2021/06/14 のログ
ご案内:「落第街」に黛 薫さんが現れました。
黛 薫 >  
ぽつぽつ、さらさら、しとしと、ざあざあ。
この国に雨を形容する言葉はたくさんある。
小雨に霧雨、五月雨、時雨、夕立、にわか雨。
氷雨、雷雨、豪雨、篠付く雨、狐の嫁入り。

雲の中で凝結した水滴が落ちるだけの自然現象。
その中に人々は微かな表情の差異を見出してきた。

煌びやかな星空を覆い隠してしまう分厚い雨雲も
汚れた路を洗い流す小さな川も見ようによっては
風流なもの……なのかもしれない。

(ンな余裕があれば、の話だけどな)

大雨と呼ぶには弱く、しかし無視できない強さの
雨を眺めながら、黛薫は深く溜息を溢す。

黛 薫 >  
生存に直結しない品は落第街では贅沢品。
雨具……傘や合羽もまた例外ではない。

羽織っている雨合羽は知り合いに会いに行く際に
雨晒しでは心配をかけるだろうとゴミ捨て場から
ちょろまかしてきた物。

見た目さえ誤魔化せれば良かったから構わないが、
いくつも穴が空いているから実用には堪えない。
だから捨てられていたのだろうけれど。

「しかし……参ったな……」

常世島に本来梅雨と呼ぶべきものは存在しない。
例外的な雨季は今月中旬には収束する見込みだが
定住する拠点を持たない住民にはそろそろ限界だ。

まあ、そんな輩は大体違反学生か二級学生だから
学園側が保護する必要もないのは間違いない。

黛 薫 >  
黛薫は落第街の弱者の中では情報に通じている。
『弱者が欲しがる情報』をきちんと把握している
稀有な学生であると言う方が正確か。

例えば、雨風を凌げる寝床の情報は落第街の中でも
生きられる者、庇護下にある者には不要な情報だし
必要とする弱者の大半はその情報を手に入れる前に
のたれ死んでしまう。

だから拠点を持たない雑魚の中では比較的雨には
強い立場だったのだがこうも長雨が続いてくると
また事情が変わってくる。

(これで4軒目……)

元々、組織の庇護下にない者が使える寝床なんて
限られているし、状態の良い場所ともなれば尚更。
今まで雨風を凌げていた建物の大半がこの梅雨で
ダメになってしまっている。

黛 薫 >  
「う゛ー……」

呻きながら頭を掻きむしり、また次の候補へ。

別に今宵の寝床で悩んでいるわけではない。
我慢すれば雨の中でだって眠れないことはないし、
雨漏りしようが水が流れ込んで来ようが、目星を
付けておいた建物は雨晒しより快適なのは事実。

ただ、それらの廃墟が今後も使えるかについては
把握しておかねばならない。特に倒壊の危険性は
気付いてからでは遅いのだから。

苛立ち紛れに足元の石ころを蹴り飛ばす。

とはいえこれは今やらねばならない作業ではない。
いずれ確認しなければならないにしても、雨足が
弱まってからでも良い。雨季の収束が予測されて
いるのだから、むしろ今動くのは悪手だろう。

黛 薫 >  
(あぁクソ、頭痛ぃな……)

眠れない、落ち着かない、気持ちがざわざわする。
寝付こうにも寝付けないし、じっとしていることも
出来ないから『やるべきこと』を無理にこじつけて
こうして気を紛らわそうとしている。

落ち着けない理由は実に単純で、いつも通り。
即ち──薬物の禁断症状によるものだ。

だが今回はある点において『いつも通り』でない。
つまり……今手元には使える薬物があるという点。
しかも、それは普段自分が手を出す物より遥かに
高価で質が高く、横流しすれば当分金にも薬にも
困らずに済む物だという点。

黛 薫 >  
遊ばせておくにはもったいない品なのは事実だが
黛薫はどうしても踏ん切れずにいる。というのも
既に色々悪事に手を染めている癖に未だ落第街に
馴染めていない小心者だから。

