2021/11/05 のログ
■雪景勇成 > 絶え間なく流れる報告を半分ほど聞き流しながら、2本目の煙草に火を点けて紫煙を燻らせる。
既に周囲は瓦礫の山で、それらを一瞥してから、気だるそうに歩を進めていく。
――ここには鉄も業火も何も無い。ただ、累々と瓦礫の山が散らばっている。
「……あ?」
どうやら生き残りが居たらしい。下半身を瓦礫に押し潰された状態で、息も絶え絶えといった様子。
既にロクに目も見えていないのか、茫洋とした目付きがこちらを見上げてくる。
「――…め。」
何事か言った様だが聞き取れない。仮に聞こえていようが何も響く事は無いけれど。
「恨み節は好きに言え。そういうのは慣れてる。…辞世の句にしちゃ捻りが足りねぇと思うがな。」
緩く肩を竦めれば、目の前の敵の目から光が消えていくのをただ眺める。
トドメを刺す事も無い。ただ”眺めるだけ”だ。ジジ…と、煙草の火が燻る音が小さく一つ。
■雪景勇成 > ――”ソレ”を見届けてから、興味が失せたように視線を巡らせる。他に動くモノは無い。
負の感情は単純だがとても強い――それに負の感情をぶつけてもあまり意味が無い。
ならどうするか?男の答えは単純だ。受け流せばいい。
(恨み辛みは相手に届かなきゃ意味ねーだろ…届いても意味ねぇかもしれんが)
自分がさっさと無感情に受け流したように。届くほどの強い恨み辛みには足りな過ぎる。
『雪景部隊長!ポイントB-05がちょっと押されてます!至急援護お願いします!』
無線機からの個別通信に嘆息。どっちみちもうここに用は無い。仕事は果たした。
「――了解了解。3分くらいで着くからそれまで何とか持たせとけ。負傷者とかはさっさと退避させとけよ。
巻き添え食らっても俺は助けるなんて事はしねーからな…。」
そう言って通信を切れば、やれやれと煙草をもう一度蒸かす。
作戦開始とはいえ、まだまだ序盤――本番はこれからだろう。つまりこれは挨拶みたいなものだ。
気だるそうに瓦礫の群れを背景に歩き出す。もうこの場所に何の感情も無い。
――最初から無かったかもしれないが。
ご案内:「落第街 ポイントA-17」にノーフェイスさんが現れました。
■ノーフェイス >
「一本チョーダイよ」
凄惨な破壊……否、斬滅の現場。謡うような声が荒涼とした空気に混じる。
今し方生まれたばかりの敗残者の歪な墓標を背にした青年の前には、
赤と白と衣の黒で構成されたような女が、笑みを浮かべて手を差し出していた。
戦闘のさなかに背後に気配は感じなかっただろう。
戦闘中はそこに居なかったが、戦闘が終わってすぐに近づいたか、
そこに忽然と現れたかのように場違いな気安い笑顔。
そこに貴方はもしかしたら既視感を覚えるかもしれない。
どこかで会ったような気がする。
それはおそらく錯覚だ。
受け入れるなら何の意味もなくその感覚を抱えたまま。
否だ、と思い直したら、不意にそれは消えて、なぜか、
「どこかで会ったような気がする」という感覚を覚えたという事実だけが残る。
「ココってさあ、いつもこーなの?
ドーン、ババーン、ザクーッ。
人が死んだー、みたいな。
戦争の時だけ時代が戻っちゃったみたいだね」
ポケットに片手を突っ込みながら青年の肩越しに瓦礫の山を眺めた。
たとえ生物の残骸が見えても、笑みを崩すことはないようだ。
■雪景勇成 > 「――…あ?」
唐突に響く声が一つ。そちらへとゆっくりと振り返れば。
何時の間にか接近されていたのだろうか?赤と白と黒の色彩纏う女が一人。
まるで、街中で友人と遭遇した時のような気安さでこちらに手を差し出してくる。
――途端、得体の知れない既知感が脳裏を駆け巡る。
…俺はこの女を知っている?何処かで会ったか?
流石に、無防備は晒さず何時でも攻撃は出来る手筈は整えておきつつも。
(……違う。記憶の捏造…刷り込みか?)
