2021/12/17 のログ
■ノア >
「――やっぱ技術的にそんなもんか。
引き続き、連中の事ァこっちで調べとく。
データも随時端末宛てに」
恐らく途方も無い数の場数を踏んできたのであろう男が限界だという。
その一歩先は、既に人の身に耐えられる物では無いのだろう。
異能を伴わない泥臭い機械仕掛けの強さと経験。
それを備えた男がなにゆえ違反部活の用心棒等に身をやつしているのか。
彼のバックにある組織と、彼の過去の所属は知れた。
だからこそ、不可解。
――おっさん、アンタ何のために戦ってんだ?
己は誓って殺しはやっていない。
その線引きがどれだけ重い物かを知っているからこそ、
己が妹の仇に向けて引き金を引く事を恐れている自身が居る。
「そいつぁそうだ。
ただ、あの花に関しちゃ話が違ぇだろ。
アイツをばら撒くってんなら俺も腹括るしかねぇ」
■紅龍 >
「さぁて、その花がどんな花かはしらねえが。
なにも違わねえと思うがね」
含めた意味に気づくかは探偵次第。
人間の体は一つしかねえ。
物理的に、出来る事は限られる。
その限られた中でなにかをしようとするなら、標的を間違う事は許されない。
「道具を作る人間と、使う人間。
お前が見極めなくちゃいけねえのはどっちか、よく考えるこった」
作った人間は、使う人間に道具を売る。
だが、売れるのは道具だけじゃない。
「余計な事には踏み込まねえほうがいいぞ。
どうせ、誰もを救うなんてことは、人間にはできねえんだからな」
――人間は家畜だ。
最初から消費される事が決まっている。
それでも何かをしようってんなら、手を伸ばす先は定めるしかない。
灰皿に灰を落とす。
くすんだ銀色に映った顔は、どうにも面白くなさそうな顔をしていた。
■ノア >
「……ったく右も左もクソばっかりで退屈しねぇな」
時期は? 出所は? 目的は? 流れる先はどこだ?
それを紅龍に詰め寄った所で、あまり意味はない。
彼は"使う"人間では無いのだから。
「……噛みついて悪かったな。
ガキがろくでもねぇ目に合うってのが、我慢ならなくてな。
理不尽ってのが嫌いでね」
この街で生きていくには些か甘さが抜けていない自覚はある。
それでも、数年泥を食って生きた程度で腐るような性根でもない。
「見なかった事するには、もう見知った顔が絡んでる。
それを今更無視できるほど図太くなくてね。
救うなんて大それた思いなんてねぇよ。気に食わねぇもんに油ひっかけに行くだけだ」
――俺たちは人間だ。
持つ物に転がされて、良いように使われるに過ぎない。
それでも選び取る事で未来を変える程度の奇跡くらいは起こせるってもんだ。
ポケットから取り出した煙草に火を灯す。
猪口に注いだ酒の水面に映る自分の不貞腐れたような顔。
……ヒデェ顔してら。もうガキじゃねぇってのに。
一息にあおるのをやめてチビチビと舌先を酒で湿らせるが、喉を焼くほどの熱さは既に失せていた。
■紅龍 >
「くく、なあに、ガキに噛みつかれんのは慣れてるからよ。
せいぜい、火傷しねえように気を付けるんだな」
笑いながら、『タバコ』を灰皿に押し付ける。
ついでに、懐から一本取り出して、探偵の前に置いた。
「一本だけくれてやるよ。
――それを作れる奴が、同じ手で別のモンを作れちまうんだ」
■■がオレのためにと調合した香草の詰め物。
吸えば肺を癒し、心を落ち着け、頭をほぐしてくれる。
薬でも何でもない、ただ吸う人間を想って作られた、一時の安らぎを与える物。
「理不尽が許せないのは結構。
だがま、大事なものは取り違えんなよ」
ゆっくりと腰を上げる。
そろそろ、■■に差し入れをする時間だ。
さて、勘定は支払い済み。
探偵の方は――
「――追加の仕事だ。
報酬はまとめてクレジットで入れてやるよ」
そのまま背中越しに手を振りながら、屋台を後にする。
探偵の端末には短く。
【『フジシロマヤ』という娘の所属、経歴、能力等の調査依頼】
とだけメッセージが送られていた。
■ノア >
「ご忠告どうも。命あっての物種ってね。
真っ当な煙草って感じじゃなさそうだな……んだ、これ」
置かれた『タバコ』に手で触れる。
刹那、流れ込んでくるのは作り手の思い。
意識的に潜ろうとするまでも無く起こる、送る相手への強い思いを込められた一品にのみ起こる現象。
これは……家族への情愛?
浮かぶのは女性の姿、その視線に映る男の姿には見覚えがあった。
『■■』
呼びかける男の声は己の知る物よりも幾分か柔らかく。
「俺のよりよっぽど健康にいい、ね。
合点はいったが……良いのか?」
そこらの科学者や工場で作れるような代物ではない。
形こそ似せて作られているようだが、まるで違う。
それ以上に、これは紅龍の為に作られた物だ。
しかしくれるというならありがたく受け取ろう。これ一本で、知れる事も多い。
「大事なもん、ね。
――もう間違えねぇさ」
腰を上げる背にヒラヒラと手を振る。
記憶を見た今なら、彼が何のために何処へ向かうのかも知れている。
「調査依頼委細了解。
……死ぬなよ、おっさん」
――祭祀局、ね。
また、厄介な所がでてきたもんだ。
ため息交じりに小さく笑って、『タバコ』の燃えカスが残る灰皿に煙草を押し付け、意識が明朗な内に晩酌を切り上げる。
「おっちゃん、勘定置いとくぞ」
適当にひっつかんだ札をカウンターに乗せ席を立つ。
足りないなどと恰好の付かないことの無いように、幾らか余分に。
ここは落第街、握らせた金は店主の口にかける鍵にもなろう。
ご案内:「落第街大通り」から紅龍さんが去りました。
ご案内:「落第街大通り」からノアさんが去りました。