2022/09/29 のログ
■パラドックス >
忘れるはずもない。あの冷たい世界を。
この場の熱気など微塵も無い。そこに生きる────。
『……お前が知る必要など、無い……!』
未来<カコ>の記憶を振り切るように吐き捨てる怒声。
怪人の声に確かに人が持つ"怒り"の感情がむき出しになってきた。
どれだけ機械を演じようと、身に纏おうと、その本心が人であるという証左である。
エンタメだと宣う口ごと砕く心算ででいた。
だが、やはりと言うべきか届きはしなかった。
その棺から生まれた、色すらない歪なエレキギター。
『魔法使いだと……?……!』
掻き鳴らされる旋律。
極彩の帯が再び女の背後から広がる。
鉄仮面の奥に常時表示されるモニターから放たれる"危険信号"。
先程と同じものではあるが、質量も威力も桁違いだ。
『何だと……!?』
<スラッシュ!>
銃身に纏う蒼刃を振りかぶり自ら打って出た。
空を掛ける蒼い軌跡が光帯とぶつかり、エネルギー同士の反発で爆発を生む。
全身に爆風の衝撃に耐えながら七色とつばぜり合い、ぎりぎりと火花を散らし──────……。
『ぐああああああッ!?』
蒼炎をまき散らし爆発。
全身の鎧から火花をまき散らし、鉄の怪人が宙を舞う。
白煙を巻き上げながら地面をのたうちまわるように転がり
呻き声を上げながら必死に意識を保った。
想像以上の衝撃に、鎧の一部がひしゃげ、吹き飛び、コードからは火花が散っている。
鉄仮面の裏に映る損傷率に舌打ちをしながら、よろめく体を奮い立たせるように立ち上がった。
『成る程な……それが貴様の本気か……!』
さっきまでの攻撃は媒体を使わずして"適当"に打ったものとみる。
魔法や魔術に詳しい訳ではないが、船に操舵士がいるかいないかでは大違いと言う事だ。
強烈な一撃に余裕も何もかも剥がれ落ちた。息を切らし、デジタル数字が女を睨む。
『生憎と、私の時代では"淘汰された"技術だ。
ならばお前にも見せてやろう……クォンタムドライバーの力を!』
<ショット!>
ライフルを構え直し、今度は自らの足で土煙を上げて踏み込んでいく。
それでも十分な速さだ。銃口を向け、今度は蒼い光弾が出鱈目に連射される。
先程のレーザーとは違い、小規模の破壊を含むエネルギー弾だ。
周囲の破壊、もとい面制圧を重きに置いた乱射を盾に、距離を詰める目論見だ。
■ノーフェイス >
七色の帯が絡まり、螺旋を描き、鍔迫り合う。
ばちばちと過剰に舞い散る火花が、落第街を更に明るく彩った。
声援、怒号、コール、ブーイング――喉を削らんばかりの声が四方八方から両者を取り囲む。
彼が鍔迫り合いに押しやられた時、それはひときわ激しい波をえがいた。
「人聞きが悪いなぁ、オイ! ボクはいつだって本気だぜ?
このナンバーは、Verse(メロ)からChorus(サビ)にどんどん盛り上がってくヤツだった、ってだけさ!」
転がる彼に追撃は行わない。
体制を立て直すまで待ち、ピックを持つ右腕を伸ばし、器用にパチン、とフィンガースナップ。
やろうぜ、と導いて、彼がその気を見せるなら、笑みは更に獰猛になった。
「この曲に――」
ブリッジ近くからのピック・スクラッチ。
耳障りな音を皮切りに、フィンガリングもピッキングも、やおら激しく奏でられ始める。
うねるようなハードなリフに、短調で練り込まれた旋律は激しく冷たいサッド・ソング。
誰をモチーフにしたものかは――言うまでもない。
インスピレーションを与えているのは、間違いなく。
「なんというタイトルをつけようかな!
