2021/11/17 のログ
メア > 「えぇ。では、また。」
彼を見送って、自分も立ち上がる。
ちょっと血まみれになってしまった自分の姿を見て。

これでは、仕事にならない。

後のことをみんなに任せて、自分はトラックに乗り込む。

そして、帰路へとつくのだった。

ご案内:「落第街 大通り 炊き出し場」から照月奏詩さんが去りました。
ご案内:「落第街 大通り 炊き出し場」からメアさんが去りました。
ご案内:「落第街大通り」にノーフェイスさんが現れました。
ノーフェイス >  
 落第街と呼ばれる区画のなかでも、比較的表側に近い場所に、女はいた。
 屋台やら店舗…この島ではすべてが部活ということになっていることが人外の女からしても不思議な感覚だが、
それらを大通りの片隅、積み上げられた資材の箱の上に腰を落ち着けて、彼らの営みを眺めていた。

「もっとお葬式みたいな感じになってるかと思ったけど、ね」

 愉しそうに微笑を浮かべたまま見守るのは、人が落第街と呼ぶ場所の有り様。
 数日、歓楽街を拠点にしていたこともあり、『抗争』の渦中しか見たことがないのもあって、
砲火の嵐が過ぎ去ったこの光景は、女からすればだいぶ新鮮に見えていた。

「逞しいもんだ…もういつもどおり、って感じなのかな」

 そこの屋台で買ったばかりの豪快な味付けの串焼き(何の肉かはわからない)に白い歯を突き立てる。
 賑わい、とまでは行かなくとも、そこには存在しない者たち、あるいは存在しているのに、
こちらに来ている者たちによって、確かに築かれたどこか素っ気なく居心地良いコミュニティが蘇生している。

 新参者の女からすれば、てっきり砲撃やら何やらは、『非日常』だとばかり思っていた。
 驚くべきことに…程度の差はあれ、そうではないらしい。

ご案内:「落第街大通り」に雪景勇成さんが現れました。
雪景勇成 > 件の”戦火”から早数日経過し、落第街も徐々に元の賑わいを取り戻している。
結局の所、うちらや連中が派手に激突した所で、この街を揺るがすのはほんの一時でしかない。
爪痕は相応に残ろうが、それも直ぐに代わりの何か・誰かが埋めていくのだろう。

そして、その戦火で派手に暴れた一人がこの白髪の男――なのだが。

「……ま、そうだろうな。」

途中、炊き出しの場や復興の現場を歩き見て来た事もあり、そんな呟きを漏らしながら雑踏に紛れて歩く。
若干ではあるが左足をやや庇うような動きはその戦火で負った怪我によるもの。
幸い、呪いや術式が付与された攻撃では無かったので、普通の治療を施され順調に回復中だ。

(…たかが俺たちが”暴れた程度”で、この街がどうこうなる訳もねぇわな。)

そんなのはまだ己がこちら側に居た頃から分かっていた事で。
それでも、相変わらずの逞しさと強かさを感じる街の様子に、僅かに目を細める。
…と、そうやって歩きながら何気なく赤い双眸を向けた先に見覚えのある赤い色彩。

「……あの女、何やってんだ?」

足を止めてそちらを怪訝そうに眺める。
見ればまぁ、何かの肉による串焼きを食っているのだろうが…。
結局、彼女の”加護”は使わず仕舞いで、ソレが徐々に薄れて消えてきているのも分かる。

(…ま、俺みたいなのが”王殺し”なんざ出来る訳もねーし。)

とはいえ、見掛けた以上は一応声くらいは掛けて行くべきか、とそちらに気だるそうに足を向けT。

「―――よぅ、こんな所で何やってんだアンタ。」

ご案内:「落第街大通り」に雪景勇成さんが現れました。
ノーフェイス >    
「さて」

 椅子代わりのそれに身体を預けていたのは女だけではない。
 傍らに休んでいたものを取り上げて構えた。古びたガット・ギター。
 ヘッドに有名なメーカーのロゴが安っぽく刻印されている、名もない量販品だ。
 廃墟のなかで見つけて、修繕して、ネックの反りも直し、
さっき表側の楽器店で買ってきた弦を張り替えてある、調律も完璧だ。

