2021/07/07 のログ
ご案内:「落第街大通り」に神代理央さんが現れました。
神代理央 >  
今日は、一年に一度の七夕。
短冊に願い事を書けば叶う…らしい。
まあ、実際に願いが叶う訳でも無い。そういう風習の祭り、というだけの事。
それに、異能も魔術も現実のものとなったこの世界では、案外願えば叶うものもあるかもしれない。
少なくとも、此の落第街の住民すら笹に短冊を吊るす程度には…信頼されている様だ。

「…一年に一度願ったくらいで、錚々簡単に叶えてくれるものなのかな」

祭りだろうと何だろうと。己の仕事は変わらない。
鋼鉄の異形を従えて、何時もの様に落第街の視察を行っていれば――異形が歩く度に起こる振動で、此方に倒れて来た笹が一つ。
それにぶら下げられていた短冊の類に視線を落とすと、しゃがみ込んでそれを眺めながら…誰ともなしに、呟いた。

神代理央 >  
書いてある願い事は…まあ、予想通りと言ったところか。
金持ちになりたい、だの。裕福な暮らしがしたいだの。
健康を祈るものや、力を求めるものまで。
『表』の願い事よりも、少しばかり我欲…というより、生き残る術を求めるものが、多い。

「藁にも縋る…いや、この場合は、笹に縋っているのかな?
まあ、その感情は理解出来なくもないが…」

笹を持ち上げ、近くの壁に適当に立てかける。
建物の中から不安そうに此方を覗いていた住民が、慌てて逃げ出していく物音がドタバタと響いた。
連中の願い事は、私に目を付けられない様に今日を生き延びる事、になるのかななんて。
少しだけ可笑しくて、クスクスと笑ってしまう。

神代理央 >  
その願いを馬鹿にするつもりはない。
彼等の生活環境を考えれば、至極当然といったところだろう。
良い生活をしたい。他者から虐げられぬ生活をしたい。
奪われない生活をしたい。
その気持ちは、分からなくもない。ならば表の世界に来たらどうだ、と思うだけだ。

「それが出来ぬから、こうして神頼みに走るのだろうがな」

まあ、この神頼みの意味がない事は、こうして自分が健在である事を見れば明らかだろう。
彼等にとって"奪う者"の一人である自分が、今夜もこうして落第街に立っている。
住民達は唯、その砲火が此方に降り注がない事を祈りながら通り過ぎていくのを待つばかり。
血気盛んな違反部活は、未だその拠点も遠い。非力な住民達では、精々石を投げつけるくらいだろうか。
それすらも無いのだから、本当に神様とやらに祈っているのだろう。

「……流れ星の代わりに、砲弾の雨で良ければ幾らでも降らせてやるのだがな」

物騒な冗談を零した後、再び前へと進む。
金属の異形達が、背中の砲身を揺らして後に続く。
立てかけた笹が、また地面に倒れてしまう。

神代理央 >  
倒れた笹を最後に一瞥した後。
少年は再び歩き出す。
落第街の奥へ。薄暗く、仄暗い。願いの光も届かぬ場所へ。

ご案内:「落第街大通り」から神代理央さんが去りました。