違和感と疑念。それらを抱くと同時に謎の既知感が雲散霧消するかの如く消えて。
軽く頭を振って溜息を緩く漏らしながら、改めて女を見遣り。
もっとも、既知感は消えても感覚だけは不気味に残り続けてはいたが。
「今回は”派手”だが、別に大なり小なり珍しい事でもねーよ。
まともなヤツなら普通はこの街をうろついたりはしねぇだろうな。」
ああ、本当に色んな意味でまともな奴なら。好き好んで落第街なんて踏み込まない。
何時でも”対処”出来るようにしつつも、無造作に片手で煙草の箱を取り出して。
「――口に合わなくても知らねーぞ。」
と、一本だけそちらが取り易いように箱から煙草を飛び出させて。
■ノーフェイス >
腰を曲げ、赤い唇をあける。
白い歯がそっとフィルターを噛んで煙草を引き抜いた。
「ボクが見てきたのはマトモなヒトたちばっかりだったよ。
キミがいまこうやってズッパーンてやっちゃったヒトたちも、
ひょっとしてわりとマトモなヒトたちだったんじゃない?」
戦いの一部始終を観察していたことを、女は青年に伝えた。
差し出したまま使われなかった手をもう片方のポッケにイン。
喋るたびに火の点いていない煙草が揺れる。
「来たばっかなんだよね~、コ・コ」
唇が、笑みの形に口角を吊り上がる。
「なにがどうしてこうなっているのかが知りたい。
迷えるボクに教えてくれないかな?
聞けそうなヒトは、キミが皆ああしちゃったから。
それとも、B-05のヒトたちに聞いたほうがいーい?
親切にしてくれたら~、ついでに火もくれたら。
キミの役に立ちそうなこと、教えてあげなくもない」
■雪景勇成 > 「まともだろうが、イカれてようが興味ねーよ。既に潰した連中の事なんざ。」
瓦礫の群れを一瞥しつつも、淡々と無感情に答える。
口でタバコを引き抜く女に視線を直ぐに戻す。…こういう出方が読めない輩は特に面倒だ。
「来たばかり…ね。”何処から来た”んだろうな。」
それこそ、島の外だけでなく別の世界から来る連中も珍しくないこの島だ。
女の出自や来歴に今の時点で興味は全く無いが、油断ならない相手なのは確かか。
(…足音も気配も無く背後を取られた。…暗殺技能か空間転移か?タチが悪ぃな…。)
心の中で舌打ちをしつつも、彼女の続く言葉に目を僅かに細める。
「…”盗み聞き”でもしたか?つーか…こっちから答える事は特にねぇよ。
強いて言うなら――……”仕事”だ。辺りの同じような服の連中は同僚ってとこだ。」
作戦行動の内容を不審者に漏らす馬鹿は居ない。
ただ、端的に仕事述べながら面倒臭そうな仕草で、ジッポライターを取り出して彼女に放り渡し。
■ノーフェイス >
「点けてよね。火の取り扱いは得意じゃないんだワ」
苦笑いを浮かべながらも蓋を弾き開けて着火、吸引、紫煙を燻らせて一服。
その煙を無生物で作られたオブジェのような出来たての瓦礫の山に捧げた。
甲高い音を立ててライターを閉じると、手の中で弄びはじめる。
「何人か見てきたよー、同じカッコイイ服着てる子たち?
でもみーんなドンドンやってるからさ。
単独行動をしてるヒトを探してたってワ・ケ。
あっちでビードカやってるオトコノコはそれどころじゃなさそうだったから、
一仕事終えた感じのキミのところに聞きに来たんだ~」
ライターを持ったまま彼の横を通り抜けて、
瓦礫の前にしゃがみ込み、染み出した赤い液体に指を触れる。
地面に何かを書くように動かしながら、背を向けたまま言葉を続けた。
「これからボクもココで商売っていうか?
ブカツ?始めようと思ってるからさ。
なるべく死人は出さないでほしいんだよね。
キミたちはどうすれば止まるのかな?
まさか根絶しようってワケじゃないんでしょ?