「…お」

 いざや、というところで声をかけられた。
 顔を上げると眼を瞬かせ、その後にカレの顔を見て、女は微笑んだ。

「Eh-Oh! ひさしぶり、ストーム・ブリンガー。
 ずいぶん派手に暴れていたみたいじゃない。
 おはなしは聞いたよ? クク…キミもだいぶ面の皮が厚いね」

 暴風の如く破壊をもたらした存在の片割れが、カレ。
 もちろん自分のちょっかいが絡んでいるのだけれど…
女はそんなカレが普通に顔を出してきたことがおかしくて、愉快そうに笑った。

「なにしてるかっていうと、人探し、あとは趣味と実益を兼ねた自己表現。
 いまからするのは、再開を祝した乾杯、とかかな?
 残念だけどブラック・コーヒーの缶は手元にないんだ。
 なにかそこでもらってきてくれるかい?」

 対面のあたりに積まれた資材を、長めの脚を伸ばして指した。
 そこに腰を落ち着ける前に、喉を潤すものが欲しい。
 あの《うた》の後の調子を聞くのは、落ち着いてからでいいだろう。

ご案内:「落第街大通り」に雪景勇成さんが現れました。
雪景勇成 > 「……待て、何だそのよく分からんあだ名は…。」

適度な距離で足を止めつつやや半眼になる。
【嵐を呼ぶもの(ストーム・ブリンガー)】とか開口一番に言われればそうもなる。
とはいえ、実際に暴嵐の如き刃雨で破壊しまくっていたので、的外れとも言い難い呼び方だ。

さて、見知った顔が居たから彼女に注視していたが――傍らの人物が構えたギターへと視線を移す。
ここで一曲披露でもするつもりなのか――音楽は正直言ってこの男は疎い。
見た限り、新品や市販品ではない――直した物か、とギターを一瞥しながらその状態から推測しつつ。

「…別に恨みつらみは日常茶飯事だからな。
つーか、誰にどう思われようが俺がここを歩くのは俺の勝手だしな…。」

女へと視線を戻しながら肩を竦めてみせる。
良くも悪くも己のペース。仕事は仕事、プライベートはプライベート。
今はプライベートの時間で、自分もやらかした側だがそれに気後れなどは一切感じられず。

「人探しねぇ……それに、趣味と実益、か。」

正直、女の事はこの前の初対面の時以上の情報は手元に無い訳で。
だから、彼女が誰を探し何をしようとしているのかは全然知る由も無い。
――ただ、違反部活を発足したり、おそらく色々動いているのだろう、とは思うが。

「…再会の祝いがコーヒー一杯っつぅのも何と言うか…まぁ、別にいいか。……ん。」

そして、コートのポケットに突っ込んでいた片手を抜き出せば、そこには無糖の缶コーヒー。
それを無造作に女へと放り投げつつ、男自身はといえば近くの店で適当に飲み物を調達してくるだろう。

…何故缶コーヒーを持っていたのか?一服しながら飲もうと思っていたからだ。
それを躊躇いなく相手に渡す辺りが、何と言うかこの男らしい所でもある。

ノーフェイス >  
「不服だったかな?
 とはいえ、こういうのは深く考えれば考えるほどに、
核心から遠ざかっていく…とは思わないかい?」

 女としても皮肉が効きすぎているとは思うが、
破壊的な異能をああしてコントロールするのも、ある種のセンスだと思っている。
 実際に『喚んで』いるのだから、女からすれば会心の出来だったのだと…
得意げに笑っていた。

「ありがと…あれ、キミのぶんじゃないの?もらっていいワケ?
 流石にあんだけ前にでるひとが、缶一本に眉間にシワ寄せる程度の稼ぎってわけじゃーないカナ?」

 右手で受け取ると、あまり気にせずに缶をあける。
 さっきの串は随分パンチが効いていたので、この苦味で洗うくらいがちょうどいい。
 煙草が欲しくなるところだが、女は掌中で飲みさしを弄りながら切り出した。

