口からご同胞っぽく思っているようにも聞こえる。
んー……と、なると……適度に距離取っておいたほうが警戒させなくて済むのだろうか。

「やッパだイぶ年季いっテんな、此処は。
 マ、屋根がアるだケましッテな。」

肩をすくめてみせ……

「ンで、今日の住人ハ、おまえサんッテわけカ。
 最近のナワバリ? 前ハ見なカった気もシたけド」

世間話でもするように話しかける

黛 薫 >  
「いんや、あーしは今日たまたま人がいなかったから
借りてるだけっすね。別に何処でも良かったんすけぉ、
最初のアテが外れたっつーか?」

憂鬱そうに溜息を溢す。どうも最近謂れのない悪評が
広まりつつあって、今まで安全だったはずの寝床でも
嫌な『視線』を感じるようになっていた。

正直なところ、此処も期待していなかったのだが……
たまたま今日は他に人がいなかった。それだけの理由。

もっとも、先に話した通り少し面倒な道を使えば
此処より少し安全な小屋の中に入ることも出来る。

「……何かもう、ホントに何処でも良かったんすよね」

投げやりに呟く。破滅願望と呼ぶにはささやかだが、
いっそ痛い目に遭っても構わないような、自暴自棄。

園刃華霧 >  
「アー、なるホどナ」

寝床をあちこち点々としながら歩き回る、というのはよくある話。
それがたまたま此処だった、というのも……まあ、此処ならではの話。

さてしかし、だ。
相手の言い回しは気になるといえば気になる。

ありがちと言ってしまえばそこまでだが、どうも自暴自棄っぽい発言。

「なンだ、なンか不景気か? ッテも、此処じゃ通常運転ダよナ。
 薬の効キすギでモなきゃ……よッポどためコんでンのカ?
 飯、くッテるか? 食えリャ少しハましニなるコともアんだケど」

我ながらおせっかいだな、と思いながらもそう口にする。
ここではなにもない、なんていうのは日常茶飯事。
その程度で落ち込むこともそうはあるまい。

それはよくしっている

黛 薫 >  
「は、そりゃそーだ。落第街で景気がイィなんて
冗談にすらならねーですよ。それこそキツめの薬
でもありゃ、気持ちだけはアガったかもな」

錠剤でも注射でも構わないから薬があれば良かった。
少なくともキマっている間は何も考えずに済むのに。

「……ま、今はあーしに限らず、普段よりもっと
景気わりーですよ、何もかも高くて手が出ねーし。
飯は……まぁ……口に入れるモンくらいは、一応
確保してるんで……」

露骨に視線を逸らす姿は自白しているも同然。

安煙草で思考が鈍っている所為か、単純に精神が
参っている所為か、どちらにせよ駆け引きできる
精神状態ではなかったのだと伺える。

園刃華霧 >  
「ァ―……あンのアホがヤらかシてっかラだナ……」

ため息を一つ。やりたいことはわからないでもないが、流石にあのやり口はどうなのか。
一回シメといた方がいいんじゃないかな、とふと思った。

まあどうせ意にも介さないのかも知れないが、まあそこはそれ。
やってみないとわからない。

それと
相手はどう考えてもキツめのクスリよりは食糧、という感じだ。
しかし、それをそのまま差し出しても恵みなど受けなさそうでもある。

「ンー……そンじゃ良い寝床ノ情報もラったシな。
 こイつ、情報料でヤるよ」

虚空から取り出した缶入りのスープ。
まだほんのり温かいソレ。

それと、小さなチョコレートの箱。
子どものおやつ程度のソレを添えて床に置く。

「チと安いカもシれんケどな?」

ご案内:「落第街」から園刃華霧さんが去りました。
ご案内:「落第街」に園刃華霧さんが現れました。
黛 薫 >  
「ん……」

食料を見た少女は随分奇妙な表情を浮かべた。
長い前髪とパーカーで分かりにくいが憂鬱そうで、
それでいて何処か安心したような表情だった。

そのまま差し出しても受け取らないのでは、という
貴方の想定は当たっていた。素直に受け取れるなら
そんな表情はしなかっただろうから。

「いぁ、十分っす。ありがとうござぃます。
情報料っすからね、正当な対価ってモンです」

その言葉は貴方に、というより自分に言い聞かせて
いるようだった。すぐに腹に収めてしまった辺り、
食欲が無かったわけではなく……むしろ相当飢えて
いたことが伺えた。

「あー……イィっすね、分相応って感じがします。
そう、あーしは……このくらいが丁度いいんだ……」

震えながら息を吐き、頭を抱えるように蹲る。

園刃華霧 >  
「ふ、ム……」

自分には何もなかった。
かつて自分に押し付けられ、押さえつけられ、追い込んできた事実。
それを、思い出す。

窮地にあろうと、ただの施しは受ける気にならず……
当時の自分は、ただただ奪い続けてきた。
この少女はそうではないようだが、逆にそれが気にはなる。


「ァー……お前サん、サ。
 もシよかッタら、ダ。まタ、寝床とカ、そーユー生活情報。
 交換シなイ?」

よほど腹をすかせていたであろう相手。
それでいて、分相応だのと言い聞かせるようにしないと大した事のない食事を受け入れられない状態。
それを考えれば……あまり、欲張ってはいけない。

それにこの取引自体は自分にとっても悪い話ではない。
この街は、生き物だ。常に変化をしている。
かつて此処で暮らしていたとはいえ、生の、現場の情報に敵うものはない。

黛 薫 >  
「あぁ、イィっすよ。っても、あーしが持ってる
情報にも大したモノはねーですが。今は使えなく
なってる場所と、新しく空ぃた場所くらいなら。

ココ見て『昔使ってたとこよりマシ』って言って
ましたよね?なら前のことは知ってんのかなって
思ってたんで。必要な情報は『変化』かなと」

短い邂逅の中で相手が求めるモノを読み取るだけの
能力はある。馬鹿ではないのに己の安全は顧みない。
無償の施しは受け取りたがらないのに、分相応と
口にする程度にはプライドがない。

彼女の言動は、妙にちぐはぐだ。

「あぁ、でも何かちょっと……安心しますね。
風紀もゴロツキも変なヤツばっか。損か得かで
繋がれる関係なら……後腐れなくて、怖くない。
はぁ……いぁ、あーしも変人の側か?笑えねー」

園刃華霧 >  
「オ、そレそれ、そーゆーノでいイの。
 わかッテんナ!」

相手の提示する内容がいい感じにハマっていることに、愉快そうに笑いながら応える。
なるほど、それなりに頭の回る相手らしい。

それでいて、妙にこだわったかと思えば、急にプライドを捨てたり、と
不安定なことこの上ない。
それが相手の抱える事情なんだろうな、とは思うがそこまでは今、掘ることでもないだろう。

そもそもにして

こんな街で、一人で生きるとしたら
多少の歪みなど、普通であると
そうも言えるのだから。

「ソれと、アレだナ。できりゃ、やベートコとか、カな。
 うッカりメンドくさい連中ト鉢合ワせ、なンてカンベンだかラなー。」

あとは当時の自分を振り返ってほしい情報といえば、食べ物、なのだが……
この少女の現状を見れば、むしろそれを欲するのは相手の方だな、と思うのでやめる。


「ナーに言ってンだカ。
 どーセ、アタシもおまえサんも、ゴロツキも、風紀も……
 大概、変人ダらけダろーヨ。
 そレが、この島ッテもんサ。」

ひひひ、と笑う

「要は程度の違い、ダろ。
 ま、笑えンかもシれんけドな?」