事と次第によっちゃあボクはキミの邪魔をしなければいけなくなるし…よいしょっと」
地面に描かれた方円の中に奇妙な模様を描かれた図形が赤い液体で刻まれる。
「近道があるならその手助けをしよう。
単純な話さ、此処で味方を一人増やすか、邪魔者を一人増やすか。
キミたちの仕事が早く穏便に終わる方にボクは力を貸したい、どうかな?」
その中心に煙草の火を押印しながら肩越しに青年のほうを振り向いた。
「どうかな? 『雪景クン』」
ご案内:「落第街 ポイントA-17」に雪景勇成さんが現れました。
■雪景勇成 > 「…いや、何でそこまで配慮しなきゃいけねーんだよ…。」
苦笑を浮かべながらも、自身で結局煙草に火を点ける女。
無線から『部隊長!何処で道草食ってんですか!もう3分過ぎてますよ!』という泣き言が聞こえてくるが。
「あー…悪い、ちょっと”問題”発生。池垣とかハバキリ辺りに頼んでくれ。」
と、別の同僚たちに援護を丸投げしてから無線を一度完全に切る。
その間も、相手の一挙手一投足…何気なくライターを手で弄ぶ仕草を眺めながら。
「――あぁ、アレはうちのボスな…”有名人”だから調べりゃすぐに分かる。」
鉄火の支配者の悪名は今までのあれこれを考えれば相当なものだ…簡単な情報くらい直ぐに手に入るだろう。
もっとも――この女は既に”知っている”かもしれないという疑念が過ぎり。
女がこちらを通り過ぎて瓦礫の前にしゃがみ込むのを、淡々と眺めつつ思うのは。
(――ドンパチするより面倒な事になったな…。)
と、そんな思いだ。想定外の事態は常に備えておくべきではあるが。
「商売、ね。――交渉するならあっちで派手にやってるウチのボスにやってみたらどうだ?
俺の個人的意見としちゃ、面倒だからさっさと終わらせたいけどな…。
そもそも、この規模でなるべく死人が出ない、っつーのは無理があんだろ。」
と、淡々と女に返す。ただ、彼女の得体の知れなさからして、敵に回すのも面倒そうだ。
”連中”の方と協力されたら、こっちの仕事が更に増える…つまり面倒臭い。
「…お前を敵に回すと面倒そうだが、俺は駒の一つでしかねぇ。今回で片がつくかもわかんねーしな。」
仕事を妥協する気は無い。さっさと面倒な事は終わらせたいからだ。
かといって、面倒事が追加されるのもそれはそれで如何ともし難い。
鮮血で描かれた不可思議な紋様…魔方陣?を一瞥してから肩越しに振り返る女に肩を竦めて。
「俺としちゃ、ただの勘だがお前と敵対するのは面倒だから回避できるならしておきてぇけどな……あ?」
こちらの苗字を呼ばれて怪訝そうに。いや、この女の得体の知れなさを考えると知っていても不思議では無いか。
■ノーフェイス >
「いや~、ダメダメ。
カレ、鬼気迫る~っていう感じだったからね。
そういう意味でも、キミが適任だったよ。
カレの前に出たら撃たれていたかもしれない。
ボクが知っているのはあの姿じゃないカレだけど、
まあ…あんまり元から相性もよくなくって~」
振り向いたまま、ライターを掌のなかで転がしている。
「あのカレも駒のイッコ、だろ?
キミとカレ、違わないよ。
むしろ身軽に動けそうなキミが良いな」
笑みが深まると同時にじりじりと音を立てて、
赤黒い魔法陣が闇のなかに幽光を宿しはじめた。
「ボードゲームにはルールがあって~
白と黒をぱちんぱちんって裏返していくヤツとかじゃなくて~
王様とったら勝ち~ってヤツあるじゃない?
ボクからしたらそういうのに見えるんだワ。
どぉ? とっても意味ない駒ばっかじゃなくてさ~」
ゆっくりと立ち上がりながら、ライターを握り込んだ拳を差し出した。
手を出しなさいと命じているように、慈悲深い笑顔を見せる。
「王様の駒狙ってみない?
それを穫ればキミらが勝つんだろ?
一番身軽に動けるキミがやるべきだよ。
この国の遊戯の駒の名前だと…トビグルマってヤツ。
犠牲者もすくなくて済む、その手助けならボクはする」
怪訝に見つめる青年に対して女は協力的な態度を見せるようでいて、
拒むなら邪魔をすると言葉の外で言っていた。
ご案内:「落第街 ポイントA-17」に雪景勇成さんが現れました。
■雪景勇成 > 「――何が適任か知らねーが…。…つーか、俺とお前の相性も別に良いとも思えねーが…?」
何やらこの女に”目を付けられた”のは分かるが。
さて、どうも面倒臭い事に既になりつつある気がする。
もっとも、今回の作戦行動があちこちに飛び火して化学反応を起こすのは分かり切っていた事だ。
(想定外の事態はそりゃあるとして、だ。問題はその内容だ)
単純な横槍なら潰すだけだが、今目の前に居る女はそういう手合いでは”意味が無い”。
煙草を蒸かしながら、ふと一度だけ視線をあらぬ方角へと向ける――気のせいか?
