2022/07/19 のログ
ご案内:「落第街 とあるジャンク屋」にメアさんが現れました。
メア > 「これがこうで、ここがこうで…これが死んでるから取り替えて…」

作業油がきめ細やかな肌を汚す。
人に似せた機械が、機械を直している。
メアの精神状況は没頭できる仕事を得たことで徐々に安定しつつあった。

最初は店の掃除や整頓、そしてお爺さんの仕事に興味を持ち、機械を弄るようになった。
なれない環境で苦戦しつつも、仕事をこなしているようだ。

ご案内:「落第街 とあるジャンク屋」にパルムさんが現れました。
パルム > 「こんにちは、おじゃましまーす」

彼女は再び尋ね来る、目的は知り合いへの会合
『責任』という想いは一旦端に置いたとして、
出会う度に目に見えて状態が安定してきているメアとの付き合い
きちんとちゃんと、楽しいものだと考えていますとも
最近の貴女は、バラの香水よりも油と鉄の似合う様になっちゃったかな?

本日も、大きなバスケットの中から水の入ったペットボトルを数本
それが『出会い』の為の料金と言う物だ。強いられた訳でもないけれどね


「おじい様。今日のメア様はどちらに?」

まずは、そんなご挨拶から始まる

お爺さん > 「あー、あんたか。今は工房にいるんでねぇかな?大丈夫だとは思うが機械には触らんでくれよ、下手すりゃスクラップが出来上がっちまうからな!」
そう言いながら奥へと案内していく。

この爺さんも最近元気になってきている気がする。客足は相変わらず殆どないが。

そうして案内された工房には、髪をタオルで纏め、汚れてもいいようツナギを着たメアが機械と向き合っていた。

パルム > 「分かったよ。いつも通り、だね?」

おじい様の様子も変わって来ている。言葉から読み取るのはもちろん、
見上げた瞳の輝きもきっと。『仲間』が出来たからなのだろうか?

尋ねても、頑固な所を持つ彼が答えてくれるかどうか
調香師の方から口にした事は、今までで一度も無いのであった
ただただ、彼女も釣られて嬉しそうに、不器用な笑みで微笑むだけ


扉をくぐり、今日も集中している貴女を見つけた
作業を終えれば、自然と顔を上げてくれるだろう
機械に集中している間は、声をかけても気付いてくれないのは経験済み

おじい様に言われずとも、待ち時間は工房の壁際で佇むのが日課
仕事をしている様はよく眺められるものの、『眺める側』というのも悪くはない

その瞳はいつも美しいものだと、普段から思っている所だった

メア > 「よし、出来た」
機械を直し終え、タオルで手を拭く。
数回動くかテストをし、正常に動くことを確認する。

メアは先進的な技術の知識は持っていても、所謂『枯れた技術』は持っていない。
お爺さんから1から教えてもらい…今回、ようやく助言なしに直すことが出来たのだ。

「んん…!」

ぐぐ、と伸びをして背筋を伸ばす。その視界の端にパルムを捉えて。

「パルム、来てたんだ」

そう言って近づく。薄汚れてはいるが、いい笑顔になっている。

パルム > 「うん。今日も来たよ」

想定時間よりも長く。最後には確認動作まで
その笑顔を見て、彼女は己の力で完遂したのだと、
職人としての感覚が伝え来る。彼女もまた、ぎこちない笑み

「でも、綺麗にしないとね。だって、メア様が一番気にしてることだもん
 顔をこっちに向けて、拭ってあげるからさ...うんうん」

今度はバスケットの中から真新しいタオルを。幾度か通い、必要そうなものは選んできたつもり
錆くさい化粧も似合う表情にはなってきているけど、貴女本人はきっと、『気を抜く事』をあまり許さないだろう

「今日は、どんなお仕事をしてたのかな?
 あなたの態度に自信を見る。だから、きっと『為になること』って確信してるんだね」

メア > 「ん、ありがと」
されるがままに、顔を拭われる。適切に拭われれば、きめ細やかな肌が美しく顔を彩るだろう。

「簡単な機械の修理。私達のような先進的なものではないけど…ここの生活を支える大切な機械」

それは、ある簡単な制御盤のようだ。スイッチに応じて電流が流れるという簡単な代物。

しかし、落第街という場所では先進的なものは修理が利かない。故に古い技術であり、信頼性に長けるもの…『枯れた技術』が重宝されるのだ。

パルム > 「先進的、って言われてもね。結局は積み重ね、みたいなものだし?」

顔をぬぐい終えたタオルをくるくると巻いて、バスケットの中へ

そんな小さな積み重ね、『枯れた技術』から派生して、私たちはここに居る
途方の無い道筋、工程。現代技術と比べ物にならなくとも、『そういうもの』だと知っている

たとえ精神がその意味を理解しておらずとも、目線がスイッチのオンオフしか切り替えられないような構造の意味を『体』が理解していいよう
彼女の慈愛交じりの静かな笑みは、特別安らかな物であったそうな

「......うん!メア様も随分と調子を取り戻してきたのかな?

