2022/08/16 のログ
ご案内:「落第街 屋台通り」に狭間在処さんが現れました。
狭間在処 > 落第街に幾つか点在する通りの中でも、この屋台通りと言われる場所はちょっとした食事処の宝庫だ。
勿論、表側に比べれば雑多で小汚いし小競り合い等も日常茶飯事ではあるが。
そんな屋台通りを、夏場だというのにしっかりと服を着込んだ青年が歩いている。

「………。」

時々、ここに足を運ぶが相変わらずごった返しているな…と、思うけれど。
この、表側には無い独特の活気は実はそんなに嫌いでも無いのだ。
無論、面倒な小競り合いなどに巻き込まれるのは御免被りたいものだが。

(…さて、何を食うか…まぁ、腹を満たせれば何でもいいんだが…。)

別に美食家でも無いし舌が肥えているとも言い難い。
食べられる物なら、それがゲテモノだろうと何だろうと普通にイケる。
今日は何処の屋台で食事を済ませるか、ぼんやり考えながら屋台群をゆっくりと見渡し。

ご案内:「落第街 屋台通り」にノーフェイスさんが現れました。
ノーフェイス >  
「ねーえ!」

透き通りすぎるくらいの声で、青年に声をかける者がある。
ちょうど見渡した先に、白い指で手招きをする女がいた。
もうもうと煙る屋台の前に立ち、にこやかに笑いながら、知った仲に語りかけるように。

「作りすぎちゃったんだってー。 ちょっと安くしてくれるってさー!」

それが事実なのか、売り文句なのかは女にはわからない。
値札のない屋台も多かった。
対価が貨幣でなかったり、単に気に入らない客にふっかけたりと理由は様々だ。

「食べるもの探してるならどーぉ?」

ふたつならより安く食べられるぞ、とでも吹き込まれたのだろう。
まんまと呼び込みに使われた肩越しに女は背後を見て、一歩横にずれた。
大きな鉄板に、ほぐした肉が敷き詰められている。なんの肉かはわからない。店主もわからない。
ナイフを入れたバゲットのトーストで、いまもじゅうじゅうと肉汁を沸かせる肉を掴んで挟むタイプのジャンクフードだ。
少々お行儀と見栄えのわるい出来だが、腹は膨れる――味の濃いソースやトッピングが並んでるのもそういうことだ。

狭間在処 > 「……?」

ふと掛けられた声に視線を不思議そうに向ければ。
白い指先で手招きをする女性が一人。燻る白煙が威勢良く立ち昇る屋台に立つ人物。

(――…何だ?)

にこやかな笑顔で知った顔のように話し掛けて来る女を少し眺めていたが…。
身に覚えが無い筈の”既知感”に、僅かに困惑したように眉根を一瞬寄せて。
だが、招きを無視する程に薄情では無い青年は、素直に気を取り直してその屋台と女性の方へと歩み寄る。

(…さて、思わず応じてしまったがどうしたものか…。)

と、思うが実際に小腹が空いているからここに今居る訳で。
ともあれ、彼女の傍に歩み寄れば無言で軽く会釈…何せ喋れないから仕方が無い。
しかし、手話は通じるかどうかは分からないので、少し考えてから懐から使い込まれたメモ帳とペンを取り出す。
手話か筆談が青年の基本的なコミュニケーション手段だ。音声会話や念話が使えないのでそれしか手が無い。

『済まないが、昔、喉を負傷した後遺症で喋れないので筆談で許して欲しい。
そちらが良いなら、御相伴させて貰おうかと思うが…。』

と、書き慣れているせいか、手早く書き込んでページを彼女に見せる。

それから、横に一歩ずれた彼女の背後を覗きこむように視線を巡らせる。
鉄板で焼かれた何かの肉。ナイフで切込みを入れられたバゲットのトースト。熱々の肉汁。
中々にジャンクフード、といった感じだが普通に美味そうだ。こういうのは嫌いじゃない。

ノーフェイス >  
唐突に走り書きを始めた青年に、女は眉を跳ね上げて怪訝そうに見つめていた。
内容を示される。腰を折り、書面に顔を寄せてまじまじと眺めた。

「はい、はい、はあ……なるほど」

顎を撫でながら内容を咀嚼する。その姿勢のまま、下から彼を見上げて。
女の赤い唇が、にまりと微笑んだ。

「ここらへんの人にしては、几帳面だね?」

必要以上のコミュニケーション。それが女の興味をそそったらしい。
店主の方を振り向いて、ピースサインを見せた。
二つ。一番大きいサイズ。店主に何かが入った小さいフィルムケースを渡し、
湯気を立てる包み紙のうち、ひとつを青年に差し出した。
油滴るシュレッドミートの上に色の濃いチーズが乱雑に振りかけられている。
野菜なんて二の次の行儀が悪い屋台なのに。