「――駒は駒でも価値と重さは段違いだけどな。俺はただの特攻するだけの駒みてーなもんだ。」
肩を竦める。それより先ほどから女が何をしているのか。
むしろそちらの方が気になる所で。
何らかの術式か――赤黒い魔法陣が光を放ち始める。
「――あ?俺に”王殺し”でもしろってか?」
自分の実力はこれでも正確に評価しているつもりだ。
単純な武力なら特務広報部でもトップクラスだが…
正直、謀の類は相性が悪い。脳筋という訳では無いにしても。
単純に煩わしいし面倒だ。やるならシンプルにやりたい。
――さて。手を出せ、と言わんばかりの笑み。得体の知れない不気味さは相変わらずだが。
「――…ハァ…。」
面倒だ、と口癖をまた呟きながら無造作に片手をそちらへと差し出して。
彼女が握っているのが何なのか――先ほどのライター?そんな訳でもなさそうだが。
「一つ言っておくが、目の付ける相手を間違えてねーだろうな?」
と、手を差し出しつつも訝しげに一つ。自身の得手など結局破壊しかないのに。
■ノーフェイス >
「話を聞いてくれるだけ嬉しいよ~
それに話がとっても早いタイプ、ボクは好みだな~
やっぱりキミも『マトモなニンゲン』だよ」
ちらりとマトモなニンゲンだった者たちを肩越しに見てから青年のほうを見て笑った。
彼の掌の上に落ちたのは、体温の宿ったライターだ。
見た目は何も変わっていない、道化師のように両腕を開いた。
「『草刈り』よりは余程キミたちの為になると思うけどね~
その『草』がボクにとっては大事なものなワケだから。
『王様』が倒されて話が終わるならボクもニッコリ。
キミたちの『王様』もニッコリってコ・ト」
さてと名探偵のように何かを始めようとしたところで質問をされてしまう。
首を横に振って甘やかな微笑みを青年に見せる。
「どの駒の価値も重さも変わらないんだよ~、ボクにとってはね。
盤上に輝く数々の駒たちのなかでボクの話を聞いてくれるニンゲンなら。
ただキミたちの陣営だったのは、たまたまココだったから、だね~
吟味なんてしてないから、もしダメでも文句は言わないさ」
そう言うとその場で瞼を伏せた
《うた》をうたった
時が停まったようにたった一分足らずの歌唱
その《うた》だけはこの世界のどこにも響かない
目の前の青年にしか響かない
この世のものではない《うた》
勇壮な凱歌、軍靴の乱舞のような重々しい律動、
生命と精神のそのすべての細胞ひとつひとつを沸き立たせるように
静寂が戻って来る。
「…ふう。
ご清聴どうもありがとう、これはボクがココに来て二曲目だ。
『王殺しの英雄』だと当世っぽくない曲名だから今度正式に決めるね。
これよりキミは『分不相応の力』が出せるようになってるハズだ。
草よりもっと強いものが刈れる気がしないかい?