 外に出るとか、そういう本調子までは遠回りかもだけど
 私って何度も時間をかけるとか、回数とか、好きだからね
 その分たくさん、相手の人と出会えるもの。だからこうしてここに来た」

閑話休題。明るい言葉遣いの彼女はそのあたりの椅子を引き寄せ、自らの体をその上に落ち着かせる

「今日のメア様だったら、ちょっと進んだ事を尋ねてみてもいい気がする
 あなたは本当に、今日までの長い間で心が軽くなったように思えるからさ
 おじい様にもお礼を言わなきゃね?いひひ」

メア > 「確かに、それはそう。無数の技術の連なりが、私達を生み出してくれた。中には、失われた技術もあるみたいだけど」

機械では作れないもの。人の手でしか作れない技術。
伝えることが出来なければ、その技術は消えゆくしか無い。

「うん、そうだね。本当に、感謝しても感謝しきれないぐらい…。こんな私でも、お爺さまの助けになっていれば良いんだけれど」

パルム > 「なってるよ、きっとね。修理の事だけじゃなくて、あなたの存在意義としても
 けれど彼に聞いてもダメかもね。ずっと見てきた私の言葉、そうして秘めて、微笑むの」

口の前で両指を合わせ、軽い言葉で伝えていく
『愛される形』が他人を活気付けていく様を、至近で見てきた立場
追及しても、認めてくれないかもしれないけどさ。手の向こうの悪戯っ子な笑み

なりを潜めるのも早く、彼女なりに真剣な雰囲気へと移ろうのはその直後

「メア様。再起動した日の事。きっと、多くのデータをロストしてる
 ...精神的に安定してても、『機械として』はどうだろう?

 私、最近これと向き合って良い気がしてるんだよね
 例えば、私の事をマスターと認識していたあの言葉とか
 推測だけれど。自分の事が落ち着いて、『他』の領域を認識できるようになった時
 あなたって、今は随分と『空っぽ』になってるんじゃないかなぁ...てさ」

引きこもり、ひたすらに交流を断ってきた。しかしいずれ、在る為には向き合わなければならないだろう
彼女はそんな言葉を向ける。目線を向ける。逃げてもいい、向き合うなら、『あなたの為に』と考えるだけで

メア > 「そうだと、良いのだけれど」
精神は安定しても、自信がついてくるわけではない。
打ちのめされた『愛情』は、未だ形を見失っている。

「……その。記憶領域は、再起動した時に『整合性』が取れるように整理して…取れないものは『初期化』したの。
壊れたデータは、危険だから。
だから、パルムの言う通り殆どが空っぽ。パルムをマスターとして認識したのも、そういうシステムがあったから」

メアのような存在は、誰かしらの関わりが無ければ早々に朽ちゆく存在だ。誰かが面倒を見て、メンテナンスしなければ…早ければ一月でスクラップと化す。

「でも、無くしてしまったものは仕方ない。だから、今私ができる、誰かの助けになることをしたいって、お爺さんに言ったの。そしたら、仕事をくれたんだ」

パルム > 「『場合によっては、その認識のまま生かそうか』
 何度か考えた事ではあるね。私たちって、脆いからさ?」

『心』を保つその難易度を、彼女は少しは理解しているつもり
例え自身の過去を歪めてでも、保ちたいものがそこにある

私たちは、その事実を知っている。お互いに

「でも、そうやって結論を私の中で急がなくていい
 ずっと通って、あなたの快復の具合を見て、そう思ったんだ

 おじい様も必要な物は何かと知って支えてくれる
 あの人は本当に、機械の事が好きなんだね?
 初めの頃は本当に、私じゃメア様を支えられそうもなかったからね~」

昔話を揶揄うように。全力で拒絶され、失意に暮れて帰った後
彼が向き合ってくれていた、その感謝の気持ちは滲み出る

メア > 「…ここで働く前なら、『心』なんて、電気信号の纏まりが見せる夢幻に過ぎない…って思っていたけど。

こうやって、直に機械と向き合って。『物』にも心が宿るんだなってわかったんだ」

そう言って、修理した基盤を光に当てて眺める。経年劣化で一度は使えなくなった物。

しかし、その外観は…時間が経過したものとわかる程度には樹脂が剥がれたり等していたが、金属部分はピカピカに磨かれていた。

メアが磨いた訳では無い。渡されたときには既にこうだったのだ。

「大切に扱えば長く応えてくれる。粗雑に扱えばすぐにヘソを曲げる。だから、お爺さんも私のことを大事に扱ってくれたんだと思う。私がヘソを曲げたままでも」

パルム > 「あなたはひどい事をされたがってたの。そうすれば、『ひどい気持ち』の人と寄り添えるから

 ...でも、一番最初に知るべきはこういうものだったのかもね?
 いやな事って、大抵反転だから。『理想』から遠い事、だからさ」

当時の私は、あなたの注文を真に受けて、それを実行してしまった
『本当につぎ込むべきこと』が何であったのか、彼女の言葉から知れなかった公開の感情も、言葉の端に滲む

「...だったら、こうしてメア様が私に応えてくれる
 それも、大切に扱ったから?なぁんて、ししひひ」

メア > 「…私にその記憶は無いけれど。きっと、多分。そうなんだろうね」

今でさえ、人を幸せにするということがどういうことかわかっていない。
短絡的に不幸を知れば幸せを知れるかも、という行動に走ったかもしれない。

でも、今は。そんなことは思えない。大切にされていると知ったから。

「パルムだって、私が拒絶しても向き合ってくれた。時間は必要だったけど…それでも、向き合おうとしてくれた。それだけで十分よ」

そうして話してる間に、ピピ、と機械音が鳴る。

「っと、そろそろメンテナンスしないとか。短い間だったけどありがとう。また来てくれる?」