2022/01/26 のログ
ご案内:「落第街大通り」に紅龍さんが現れました。
ご案内:「落第街大通り」にダスクスレイさんが現れました。
紅龍 >   
 【前回までの紅龍おじさん!】

 違反部活『蟠桃会』の用心棒、元軍人の紅龍は。
 『斬奪怪盗ダスクスレイ』の情報を集めるために探偵の『ノア』に仕事を依頼する。
 そんな探偵からの情報を得て、『怪盗』との遭遇に備えるため、風紀委員『芥子風菖蒲』が行った戦闘を分析していた。
 そうした日々の中、懐かしさを覚える少女、『マヤ』と知り合う。
 そして路地裏では探していた『ガスマスク』を目撃、言葉を交わした。
 探偵の調べた情報からは『知のゆびさき』という製薬会社の存在を知り、『マヤ』の血液から精製された薬を手に入れる。
 さらには違反部活の武器職人に依頼し、装備を充実させた。
 落第街の都市伝説と化していた『裏切りの黒』『拷悶の霧姫』との対面を果たす。
 暇を持て余す吸血鬼『リスティ』とは、食事を切っ掛けに奇妙な縁を結ぶのだった。

 何事もない日々を願う龍だが、この日は何か違う予感がしていた。
 それは過去の経験からくる直感か。
 それとも本能の訴える危機感か。
 いずれにしても、龍の願う平穏は、まだ遠い――。

 

紅龍 >  
「――平和だねえ」

 いつも通り、屋台の店先で椅子に座りながら『タバコ』を吹かす。
 明るい月を見上げながら、何だかわからん串焼きを喰う。
 これで酒の一つも飲めればいいもんだが。
 残念ながら、禁酒令が出されている。
 まあ、もともと酒は好きだが弱い。
 飲めなくても構わんと言えば構わんしな。

 いつも通りの喧騒。
 夜になっても変わらないのは、全く元気のいい連中だ。

「今日も恙なく――いい日で終わりそうだ」

 首筋に気分の悪いもんを感じるが――。
 さて、この『予感』めいたもんが、ただの杞憂で済めばいいんだがね。
 

ダスクスレイ >  
大通りに騒ぎが波のように広がっていく。
悲鳴すら近く。
紅龍にも聞こえるだろう。

殺人鬼が出たと。
────ダスクスレイが来たと。

「紅龍……久しぶりだな」

店先の椅子に座る彼に話しかける。
周囲の人間は遠巻きに私を見ている。

最近は血を流しすぎていた。
闇医者の回復魔術師に『これ以上怪我をすると治療限界が来る』と警告を受けている。
追影切人との戦いはそれだけの激戦だった。

だが。
止まる気はない。
私が止まる時は、死ぬ時だ。

「お前ほどの男がこんなところで退屈を貪るとは……」

紅龍 >  
「――おいおい」

 なんともまあ、厄介な来客だ。

「オレぁ会いたくなかったけどな。
 ――オレはのんびり平和に退屈に生きていてえんだよ」

 周囲の連中は蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていく。
 まあ幸い――ヤツの目的はオレらしい。

「何の用だよ『怪盗』
 喧嘩なら買う気はねえぞ?」

 煙を細く吐きながら、よっこいせ、と立ち上がる。
 

ダスクスレイ >  
「もう一度言おう、紅龍」

演劇のような動きで両手を広げて。
よく通る声で語りかける。

「お前は私の側の人間だ」

立ち上がる男を見上げる。
上背もある。戦いの技術もある。
この男が何故………

「平和? 退屈? そんなものに何の価値がある」
「私と共に来い、お前に相応しい戦場を用意してやる」

「───お前に相応しい居場所をくれてやる」

仮面の下の表情が歪むのがわかる。
今、私は。笑っているんだ。

紅龍 >  
「くく、これはまた随分なナンパなこって」

 同じ側――確かにオレは人殺しのクズだが――。

「残念だが、オレは『人間』を殺すのは専門外なんだよ。
 オレが戦場で殺すのは『バケモン』だ。
 それに――オレはとっくに退役してんだよ。
 今更こんなおじさんを、戦場に引っ張り出そうとしてんじゃねえっつーの」