名前を持っている駒とか…気分はどーぉ?」
女が問う時、魔法陣の光は消えていた。
うたいはじめてからうたが終わるまで、実時間にして3秒も経過していない。
ご案内:「落第街 ポイントA-17」に雪景勇成さんが現れました。
ご案内:「落第街 ポイントA-17」に雪景勇成さんが現れました。
■雪景勇成 > 「……そりゃどーも…。」
女からすれば自分はまともな人間らしい。
だからといって、それに憤りもしなければ否定する事も無い。
イカれてようがまともだろうが――どっちでも行き付く先は決まっている。
彼女と違い、既に”無いモノ”に視線を向ける事すらしない。
手のひらに落ちたのはライター…何の変哲も無い、先ほどと変わらないものだ。
訝しげにライターを手のひらで弄ってから懐へと戻して。
「こういう取引きとか駆け引きっぽいのは俺に一番向いてねーんだけどな…。
まだ、副部長のほうがその辺りはマシだろうに…。」
緩やかに嘆息。また面倒臭い…と、言い掛けてから口を噤んだ。
今日だけで何度面倒臭いと呟いた事か。実際本気でそう思っているからなのだが。
「――盤面を俯瞰してるみてーな物言いだな。
…まぁ、お前が何者だろうが正直そこはどうでもいい。」
相手の先ほどからの物言い、仕草、言動。人間出ないのは間違いないとして、さてどんな種族?存在?そこまでは初見では分からない。
「―――…?」
歌が聞こえる。不自然な静寂の中で目の前の女が歌うそれが。
――だが、何故だか分かるのはその歌が”自分にしか聞こえていない”という事。
他に誰も周りには居ないから検証しようも無いが、直感的にそう悟った。
荒々しくも力強い、勇壮な律動が耳元から全身へと駆け抜けていく。
――異変は直ぐに分かった。体の奥底から力が沸き上がってくるような、そんな感覚だ。
(――何だこりゃ…歌…魔術か異能か?に、しても…)
自分の体だから分かる。”リミッター”が外れたのだと。
単純な筋力の増強などではない。火事場の馬鹿力とは別種の何かが外れた気がする。
「…王殺しとか俺は簒奪者のマクベスかよ。
つーか、そもそも俺は英雄とかそういうのじゃねーわ。
…取り敢えず、何かが”外れた”のは感覚的に理解した。
分不相応の力っつーのがどういうものかまでは掴めてねーけどな。」
軽く自分の両手を握ったり開いたりしつつ視線だけは女へと向けたまま。
『分不相応な力』というものが、どういう形で現れるのかはまだ分からない。
そもそも、そんな効果を持つ異能やら魔術を男は知らないのだが。
何時の間にか魔法陣の光は消えうせており。
「――取り敢えず、俺はただ仕事をこなすだけだ。
そこは変わらねーし、お前と敵対する気は無いが、そん時はそん時だ。
ただ――…。」
それが彼女の思惑だろうと、こちらが利用されているとしても。一つ、言っておこうか。
「――まぁ、取り敢えず礼は言っておく。」
ぼそり、と律儀に口にする礼の言葉。ああ、つまり彼女がまともと評したその一端だ。
「で、お前名前は?そっちが一方的に名前を知ってんのも据わりが悪い。」
彼女が素直に答えるとも思えないが、一応は名を尋ねてみるが。
■ノーフェイス >
「もし事件が終わった時にキミが生きていたら、
あらためてボクのうたを聴きに来てチョーダイね。
キミたちとキミたちが追いかけてるモノが火の海と瓦礫の山をつくるモノならば
ボクはそこに歌声を響かせるモノだ。
観客なのは、まだ活動開始前だからだよ…メンバーが集まってなくってね~」
芝居がかった動作で深々とお辞儀をして、血のように赤い髪を振り乱して立ち上がる。
話は終わり、彼はお仕事中なので自分も自分のしごとに戻ろうとして踵を返す。
上等な靴の裏側も赤い液体で汚れてしまう、今夜の予定は決まった。
ねばねばした感触をコンクリートに擦り付けながら名を問われると振り向いた。
「ノーフェイス」
それが自分の名前だと彼に素直に応えた。
「部活の名前はぁ…そうだな。
『夜に吼えるもの(ハウラー・イン・ザ・ナイト)』にしよう。
以後お見知り置きを。
それと『雪景クン』。
通信機で使うコードネームとかはさ、
カッコイイのを、キミたちの王様にもらうといいよ」
名前を知っていた手品の種を、手を振りながら明かした。
奇妙なようでいて大したことのない女であるかのようにした。
「あんまり大勢死ぬとボクらのお客もいなくなっちゃう。
ほんとは最低限でも減らしてほしくないんだけどムズそぉだから、さ。
いまこの島にいるモノたちがみな駒だったらさ、
駒同士でぶつかりあって戦ってみせてくれるんだろ?