黛薫は『運び屋』の経験はあれど、自分で薬物の
横流し、転売をした経験はない。魔導具関連なら
いくつもツテはあるし、多少無理を言えば販路も
確保してもらえるはず。ただ、やりたくないだけ。

売れないのなら使えば良いのだが、安価で粗悪な
薬物しか使ったことがないから恐らく強くキマる
この薬物を使いたくもない。自分の意思の弱さは
よく知っているから、きっと戻れなくなる。

最低でも1つは残しておかなければならない事情も
あるからそれならもういっそ使うべきではないと
鞄の奥底にしまい込んでいる。

しかし、上質な麻薬が鞄の中にあるという事実が
居心地悪くて堪らない。大した重量でもない筈の
ショルダーバッグが鉛のように重く感じられるし
学生街を歩くときの罪悪感は普段の倍増し。

もし押収されれば『持ち主』に無駄な手間を強いる
羽目になるし、そもそも落第街で所持を知られれば
痛い目に遭うのは想像に難くない。

ご案内:「落第街」にフィーナさんが現れました。
黛 薫 >  
首を伝い落ちたのは雨粒か、それとも汗か。
誰かの『視線』を感じるたびに身が竦み上がる。
悲鳴を噛み殺して振り返ってみたが、そこには
誰もいなかった。

「クソ、クソ……見るな、見るなよ……」

引き攣るような呼吸を繰り返し、誰もいないのに
撒くために複雑な路を使う。『視線』への不安は
膨れ上がるばかり。感じたのが本物の視線なのか
想像しただけの心因性の物かも区別がつかない。

存在しない『視線』は何処へ逃げてもついてくる。
肌を撫で回し、ありもしない悪意を刻み込んでいく。
逃げて逃げて、疲弊して立ち止まる。

冷静さの戻り切らない頭で周囲の地理を把握して、
確認する予定だった建物から大幅に離れた事実を
理解した。

別に構いやしない。今やらねばならないことでは
ないのだから。それは、理解しているはずなのに。
やろうと決めたことを出来ていないという事実が
締め付けるように自分を苛んでいる。

フィーナ > 「よい、しょっと」
がらん、と。下水道につながるマンホールから、白髪の少女が出てきた。


否。

薫は知っている。コイツは少女ではなく怪異の一つだと。

「…あれ?近いとは思ってたけど、いつぞやの。」

黛 薫 >  
安っぽいトタン屋根の残骸に雨が当たる音がする。
半端に空いた距離も鑑みると、マンホールの蓋を
開けた音は聞こえなかったか、聞こえても意識の
外にあったはず。

しかし役立たずの雨合羽を羽織った少女は貴方が
姿を目視すると同時に肩を跳ねさせて飛び退いた。
気配察知にしては遅すぎる、声を聞いたにしては
早すぎる反応。

「……なんだ、こないだの……脅かすなよな……」

憔悴した声に、蒼白な顔面。小さくなった瞳孔と
震えた声は何かに怯えているようだ。声をかけた
貴方を怯えるべき存在ではないと見做したからか
多少の安堵すら感じられた。

フィーナ > 「やぁやぁ。なんだか前よりみすぼらしくなってないかい?君」
役立たずの雨合羽を羽織って濡れそぼっている姿を見て、口にする。

雨を凌ぐならもう少し物があっただろうに。ダンボールとか板だとか。

「別に驚かせるつもりはなかったよ。君以外ならスライムをけしかけていただろうけどね」

背後で、ズルリとスライムが這い出てくる。適当な物陰に隠れていくだろう。

「…………んー。私のモノは使ってはないようだけど…なんかヤッたのかい?」

顔を、覗き込む。

黛 薫 >  
「ヤってねーですよ、あーたから貰ったヤクも
ちゃんと……ちゃんと?使わずに持ってますし。
つーかあーしみたいな意思弱ぃのが手ぇ出したら
今こうして話せてねーんじゃねーですかね」

