2022/08/17 のログ
狭間在処 > 「……!」

まるで狙い済ましたようなタイミングで語る彼女の言葉の内容に、僅かに目を丸くして。思ったより表情は出るらしい。
そうなると…さて、どんなコンセプトで…どういう方向性で立ち上げるつもりなのか。

――確かにそうだろう。青年は自分に余裕があるとは正直あまり思っていない。
けれど、こうして飲み食いして相手の言葉に耳を傾けていて。
そうやって、周りに意識を向けられるのは…それこそ余裕が無ければ無理だろう。
勿論、時と場合と場所によっては、些か余裕の無い態度が出る事もあるにはある。
常に余裕綽々みたいな態度は自分には無理だ…自分自身に些か窮屈さを感じる時もあるから。
だから、彼女の言葉に小さく笑んで肩を竦めた。余裕の無い相手に『言葉』を用いないコミュニケーションはハードルが高い。

彼女にお裾分けされた分の残りを平らげつつ、横に並んで歩きながら少し考える。
彼女の求めるその手の人材の方向性などを考えれば、幅は広いようで意外と限られてきそうな。
しかし、狙い済ましたようにまたこちらが思い浮かべた言葉を的確なタイミングで述べてくるこの女性。

「………。」

真面目に考えているのか、軽く腕を組んで指先でとんとんと叩きながら少しの間。
そもそも、自分の交友関係は極小だ。心当たりがあるとすれば……いや。

(【大道具】…スシーラ。彼女なら適任かもしれない)

なので、組んでいた腕を解きながら、燃えるような双眸の彼女に湖面のような碧眼を向けて。
指を軽く1本立てる。つまり1人だけなら一応は心当たりがある、という意見を伝えて。

ノーフェイス >  
「どうかした?」

表情の変化には、こちらも不思議そうに眉を跳ね上げるしかない。
心を読むだとか、そういう能力は少なくとも使っていない、ということだった。

とはいえ、続いて驚かされたのは、女のほうもだ。
今後、探してくれればいいな、くらいの期待感で振った話題にも関わらず、
彼が心当たりを示したことで、不思議そうにその指先から、彼の顔へと視線を移動させた。

「こっち側のヒト……ってことでイイんだよね」

ポケットから取り出した。
小さいカード束だ。無地の、つるつるとした材質の白紙は、まだ何も印刷されていない。
いずれそこに、何かが描きこまれる予定の、その束の一枚を抜き取ると、
彼のほうに差し出した。

「キミの字は読めるから、ここに」

あらためて、女はためらいもなく尋ねる。
思わぬ当たりを引いたものだ。少し考えるように視線を空へ。
そして、彼のほうに向けて、にやり、と不敵に微笑むのだ。

「お礼は、奢った分でいいだろ?」

狭間在処 > 彼女の不思議そうな問い掛けに、「いや、何でもない」とばかりに首を軽く横に振って。
少なくとも、心を読むとかそういう類では無いのだと何となく分かった。
そうなると、偶々なのか…あるいは”間を読み取るのが上手い”のか。

(…どうだろうな、遭遇したのはこちら側だが、一度しか会った事が無いし。)

彼女には、しかし表側を体感させてくれた感謝もあるので、悪印象は特に無い。
ただ、こっち側と断定できるかどうかと言われたら正直微妙な所だ。
と、彼女がポケットから取り出した物に視線を向ける。小さなカード束。真新しい物だ。
一枚抜き取って差し出されたそれを受け取りつつ、ペンを取り出せば箇条書きで書き込んで行く。

・【大道具】のスシーラと名乗っていた。本名かどうかは分からない。
・女性、身長は160㎝と少し、褐色肌に長い銀髪。おそらく盲目で聴覚障害もあると思う。
・常に本を持っている。一度しか会っていないので表側かこっち側かは分からない。
・ただ、彼女の手引きで表側を一度だけ変装して歩いた事がある。
・個人的な推測だが、服飾関係や裏方に向いた人材であるような気がする。

と、そこまで読み易い字で書き連ねてから彼女に渡す。曖昧な情報が多いのは申し訳ない所だ。
そもそも、連絡先や居住先すら分からないので、探すならそれこそ地道に足で、という事になりかねない。

ノーフェイス >   
「キミってさあ」

受け取ったものを見て、女の興味深そうな笑顔が少し曇った。
そこに書いてあるどこの情報が引っかかったかは言うまでもない。

「この子とコミュニケーション取れたのは、逆にスゴイね。
 ひょっとしてボクがみくびっているだけで、
 キミってやつはホントはコミュ強なのかもね」

あるいは彼女のほうにそれを可能とするツールがあるのかもしれないけども。

「ありがと。
 いちおう、公共の乗り物もつかえるから、島中さがしまわってみるよ。
 とっても面白そうな子だ――フフフ、衣装とか仕立ててくれるのかな」

そのカードを、大事そうにポケットにしまい込んだ。
楽しみがひとつ増えて、一応は貸し借りなし。
女は満悦げに歩を進め、屋台街を青年と練り歩く。

「つぎは、キミから……
 面白そうだと思ったやつに話しかけてみるといいぜ。
 きっと楽しいことになるからさ、ボクが今日、そうなったみたいに」

その言葉を最後に。
気づけば女は、すれ違う人混みに紛れてか、どこかへ消えていたのだけれども。
互いに名乗りも約束もしないまま、袖摺り合うのも他生の縁、行きずりで言葉を交わす。
そういう和やかな一幕も、この落第街の日常であるはずだ。

ご案内:「落第街 屋台通り」からノーフェイスさんが去りました。
狭間在処 > 彼女の言葉に首をハッキリと横に振る。明らかに彼女の方に何らかの手段があったと思う。
なので、彼女の評価は少々見当違いだ。残念ながら青年はそこまでコミュニケーションは強くない。
そもそも、喋れないしそれに付随して不器用でもあるので、むしろ人によって避けられがちだろう。

(…まぁ、手伝いになっているかどうかは分からないが。)

緩く嘆息交じりに肩を竦めてみせる。言葉は正確に伝わらなくても大まかな意思が伝わればそれでいい。
癖のある人物なのは確かだろうが、それは多分自分たちも人の事は言えないだろうから。
と、いうより彼女のも止める人材の方向性からして、むしろ癖の強い人材が適任にも思える。

「……。」

僅かに青年の表情がぴくり、と動く。その言葉に色々と逡巡はあれど。
ややあってから頷いた――勿論、時と場合と場所によるけれど。
ああ、結局誰かとの交流を自分は望んでいるんだろうな、と改めて思いながら。

(自分に折り合いを付けて、納得したようなフリをして、不器用極まりないな。)

そう、彼女に視線を向ければ――既にその後姿が人込みに紛れていく所で。
…一瞬、戸惑うが…ああ、まさに袖摺りあうも他生の縁、とやらだ。
彼女には見えていないだろうが、律儀に去り行く彼女に会釈をしてから青年も歩き出す。

――思わぬ出会いだったが、小腹も膨れて自分の事を改めて垣間見れた。
それで今は十分だ――いずれ、また会う事もあるだろうから。
だから、互いの名前も何もかも分からずとも。今はそれで満足したように青年の姿も雑踏に紛れていく。

ご案内:「落第街 屋台通り」から狭間在処さんが去りました。