「相手方にチェックはかけられなかったようだね。
 あ、そのことは別に、ボクとしては静かになってくれれば問題ないからイイんだ。
 …そのあと、調子はどうだい?
 『成って』みたご気分は…キミが自分を過小評価してなきゃ、
『なにかを変えられる』ような気分を味わえたかな、と思うんだけど… 
 キミがお望みならおかわりをあげてもいいケド、代償もそろそろ出てきてるかな?」

雪景勇成 > 「――いや、単純にそんなご大層な通り名とか面倒臭いからパスってだけだが…。」

この男の口癖でもある「面倒臭い」を合間に出しつつ。
実際、名が売れても結局は悪名だし面倒臭い事この上ない。
上司の【鉄火の支配者】のような、知名度が高い通り名は彼には今の所は無い。
未だ無名、されど無名。武装の能力者としては、前回の暴れっぷりで知られた――かもしれないが。

「…ああ、まぁ結局出番は無かったが例の《うた》の礼代わり。
稼ぎはまぁそこそこあるにはあるが、俺は別に金にそこまで執着ねーし。」

あれば生活は楽になる程度。元々、そっち方面の欲はあまり無いタイプでもある。
単純に、金を多く持っていても面倒な事になるだけ、という考えもあるのだが。

「……ま、俺みたいな端役に王殺しなんざ過ぎた話ってだけだろ。
――あー…何というか…何だろうな。実際に”使った”訳じゃねーから、何ともだが…。」

戦況が不利になるか膠着するなら、手札の一つとして加護の影響を用いるつもりだった。
が、思ったよりも全然早く戦火は終わりを迎えた――王殺しも出来ず仕舞いだ。

(…ま、あっちの王様や幹部クラスの連中はどうせ無事だろうけどな…。)

それが分かり切っているから、正直達成感も何も無い。本当に派手な仕事だった…それだけ。

会話の合間に、ブラックコーヒーの注がれたカップ片手に調達してくる。
それを口元に運びつつ、彼女の言葉に少し考え込む。
仮に、追加で貰ったとして――それを使う場面が訪れるかどうかというのが一つ。
もう一つが”代償”だ。ただでさえ異能の”代償”もある…そっちはもう慣れたが。

「……一つ聞くが、俺の中の加護はほぼ消えかけてると思うが、掛けたアンタから見てどんだけ残ってる?」

ノーフェイス >   
「えー、残念、お似合いだと思うんだけどナ…」

 唇を尖らせながら、それが本意からの不満だとは感じさせない軽薄さ。
 女が常々まとっている、薄っぺらい空気は、あの時から同じ。

「…うーん、先払いみたいな感じかな? 
 なにもしていないことに対して、お代を頂くのは少し気が引けるんだケド。
 ま、コーヒーはありがたいからもらっちゃうんだけどね」

 顔の高さまで掲げた缶を横目で見て、軽く振ると、ちゃぷりと音を立てた。
 そのまま口元に運んでまた一口、どんな経緯であれこの飲みやすい安っぽさが良い。

「そんなに長持ちするモノはあげてないよ。
 ボクはただ、この戦いが早く終わればいいな~と思ってキミに賭けたダ・ケ。
 消えかけてる、とキミが思うならきっとそうだ。
 キミは使うか使わないかを制御できる程度に自分の異能を制御できてるから、
ボクの見立てよりよっぽど確かだよ。
 …でも、キミが『使える』『出せる』という実感を一度でも感覚的に掴んでいるなら、
ボクの《うた》がなくっても、それは使えるんじゃないかな…代償込みでね?」