「なにが好き?」

お先にどうぞ――なんて、列になる場所から外れてトッピングの群れを手で示した。
鼻歌をうたいながら、どれにしようと選ぶのだが、青年が動いてから食べよう、という感じで、
女は、その意識を半分、青年のほうに向けている。

狭間在処 > 正直、相手からすればわざわざ文面を見てから返事をしないといけないし、何より会話のテンポが悪い。
青年もそれは重々承知なのだが、これしか会話の手段が今の所は無いからどうしようもない。
彼女がまじまじと文面を確認した後に一度メモを引っ込めるが、覗き込む姿勢だった女性がそのまま見上げて笑み混じりの声で。

「……?」

そうか?と、いったニュアンスで首を傾げてみせる。この程度ならジェスチャーで伝わるだろう。
几帳面だとは思っていないし、そもそも彼女と何か敵対している訳でもないのだ。
荒っぽく振舞う必要性は感じないし、基本的に青年は物静かで面倒は嫌う。
結果的に、それがこの街の住人にしては”話が出来る”ように見えているかもしれない、が。

と、彼女がピースサインのように指を2本立てて店主に注文をするのを確認すれば、財布は一応取り出しておく。
手早く、店主が二人分用意してその片方をこちらへと差し出してくる。
熱々の油と肉汁がじんわり滴り、濃い目の色合いのチーズが乱雑に振り掛けられたそれ。
軽く店主に会釈してから受け取りつつ、隣の女性の質問に一度彼女に視線を向けてから、示されたトッピングへと顔を向けて。

「………。」

少しだけ考えるように僅かにそのままで居たが、ややあって指差したのはホットチリソース。
それ以外にも、幾つかのトッピングを指差すがどれも味が比較的濃い目だったり辛い物が多い。

…結果、指差したトッピングを店主がそのまま全乗せしてしまう結果になり中々カオスな事になった。
毀れないようにフィルムケースの持ち方を変えつつ、「そちらは?」と、いった感じで彼女に視線を戻し。

ノーフェイス >  
ごってりとした味のキメラが出来上がるのを眺めてから、
女は具の切り方がずいぶん雑なサルサを載せ、そのうえに強めにライムを搾った。
酸味を重視した味わいは、青年のそれに比べればずいぶんあっさりしたものだ。
もともと肉とチーズがある時点で健康ぶるつもりなんて毛頭なかった。

「ひとくちちょーだいよ」

こっちもあげるから、と、空いている手が包み紙から露出しているサンドを掴む。
引っ張った。トーストしたてのパン生地がぱきぱきと音を立てて、
もちりと伸びた断面に、肉汁が染みていい感じに下品に食欲をそそる。
だいたい手持ちのサンドの三割りくらいを手で千切って、青年に差し出すのだ。

「こういう素っ気ない付き合いがデフォルトな場所だと思ってんだけど。
 キミはここ、長いのかい?」

女の言い草は、それなりに長くは居るが、比較的新参である、ということは隠そうともしない。
包み紙を剥いて一口齧る、パンは硬めだ。食べごたえで腹を誤魔化してる側面も多い。

「いちいち書くのメンドいだろ。いいよ」

筆談じゃなくても、と。
意味有りげな微笑みは、青年を却って迷わせようとしているかのようでもある。

狭間在処 > 店主が『ホットキメラサンドだな』と楽しげに笑っているが、まさか全乗せとは思わなかった青年。
喋れないので沈黙はそのままだが、何処と無く「…マジか」といった空気を漂わせており。
対照的に、彼女の方はぶつ切りじみたサルサにライム果汁を絞ったあっさりめ。
…指を差さずに自分でトッピングを盛れば良かったな、と今更に思う。

「……。」

どうやら、お互い一口交感しようという提案らしい。特に抵抗は無いので頷きつつ。
こちらは彼女のものと比べて今にも零れ落ちそうだが、そこは頑張って同じく3割程度を千切って差し出し、彼女から変わりに受け取る。

「……。」

彼女の質問に、少し考えてから頷く。正確な自分の年齢は覚えてなどいないが。
少なくとも20年前後はずっとこの落第街に居るのは確かだろうか。
そうして、青年もまずはホットキメラサンドから一口。…濃い、辛い、味の主張が凄い。
だが、結果的にちょっとスパイシーだが、食欲をそそる感じで失敗でも無いようだ。
パンの硬さについては、そもそもここでの暮らしが長いので特に不満も無い。

