2021/12/10 のログ
ご案内:「落第街大通り」に紅龍さんが現れました。
紅龍 >  
 【前回までの紅龍おじさん!】

 違反部活『蟠桃会』に妹を人質に取られ、用心棒をさせられている、元軍人の紅龍!
 『斬奪怪盗ダスクスレイ』に目をつけられてしまい、軽装備での日常生活が送れなくなってしまった!。

 そんな日々にも出会いはある。
 自称探偵『ノア』と出会い、冗談と軽口を交わしながら、取引をした。
 軍時代の部下たちを思い出し、気分が良くなる紅龍。
 前払いに気前よく特注品のマシンピストルを渡して、繋がりを作る事に成功したのだった。
 

紅龍 >  
 ――大通りに、銃声というには大きすぎる炸薬の音が響き渡った。

 それからほんの一息置いて、喉が裂けそうな悲鳴が上がる。
 一人の男が、膝から先を失った脚を抑えて通りを転がっている。

「――だから、逃げんじゃねえって言っただろうが」

 右手の愛銃が吐き出した薬莢を拾いながら、哀れな男の前に屈みこんだ。

「おーおー、こいつはひでえ出血だ。
 こりゃほっといたら失血死確実だな」

 男の足を中心に、赤い水たまりはどんどん広がっていく。
 この出血の勢いだと、もって数分と言った所か。

 男は脚を抑えてガタガタと呻きながら震えているが、通りにいる人間は誰一人として助けようとはしない。
 そりゃそうだ、ここはそういう場所だ。
 なんの抗争だかもわかりゃしねえのに、関わろうなんていうヤツは命知らずも良いところだろう。
 まあ――そんなやつがいくらかいた方が、面白いとは思うが。
 

ご案内:「落第街大通り」に藤白 真夜さんが現れました。
藤白 真夜 >  
「んー……」

 落第街。
 本来、存在しないモノとして扱われる街。
 そんな街に、真っ当な学生は寄り付かない。
 そこに居れば、何をされてもおかしくないし構わないということを意味するから。
 しかし、その昏い街に場違いな白いセーラー服を着た女が歩いていた。

(やっぱりちょっと目立ちすぎるかな?
 それはそれで“釣れそう”でいいんだけど、流石に落ち着かないなぁ……)
 
 まるで散歩をするかのように落第街を歩き、少し落ち着かないように目線を上にあげたかと思えば、
 
「おーっ……」
 
 表の街では絶対に見れない怪しげな露店に目を輝かせ、まるで物見遊山に来た世間知らずのように見せかけながら――実際そうでもあったが――何か面白くて都合の良いことでも転がってこないかと、昏い目的を胸に秘めていたのだった。


「おーっ!すっごい銃!」

 異様な銃を構えた男に、致命的な傷を負い倒れる男。
 明らかに修羅場のそれに、やはり場違いなほどに明るい声が響く。
 しかもあろうことか、周りの野次馬も散り散りに距離を開けるその間に、ぴょこぴょこと乗り込んでいた。明らかに落第街にはそぐわない一般学生の若い女が。

「やっほー、生きてる?でも、すごいねー!この血の量だとすぐ逝っちゃいそうね!」

 両膝を抱え込んでしゃがめば、今も吹き飛んだ脚から血を流す男に向かって、楽しそうに見下ろしながら声をかける。その様子に、心配しているだとか、喧嘩を止めに来たとか、そういう意味合いは一切なく。

「ねーねー?おじさん。
 ――この人、殺すの?」

 だからこそ。
 上目遣いに銃を持った男を見上げたその瞳には、ふざけたものは一切無かった。
 本気で、そう問うている。
 死の雰囲気を遊ぶのではなく、真っ直ぐに受け止めながら。

紅龍 >  
「あのな、オレもあんまりひでえ事したくはねえんだ。
 大人しく喋れば、医者の所に――ぁ?」

 視界の外から、恐れ知らずに飛び込んできた白い服。
 女。いや、まだガキか――。

 やけに無邪気な様子で呻く男を観察する姿は、どうにもズレている。

「おじさんじゃねえ、おにいさんと言え」

 真っすぐ見上げてくる視線には、ふざけた色はない。
 どうやらこのガキは、殺し殺され――死ぬってものをわかっているらしい。

「――チッ、やりづれえな」

 ガキの目の前で殺しをするのは、どうにも気分が悪い。
 男の脚を引っ張り上げて、太ももを強引にワイヤーで締め付ける。

「おい、そこの暇そうなヤツ!
 こいつをその辺の医者んとこに放り込んできてやれ。
 報酬は――そんだけありゃあ文句ねえだろ」

 適当なヤツを指名して、転がる男の前に札束を放り投げる。
 すると、飛びつくように札束を拾い、男を引きずって歩いて行った。

「――で、なんだお前」

 ガキと同じく膝を折って、目線を合わせる。
 どうにも胡散臭いガキだが、見てくれは上等だな。
 この街にはあまりに似合わねえナリをしてやがる。
 

藤白 真夜 >  
 おそらく男の部下ですら無い人間をほいほいと金で動かすのをやはり、興味深げに見ていた。……視線は、引きずられていく怪我をした男に食いついていたけれど。