 本来ないものを植え付けるような能力ではない。
 女はそうやって笑った後に、肩を竦めてから、軽く身を乗り出した。

「ところで雪景クン。
 キミはどういうものなら、『面倒』ではない、ってパスせず受け取るヒト?」

 通り名を、『面倒』とはねつけた青年に、なにかを確かめるように炎の瞳が問うた。

「何なら受け取れるヒト?」

雪景勇成 > 「…つーか、んなあだ名で呼ばれてもこっちは反応に困るだけだしな…。」

敵対する連中から呼ばれるのは別にどうでもいいが、同僚達からも言われたら面倒臭い。
無名は無名のまま、ただ淡々と破壊の刃雨を降らせるのみだ――仕事として。

「――何だ、契約とか対価の拘りでもあんのか?貰えるモンは貰っとくくらいで丁度いいだろ。」

安っぽい紙コップに入ったホットのコーヒーをちびちびと飲みつつ、そんな他愛の無い言葉の応酬。

一度、コーヒーを飲む手が止まる。
…どんな形にしろ、あっちは暫く活動が停滞無いし縮小はすると思っている。
一時的にせよ、そういう状態に追い込んだ――ならば。

(…長持ちしないのを考慮しても、この前のアレが過ぎればどのみち失われる流れだったな…)

別に惜しい、と思う気持ちは無い。ただ…”何かを変えられる”気分になったのかどうか。
”代償”のせいで、そこは若干”ぼやけて”いるが…どうだろう、少しは思い願ったのだろうか。

「…ま、使いはしなかったが、『使い方』は何となく理解した。例の加護はまぁ、スイッチの入れ方の切欠にはなったな…。」

肩を竦める。加護の影響で新たな力が目覚めた、とかそういうのはおそらく無い。
――あるとすれば、既存の能力にエラー…イレギュラー要素が発生したくらい。

加護が仮に無くなったとしても、”コツを掴めば”、彼女の言う代償と引き換えに使う事はおそらく可能だ。
本来無いものが芽生えたのではなく、元々深奥にあったものが浮上しただけ、というべきか。

――と、そこから話は切り替わる。女の身を乗り出しての質問に赤い瞳を僅かに丸くして。

「……あ?俺が面倒でないと思える事?」

何とも唐突に過ぎる問い掛けが来た。その質問の意図は分からない。
ただ、問い掛けてきた様子からただの軽口や戯言…にも思えないが。

暫しの沈黙。そう問い掛けられるとこれが中々に難しい。そもそも口癖のようなものだ。

ただ――…

「…すげぇぼんやりしてる答えかもしれねーけどよ…。まぁ、何だ…。」

一息、別に気まずくも無いのに一度視線を泳がせてから…ゆっくりと女の炎の瞳に赤い瞳を戻して。

雪景勇成 > 「――雪景勇成、っつぅ”人間”をちゃんと見てくれる奴からなら、どんなモノでも受け取るさ――”面倒臭がらず”に。」
ノーフェイス >  
「そう、だね。
 それなりには拘るほう、なにがってわけじゃないんだけどね。
 性分っていうのかな、もらったら返したくなるってワケ。
 だったら、なにかの対価として納得できるほうが、素直にもらえるでしょ」

 コインで買えるような安っぽいコーヒーでも、モノはモノだと女は言う。
 どんな安っぽいものが、嵐を喚ぶかはわからない…そう考えてるように。
 
「それに、缶コーヒーひとつ分の『貸し』は、キミが『面倒』って言うかと思ってね?」

 続いた笑みは心にもない軽い冗談だ。

「ボクの《うた》が、キミのなにかの切っ掛けになったらそれは嬉しいコトだ。
 冥利に尽きるっていうのかな…だけど、それが『面倒』ならいつでも降ろしていい」

 しかし女の根底には気遣いがあった。
 どこか冷めた優しさではあるかもしれない。
 
「ふうん…。
 そんなヒト、いくらでも居そうな気はするケド」

 続いた宣言も、茶化さず最後まで聞く程度の礼儀は女にもある。
 どこか興味深そうに、そう…少し青年の口から『らしくない』言葉が出て、
ちょっとそそられた部分もあったから、女は問いを重ねた。
 