『…筆談以外となると、あとは基本的に手話しか無いんだが…?』

と、二つのサンドを片手に空いた手でジェスチャーを。彼女が手話を知っているかは分からない。
もしかして、こちらの思考などを彼女は読み取れるのだろうか?それなら話は早いが。
結果的に、彼女の言葉や意味ありげな微笑みに若干翻弄されているフシもあるけれど。

ただ。その律儀さというか落ち着いた態度は一貫してはいるだろうか。
それは面白みに欠けるやもしれないが、これが自分なのだから変えるつもりも無い。

ノーフェイス >  
千切って寄越された分を、口に押し込んだ。
鼻から抜ける絡みに、目を見開いてから瞑って、もぐもぐと時間をかけて咀嚼すること暫し。
堅いパンがむしろ障害になって――飲み込んだ時には、女は暑気以外の要因で少し汗をかいていた。

「んぐっ……ぷぁ、これも後遺症?」

赤い舌を出して、少しひりつく辛さの名残を外気で冷やした。
燃える炎の視線が周囲をさまよい、飲み物の宛てを探す。
そんななか、視線でとらえた者言いたげな彼の姿。

「ボクが訊くんだったらさ、イエスかノーでイイじゃん?
 首を振ればそれくらいはボクにだってわかるよ。
 キミからボクに訊きたいことがあるんだったら困るだろうけど~…あるの?」

他の屋台で買ったもので盛り上がってる席のほうにめがけて、
ポケットから取り出した何かを投げる。
代わりに投げて寄越された飲み物の缶を掴み、掌のなかでくるくると弄った。

「そんな几帳面なのに、伝える手段がそれだけってことはさ…、
 キミはあんまり他人に尋ねたりしてこなかったヒトなんじゃないかなぁって、
 そう思ったんだけど、違った?」

狭間在処 > 首を緩く傾げて、『それは分からない』といったジェスチャーを。手話をする程でもない意思表示は楽と言えば楽ではある。
片手で、器用に今度は彼女の分のお裾分けされたサンドを頬張る…明らかにこちらの方が食べ易い。
少なくとも、辛いとか味の濃さはちゃんと認識出来ているから、味覚が人より外れ過ぎている事は無いとは思いたいが。
単純に、自分に辛味の耐性があるだけ、という線もあるのだけれど。
彼女が飲み物を探して視線を巡らせる合間に、平然とホットキメラサンドをまた一口。

(聞きたい事…は、どうだろうな。無くも無いが初対面だし…。)

他人に興味が無い、という訳でも無ければ馴れ合いを避けたい、という事も無い。
だから、彼女の問い掛けには、先に続いて「分からん」と、いった軽く肩を竦めるジェスチャー。

青年は飲み物は特に要らないのか、専ら、手の中のサンドを頬張る事に注力しつつ、彼女が飲み物を調達する様を眺めていたけれど。

(――尋ねようにも、喋れないからな…どうしても聞き役になりがちなんだ。)

と、つい口を開いてしまうがそこから漏れるのは息遣いだけで声は出ない。
それこそ、読唇術でも習得していないと分からない滑稽を晒してしまった事は反省だ。

なので、本心は兎も角として、彼女の質問には一度緩く頷いてみせる。
尋ねたくても出来ていないのならば、それは実質的に”尋ねようとしなかった”のと然程変わらない。

(…と、いうより喋れないこっちに普通に付き合ってくれている君の方がむしろ珍しいが)

それこそ、こちらの思考などを読み取れる以外では、本当に筆談や手話しかないし。
彼女の言うとおり、イエス・ノーくらいのジェスチャーは出来るし、分からない場合は首を傾げたり、と。
それでも、矢張り限界はあるし表現や伝えたい事はどうしても極小になる。

ノーフェイス >  
「でも、コミュニケーションは嫌いじゃないんだね、キミは」

面倒くさがる様子を、女は青年から見て取れなかった。
缶のプルトップを開けて喉と舌を癒やして、一息。

「イイよ、ゆっくりで。 どーせ暇だし。
 ボクに付き合ってくれるっていうなら、それくらいワケないぜ」

そして、コミュニケーションに慣れていない様子も、また見て取れた。
音の出ない口を開閉する様子にも、微笑むばかりで。
困ったように眉を潜めて、女は、自分の分のサルササンドにかぶりつく。
すっぱい。その味が良いのだ。いい感じに記憶が上書きされていく。