別に使うなとは言われていないし『ちゃんと』と
形容することには違和感を覚えたが、錯乱気味の
今の思考ではそれ以上に適切な表現は浮かばない。

幻触に苛まれる現状、悪意のない視線は相対的に
快くさえ感じられたが……やはり好きではない。
ふいと顔を逸らし、適当な残骸の上に腰を下ろす。

「その反応だとあーしを探してきたとか、何かしら
進展があったっつーワケじゃなさそーですね、はぁ。
なんだって下水道から出てきたんすかねぇ。本質が
どうあれ、キレーな姿してるんだからンな場所から
出て来なくたって良ぃのに」

半端に混ざった憎まれ口と気遣いともとれる言葉。
精神的に疲弊していなければ後者は出て来なかった
──意図的に飲み込んでいただろうから。

フィーナ > 「ん~…それにしては、禁断症状のようなものが見て取れますけど…まぁ、良いでしょう」
麻薬を扱う上で、どういった効能かは、ちゃんと知っている。瞳孔の開き具合や表情、発汗具合などから結論づけてはいるが、それは自分にとって重要なことではない。

「別に私は汚れとか関係ないですし。『喰えば』いいだけですから」
スライムは『悪食』である。食えれば何でも食うのだ。それが汚物であれ、神聖なものであれ、なんでも。

「研究に進展はなかった…わけではないですよ。少し面白いものと遭遇しまして。機械が魔術を使っていたんですよ。つまり…電気から魔力の転換は可能ではないかな、と。術式は判明してないので、『結果』だけある感じですが」

黛 薫 >  
「禁断症状は放っといてください、いつものこと
なんで。あー、うん。別に嘘は言ってねーですよ、
最後にキメたのもあーたと会う前だったし……」

期間が空いても禁断症状が抜けないということは
頻度はともかく回数的には濫用のし過ぎだろう。
寧ろ禁断症状に苛まれていながら手元にある薬に
手を出していない方が異常とも言える。

「実害とかの問題じゃなくて気分的な話っすよ。
顔も服も良ぃのに勿体ねーって思っただけです。
服は擬態なのか仕入れたのか知りませんが。

機械の魔術行使に興味惹かれるってことはホントに
魔術の畑だけに特化してたクチっすかね。それとも
実戦より研究メインでやってたんすか?

物理現象は魔法と交わらない法則で成り立つから
物理的整合性だけを考えて作られた機械は魔術の
行使に適していない場合が多いし、両方を使える
ように組み立てるのは難しいって良く聞きます。

けど世界は理論上の完全理想状態では出来てない。
物理と異なる法則で成り立つ魔法を用いて熾した
炎で燃焼という物理現象が起こせるくらいなんで。
それを利用して魔術ベースで機械を組み立てるとか
機械に位相をズラした魔術基盤を重ねる研究とか
結構進んでるみたぃっす。

あーしも実物は見たコトねーですが、革新派では
魔術行使を機械に組み込む定石とか儀式的要素を
含まなぃ魔術の全体を魔法陣や詠唱だけに収めて
記録媒体に保存する技術は実用化出来そうだとか。
先月の中旬にも常世学園の魔術科から論文が2本
出てましたし、参考になるかも」

主流でないはずの分野の要点がすらすら出てくる。
魔術の行使が出来ないにも関わらず……否、逆か。
出来ないからこその渇望から模索を続ける彼女は
深い見識を身に付けている。

フィーナ > 「……………ふむふむ。かなり詳しいのですね。参考になります。何分、私も取ってつけた『にわか』に近い知識なもので。」

実際のところ、魔術の天才から剥ぎ取った知識なのだ。魔術の行使等に優れていても、その根幹については何もしらないと言っても過言ではない。

とはいえ、彼女の話はとても参考になる。

何故彼女は美酒の器でありながら、それを活かせないのか。

「………つかぬことを聞きますが。その体質で何故魔術に興味を持ったのです?その渇望とも言える興味を。」

黛 薫 >  
「ニワカでも使えねーよりは立派っすよ。
世界一早く走る車でも燃料が無けりゃ鉄クズだし
万人を殺す兵器でも発射装置がイカれてたら何の
脅威にもならねー、そーゆーコトでしょ」