(そっか。こういうところには入ってこないけど、お金でなら動くのか。
 ……にしても、残念)

「なんだ、殺さないんだ」

 何が面白いのか……やりづらそうにする男を、楽しそうな微笑みを湛えながら見つめていた。

「なんだもなにもー。
 そんなすんごい銃撃ってるの見たら興味が出ちゃうのが人間ってモノじゃないかしら?
 ……まあ。“取引”しにきたんだけど、先越されちゃったからいい。
 それよりー、おじさんのほうが気になるかも。
 そのゴツいカッコーでお兄さんは無理あるもん」

 男もしゃがみ込むなら、女は膝に肘を立ててそこに顔を載せた。掌の上に乗った顔が、あなたをじーっと見つめている。

「その銃、どーなってるの?ていうか銃であってる?大砲ってヤツ?“こっち”ってそういう格好が流行ってるの?おじさん以外誰もそんな格好してないケド。ふふ、なんかモコモコしてない?」

 その顔は先ほどの修羅場も気にしないかのように、にこにこと機嫌が良さそうに笑顔で矢継ぎ早に質問している。
 ……しかし、目の前の女の突飛具合に掻き回されずに場をよく見る目がある人間なら気づくだろう。

 血溜まりを作るほどであったはずの血が、綺麗に消えていることに。

紅龍 >  
「殺さねえよ」

 殺すのは簡単だが、それじゃ喋る口もなくなっちまう。
 あの男には後でじっくりと口を割らせる事になるな。

「――あーあー、捲し立てんな。
 ったく、好奇心があるのは結構だが、お前みたいな別嬪がうろうろしてっと、その辺のクズに玩具にされちまうぞ」

 頭をがりがりと掻きながら、足元を視界に入れる。
 ――異能か魔術か、それともバケモンか。
 まあなんでもいいか。
 『そういうヤツ』が当たり前にいるのがこの島だ。

「あー、んで、とりあえずコレな。
 700ハンドキャノン、いちおう拳銃だ、分類上はな。
 気になるなら触ってみるか?
 あとな、ごついからオニイサンじゃないはひでえだろ。
 おじさんはナイーブなんだから、優しくしろよ」

 冗談を交えながら、拳銃からマガジンと弾を抜き取って見せてやる。
 十キロも重さがあるから、ちっとガキの手には重いかもしれねえが。
 

藤白 真夜 >  
「べっぴん?
 ……うーん。それは確かに、私も思ってたかも。
 でも、おもちゃは大丈夫。私、取り扱い注意なヤツだから。この街にもたまに居るでしょ?」

 うんうん。どこか他人事のように頷く。
 喜んでもいないし、心配されてもよくわからない弁明しながら、何かに納得していた。

「やだやだ。触んない。銃は見てる分にはいいけど、そのニオイ嫌いだもん。
 ……でも、そんなおっきいのもあるのは面白かったかな」

 しっしっ。硝煙の臭いに、近づけないでっていうように手で追いやる。
 ……この仕草はナイーブなおじさんを傷付けるかもしれない。まいっか。全然ナイーブに見えないし。


「随分、殺す気満々の装備。人間ってそこまでやるんだって思っちゃってね。
 道具は道具。必要とされなきゃ産まれない。
 なら、銃に必要とされるモノが、必ずある。
 ……そこまでしないと殺せないモノって、どんなモノ?
 人じゃないよね。脆いし。さっきも脚吹っ飛んでたもの。
 じゃあ、クマとか?こんな町中で?
 ……ねえ」

 女の目はやはり、好奇心に光っている。
 昏い街並に、紅く光る瞳が……銃ではなく、男を見つめている。

「アナタが……何を殺したかったのか。私気になるな」
 
 それはいわば、同好の士――ですら無い。
 似たようなことを見つけて、それに引き寄せられたアリのようなもの。
 ……アナタは、何を考えて殺しているのか。
 純粋に、それだけを知りたがっていた。