「――ん、ああ。暇だからね。暇つぶしだよ。
 もともと人探しっていうか……ヘッドハント。してるんだけど、ピンとくるヒトがみつかんなくて。
 ああそれにほら、二個はちょっとお腹に重たいけど、キミがいてくれたからいい感じにふたつの味が楽しめた。
 冷めるとさあ、油が固まるからちょっと……ね」

べつに、相手に付き合ってるつもりはなかった。
行きあった相手と余裕があればコミュニケーションを取る。それは当たり前のことだ。
女には余裕があった。青年にも、喋れずともこの街で暮らせる余裕、それを裏打ちする何かがあることは、
女の目には明らかだった。弱者に対するような気遣いは、しない。

「キミここ長いんだったよな。
 キミに付き合ってあげるような珍しい女を…よかったら手伝ってくんない?」

狭間在処 > その問い掛けには、ゆっくりと…だがハッキリと頷いてみせた。
普段から独りで行動するし、親しい人間も誰も居ないし、孤独には慣れている。
けれど、慣れているだけで孤独が好きではないし、人との繋がりを蔑ろにしたくはない。

(…とはいえ、この街で長く暮らしているとどうしても疑心や警戒心は先立ってしまうが。)

何時ぞや遭遇した女性にも常に警戒腰だった事を思い返せば、ふと苦笑を浮かべてしまう。
相手からすれば、いきなり何か苦笑いを浮かべたみたいで変かもしれないけれど。

「……(ありがとう)。」

口を開いて、今度は意識的に『ありがとう』、と口をゆっくり動かしてから小さく頭を下げた。
律儀過ぎるかもしれないがこれも性分だ。どんな形であれ、意志の疎通が少しでも出来るのは…ありがたいから。
時々、思い出したようにサンドに齧り付いて咀嚼しつつ、自分は割と交流に飢えているのだろうか?と、自問自答しながら。

(暇潰しか…それはいいとして、ヘッドハント…と、なると。
何処かの違反部活か組織…表の側というのも有り得るか。兎に角、”人材探し”な訳だ)

もしくは、新しく自分の手で立ち上げようとしている可能性も考えられる。
そこは予想するしかないので、あまりあれこれと考えを巡らせ過ぎないように留めて。

「……。」

小さく今度は笑った。あぁ、下手な気遣いなんてむしろこっちが惨めになるだけだろう。
自分は今の境遇を嘆いてはいないし、20年近いこの生活で彼なりに折り合いは付けているつもりで。
ただ、コミュニケーションは望みながらも、一方で不器用なのはあっさり看破されていたけれど。

「……?」

丁度、ホットキメラサンドの最後の一口を頬張った所で彼女のからの提案が飛んできた。
一瞬だけ怪訝そうにそちらを眺める。内容が具体的に分からないと何とも言えないが…。

(袖摺り合うも他生の縁、といったか?)

結局、やや怪訝そうにしながらもゆっくりと頷いてイエスのジェスチャーを。
とはいえ、ある程度具体的な話を聞かないと完全にイエスとは言い切れないが。

ノーフェイス >  
「ああ、ボクは"こっち"でやるつもりだよ。
 そういうコンセプトで考えてる」

彼が女の所属している属性に対して思索を巡らせている、その横から。
ふと思いついたように、考えようによっては出来すぎたタイミングで、
そうした補足を付け加える。
少なくとも、学園に公的に認められる組織として申請するつもりは、ない。
それでは意味がない。

「いーね」

青年の微笑を見て、それだよとでも。
そう言いたげに、女は口端をわざとらしく吊り上げて笑みを作る。

「余裕がないと、いろんなものが受け入れられないもんな。
 ボクだって、"知らない"、"付き合ってられない"ってけっこう言われたぜ。
 そもそもこの世界がそうだもんな――門があいて、しばらくだって話なのに、まだバタバタしてんでしょ。
 へへ、まあ、それくらいのほうが楽しいのかもしんないな。
 いっそキミも、ヨユウなさそうなヤツに話しかけたら、楽しいことが起こるかも」

缶が空っぽになった。適当なところに置いておく。

「んー……ありがと、そうだ、……袖摺り合うも他生の縁、ってことで?」

食べ終えて、飲み終えて、両手を合わせた。
また、出来すぎたタイミングで、どこかで訊いたかのように、その言葉を思い出して見せて。

そして、体の横に両腕を垂らす。
歩きながら、少し考えて、一呼吸。

「エンターティナーを探してるんだよね。
 ミュージシャン、ペインター、スカルプター……アクターに、パフォーマー、ディレクター、とか、とか。
 そういう面白そうなヒト、心当たりないかな?
 興味ありそうなヒトでもいいんだケド」

どう?と青年のほうを振り向いて、女は燃える瞳でみつめた。