淀んだ瞳に過ぎるのは嫉妬か、羨望か。
それとも──非才を信じている己への失望か。

「きっかけとか、もう覚えてもねーですよ。
つーか好きなものを好きになったきっかけとか、
必ずしもあるものじゃねーですし。

ああ、でも。

こんだけ苦しくても捨てられないくらいだから、
忘れただけで、本当は子供ながらに夢中になる
きっかけとか……あったなら良ぃなって、未だに
時々思ぃますけど、それだけ」

膝を抱えた姿勢で物憂げに頬杖をつく。

仮に本来持つ魔術への『縁』が切れていなければ
彼女は存在そのものが『誘惑』と言っても過言では
なかっただろう。器しか残っていない現状でさえ、
暴き立てれば『存在したかもしれない可能性』すら
焦がれるほどの甘露になり得る。

その価値、その甘さを本人すら知らないのに。

フィーナ > 「………妙、なんですよね。貴方の体、少し調べてみたんですけど。貴方、もしかして過去に魔術使えたんじゃないかな、って、思うんですよ」
感じたことを、言う。

それは、期待をもたせる言葉。

過去には出来たのではないか、という。

何故、そう『された』のかは、わかる気はするが。

黛 薫 >  
「……気休めなら、いらねーです」

抱えた膝の奥に顔を隠す。そんなことをせずとも
この雨の中では流れる涙など見えようも無いのに。

心は既に諦めているのだ。手を尽くしても覆せない
『不可能』を誰よりも深く間近で体感してきたから。
なのに、本能から湧き上がる渇望が足を止めさせて
くれない。諦観と渇望が衝突する度に心が軋んでも。

貴方とて天才から奪い取った感性が無かったなら
微かな名残を感じ取れはしなかった。それくらい
厳重に『縁』を切られている。

「あーしは魔術を使うため、あーたは知的好奇心を
満たすため、利用し合うだけの関係。もし心持ちが
実現可能性に影響するなら、最初に提案したように
脳でも弄れば良ぃでしょ。可能性を語るメリットは
あーたには無ぃんじゃないすかね。単なる実験体に
言う必要も、何も……」

フィーナ > 「…方策によって得られる結果が違うからですよ。もし、私の考える仮定が正しければ…貴方は無二の力を得ることが出来る。断言しても良い。」

そうなれば、私は食い物として、貴方を認識することになるが。

「貴方は天性の才能を持っています。私のお母さんと同様に。それに、『栓』をされているというだけで。
どのようにして『栓』をしているのか、まだわかりませんが…『貴方自身の手』で、魔術を行使したいとは、思いませんか?」

これは、下拵えのようなものだ。食べられぬように渋みを持った果実から、それを抜くような。まずは、本人から、『美味しくなる』ように、仕向ける。

黛 薫 >  
「封印とかそっち系の仮定っすよね、要は。
あーしはそういうの、もう信じて無ぃんすよ。

そういう体質、って片付けるには不自然だって
分かっちゃいますけぉ、そうかもしれなぃって
期待を持たせてきた輩は全員失敗しましたんで」

彼女の話す前例が被験体として取り込むための
甘言だったのか、貴方と同様に薫りを嗅ぎつけて
それを啜ろうとしたのかは分からない。

未だに喰われていない事実と、その身体に刻まれた
非人道的とも言えるほどの試行の痕が失敗という
結果を示しているだけ。

「それでも、自分の力で魔術を使いたいのは……
変わりません。まだ試してない方法があるなら、
あーしはきっと何を言われても断れない。

だから例えば期待をちらつかせてあーしを手元に
留めようとしてるなら不要っす。どうせあーしは
逃げませんし、逃げられませんから」

深く根付いた諦観は、簡単には変わらないだろう。
だが干された美酒が一滴も戻らなかったとしても、
『下拵え』が僅かでも成果を上げたなら。

名残でしかない薫りは、今よりももっと強烈に
貴方を誘うだろう。その甘さ、その危険性は……
今の段階でも容易に想像できる。

フィーナ > 「…まぁ、諦めるのは勝手ですし、私の方策が成功する保証はありません。ですが…『私は人ではない』。だからこそ、取れる方策もあるとう言うものですよ」
調べるために。