「ボクは違うの?」

 笑みを深めて問いかけたのも、カレという『ニンゲン』が、
どの程度の基準を『見てくれる相手』に設けているのかを確かめたかったから。

雪景勇成 > 「…何というか、俺も何故か偶に言われるが…アンタ、割とそういう所は”律儀”なんじゃねーの?」

性分…そうせざるにはいられないもの。
それに明確な理由がなくても、彼女がそう考えていてそう行動するなら、それは律儀なのでは、と。
…変な言い方をするなら、自分自身に正しく向き合っている、というべきか。

「…そもそも、口癖みたいなもんで、俺自身がそう思って無くても漏れたりもするんだけどな…。」

と、微妙に小さい声でぽつり、と。何でもかんでも面倒臭い、と切り捨てる厭世家ではない。
ただ、面倒だと思うものがなんとなーく…そう、世の中多いと思うだけ。

「――そうだな、でも多分降ろさねーよ。使う使わないに関わらず。」

貰ったのは己の意志だ。面倒であろうと無かろうと自分の選択したものだ。
使わずに消え去り、残るのがその影響によるものだけ―ー代償も付き纏うとしても、だ。
それが必要になる時がくれば躊躇わずに使う――そういう男でもある。

「…口じゃ上手く俺も言えねーっつーか…語彙力とか学が足りないせいかもな。俺は単細胞だし。

…アンタは違うっつーか…そうだな。そっちの事は名前と加護の事くらいしか知らねーが。」

そこで言葉を区切ってから、軽く苦笑じみた笑みと共に。

「アンタもまぁ好悪はあるんだろうが、楽しい事や面白い事は好きそうに思えたし。
今も色々”企んでる”と俺はまぁ勝手に思ってるが―ー…
それでも、相手に一方的に吹っ掛けたり上から目線とかでもねぇように思う。
アンタなりの対等な目線で相手を見ている…っつぅのか?
上も下もそのほか諸々関係ねぇ、そいつの選択を重んじるっつーのかな…そういう所は信用できると思う。」

ノーフェイス >  
「ありがと、ボクが信用に値するモノかどうかの判断はキミのセンスに任せるケド」

 たどたどしく伝えてくれた言葉に対して、女はどこか微笑ましげにカレを見守った。
 
「そりゃそうさ。
 ボクは…言ったっけ? つい最近この島に来たのさ。
 こっそり紛れ込んだ異物…その異物を異物と扱わない懐の広さが、
この島にはあったから、いまこうしていられてる」

 周囲を見渡す。
 雪景勇成も、そしてこの女も、この街、そしてこの島においては異物ではない。
 いや誰しもがそうだ、異物など存在しない、たとえ外側ではどれほど異物でも。
 女はそれが愉快でたまらないように笑ってみせた。

「新参者は新参者らしく、いまは馴染むのに精一杯ってワケさ。
 ボクのように来たばっかのひとも、ずっといたけど話してなかったひとも、
なんの『積み重ね』もないんじゃあ…さ、うえから見下ろす権利なんてないワケ。
 要するにボクはボクの立場を弁えてるだけさ、必要以上にへりくだりもしないけど。
 ま、偉ぶるために積み重ねてるだけじゃないってのはわかって欲しいカナ」

 一歩ずつ、一歩ずつ…ゆっくり、ゆっくり重ねている。
 気長に歩き回っている女がしていることは、そんな当たり前のこと。
 飲み終えた缶を傍らにおいて、ピックを持ったほうの腕をギターのボディに乗せた。
 まだ弾く体勢じゃあない。

「そういう意味じゃ、ボクはキミに感謝してるんだぜ。
 まともにぶつかったのは、あの夜のキミがはじめてだ。
 《うた》も、そんな勝手なお礼だった。
 キミに認識されることで、ボクは常世島に受け入れられた…
 ありがとう、雪景クン。
 ボクがここにいられるのは、キミのおかげだ。
 これを、キミは『面倒』だと、受け取らないかな?」

 試すように笑いながら、脚を組む。
 ホワイトデニムにおおられた長い脚は、旅の疲れなど感じさせず。

「ところでボクからもボクからみたキミをおしゃべりしてもいいのかな?
 ききたくないといわれると、ボクは黙るしかなくなっちゃうケド」

ご案内:「落第街大通り」に雪景勇成さんが現れました。
雪景勇成 > 「信用して裏切られてっつーのは、ガキの頃に散々”こっち”側で経験してるから今更だしな…。
今は捻くれてこんな感じだが、俺だって誰かを信用したいっつー当たり前の感情くらいはある。」