 笑いながら、タバコを咥える。

「まあ――こう答えたら、今度こそ殺されそうだな。
 さすがにそうなりゃ、オレも自衛しねえわけにゃいかねえが――」

 肩から掛けたライフルを、一応とばかりに、やる気なく手に握る。
 片手でタバコをふかしながら、やたら愉快そうに笑う仮面を眺めた。

「一つ、質問に答えろよ、『怪盗』。
 答えによっちゃ――オレがお前を殺してやってもいいぜ」

 怪盗から見れば、オレは今、さぞつまらなそうにしている事だろう。
 実際面白くはねえんだから、仕方ねえが。
 

ダスクスレイ >  
「私だってできるなら淑女を誘いたいものだ」

肩を揺らして笑う。
こうも悪名が広がった今、女性なんて仮面を外して買いに行くしかないのだが。

「……退役してもお前の腕前は衰えてはいない」
「惜しい…このままお前が諦観の中で錆びついていくのが私は惜しい」

刀の柄頭に軽く手を当てて。
臨戦態勢、とはいかないまでも相手に刀のことを意識させるように利き腕を置く。

「ククク、また大きく出たものだ」
「だが興味はある。質問をしてみろ、このダスクスレイに対してな」

寒風が一陣。

紅龍 >  
「け、楽しそうだねえ――まったく、ガキはガキらしく、青春でもしてりゃあいいのによ」

 なにがこいつを、『ここ』に連れてきちまったのか。
 なぜだれも――『ここ』まで気づけなかったのか。

「そんじゃあ、質問な」

 ふぅ、と月を見上げながら煙を吐く。

「――お前よ、なんで『怪盗』なんざやって、人殺しなんかやってんだ?」

 なぜ、『ここ』に来ちまったんだ、クソガキさんよ。
 

ダスクスレイ >  
「楽しいからだ」
「お前は他者を出し抜いて翻弄した時に愉悦を覚えないのか?」

左手を軽く掲げて、演説を打つように高らかに語りかける。

「弱者の命を奪う時に魂が震えないのか?」
「お前はわかっているはずだ………」

「至純の暴力により得られる快楽を」

「もう怪盗の看板はどうでもいいのかも知れん」
「ここまで悪鬼として名を知られた以上、剣鬼で十分」
「ただの暴力の体現者で十分なのかも知れない」

ゆっくりと、刀を抜く時のようにゆっくりと紅龍を指差す。

「話は終わりか? 言ってわからないなら私は虚空で理解を求めてもいいのだ」

紅龍 >  
「――暴力の快楽。
 ――快楽の殺人」

 それはついぞオレには理解できない価値観だった。
 だが、それでも――

「ああ――安心したよ、『ダスクスレイ』」

 タバコを握りつぶして、ライフルを投げ捨てる。
 懐から圧力注射器を取り出した。
 中身は――血のように紅い、『林檎の蜜』。

「――お前はまだ『人間』だ」

 注射器を首に当て、シリンダーを押し込む。
 酔いにも似た浮遊感。
 全身を熱い血が巡り始めていく。

「力に魅入られて、快楽に取りつかれちまってはいるが――」

 遅効性の傷薬は、ゆっくりとオレの全身へと行きわたっていく。
 腰から『鎮静剤』を引き抜いて、シリンダーを回す。
 弾は一発――それでいい。

「――ただそれだけの、ごく普通の『人間』だ」

 口元が緩むのを感じる。
 ああそうだ――こいつは、『人間』なんだ。

 左胸に親指を当てて、笑ってやる。

「――一撃ずつだ。
 それで決着、それ以上は無しとしようぜ」

 笑いながら、『鎮静剤』をろくに構えもせず、両腕を広げた。

「先手はくれてやるよ。
 だから――きっちり殺せよ?
 じゃねえと、次はオレの番だ」
 

ダスクスレイ >  
「そうか………」

疲れた様子で夜空を見上げる。
溜息すらついてみせる。

「お前も私を理解してはくれないのか………」

腰から閃刀『虚空』を抜く。
ゆっくりと、ゆっくりとだ。
それが儀式。それが礼儀。

   ナメ
「私を無礼るな、紅龍ッ!!」

飛びかかりながら虚空を振るう。
斬り下ろしからの斬り上げ。
最速で行うことでラグをなくす。

神速二連、咬竜剣。

紅龍 >  
「――いや、わからんでもねぇさ」

 ――人間は家畜だ。

 ただ消費されるだけの、家畜に過ぎない。
 だがらこそ――求めちまう。
 それが何かは重要じゃない。
 ただ、欲しがっちまうんだ。

「来な、坊主」

 達人の領域に達した踏み込み。
 オレには見切れやしねえ。
 神速の一刀は、間違いなく必殺――必死の一撃。
 避ける事も防ぐことも出来やしねえ――だが。

 ――『死なない』だけならチャンスはある。

 坊主の踏み込みを、受け止めるように踏み出す。
 超常の刀はあっさりとスーツの防刃性能を上回り、防護魔術を重ねたミスリル繊維の帷子も切り裂いて――オレの身体に沈み込む。

「――ゴ、ふ」

 刀の切れ味はどうであれ、力の伝達は根元に行けば行くほど不十分になる。
 どんな魔剣であっても、十分な運動エネルギーがなければ力を発揮しきれない。

 左鎖骨と肩甲骨が砕かれて、肺が潰れて、肋骨が纏めてへし折れた。
 誰でもわかる。
 たしかに両断され、即死はしなかったが――これは致命傷だ。
 助かる見込みは、ほぼ無いだろう。