手を広げる。

ぐにぐにと変形させて、薫に近づける。詳細に、調べるために。

全身を包み、体の中まで、果ては血中にさえ。全てを調べ上げるために。

黛 薫 >  
お世辞にも友好的とは言えない好奇心だけで
繋がった怪異の検診を抵抗もなく受け入れる。
肝が据わっているだけではこうはいかない。
魔術への渇望は、彼女自身でも逆らえない。

まず簡単に分かるのは彼女の才を枯渇させたのは
魔術的な手段ではないということ。魔術を用いて
魔術との縁を切る場合、不可避の矛盾が生じる為
こうも強力な断絶には至らない。

つまり『貴方の専門知識だけでの解決は難しい』。

それは障害であると同時に手間を省けることにも
繋がる。何せ彼女の身体には元の術式を辿れない
ほど失敗した試行の痕跡が絡み合っている。

そんな複雑な痕を調べるなら途方もない手間が
必要になるところだった。

次に分かるのは魔術との縁が切られているだけで
それ以外の異常は全く見られないということ。
薬物やアルコール、煙草の常用による健康上の
不具合はこの年齢としては不自然と言えなくも
ないが、それは全くの無関係なので割愛。

なみなみと湛えられていたはずの美酒は栓をされて
いるか、飲み干されたか。実現可能性を考えるなら
前者だろう。後者の場合、雫のひとつも残さず空に
するなら、余程の存在が一枚噛んでいると見るべき。

しかし彼女の『才』にそれだけの価値があった点を
鑑みると……後者の可能性も排除はしきれないか。

黛薫が協力的なのもあり、調べること自体は容易。
だが調べるなら残り香に触れるのは避けられない。

長く精密に調べるほど、その薫りは深く貴方を
酔わせかねない。飢え果てた獣に極上の血肉の
香りを嗅がせ続けるようなものだ。適度に期を
見て切り上げなければ、誘惑はどこまでも強く
なるだろう。

フィーナ > 「…………」
じゅるり、と舌舐めずりしながら、調べ上げる。
もっと深く、深く。

食欲を満たすように、ぱきり、と。自分の中の結晶を割る。

これは、本当に美酒だ。だからこそ、解き明かすべきだろう。

薫になにかの術式…魔術ではない何かを施されているのは間違いない。で、あれば。有象無象の痕跡の中に、それに至る痕跡があるはずだ。

本能と、理性の戦い。
美酒の瓶を傷つけぬように、栓を閉めた『跡』を探し出そうとする。

黛 薫 >  
数多の試行、失敗の痕跡。あまりにも多すぎる
それらを無視すれば……調べる場所は限られる。

故に調査を続けるなら『全てを調べ上げる』こと、
言い換えれば『見逃しがないと断言できる』まで
調べることが可能である。無論、それをするには
深く酔わされる危険を許容しなければならないが。

その場合何かしらの細工、術式の痕跡、魔術との
縁を絶つために刻まれた痕はどこにも存在しない
ことが明確に分かる。

何の痕跡も残さず、対象に何の条件も持たずに
縁を絶てる存在が干渉したのならお手上げだ。
しかしそうでないなら、と仮定した場合どうか。

痕跡が何処にもない以上、疑うべきは不自然では
ないはずの部分。彼女の個性、特質と片付けても
何らおかしくない部分まで精査する必要がある。

その場合、考え得るのは2箇所になる。

ひとつは霊的存在との親和性が異様に高いこと。
もし彼女の本質が誘惑に類するものであるなら
魔術的部分だけに惹かれる存在だけがそちらに
干渉し、残りを放置したために親霊体質だけが
残ったと考えられる。

