2021/10/20 のログ
マルレーネ > ……ふう。
ようやく手が止められて、一息ゆっくりと吐き出して。

「………なんでここの人ってこう喧嘩っ早いんですかね?
 私、特に喧嘩をしたいとか言ったつもりはないんですけど。」

とほほ、と肩を落とす。
基本的にこういった街は、どんなサービスも、どんな商品も、全てが縄張りによって成り立っている。
そのど真ん中で、ほぼ無償での医療サービスを展開すれば、まあ正直よく思わない人もいるのだ。

居ない間に物が盗まれるのは、毎回全部持ち込むことで解決をしたが。
因縁をつけられるというのは毎度、どうやってもなかなか回避はできない。

「………まあ、仕方ないんですけどね。」

ちぇー、と、少しだけ腫れた頬を撫でながら。
こっちから手を出すわけにもいかないのだ、聖職者として見られている以上。

マルレーネ > え、因縁をふっかけた相手ですか?
ぶっ飛ばした後、治療をして追い返しました。

「……ここを使う人はそこそこ増えては来たんですけどね。
 うーん、………もうちょっと、こっちの世界の格闘技というか、そういうのを習ってもいいかもですけど。」

彼女の故郷では、このように全員が全員、体術を修めて戦っているような気配は無かった。
……いやまあ、錆びついた斧とかナイフとか数多く向けられてただけだった気もする。

「………ふー、痛いですけど、さっさと片付けますか……。」

いてて、と頬と腰を撫でる。
なんだかんだ、身体はすぐに痛む。

ご案内:「落第街-施療院」からマルレーネさんが去りました。
ご案内:「落第街大通り」に神代理央さんが現れました。
ご案内:「落第街大通り」に『シエル』さんが現れました。
神代理央 >  
この日も、何時もと変わる事があった訳ではない。
表の生徒にとっての非日常は、己にとっての日常だ。
異能や魔術が――と言う訳ではない。
命を奪い、殺し合い、火砲と砲火で蹂躙する。
鋼鉄の異形が、瓦礫と人を踏み潰す。
そういう戦いが、己の"日常"なのだ。

「……私だ。目標の殲滅は完了した。
…ああ。そうだ。此方に増援は必要無い。
私の動きに対して、落第街がどう反応するか。
各違反部活の動き。落第街そのものの動き。
そこに何か変化があるかどうかだけで、構わない。
データを、情報を集めておけ」

此方の動き…というか、行っている事は何時もと変わらない。
風紀委員会に取っては多少目障りではあるが、大規模に風紀委員を
投入する程でも無い様な違反部活。
そういったモノを、刈り取る。業火の海に沈める。

そういった"日常"が、敵にどんな動きを齎すのか。
或いは、何も動かないのか。
まず情報を集める。一手打って、次の出方を見る。
その繰り返し。

(……これが、何か問題の解決に繋がるものであれば良いのだが)

状況は進んでいるのかいないのか。
それが見えない現状では、大きく動く事も出来ない。
忌々し気に舌打ちしつつ、燃え盛る廃ビルだったモノを見つめていた。

『シエル』 >  
「……満足しました?」
 
それは、肌寒くなってきた夜の空気を尚、冷たく切り裂くような。
それでいて、どこか柔らかな鈴の音を彷彿とさせる不思議な音だった。
周囲に警戒の目を配っているのであれば、その音が発される前に少女の姿に気づくこともできるだろう。

風に靡く白髪。紫色の瞳。
鉄火の暴虐の爪痕の中にあって尚、
幻想の一場面を切り取ったような澄んだ風を少女は纏っている。


敵意はない。
殺気もない。
その瞳に映るのは、
瓦礫の山と――それを引き起こした一人の少年だけだ。


殲滅完了の報告をする神代 理央から少し離れた瓦礫の壁に、
少女は寄りかかっていた。

「満足、しましたか?」

少女はもう一度、問いかける。

震えはない。
恐怖もない。
その瞳に映るのは、
踏み潰された肉塊と――神代 理央だけだ。

神代理央 >  
金属の軋む音。
己の周囲を囲う鋼鉄の異形達が、一斉にその砲身を少女に向ける音。
少年よりも先に、少年を守る従僕達はそれが当然であるかの様に、少女に砲口を向ける。
それは、幻想を焼き尽くすヒトの造りし道具。
少女の静謐な迄の空気すら、硝煙で包み込もうとする鉄火の暴風。

