2021/03/16 のログ
黛 薫 >  
「ああ……そりゃ違いねーっすゎ」

愉快そうに、と表現するには些か仄暗いが……
貴方が此処に踏み込んで、初めて彼女は笑った。

「さて、んじゃヤバいとこから順に教ぇます。
まずココから北西、要は落第街と表の街の境界の
辺りは、風紀の特務広報部が幅を利かせてます。
それから、その辺りからアクセスしやすい場所、
落第街の大通りで繋がってる区域も同じっす。
ただそれはわざと目立つようにやってるからで、
追いやられたヤツらが動きそうな場所での巡回も
強化してんのかな、具体的には──」

彼女の説明は要点を押さえていて、かつ正確だ。
落第街の地理と、絶えず変化する情勢を敏感に
捉えているのが伺える。

現状、落第街の環境に大きく影響しているのは
風紀委員の動き。しかしそれによって潰された、
ないし瓦解した違反組織も多くあり、元々彼らの
縄張りだった区域に穴が開くように点々と安全な
場所が出来始めている、とのこと。

園刃華霧 >  
「アー……特務広報部、ね……あの、アホ……」

再びため息。
向こうの事情もわからないではない。
どうせ小賢しいことを考えてるんだろう、というのも分かる。
それにしたって、ちょっとどうなのか。

「……やルぅ。ワかリやスいし、細カいのガ良いナ。
 ふ、ン……?」

微に入り細に入り、とにかく説明が的確で上手い。
相手の情報確度と頭の良さがにじみ出ている。

生きるための知恵だとしても、大したものだ。

「しかシ、オイオイオイ。
 ソコまデ情報売ってモラったら、しっかリ払わナいとダな。
 信用ッテのは大事ダ」

改めて虚空から缶詰や、携帯食などを取り出す。
高すぎず、安すぎず。
この街では、ほどほどの贅沢になるかならないかのギリギリのライン。
ついでに、ある程度嵩張らないで済むように。

「……ナー。おマえサン、なンて呼べバ良い?
 どうセこの貰った情報モ、しばラくシたらマた変わるダろーしサ。
 そンときゃ、買い直シしたイんだケど?」

一つ一つ、品を置きながら聞く

「マー、会うノも一苦労、かモしらンけど」

けらり、と笑う。

黛 薫 >  
「あーいぁ、このくらぃなら……」

と、口にしそうになって動きが止まる。
数秒の沈黙の後、両手で自分の頬を張った。

「いぁ、ちゃんと情報料は受け取るコトにします。
ダーメだ、あーし変な影響受け始めてんな……」

吹っ切れた、とまではいかないが、最初よりは
随分マシな顔になった。貴方に名前を聞かれると
メモ帳を取り出してさらさらと連絡先を記す。

「あーしは『黛薫(まゆずみ かおる)』っていぃます。
連絡先は渡しときますが、何せこの街で端末なんて
高価なモノ見せびらかしたりはできねーので?
即時連絡とはいかねーですが、まあそこはご勘弁。

そんでも生きてるかも分かんねーヤツらよりかは
連絡取りやすぃですし、そーゆー意味でも便利に
使ってもらえりゃ結構っす。

……で、だ。あーしがこうもぼんやりしてなきゃ
もっと早く気付いたんでしょーけぉ、あーたの
着てる服、風紀の制服だったんすね。

ま、イィんすけどね、対価さえ貰えんならさ。
何処ぞのお行儀の良いヒトゴロシ共に比べりゃ
話は通じそうっすから」

園刃華霧 >  
「そーダな。対価は受けトっとケ。
 安売りダけは表だローとコッチだろート、駄目ダ。
 そレは、ロくなコトになラん。」

気を取り直した相手に、へらへらと笑っていた風紀委員は
ほんの僅か、居住まいを正して真面目くさっていった。

「ま、そリャ、な。連絡の取りヅらサ、なンてーのハしょうがナいだローさ。
 黛薫、な。かおるん、とカじゃ……駄目?」

へらへらと笑って尋ねる

「ッと。流石に気づイた? ま、アタシは不良ナ風紀なンでナ。
 真面目に取締ナんざ、アホの広報に任せルって寸法サ。」

やれやれ、と肩をすくめてみせる。
そもそも面倒事は好きじゃない。
だから、そういうのは好きなやつに任せるのだ。

「っと。アタシの名前は、園刃華霧(そのば かぎり)。
 嘘じゃナい。マジだかンね?
 ま、アレだ。色々アって、自分でテキトーにつけタからネ。」

けらけらと笑う。

「コッチの連絡先も、一応渡しトくヨ。
 利用シたいときハ、声かけテくレ。
 お互い、上手いコと利用シあえりゃ上々ッテとこデさ?」

そういってメモを受け取って、こちらもメモを差し出す。

黛 薫 >  
「お、おぅ。あだ名とか初めてかもしんねー……。
あー、いぁ。でも呼びやすきゃ何でも……何でもは
言い過ぎにしても、構わねーです、はい。

ワケありの名前って、案外そんなモノなんすよね。
名前がねーとかザラにありますし?あーしは別に
笑いもしねーし、気にしませんとも。

ああ、手を取り合うなんざこの街じゃ反吐が出る。
利用し合える関係のが、まだ分かりやすくてイィって
モンですよ、はっ」

メモを受け取り、懐にしまう。

「さて、んじゃあーしはひと眠りしますかね。
ちょっと目ぇ覚めたんで……あ、眠気がって意味じゃ
ねーですけど。安全なトコに移動するとしますか。
あ、ココはさっき教えた分の対価を貰ってるんで
今日はフツーに譲ります」

壁に手をつきながら立ち上がり、首を鳴らす。
それから軽く手を振ってこの場を辞すだろう。

ご案内:「落第街」から黛 薫さんが去りました。
園刃華霧 >  
「やーレやれ。」

なんだかんだと律儀に対応して去っていく少女の背中を見送って、けらけらと笑う


「あーイうの、微笑まシいってーノかねエ?」

猜疑を持ちつつも相手を信用し、
警戒しつつも律儀に行動し、
どっちつかずな存在。

どうにも生きづらいだろうな、と思う。


「マ、精々、利用シてくレ?
 ひひひ。ソレが、チったァこの街をマシなヨうにシれくレんだろーサ。」

肩をすくめて……


「シっかし……譲らレちマったンだけド……どースっかナぁ……
 ま、いッカ。ナら、今日は泊マ……」

そこまで言ったところで最近できた同居人の顔を思い出す。
実に恨めしそうな顔をしていた。


「……ま。風紀委員が占領スんのモ、悪いシ、な……
 帰る、カ……」

軽くため息を付いて、その場を後にした。

ご案内:「落第街」から園刃華霧さんが去りました。