アイディアがあるならぜひ、拝借したいとこだ――」
血の色の髪を振り乱し、地上で行われる花火大会に酔いしれるかのよう。
連射される光弾を、けたたましい金属音を響かせて帯のひとつが貫いた。
続けざまに放たれるそれぞれを、赤が、橙が、青が、紫が――
七本の光帯は、それぞれが独自の意思を持っているかのような不規則な軌道と、
着実にその散弾のひとつひとつを撃ち落とす精密さで、彼の暴力に応えていた。
「いいのかい?」
血が流れたせいで、片方しか空いていない瞳で、近づいてくる彼を射すくめる。
散弾への対応に集中しているからか、パラドックス本体を阻むことはできない現状だ。
無論のこと、銃撃をやめてしまえば一息に虹色の暴力が殺到している綱引きのような有り様で。
演奏は止まらない――そのなかで、女の声は異常にはっきりと聞こえることだろう。
「それ以上こっちにきたら、いよいよ後には引けないぜ。
ああもちろん、ビビってるワケじゃない。
そろそろ最高潮だ――惜しいと思わないなら。
来いよ、今日のハイライトは間違いなくキミとボクなんだからな」
扇動する。
冷たい鎧に押し込められた熱を。
「キミの覚悟に応えよう。
……なにもかも一筋縄じゃいかないこの街に!この熱狂に飲まれずに!
すべてを壊せるのか、キミの覚悟を問おう。
最高潮(クライマックス)を――一緒に楽しもうぜ! Mr.破壊者(デストロイヤーさん)!」
■パラドックス >
弾ける光がぶつかり合い光彩と破壊のコントラクション。
最早熱気に見せられたショウだというのであれば
見世物としてこれほど派手な色も無いだろう。
勿論此れは捨て身でもやけっぱちでもない。
互いに引っ張り合う綱の中、不意に怪人は大きく飛び上がった。
照りつける太陽を遮り一瞬だけその場が"影"に落ちた。
<リープタイム!>
<クォンタムバースト!フィニッシュブレイク!!>
胴体半回転で飛び上がりながら、ベルトの両サイドをタッチする。
全身のデジタル時計が出鱈目に時間を刻み、その足に溜まる蒼光。
まさに一瞬、蒼の陽光が地を照らした瞬間────。
『タイトルなど必要無い!此れでその旋律を終わらせてやるッ!』
生の感情を剝き出しにした雄叫び。
奏でられる極彩色の帯ごと女を滅ぼす為に
背部から噴射されたエネルギーで自身を加速させ
一点集中させた強烈な飛び蹴りが極彩と激突する──────!
──────同時に…。
《リープバースト……!シュートブラスト……!!》
ベルトの電子音声に似たくぐもった声電子音が大通りに響く。
弾ける七色の向こう側には、"もう一人の怪人がライフルを構えていた"。
そう、観客ごと滅ぼそうと放ったエネルギー弾。
クォンタムドライバーは時間を操ることが出来る。
一時的に過去の自分をこの場に召喚させたのだ。
リプレイは忠実に、先程放ったものと同じ巨大なエネルギー弾を衝撃と共に撃ちだした。
文字通り二段構えの"必殺技"。
『消えろ、旋律の魔女め……ッ!!』
力もそうだが、それは最早感情をぶつけるに等しいものだっただろう。
■ノーフェイス >
「何言ってんだ!会心の出来なんだよ!もったいないだろ~?
持って帰ってすぐにダビングして―――ああ、そうだよな。
案外キミはキミ自身が思ってるよりノリがいいヤツだ。
知ってるよ、それが"必殺技"だってことも!」
だからこそ、受けて立つ。七本の光の帯、音階の数の暴力は美しくその渦を巻く。
まるで背負うように、女の背に凝るのは、虹色から禍々しい朱色へと染め上げられた巨槍。
ひとつとして規則的な意匠のないねじくれたそれは、
何かの鍵のようにも、あるいは時計の針のようでもある。
「キミに合わせよう――青褪めた騎士、死を撒く者!
素ン晴らしいィッ!刺激的だよっ!」
ロングトーンの単音は、ベンディングで"泣き叫ぶ"ような旋律を奏でる。
ギターは泣くのだ。奏者の感情を映して。
彼の落下を迎え撃つため、ソニックブームで周囲を薙ぎ払いながら巨槍が対空ミサイルよろしく射出される。
その推力を賄うには、魔力を注ぎ込み続ける必要がある――無防備だ。
だから、
「――――!」
もうひとり。
時間という禁忌に指をかけた、何かの執念の結晶のようなその姿に、
女は一瞬瞠目した。防げない。このままでは――死ぬ。
絶望、恐怖、悔恨――死に支配された者の表情が、麗貌に宿った。
――――。
「最ッ……高だな」
直後に、笑った。
こいつ、ここまで命を燃やしてくれるのか。
ならば、とその場で地面を蹴り、自らの槍に足をかけると、
急角度を描く槍を倒す――角度をもたせる。
ぎりぎりと時計の針は傾いていき、拮抗する蒼と朱のパワーバランスはそのままに男の高度を下げていく。
それは、大量破壊をもたらす必殺の光弾の射線に、お互いが入るように仕向けるためだ。
「――Hey!Hey!Heyッ!
