2021/09/29 のログ
ご案内:「落第街」に黛 薫さんが現れました。
■黛 薫 >
取れる選択肢の多さは心の余裕に繋がるらしい。
お金に追われない生活をして今更ながら気付いた。
金欠は人間らしい生活が終わる刻限を知らせるし、
空腹は明確な死の気配を匂わせて判断を焦らせる。
それらを避けようとすればリスクのない選択肢は
取れなくなり、結局精神を擦り減らす羽目になる。
素より落第街に居を構える以上選択肢は多くない。
限られた道は生きるため、心に余裕を持つために
更に狭められて、知らない間に自分の首を絞める。
その苦しさを知っているからリスクのない仕事を
選べるのはありがたい。稼ぎは随分減っているが
支出も減ったから結果的に懐は潤っている。
明らかに足元を見られた報酬を文句ひとつ付けずに
受け取った帰り道、こつこつ稼いだ貯金額に想いを
馳せていた。
■黛 薫 >
貯金の目標は薬物を購入に充てられる程度の額。
食事も寝床も用立てて貰っている立場ではあるが、
薬物だけは今のところ一度も要求したことがない。
仮に要求した場合、同居人の身元を考慮すると
多分洒落にならない金額と強さのブツが来る。
線を引いておかないとずぶずぶ戻れない所まで
逝ってしまう気がする。
依存症を発症している現状、既に自力では社会に
戻れないのは……自覚はあるが一旦置いといて。
(いくら支出が減っても、リスクを承知でデカい
ヤマを受けるよりは……まあ、時間がかかるな)
危険のない仕事で得られる金は文字通り雀の涙。
自費で生活費を賄っていたら赤字になる額だ。
■黛 薫 >
(あーしに出来る仕事、落第街にしか無ぃのって
おかしいように見えんのかな。分かってっけぉ……)
表の街で募集されるような後ろ暗いところのない
アルバイトは、対人関係や向けられる『視線』の
関係ですぐに精神の限界が来てしまう。
落第街も人が暮らす以上、生活基盤を支える仕事は
低リスクで雇ってもらえる。しかしあらゆる条件が
表の街より悪いのだから、それにすら耐えられない
黛薫の働き口は無い。
普通の仕事が出来ないから生きるのに必要な額の
お金を得るためには非合法の仕事しか無かった。
しかしながら喧嘩や組織間の抗争を請け負うには
度胸も腕っ節も足りないし、殺しなんて尚更無理。
自分くらいの年齢の女子が1番簡単に稼ぐ方法は
身体を売ることだが、嫌悪を振り切れない。
ご案内:「落第街」に神代理央さんが現れました。
■黛 薫 >
細々と使い走りを引き受け、地道に信頼を勝ち取り
不安定ながらも何とか命を繋ぐだけのお金は稼いで。
それでも足りない薬代は、恐怖と嫌悪を飲み込んで
危険の大きな仕事を引き受けて得ていた。
怪我をして報酬から治療費を差し引いて大損したり、
使い捨て前提の仕事を任されてスケープゴートに
されてとっ捕まったり。
痛い目に遭い、ともすれば命すら危ういリスクと
秤にかけてなお重く傾くほど、薬物は自分の中で
大きな割合を占めている。そんなどうしようもない
事実が、社会に適応出来ない自分を象徴している。
心が沈むばかりなのに、誘惑を振り切れない。
それでもどうにか命を繋げているのは女性であり、
かつ落第街ではそうそうお目にかかれない若さで
あるお陰だろう。不幸中の幸いでありそれ自体が
ハンデであり、不幸そのものでもある。
生きていけないほど幼くなく、飼い殺すほどの
需要はなく、使い捨てるには丁度良く成熟して、
後始末が必要ないレベルで脅威にならない弱者。
ヘマをやらかしても、嵌められても、殺すより
丁度良い『使い道』があったから、好きなだけ
弄ばれて捨てられるだけで命は取られなかった。
(あ、やべ……)
嫌なことを思い出してしまった。
考えなければ良かった、と思った頃にはもう遅く、
這い回る視線の感触が幻覚を伴って身体を苛んだ。
■神代理央 >
少女が落第街の影と陰を渡り歩くのなら。
少年は、強引に松明で…いや、投光器で暗がりを照らす様な存在。
規律と規則を翻し、権威の名の下に強大な武力で圧制する。
正しき者を守護し、正しく無い者を罰する。
「……相変わらず、景気の悪そうな事だ。いや、貴様と出会う時は、いつもそんな感じだったかも知れないが」
こつり、コツリ、と。
落第街に似合わぬ上質な革靴の音を響かせて少女の前に現れる風紀委員の少年。
出会いは偶然。単に、巡回と称した落第街の探索ルートで見知った顔を見かけたから声をかけただけ、の事。
傲慢と高慢を滲ませた少年は、何の感情も込められていない視線と共に、少女に声を投げかけた。
■黛 薫 >
「うわ出た」
露骨に嫌そうな顔を見せ、気を紛らわせるために
取り出した煙草をしまう。風紀委員の前だから
煙草を控える。当たり前のようでいて落第街では
異端の行いだが、彼女は概ねいつもそう。
「生憎と、最近のあーしは景気イィ方なんすよ。
ひでー顔してるのはどーせいつものコトなんで?