「――ナメ、ちゃ、いねえさ」

 スーツの補助機構だけで左半身を動かして、坊主の腕ごと抱え込む。
 その僅かの間に、『林檎』のおかげで神経と筋線維が修復される。
 動くようになった左腕で、しっかりと刀の柄を握りしめた。

「――つまん、ねえよなぁ。
 おもしろく、ねえよなあ――」

 口から血があふれる。
 『林檎』の効力も間に合っていない――久々に『死』って奴を間近に感じた。

「なにもねえ、にちじょうに、あたりまえの、まいにちに、
 がっこうに、しゃかいに、せかいに、よぉ」

 ――ただ消費されるだけの家畜。
 だから『人間』は、求めちまう。

「でもなあ――オレは、それが欲しいんだよ」

 ただ消費される毎日を。
 特別な事なんてありゃしねえ、くだらねえ普通の日々ってやつを。
 オレは――オレ『達』は、欲しくてたまんねえんだ。

 『林檎』が身体を再生させていく。
 血の塊が口から零れた。

「約束通り、一撃もらったぜ。
 さあ、オレの番だ――」

 『鎮静剤』の95口径を坊主の胸に向ける。
 装弾されているのは、.950SuperNapalm――弾頭の威力はたかが知れてる。
 それでも人が死ぬだけの衝撃はあるだろうが、今の坊主の身体ならそれも多少動きを止める程度だろう。
 だが、この球は焼夷弾だ。
 命中すれば可燃性のガスを噴射してあっという間に火だるまにする。
 ――至近距離だが、刀を手放せば避ける事も出来るだろう。
 さぁて、どうなるか――。 

「オレが殺すのは『バケモン』だけだ。
 だから、死ぬんじゃねえぞ、坊主」

 ――撃鉄が、堕ちる。

 

ダスクスレイ >  
「!?」

バカな、斬られるつもりで突っ込んできたのか!?
万物両断の刃に!!
死ぬ気としか思えん!!

そして………魔導金属か、いや、違う……こいつの命か!!
刃が抜けない!!

「バ………ッ」

バカが。その言葉は口をついて出ない。
私は刀を手放すか、相手の銃弾を受けるか。
その二択を。

 
「があああああああぁぁぁ!!!」

銃弾を受ける選択を………

「ごあああああああああぁぁぁぁぁ!!」

焼夷弾か!!
全身を炎に包まれ、それでも刀から手を離さず。
後方に後退りながら刀身を抜いて。

「き、さま…………」

肺に高熱のガスが入り込んで噎せる。
正常に脳に酸素がいかない!!
苦しい、苦しい、苦しい!!

咄嗟に足元に刃を突き立てる。
古い水道管から錆の混じった水が吹き出してなんとか火を消す。

「ぐ、ぼ………」

駄目だ、熱傷がひどすぎる!!
喋るどころではない!!

後方に跳び、屋根伝いに逃げ出す。

その決して冷めない炎熱は。
私の狂気を加速させていた。

紅龍 >  
 ――はは、やっぱ手放せねえか。
 そうだよなあ――折角手に入れた力なんだもんなあ。

「――ぐ、ぬぅぅ」

 噴射されたガスの燃焼に、オレの身体も巻き込まれる。
 体はスーツのおかげで守られたが――顔が焼けるのを感じる。
 呼吸を止めてただけあって、中身までは焼けてねえが――

「ぎ、ぉ、ぉ」

 火に焼かれながらも引き抜かれた刀身が、ようやくわずかに再生した体をさらに深く切り裂いていく。
 は、こりゃ、腹まで逝ったな。

「――は、は。
 ちゃんと、生きてんじゃねえか」

 火と熱にやられながらも、坊主はしっかりと立って、オレを睨んだ。

「上出来だぜ、坊主」

 高く跳んで去っていく坊主は――さらに力に呑まれていくんだろう。
 そういうやつの末路は――おおよそ決まっている。

「は――」

 ぐるん、と世界がひっくり返る――いや、オレが倒れ込んだだけだ。
 夜空ってヤツが視界に広がってやがる。

「あー――だめだ、も、無理、死ぬ」

 ゲホゲホ、と血を吐きながら笑ってみりゃあ、体中が痛すぎて洒落にならねえ。
 ただまあ――坊主が死ななかった事に安心してんだからよ、笑っちまうよな。

「っ――ぅ、はぁ」

 タバコをとりだし、微妙に燃えて嫌な臭いを出しやがる頭髪で火をつけ、咥える。
 生き残ってる方の肺が煙を吸い込んで、『林檎』の効果を促進し始めるが――ハハ、流石に死ぬかもなこいつは。

「ふぅ――坊主の最後は、任せたぜ――どこぞの、クソガキさんよ」

 淡い月明かりを受けて深く息を吸って――。
 情けねえ話だが、オレの意識はそこで途絶えた――。
 

ご案内:「落第街大通り」からダスクスレイさんが去りました。
ご案内:「落第街大通り」から紅龍さんが去りました。