紅龍 >  
 ――やっぱりどこかがズレてやがる。
 タガが緩んじまってるヤツと同じ目だ。

「そうかい、そんじゃしまっちまうぞ。
 別嬪てなあ、あー、美人さんだってこった」

 マガジンを入れなおして、ホルスターに押し込む。
 しかし、なにを殺したかったか、ねえ。

「人間が、正真正銘の『バケモノ』と殺し合うにはこんな装備でも足りねえんだよ。
 オレは昔、そういう仕事をしてた。
 んで、その時の装備を持ち逃げして、今も使ってるってこった」

 まったく――キラキラした好奇心を浮かべやがって。

「ついでに言やぁ、最近やたら物騒な『怪盗』に目をつけられちまってな。
 万が一、また襲われでもしたら敵わねえから、こうして重装備して歩いてるってわけよ」

 小銃と拳銃の収まったホルスターを軽くたたいて、背中に背負ったライフルを親指で示した。
 

藤白 真夜 >  
「むぅ~……。……――バケモノ?」

 返ってきた返答がどこか気に入らなかったのか単語が入ってこなかったのか、女は一時むーんと眉をひそめた。
 ――てっきり殺し屋かと思っちゃっただけなんだけどね。 

「……バケモノ退治してたの!?」

 しかし、その言葉の意味を理解すれば、また目が輝きだす。その言葉の響きの前には星とか散ってたかもしれない。

「ねーねー!ソレ聞きたいー!
 なになに?“どっち”?
 仕方なく引退したカンジのならごめんね!
 でもほら、あるじゃない?化け物と殺し合う内に情が芽生えちゃうヤツ!
 んん……でもやっぱりそういうの、良いなあ。
 化け物と殺し合う人間。
 命を刈り取るための最新のモノ持つ矮小な命と、存在自体の規格が違う命の、……殺し合い。
 それってきっと、英雄的で、悲劇的で、
 ……血に塗れてた。違う?」

 ……それは、話しづらいモノかもしれなかった。男の過去に何があったのかは、まるで知らない。
 女にそれを配慮する気は全くなかった。……いや、一応謝ってる分ちょっとあるかも。
 けど、それを語る女の目は浪漫に輝いている。
 物語のような何かにではない。ただ、度を越えた殺しへの興味のような、なにか。
 それは、戦争へ行くのを許されない女子供が、憧れ混じりに兵士を見るような瞳に似ていたかもしれない。

「んえー?怪盗?なんか聞いたことあるような……。……なんか斬るヤツだっけ?
 ……でもそっちはコーフンしないなぁ……。刀ってあんまり強い気がしないんだよね。銃のほうが強いでしょ?
 おじさんが勝てないとこもあんまり想像できないけど……」

紅龍 >  
 ――つ、ツボがわからねえ!

 きらきらと輝く目の色は、妙に懐かしく感じるが。
 妙な所に食いつきやがるなあ。

「別に面白いこたぁねえぞ。
 たしかに血塗れで、どうしようもなかったが。
 情、ねえ。
 まあ、一緒に酒飲んで大笑いした翌朝に殺し合うだとか、そんな事もあったわな。
 気が合うヤツもいりゃあ、気に入らねえヤツもいた。
 人間の形をしてるやつも、御伽噺から這い出て来たようなのもいる。
 ――が、人間にとっちゃ、超常の力を持つヤツは等しく『バケモノ』だった。
 少なくとも、この島の外、オレの生れ育ったところじゃな」

 思い出話にしちゃ、面白みがねえな。
 懐から『タバコ』を出して、一本口にくわえる。
 火はまだつけない。

「オレは軍人で、そんな『バケモノ』を殺すのが仕事だった。
 情もあったかもしれねえし、思う所は少なくなかったが。
 それが仕事だった。
 だから殺した」

 そこには悲劇も無けりゃ、英雄もいねえ。
 ただ、そうしなけりゃ死ぬのは『人間』だった。
 どちらかを選んだ時に、オレはたまたま『人間』側に居たってだけの事。

「んで、辞めた理由か?
 笑えるぜ?
 作戦中に『ウエ』に手の平返されて、切り捨てられた。
 部下たちは全滅、オレは何とか生き延びて、この島まで逃げて来たんだよ」

 『タバコ』に火をつけて、煙を深く吸う。
 ガキの求めるロマンには程遠いだろうが、現実ってのはこんなもんだ。
 ハーブの香る煙を細く吐き出した。

「コーフンて、お前なぁ。
 残念ながらオレじゃあ勝てねえし、ふらふらしてっとお前まで斬られちまうぞ――と」

 よく考えなくても、大通りでしゃがみこんで話す事じゃねえな。
 視線を通りに向けると、屋台の男と目が合った。

「――なんか食うか?
 どうせ話すなら座ろうや。
 優しいおじさんが奢ってやるよ」

 そう、屋台を指して提案してやる。