こうしたら、ほら!ふたりとも死んじゃうよなぁ!?
一回使ったらやっぱりナシで、は出来ないんだろ、コレ?
どうする? ボクを壊せれば、キミはそれで満足かい?」
今なお、感情的なトーンで謳うギターは鳴り止まない。
魔力の波動が赤い稲妻のように可視化され、霊木から切り出された魔杖が唸る。
閃光のなかで見上げる女の笑みは、互いの命を賭けた極限のエンタメに――滾っていた。
「ボクを壊して過去の自分に殺されるか?
それとも、さらなる破壊のために未来《あした》に指をかけるか?
――Hey(さぁ)!」
叫ぶ。内在する魔力が爆発的に高まる。
それは果たして、眼の前の男を仕留めるために使われるものか。
それとも、生き延びるために防御に使われるものか。
伏せられたコインの表裏は、その時になるまでわからない。
はっきりしたことは、女は死を前にこそ、希望を燃やしているということだけ。
「お互い命を輝かせて、今日を千年に一度の最高の一日(エピック・デイ)にしようぜッ!」
■パラドックス >
その色彩は毒を帯びたかのように血に染まった朱色。
しめし合わせた時計の針を砕くように、渾身の一撃がぶつかり合う────!
力と力のぶつかり合い。その余波が周囲を巻き上げ、壊していくほどの力の渦。
だが、此れほどの旋律<チカラ>だ。二撃目までは避けれ────……。
『何……!?』
侮ったわけでもない。
強いて言えば、"見誤った"。
確かにその目には避けられない"死"を前に宿ったはずだ。
絶望が、悔恨が。その心を手折るには充分だったはずだ。
なのに、女は"笑っている"。剰え、自らその身を槍に掛け拮抗しだした。
まさしく"無理心中"とも言える行為だというのに、コイツ……────。
鉄仮面の奥の顔が、"恐怖"に引き攣った。
得体のしれないものを目撃した、得も言われぬ恐怖感。
『……おおおおおおおおおッ!!』
<クォンタムバースト!フィニッシュブレイク!!>
お前如きと死ぬ心算は毛頭ない。
リプレイである以上、一度再生したものを消すことは出来ない。
ならば、と雄叫びと共に更にクォンタムドライバーの出力を上げ
拮抗する槍を主軸に向かい来る自分達に向かい来る凶弾目掛けて
対の足による回転蹴りを放つ!無茶苦茶な力のぶつかり合いは
一瞬で臨界点を迎え、天を貫く蒼柱が煌めいたかと思えば
今までの比ではない大爆発が巻き起こった。
『ぐおおおおおお……ッ!?が……ッ!!』
相殺したおかげで、直撃こそ免れたが怪人は爆風に飛ばされ
瓦礫に叩きつけられれば鎧がホログラムとなって消えてしまう。
破損状況が限界に来た時、爆発による使用者の死亡を避けるための"安全装置"だ。
システムもそうだが、戦いの衝撃と余波で男のダメージも大きかった。
口角から血が垂れ、頭部は赤く染まり、全身の傷は絶えない。
まさしくぼろ雑巾のように痛めつけられた。
あの爆発で女がどうなったか、最早確認する余裕も無い。
「なんて……"ロック"な女だ……」
吐き捨てたのはきっと女にとって賛辞になるのだろうか。
痛む足を引きずり、落第街の奥へとその姿を消していく。
目的を果たすまでは、まだ死ぬわけにはいかない。
生命を捨てるのは、こんな"ストリートミュージック"では死ねない。
それこそ大舞台。この島の全てを消すまでは……!
