2021/12/21 のログ
ご案内:「違法パブ「地獄の門」」にノアさんが現れました。
ノア >  
薄汚れたバーカウンターの壁際、騒がしい集団を避けた隅の席。
壁にジュラルミンケースを立てかけて残りの少なくなったグラスの中で氷を遊ばせる。

「経費って言えばおちたりすんのかね……」

誰に向けたというものでもない独り言。
ざっくり数えて50万、依頼主に調査資料とでも言えば何とかならない物か。

敷き詰められたスポンジ質の緩衝材の奥のちっぽけな小瓶。
中身は『イドゥンの憐れみ』と呼称される赤と金の水薬だ。

揺らせばちゃぷちゃぷと音を立てるそれは、混じって色を一つにすることも無く。
一目見て異様なものであるという事は察せた。

ノア >  
服用するだけで外傷を消し去る程の効能という説明を見る限り怪しい物だが、
それでいて確かな実績があるせいか、なかなか良い値段がついていた。

試薬による適正チェック等もすっ飛ばして実用可能な異常物。
薬と呼ぶにはあまりにも禍々しい色をしているそれは、呪物とでも言った方がしっくりくる。

イドゥンに林檎に金色と来たもんだ。
神話に明るい訳では無いせいでピンと来るのに時間を食ったが、
ここまで来て間違いという事も無いだろう。

「『知のゆびさき』ね……」

ハッキリ言って異常だ。
風紀委員が深く関与している事で正常性が保たれて立ち直ったという評判も聞こえてくるが、
自身にとって風紀委員の関与が絶対の正しさではない。
風紀委員とて一枚岩ではない。
私利私欲、何かの繋がりで抜け穴を作らないとも言えない。
あるいは――

「風紀が立ち入って尚、正当な製薬会社だって言えるような理由がある?」

ノア >  
人体実験は行われている。これは間違いない。
手元にあるアンプルがその証左として、己が出自を伝えてくれていた。

ぐちゃぐちゃに混ざった液体の中、夥しい程の要素の内に一つだけ分かりやすく臭いを放つ物がある。
間違えようのない、人の血の香。

「……マジで、嫌ンなるな」

風紀と公安がこの会社を咎めない理由は何だ?
法に触れないやり方? あるいは非人道的な行いではない?

予想に過ぎない事だが、一つの考えに至り反吐が出そうになる。
自分の勘が当たって欲しくないと、柄にもなく願ってしまう。

ノア > "黄金の林檎"は、恐らく未完成。
コレは恐らく研究の一端、副産物言ったところだろう。

「不老不死ね……」

生きてりゃみんな、いつか死ぬ。
その理を壊そうとするのは人道から離れてはいないという事か。

「あ? 頼んでねんだけど」

残った酒をあおっていると、無言で目の前に突き出されたのはナポリタン。

「あ? あー……あぁ。なるほどね。悪いねマスター。
 酒入るとある事無い事口から出てくんね。いや、よくねぇや」

これ食って今日は帰れ。という事だ。
殺人厳禁の店からこんなお達しが来るという事はまぁそういう事で。

(死ぬなら店の外ってね)

具材の少ないナポリタンを雑にフォークに巻いては口に運び、
横目でグラスに映った背後の人の顔を脳に刻んでいく。

「ごっそーさん。
 ……トイレ借りたいんだけど、どこだっけ」

支払いを済ませて聞く、"今日の裏口"。
片手で手短に指さされた方に歩きながら後ろ手にヒラヒラと手を振りながら店外に消えさせてもらおう。

背中に刺さる視線が切れた瞬間を見計らって、店外に抜け出したらあとは一目散に歓楽街の灯の向こうへ。
おっさんに頼まれて女のケツ追っかけたらこれだ。
この島は本当に、退屈できそうにない。

ご案内:「違法パブ「地獄の門」」からノアさんが去りました。