キミはそうやってぶつかることに怯えなさそうでとてもとてもイイ。
うん、キミぃ、イイよ。
ボクの眼に狂いはなかったって、証明してみせてほしいな~?」
振り向きざまにそう言うと、瞬く間に女は消えていた。
最初からそこにいなかったかのように。
ご案内:「落第街 ポイントA-17」からノーフェイスさんが去りました。
ご案内:「落第街 ポイントA-17」に雪景勇成さんが現れました。
■雪景勇成 > 「…ヤバい歌とか聞かせられたりしねーだろうな…。」
歌、と聴くと矢張り精神に干渉するあれこれが思い浮かぶ。
精神攻撃への耐性は割と強い方ではあるが、強いだけで完全無敵という訳ではない。
しかし、まぁこれまた――一癖も二癖もありそうな女が飛び込んできたものだ。
「――ちげぇな。敵も味方もどいつもこいつも…纏めて癖が強すぎる。」
溜息を漏らす。鮮血の如き赤い長髪がやたらと印象に残る。
少なくとも、ここまで色々印象が強いとうっかり忘れる事も無いだろうか。
そろそろ”お開き”なのか、先に場を立ち去ろうとする女がこちらの問い掛けに答える。
「…『顔無し(ノーフェイス)』?…まぁ、分かった。
…つーか、俺は別にそんな大それたコードネームとかいらねーんだけど。」
鉄火の支配者みたいな通り名が自分に付くとも思えないが。
まぁ、相応に派手に暴れてはいるので、そのうち勝手に呼ばれ始めるかもしれないが。
(と、いうかボスに仮に頼んだとしてアレなコードネームだったらどうすんだ…新手の羞恥プレイだろそれ)
それならただの雪景勇成のほうが全然マシなのだが。
女――ノーフェイスはといえば、自身の違反部活の名前が決まってご満悦そうだ。
「…『夜に吼えるモノ』ねぇ。…まぁ、一応覚えておく。」
今後も自身に関わってくるか否かは分からぬとしても。
流石にここまである意味でインパクトが強いと覚えていようという気にもなる。
あと、去り際の彼女の言葉には嫌そうに顔を歪めて。
「…よく分かんねー好評価されても反応に困るんだがよ。
俺はただ、自分の仕事をこなすだけだ。仕事以外は面倒だからやらない。そんだけだ。」
仕事の範疇なら幾らでも非道はしよう。淡々とただ潰そう。
ただ、それ以外なら別に何もしない。今まで通りだ。
気が付けば、女の姿は忽然と消えていた。最初からそこに居なかったかのように。
■雪景勇成 > 女――ノーフェイスが去った後、思い出したように無線のスイッチを入れる。
…何やら、救援予定だったB-5ポイントが変な事になっているようだ。
パワードスーツがどうの、と聞こえてくるがぶっちゃけ意味が分からん。
「あー…こちら雪景。”問題”は片付いたから今から向かったほうがいいか?」
『ちょっと部隊長!アンタ何で無線完全シャットアウトしてんですか!こっちはヤバいんですよ!!』
「…あぁ、ハイハイ。了解了解。取り敢えず――」
グッと一度右手を拳に変えてから再び開く目の前の空間が裂ければ、そこに右手を突っ込みながら。
「―――やばそうなら離脱しろ。取り敢えず一発でかいのかますから。巻き込まれて死んだら悪いな。」
そう告げた直後―――
ご案内:「落第街 ポイントA-17」に雪景勇成さんが現れました。
■雪景勇成 > ―ポイントB-5地点上空、空間を裂いて現れた巨大な異形の大剣が。
――謎の妨害者の頭上へと降り注ぐ事になるだろう。
■雪景勇成 > 「――まぁ、これで仕留めるか退散してくれりゃ面倒じゃなくていいんだけどな…。」
呟いてから、無線でざっと他の救援要請を確認する。
――C-08、A-21、あとはD-07ポイントの3つか。
「取り敢えず、分が悪けりゃ撤退しろ。他の救援要請が3箇所ある。取り敢えずそっち回って”全部潰す”」
面倒だな…と、何度目かのぼやきを零せば、男も歩き出す。
一箇所くらいなら撤退しても後で取り返せると即断した。
去り際に、
「――王殺しに夜に吼えるモノに、ノーフェイス…おまけによくわかんねぇ歌の効果。」
よく分からないファクターが既に序盤で出た。これがどう転がるやら。
「そもそも、英雄殺しの部隊が『王殺しの英雄』の歌っつーのも皮肉過ぎじゃねーか。」
三本目の煙草に手を伸ばしながら、さて――誇るべき通り名も何も無い鋼の刃は。
――再び、別の戦場へとその足を向けるだろう。
ご案内:「落第街 ポイントA-17」から雪景勇成さんが去りました。