――だが、その砲火が放たれる事は、無い。

「……一度、会った事があったかな。…いや、どうだろうか。私は敵が多いからな。
一々覚えてはいられないのだが」

投げかけられる言葉に、愉快そうな笑みと言葉。
少女の纏う雰囲気には、覚えがあるような、無い様な。
目の前の少女には、確かに見覚えが無い。
だから、そんな言葉を投げかける。

「満足したか、だと?私が、個人的な満足感の為に殺戮に
興じているとでも思っているのかね。
私は私が行うべき任務を遂行しているだけだ。達成感、という
満足感は、否定しないがね」

清廉な少女の纏う空気と、瓦礫をも燃やし尽くす業火。
それらが交じり合う場所で、少年と少女は向かい合う。
少年は唯、愉快そうな声色と共に少女に視線を向けるばかり。
今のところ、敵意と砲弾が少女に向けられる事は、無い。

『シエル』 >  
少女に向けられる砲口。
その表情
常人であれば、1秒とてその場に立っていられまい。
少なくとも、冷静さは欠くであろう。
それ程までの威圧感。
これこそが、落第街に脅威を振り撒く破壊の権化。
少年がその気になれば、少女は一瞬で消し炭となるのだろう。

だがしかし、少女は動じない。
否。危険を察知する為に人間に備わった機能――恐怖、不安。
そういったものが、彼女からは感じられない。
だからこそ、本当に生きているのかどうかも疑わしいほどに、
少女の存在は幻想的な人形のそれにも思えることだろうか。

「さて、どうでしたでしょうかね。
 何度も、貴方の活躍を拝見してはいましたが……」

くん、と。首を傾げた少女は向けられた方を覗き込む様に一歩、
近づいた。

「貴方ならばそう仰ると考えていました。
 貴方は私利私欲を満たすサディストでもなければ、
 弱き者を踏み躙ることで自らの存在を肯定せんとする
 哀れな存在でもない。与えられた任務を達成することで
 満足感を得るのであれば、それ自体は。
 ああ、それ自体は至極健全――
 『崇高な使命』の為にその力を振るう、『英雄様』だと――」


そう口にして一歩、今度は神代の方へと歩を進める。

「――そう、お見受けしていますよ」

変わらず、殺気どころか敵意すらもない。
まるで、冷たい夜風が少女の形を成してそこに幻像を見せているかの
ような印象を受けるだろう。
彼女は何処までも虚ろだった。

「私は――『シエル』と申します。以後、お見知りおきを、『英雄様』」

虚ろな瞳をそちらへ向けながら、まずは一度。
ここで少女は口を閉ざした。

神代理央 >  
「知った様な口を聞くじゃないか。
しかも『英雄様』とは、随分と過大な評価を頂いたものだ。
皮肉か何かか、と嗤ってしまいたくなる」

『英雄狩り』を称する特務広報部の長たる自分が
まさか英雄などと称されるとは。
笑い話にもならない。嫌味か皮肉であった方が、まだ分かりやすいというもの。
だから少年は、少女の言葉にフン、と傲慢な態度で言葉を返す事になる。

「……だが、どうにも馬鹿にしている訳では無い様だな。
貴様からは少なくとも…『悪意』を感じない。
もっと言ってしまえば、感情が感じられぬな。
造り物。マネキン。人形。ロボット。何でも構わぬが、ソレと
類似したものと喋っている気分になる。
見栄えが整っているのも要因かな。
ヒトは、美しいモノには造形美というものを感じるらしい。
私は別に、どうとも思わぬが」

己の従僕たる異形が、禍々しく醜い見た目であることも相まって。
少女の美しさと幻想的なその成り立ちは、此処が落第街という事すら
忘れさせてしまう様な雰囲気を纏っている。
……尤も、だから手心を加えるという訳でもない。
美しかろうが、醜かろうが。賢者であろうが愚者であろうが。
己の砲火は、振るうべき相手に振るわれるだけだ。

