2022/08/23 のログ
ご案内:「落第街 屋台通り」にノーフェイスさんが現れました。
■ノーフェイス >
表舞台の繁華街程ではないにせよ人は多い。
時として"密度"の側面ではこちらが勝るのではないかと思うほど、
意図的にか、偶発的にか、この島に生まれたゲットーは、
アングラな賑わいで鈍色と錆色に彩られているように見えた。
中華風の炒めものにスープ、山盛りの米は、比較的安価に腹を満たせるメニューのひとつで、
路端に築かれた屋外席の群れで人々が食べているものはだいたいそんなものだ。
揚げ物なんかもある。余り物がたまにおまけでつく。
「鎧武者ぁ?」
飯の種にと店主が言っていた噂話は眉唾だ――暴れていた仮面の剣士がいつぞやか風紀とやりあって死んだとかは聞いたが。
また奇妙なものが現れたものだと、雑な味付けのそれをレモネードで強引に流し込んでから声をあげる。
「表のほうで出たってやつじゃなくて?」
暴動でいえば、全身鎧の奇人の話もちらりと耳に挟んだ。
認可されてる地区で暴れれば、風紀委員に眼をつけられる可能性は当然高くなる。
――こちらから視てみれば、"風紀委員会"がアテになる存在か、というのは怪しいところではあるが。
噂の辻斬りと別人なんだとすると、奇妙な危険人物がふたり、ほぼ同時に発生したということだ。
■ノーフェイス >
「ほんとうに、いろんなところから人がやってくるんだねえ、ここは」
場違いに安穏とした感想を述べて、また料理を崩しにかかる女が特異である、というよりは。
店主もそうだな、とだけ頷いて、屋台のほうに戻っていったことからも、
"自分の身は自分で守れ"という、野性的な鉄則が身についている者が、この街にはそれなりの数いる、というだけだった。
選んでここに居る者なら、とくに。
選んだ訳ではない者なら、震え上がるしかないのかもしれないが。
「殺人鬼ねえ……無差別にやってるのかな。
ボクも気をつけよう。傷だらけで彼女の前に出るのも失礼だしな」
揚げ物。冷める前に頂きたいものを口に放り込んだ。
咀嚼しながら視線をさまよわせる。その群衆のどこかに"それ"がいるかもしれない。
よくいる手合い――ではある。今のところは。落第街側から見れば、数多いる驚異のひとつだ。
"危険人物"が潜むには絶好の、地図に描かれていない街。それが此処。
彼らが他とどう違うのかは、彼らが動かない限り判らないことであって。
でなければ誰も手の打ちようがないのかもしれなかった。
だが、女が気にしているのはそこではなかった。
「――の価値って、この島ではどれほどなんだろうね?」
唇は微笑んでいたが、ため息は青かった。
詰め込むための食事をしかし楽しんで、女の姿はいつしか消えていた。
ご案内:「落第街 屋台通り」からノーフェイスさんが去りました。