放っといてくれたらありがたかったんすけぉ」
這い回る幻触の感覚の所為で、読み取れるはずの
視線も分からない。普段は肌を剥ぎたくなるほど
嫌いな感覚も、頼れないとなると途端に心細い。
もっとも、ある種ブレないスタンスを貫き続ける
彼の前では元からそれも意味を成さないのだが。
■神代理央 >
「出会い頭に随分な御挨拶だな。まあ、貴様に愛想よくされても不気味なだけだが」
と、あからさまに嫌そうな顔をされても涼し気な顔。
実際、本当に愛想よくされた方が戸惑っただろう。
そのくらい嫌われている、嫌悪感を持たれているだろうとは
重々認識しているところ。
とはいえ、取り出した煙草を仕舞う姿には、流石に苦笑いを禁じ得ない。
正々堂々と吸ってしまえば良いのに、と。
「ほう?真っ当に稼ぐ術を覚えたかね。生憎、その辺りは
私の管轄では無いが…」
まあこれは、期待半分諦め半分と言った所。
真っ当に稼いでいるなら良し。違反、或いはすれすれのグレーな
稼ぎであっても、証拠が無い限りは特段咎める事も出来ない。
真っ当であって欲しいな、という様なもの。
「とはいえ。以前の様に狂乱状態でないだけマシ、と言えるか。
金に余裕があれば、多少は精神的にも楽になったかね?
であれば、健全に復学する為に引き続き努力して欲しいものだ」
少女の此れ迄。そして、どうやって金を稼いでいるのか。
何より、少女が今どういう状態なのか。
それを知る由も無い少年は、何時もと変わらぬ態度と口調で
ゆっくりと少女に歩み寄る。
とはいえ、それは別に距離を詰めようとか、捉えてやろうとか。
そういうものではない。
会話するに適切な距離まで近づこうとしただけの、足音と、気配と。
それだけが、少女に伝わるだろうか。
■黛 薫 >
「ノーコメントっす。んでも、あーしはしばらく
大人しくしてますとも。違反せずに生きられるなら
その方が良いってことくらい……あーたの前じゃ
言いたくもねーですが」
事実、ここしばらくの間彼女の違反報告はない。
錯乱によるいざこざなら自首するし、それ以外の
軽微な違反であっても見つかれば言い逃れしない
彼女のスタンスを鑑みると、何もしていないのは
事実だと推測できる。
ただ……同時に彼女が表の街に出る機会も極端に
減っている。落第街への嫌悪と真っ当な人生への
憧憬を抱く彼女にしてはこれもまた珍しい。
「戻れるもんなら戻りたぃのは変わりませんけぉ。
今は……少しワケ有りで問題起こしたくなぃんす。
あーし以外にも迷惑かかるんで?約束、っつーか
そういうの、守らなきゃなのは落第街だろーが
関係なぃっしょ」
現状について軽く言及したとき、足音が近付く。
ひゅ、と少女の喉奥で引き攣ったような呼吸の音。
反射的に足を退きつつ身を守ろうとするかのように
震える手を彷徨わせ……思い留まって立ち止まる。
「……いぁ、ごめんなさぃ。あーたがそういう、
急に気が変わって手ぇ出すとか……そーゆーの、
しないって分かってるんすけぉ。あーしも少し、
はぁ、気ぃ張り過ぎてたかも」
生白い肌の色も、滲む冷や汗も、不安定な彼女の
精神が改善していないことを伺わせる。