「――シエル、か。態々名を名乗るとは丁寧な事だ。
では、私も名乗り返そうか。既に、知っていると思うがね。
私は神代理央。風紀委員会。鉄火の支配者、とも呼ばれているよ。
…間違っても『英雄様』などと、大それたものではない。
そこは、勘違いをしないで欲しいものだな」

近づく少女に合わせて、ゆっくりと軋み、砲身を向けた儘の異形。
それでも臆する事なく1歩此方へ近付いた少女を、愉快そうに
見つめるのだろう。
造り物どころか、宵闇に現れた陽炎の様な幻想的な少女を、じっと。

『シエル』 >  
「決して過大評価ではありませんよ。
 貴方は、貴方が思っている以上に重いものを背負っている。
 そしてこれからも、背負おうとしているのですから――」

そうして、踏み躙られた人の生に一瞬目を落とせば、
神代 理央の方へと視線を戻す。

 「――それも、『世の秩序』の為に。
 その在り方を英雄と呼ばず、何と呼びましょう?」

語られる言葉は静かに、淡々と。
冷たい風に乗って、届けられる。
しかしながらその音には無論、神代が感じている通り、
怒りも侮蔑も織り込まれてはいない。

「造り物。マネキン。人形。ロボット。どれもよく言われるものです。
否定はしませんよ、残念ながら感情を表すのは苦手なものでしてね」

しれっとそう口にしながら、見目について評する男の砲口が変わらず
自身へ向けられていることを確認する少女。
それを確認すれば、僅かに頷くのであった。『そうでしょうね』とでも言いたげな様子だ。

「……いいえ、貴方は英雄。
 今、自分で仰った通りの『大それた英雄』なのです。
 任務の為に瓦礫の山を、肉の山を。
 積み重ねさせることに何の躊躇もない。
 とても『人にできることではない』――」

そこまで口にして、シエルと名乗った少女は目を細めた。

「――本当に壊れますよ、その内。取り返しがつかないくらいに」

その声色は僅かにトーンを落としたもので、
また少しばかり柔らかさを増したもの――そのように感じられるだろうか。

神代理央 >  
「……英雄とは、世の秩序を護るべきものではない。
『世界そのもの』を守るべき者だ。
或いは、全ての人々の幸福、とでも言い換えるべきかな?」

感情の籠らない、少女の涼やかな声。
それに答えるのは、変わらず尊大な態度を崩さぬ儘の己の言葉。

「私は、全ての人を救わない。
私が救うのは、最大多数の者達。社会。世の在り方。
功利主義、と言い換えられるのは慣れているが、英雄などでは
決してない。寧ろ――」

其処で、言葉に籠る感情の在り方が僅かに変わる。

「……私は、英雄を殺す者だ。100を救う為に10を切り捨てる私は
決して英雄と称されるべきではない。
英雄は、瓦礫の山を。屍の山を築く事を、躊躇しなければならない。
人々を救う事を、諦めてはならない。
この街の住民を。落第街の者達を。違反部活の犯罪者たちを。
全てを救おうとする、清廉な魂が必要だ」

そこに籠る感情は、自嘲、憤怒、諦観、嘲笑。
『自分は英雄などではない』それは、言い換えればつまり。
『英雄とはこうあるべきだ』という、子供じみた英雄願望に過ぎない。

「……壊れたところで、それが任務に支障が無ければ問題あるまい。
世界の多数派を守る者というのは、得てして何処か壊れているものだ。
私も、その中に一人に過ぎない。そうなるべくしてそうなるのなら
壊れたところで、さして支障も無い。
そもそも、何を以て壊れると評するのか…というところにもなるがね」

僅かに。ほんの僅かにではあるが、感情の色が垣間見える少女。
感情を表すのが苦手だと告げた少女から僅かに零れた、柔らかさ。
それに応えるのは、変わらない尊大。変わらぬ傲慢。
『支配者』とはかくあるべき。世を導く指導者とは、得てしてどこか壊れているものだ、と。
薄く唇を歪め、嗤ってみせた。

『シエル』 >  
「『英雄狩り』」

その名を口にする。
無論、知らぬ訳ではない。
知った上で、『シエル』は彼を英雄と呼んだのだから。

「貴方の理想とする『英雄像』はよく理解できました。
 そして今の言葉で、貴方の抱えるモノ。
 その本質にも少しばかり確証が持てた……ように考えられます」

『シエル』は感情を持たない。
それでも目の前の少年が語る理想。
言葉の数々に籠めた自嘲、憤怒――そういった感情は、
感じることはなくとも論理的《ロジカル》に理解することはできたようだ。