暗闇に消えるその瞳には、確かにどす黒く、確固たる信念だけは消えなかった────。
■ノーフェイス >
「OK!」
彼が選んだ選択がどちらだったとして、それを拒むことはなかったろう。
こちらもまた槍をドリルのように旋転させ、ベクトルの転換に一役買わせてもらう。
恐怖はある。死を側に感じる。
ただこの女は、あるいは落第街に生きる名も知らぬ誰かたちも、
"それに飼いならされていない"、それだけの話。
「――――ッッ」
爆縮。一瞬の静寂のあと、内側から外側へと破裂する膨大なエネルギー。
彼とは真反対の場所に吹き飛ばされ、強かに壁面に体を打ち付けた。
眩い蒼の向こう、男の生存を確かに確認すると、
骨折と内蔵の損傷によって吐血しながらも、赤く染まった唇で笑った。
「ゲホッ――ぐ、ぷ……、……はぁ。気持ちよかったよ、パラドックス。
――お互い名前を売るには、こうやって対バン張るのが一番手っ取り早いよね?」
顎に伝う血液を拭う。見下ろすと、ギターには損傷はない。
試作型だが、いい出来だ。未来から来た科学の結晶に、いにしえの叡智はまだ張り合えるらしい。
彼の文明では消えてしまったらしいが、やはりこういうのが性に合う。
「はァー……しんどい。
両手がふさがってると、技が使えない。こいつも一長一短だな……」
ずるり、と背で壁を滑り、その場にへたり込む。
流石に疲れた。果たしてどちらの勝ちなのか、殴り合いにまで発展している周囲を可笑しそうに見上げながら。
そして、落第街――この世界の裏側に、"パラドックス"の姿を、破壊を、
"プロモーション"することには成功した――と思いたい。
「あとは、彼に釣り合うヒーローが出てくれば、ボクが前座張った甲斐もあるってもんだ。
幸運を祈っているよ、願わくば倒れるまで、刺激的なショウを楽しみにしてる。
キミいちファンとしてのお願いだ――フフフ、もう聞こえてはいないだろうけどね」
いまのところはいずれ収束するものだが、落第街の日常に、確かに紛れ込んだ狂気の渦の中心は、
冷たく熱いライブの余韻を、しばし、目を閉じて味わっていた。
ご案内:「落第街大通り」からパラドックスさんが去りました。
ご案内:「落第街大通り」からノーフェイスさんが去りました。
ご案内:「落第街大通り」に蘇芳 那由他さんが現れました。
■蘇芳 那由他 > 昨日の『騒動』が鎮静化して、またそれも何時もの日常と街は変わらず混沌を孕み続く。
そんな落第街の大通りを、意図せずまた迷い込んでしまった学生服を着込んだ少年が一人歩いている
「……あれ……ここって…?」
以前、とあるボロボロの風紀の少年と『共闘』した事はまだ記憶に新しい。
そういえば、この辺りだったなぁ…と、緊張感の欠片も無く茫洋とした表情で周囲を見渡す。
あの時の戦いの痕跡も既に欠片も見受けられず、でもまぁ見覚えは何となくある所がちらほらと。
(…ん~~…僕はやっぱり方向音痴というやつなのかな…?)
今更な事を思い乍、通りのど真ん中をブラブラと完全に散歩気分だ。
この街がどういう場所なのかは、何となく理解はしているがそれで恐れたり遠ざける理由にはならない。
――そもそも、少年には『恐怖』やら『脅威』なんてサッパリ理解出来ない。
何故なら、その手の感情はとっくの昔に何処かに置き去りにしてしまったようだから。
■蘇芳 那由他 > また、あの『植物人間』が現れたら流石に今度は全速力で逃げるしか無いだろう。
『槍』の力はどうも不安定ぽいし、そもそも槍術など武術に通じている訳でもなく。
多少、運動神経などが良い『一般学生』の端くれに過ぎないのだから。
…そもそも、逃げ切れるのか?という根本的な大問題は気にしない。してもしょうがない。なるようになる。
「……何か……騒がしいというか……盛り上がってる…?」
ふと、街の喧騒――人々の会話に耳を何気なく傾けてみれば。
よく分からないが、昨日にこの辺りでド派手な大立ち回りがあった様子だ。
『スキンヘッドの男』やら『ロックな赤髪の女』やら…兎に角凄かったようで。
(…やっぱり物騒な街なのかな……あれ、今更だけど僕って結構場違い…?)
そこに気付くのがちょっと…いや、かなり遅いのだが気付いただけマシなのか。
それでも、急いで立ち去る訳でもなく変わらぬ歩調で落第街の大通りを歩く。
こういう、雑多で混沌とした空気は何となくだけど悪く無い気はしている。
それは、街が『生きている』と…息吹をぼんやりとだけど感じられるから。
時々、無遠慮な視線を感じるが少年は気にしない。周囲の注意を引くような要素は特に無い筈だ。
思いっきり学生服姿でしかもぼんやりしてそうな見た目からすれば、悪い意味で注目はそれとなく集めそうだが。
普段の生活圏でもまず見ないタイプの店先やら建物の劣化具合やら、些細なものにも自然と目線が向く。