2021/04/26 のログ
ご案内:「落第街」に黛 薫さんが現れました。
黛 薫 >  
平和だ。……いや、平和というと語弊がある。
少し離れた暗い路地からは怒号が聞こえるし、
道端で蹲る浮浪者の姿も絶えない。

しかし、それは『いつものこと』だ。

怒声が聞こえた路地から若者が転がり出て来て
悲鳴を上げながら逃げていく。命のやり取りに
発展しない喧嘩は、この街では平和の範疇。

最近は風紀にも違反組織にも大きな動きはない。
入学の時期は少し過ぎたが、今は水面下の活動
……勧誘や新人教育も重要な時期。

膠着か疲弊か倦厭か、それとも嵐の前の静けさかは
定かでないが、どうあれ今の落第街は比較的平和と
言って差し支えない。感覚が麻痺しているとも言う。

黛 薫 >  
(あーしみたいな雑魚にはありがたぃんだよな、っと)

元々ゴミ箱として使われていたと思しきポリバケツ
……今は蹴られ、ひっくり返されてその用を成して
いないそれを椅子代わりにして路地の入り口付近で
煙草をふかす。

大きな動きがないお陰で、情報収集が捗る。
組織間の力関係はもちろん、縄張り、敵対と協力、
何より中立地帯の位置が把握しやすいのは嬉しい。

大きな動きがないお陰で収入も少なくなっているが
裏を返せばそれはリスクを取らなくても良いという
メリットにもなる。薬物が買えないのは不都合だが
しばらくは煙草と酒で誤魔化せば良い。

黛 薫 >  
粗末ではあるが、荒んだ生活ではない。
そういう時期はほんの少しだが気持ちが軽い。

平穏無事でいられるならその方が気楽だし、
悪いことに手を染めずにいられるなら何より。
好きで悪事に加担するわけではないのだから。

淀んだ青空を見上げながら煙を輪にして遊んで
いたら、大通りの方から爆音と嘲笑が聞こえた。

「あーぁ、またやってんな?」

異能に目覚めて無機動な自信にかられた井の中の
蛙や、半端な正義感と理想論だけで何かできると
勘違いした考えなしが落第街の洗礼を受けている。
この時期にはよくあること。

黛 薫 >  
随分楽しそうな声が聞こえるが、見には行かない。
暴力沙汰を楽しむという感覚は自分の中に無いし、
だからといって助け舟を出せるほど強くもない。

「ま、命まではとられねーだろ……」

ずっと落第街で暮らしていると、何となく空気感が
肌で理解できるようになる気がする。例えば喧嘩と
殺し合いは全然空気が違うし、輪の外にいる限りは
その空間の異常性にも飲まれずに済む。

暴力的な熱狂の中にいると知らず知らずのうちに
巻き込まれるが、離れて傍観していればその怖さを
忘れずにいられる。簡単なようでいて案外難しく、
その癖この街で生きるには必須なスキル。

黛 薫 >  
この平穏な時期を『面白くない』『つまらない』と
表現する小悪党はときどきいる。だがそういう輩は
殆どが大成しない。他人の起こした流れにタダ乗り
するだけのその他大勢止まり。

平穏を倦み、その上でのし上がれるのは己の力で
流れを作って平穏と安息をを破壊する度量を持つ
強者だけ。

(……ま、どーせあーしには無縁な話ですよ)

短くなった煙草を手の甲で揉み消し、路地裏へと
踏み出す。激流に巻き込まれて溺れるくらいなら、
自分はおこぼれに与るだけの羽虫で良い。

ご案内:「落第街」から黛 薫さんが去りました。