「全てを救う。そんな夢物語《えいゆう》はこの世に存在しません。
 今、この場に立ち、己の信念に従って誰かを救おうと動く者こそが。
 血を通わせている者こそが、真の英雄なのです。
 
 だから、貴方がどれだけ否定しようと。
 私は貴方を英雄と呼ぶでしょう」

『壊れたところで、さして支障も無い。』
その言葉を聞いて、『シエル』は僅かに目を細めて見せた。

「そして貴方は、貴方の力を過小評価している。
 貴方の力はとても強大なものです。とても、とても。
 この破壊は、貴方の振るっている力の爪痕――その、ほんの僅かな。 
 いわゆる、氷山の一角に過ぎないのです」

そこまで口にして、『シエル』は語を継いだ。
今度は、ゆっくりと。これまでに無い口調で。
変わらずそこに色はないが、はっきりとした重みを持って。

「本題に入りましょう。
 私が今日ここに来たのは、その忠告の為です。
 貴方がこのまま『過ぎた』力を振るおうと言うのであれば――
 事態は深刻化します。
 それこそ、落第街だけでは話が収まらなくなることでしょう。
 既に……貴方の周りで『変化』は起きているのでは……?」

『シエル』はそこまで口にすれば、目を閉じた。
砲口を向けられたまま、微動だにせず。
ただ静かに彼の言葉を待った。

神代理央 >  
此処まで明確に否定しても尚、少年は英雄であるのだと告げる少女。
尊大さが崩れる。僅かな舌打ち。苛立った様なもの。

「…諄いな。まあ、貴様の英雄観がどうであれ構わない。
英雄とは、所詮世論が作るものだ。民衆が作るものだ。
民衆にそう在れ、と望まれる者が英雄足り得る。
私の事を英雄だと讃える世論も民衆も、決しておらぬさ」

自分は英雄足り得ない。それは、自分の中の英雄に反するから。
しかし、英雄とは世論が作るシステムなのだと。
少年の言葉は、矛盾している。しかし、その矛盾を信仰している。
多重思考。ダブルミーニング。
それに陥っているからこそ、自分は英雄ではない。
分かっているから、浮かべる笑みは自然と自嘲めいたものになった。

しかして。
少女の言葉と雰囲気に変化を認めれば。
少年の表情からは笑みが消える。その瞳は、対象を観察するかの様に細められる。

「…私の砲火を強大だ、と認められる事は吝かでは無い。
しかして、まるで私の力を――『私』を『私以上』に知っているかの様な。
それは、気に喰わぬな。私は、私だけのものだ。それだけは、譲らぬよ?」

気に喰わぬ、と言いながらもその口調と表情に怒気や苛立ちがある訳ではない。
そのまま、少女が次に何を告げるのか。静かに見定めている様な。

「………落第街に、いや。違反部活に対する過剰な対処については
貴様以外にも忠告を告げる者はいた。
しかし、貴様の忠告の意味合いは些か興が乗るものだ。
私の周囲の変化…変化、か」

無い、とは言わない。
寧ろ、現在進行形で起こっていることだ。
だから、それを肯定しないが否定もしない。

「…とはいえ、抑止力としての風紀委員の存在は必要不可欠である、というのは貴様にも理解出来ることだろう。
それに、仮に私が落第街での破壊行為を控えたとして、それが一体どんな解決を生み出す?
違反部活の増長こそあれ、風紀委員会と違反部活が仲良しこよし、などとはなるまい。
所詮、私も風紀委員会の駒。一つのシステムに過ぎない。
それを止めたり、控えさせたりしたところで、事態が好転するとは思えぬがな」

落第街。そして違反部活に対して苛烈な砲火を敢行する己の存在は、確かに良い影響は与えていないのかもしれない。
それでも、そう言った存在は『機能』として必要だ。
それに、自分一人が止まったところで…一体何になるというのか。
『風紀委員会』としての権威と武威を示す為、少女の言葉には…
やはり、決して頷く事は無い。