微笑ましそうな感じで見られると居心地が微妙に悪い。
自分がまだまだ未熟者の餓鬼である、というのは自覚もある。
ただ、それでも変に言葉を濁したり視線を逸らすような事はしなかったけれど。

「――”懐が広い”からな。善悪問わず種族問わず世界問わず。まぁ…刺激にゃ事欠かねぇだろうよ。」

刺激に関しては個々の感覚や解釈、感じ方次第ではあるだろうけれども。
コーヒーを会話の合間に口に運びつつ、残り少なくなった紙コップの中身を軽く揺らし。

――仮に、この島ですら”異物”と判断されるモノが居るとしたら。それはどれだけ――地獄なのだろうか?

「……あのな、それも”面倒臭い”って切り捨てるほど俺は畜生じゃねーよ…。
俺が切欠で、っつぅのは大袈裟じゃねぇか?とは思うが。
だけど、アンタがここでやっていくその最初の一歩の手助けが出来たんならそれでいい。

――ようこそ異邦の客人、外つ世界の旅人。遥かなる常世の島へ…ってな。」

似合わないとは思うが、珍しく優雅で恭しい仕草のまま一礼を。
冗談めかしているが、彼なりの誠意というか素直な言葉でもある。
普段はあまりらしくないから、こういう真似はしないのだが。
試すような微笑と共に投げられた言葉に返すなら、このくらいはしてもいいだろう。

「…あ?まぁ別に構わんが。つーか、確かに俺は面倒臭がりだが、何でも会話ぶった切るほど酷くねーぞ…。」

と、少し半眼で女を見つつも、漸く今更ながら資材へと腰を下ろした。
実際、あちらから見たこちらの印象ついてはまぁ、興味があるといえばある。

ノーフェイス >  
「ありがとう、ボクのはじまりのひと。
 …実を言うと、古巣に帰ってきた感じではあるんだけどね。
 ボクの知ってる様子とは、だいぶ違う感じで正直ビックリしてるトコロ」

 厳密なことは語らないし、語る理由もない。
 喋りすぎるには、まだまだ、積み重ねられていないから、女は曖昧な物言いをした。

「こうやって探らないと、ボクはキミがなんでも『面倒だ』と片付けてしまうヒトに見えてしまってた。
 でも話してみたら、案外そうじゃない、お仕事のソトのキミは、
ボクがさっき言われたのと同じで、どこか律儀なヒトなんだなあ、と思う。
 話を打ち切ったりしないヒトだ…と知れることもボクにとっての収穫だ。
 …ゴメンね? 見ただけでいろいろワカる名探偵じゃないんだ、ボクは」

 銃のカタチにした細い指で、彼を指してみた。
 相手がどういうニンゲンかを探るなら…こうするしかない。
 
「いや、わかったようなことを言ってみたら大外れだったってのが最近あってさぁ!
 帰りたがってる娘を見て懐郷病(ホームシック)かな?って思ったら全然違うの!
 ボクの目ってのはその程度なのさ…あ、でもかわいい娘だったってのは間違いなくわかってる」

 その指で自分のコメカミをトントンと叩いてひとりで愉快げに笑ってみせる。

「キミはじぶんが単細胞だとか、いろんなことを面倒だとか、
あんまり自分を卑下するのはよくないよ、雪景クン。
 そんな律儀なヒトだってわかってるなら、積極的に面倒を抱え込みにいってみたらどぉ?
 ボクはここにきたときに『なんてたのしそうな場所なんだろう』っておもった。
 キミも、いろんな『たのしい』を探してみないか…?
 キミがどんな立場なのか、過去を背負ってきたのか、ボクはまだよくわかっちゃいないけど、
『たのしい』ことをする権利は、だれにだってあるはずなんだからサ」