もうひとつは……彼女の『左の眼』だ。
右と色の違う瞳は異能か体質か、いずれにしても
彼女が持つ何らかの『力』の中核と言って良い。
細工の痕跡こそ無いが、仮に彼女に干渉するなら
どうするかを考えた場合、現実的な手段として
提案されるのは中核、瞳からの干渉になるだろう。

フィーナ > 「…………成程。」
ずるり、と。彼女から手を引く。ズルズルと、彼女の中から引いていく。

「成程、なぁ。たしかに霊的なものなら封印とからお手の物か。魔力が失われた空白部分が親霊性を高めているのか、それとも相異をズラされて空白になっているからなのか…なんにしても左目の調査が必要かな…」
ぶつぶつと、独り言をつぶやく。
得られた情報をまとめて、憶測を立てる。なんにせよ、全身に至る調査だ。これ以上は薫の身がもたないだろう。

「そうね…薫。住む場所に困ってないかしら?必要なら、提供するわよ?なんなら、食事も。まだ調べないといけないことがあるから。」

黛 薫 >  
「……あんま気持ち良ぃモンじゃねーですね」

身体の中、腑どころか血や体液に至るまで徹底的に
調べられたのだ、その負担は推して知るべしだろう。
出会った当初から万全の体調では無かったはずだが、
気丈にも憎まれ口ひとつだけで済ませる。

しかしそれ以上の体力、気力はもう残っていない。
ぐったりと座り込んだまま、気怠さに身を任せる。

「前回名乗りましたっけ?あー、いぁ。その必要も
無ぃってコトか。分裂、繁殖出来るなら情報収集も
お手の物だよな、はぁ……。つか、あーたの名前も
聞ぃてない……あぁもう、怪異に名前があるのかも
知らねーですし、何かもういいや……。

身を寄せる場所の候補くらぃならありますけぉ。
軒先でも貸してくれるなら今日は……甘えます」

雨の中、消耗した身体で快適でもない寝床に
向かうほど無謀ではない。怪異に頼るのだって
良い選択ではないが、相手も利害を考えると
この状態の自分を放っておきはしないだろう。
断ったところで連れ去られるのが関の山。

フィーナ > 「あれ、言いませんでしたっけ。私の名前は、フィーナですよ。フィーナ・マギ・ルミナス。と言っても、『貰い物』ですが。じゃあ、行きましょうか」
じゅるり、と舌舐めずりしながら、抱き上げる。

そして、いくつか使っている拠点の一つ、落第街の中ではそこそこ上等な一室を与えるだろう。まぁ、ここは薬を売ってる連中から頂いた場所ではあるが。

フィーナはもう、彼女の封印を如何に解くか、しか考えなくなっていた。
美酒の香りを知ってしまったから。その香りに囚われてしまったから。
だから、側に置こう。できるだけ、良い待遇をして。一番上等であろう部屋を与えよう。

そうして、封印が、解けたのなら。

薫を、部屋に置いて、食料などを置いてから、立ち去るだろう。

舌舐めずりを、しながら。

黛 薫 >  
思考とは知的生命体の根幹にありながら、或いは
あるからこそデリケートだ。思考が出来なければ
獣と変わらず、だが肉体と精神が万全でなければ
思考の能率は大きく落ちていく。

貴方が多少の無茶を通してでも調査をしたのは
ある観点から見れば妙手だった。いかに黛薫が
逃げない、逃げられないとしても貴方の態度に
気付いたなら身を守る手段くらいは考えたはず
だったから。

けれど疲労困憊の彼女は舌舐めずりをする姿にも
気付かず、部屋に着くなり眠りに落ちてしまった。

甘美が心を繋ぎ止めるのは何も貴方だけのことでは
なく、快適な拠点を知ってしまった以上黛薫もまた
多少は貴方を頼るようになるだろう。

思惑や真意はともかくとして、貴方の『視線』が
変わったことにはすぐ気付くだろうが、その前に
恩を売ったのは大きい。

誘い、誘われ、繋がれているのは──何方か。

ご案内:「落第街」から黛 薫さんが去りました。
ご案内:「落第街」からフィーナさんが去りました。