2022/10/04 のログ
笹貫流石 > 『――腕前はそこまで落ちていないようだ。』
ぽつり、とまたマスターが呟くように口にすれば、苦笑いを浮かべて肩を竦める。

「だーから、若気の至りなんだから恥ずかしいってーの。
別に俺の実力じゃなくて鎖が凄いだけだしさ。」

謙遜、でもなく割と本気でそう述べる。昔は昔、今は今。切った張った殺し合いは苦手だ。
まぁ、そもそもこの店でその手のあれこれは厳禁だが。

「さーーて、お仕事終了までなげーけど頑張りますかねぇ。」

やれやれ、と呟きながらも基本は突っ立て周囲の様子を確認しているだけ。
乱闘騒ぎや”それ以上”になりかけたら先手を打って止めに入る、そういうノリだ。

「…ほんと、我ながら扱き使われてんよなぁ。」

等とぼやきながら、地獄の門の夜は騒がしく更けていくのだろう。

ご案内:「違法パブ「地獄の門」」から笹貫流石さんが去りました。
ご案内:「落第街大通り」に紅龍さんが現れました。
紅龍 >  
 歓楽街から奥に踏み込めば、そこは無法の街。
 とはいえ、そこが無秩序かといえば、そうでもない。

『お、紅さん!
 この前は助かったよ、おかげで食い逃げが減ったよ』

「おう、あんたんとこの飯はうめえからな、これからもしっかり頼むぜ」

『なんだ紅のにーちゃん、また戦争か?』

「ちげーよ、最近物騒だから用心してんの!」

 通りを歩いていれば、声が掛かる。
 通りが爆ぜようと、ヒトが転がろうと、店が燃えようと。
 ここの連中は、何度でも立ち上がって、日常を取り戻す。
 落第街という裏町なりの、無法の秩序をとりもどすのだ。
 

紅龍 >  
 
「ったく、逞しい事で」

 何度踏みつぶされようと、泥水を啜っても、立ち直る。
 そんな泥臭い逞しさが、この街を形作っていると言っても過言じゃねえ。
 とはいえ、もちろん、そんな逞しいやつらばかりじゃねえのも事実だが。

『おじちゃん!
 紅おじちゃん!』

「ん、ああ、この間の坊主か。
 どうした、かーちゃんは元気になったか?」

 通りの脇道から出て来た、ボロ布を来たガキが、オレに駆け寄ってくる。
 何日か前に、泣き付かれて薬をくれてやったガキだ。

『うんっ、おじちゃんのくれた薬で、すぐに元気になった!
 だからありがとう!』

「ばーか、こっちもタダで助けたわけじゃねえんだ。
 ちゃんとした取引な、わかってんのか?」

『わかってるよ!
 オレ、かーちゃんがちゃんと治ったら、おじちゃんのとこで働くから!』

「よーし、ちゃんとわかってんならいい。
 今度うちのヤツに契約書もってかせっから、かーちゃんとしっかり読んでサインしな」

『わかった!
 へへ、そしたらオレもおじちゃんの仲間だな!』

「まずは便所掃除からだ。
 お前がもう少し成長したら、戦い方も教えてやる」

『うん、すぐデカくなってやるからな!』

 そう言って坊主は、来た道を戻っていく。
 いまの坊主は、所謂、貧困層の住人だ。
 病気になってもまともな薬も買えない、治療も受けられない。
 そんなやつらに、働ける場所を用意してやるのも、オレの仕事――そのつもりだ。

「しっかし、懐かれんのも困るんだよな。
 あくまで雇用主だって事、ちゃんとわからせねえとなぁ」

 まあ何事も経験だ。
 こんな町の子供だからって、まともな経験もなく死んでいい理由にはならねえ。

「おーい、じいさん、串焼き一本くれや」

『あいよ。
 今日も巡回ごくろーさん』

 屋台で串焼きを買って、灰皿の横で食いながら、『タバコ』に火をつける。
 賑わう大通りは、ただ眺めていても、なかなか飽きない光景だ。
 

紅龍 >  
 
「――こんな日が続いてくれりゃ、苦労しねえんだけどな」

 恙ない、平穏な日々。
 それを望む人間は多いはずなのに、実現は容易じゃない。

「っても、出来る事しか出来ねえもんな」

 串焼きを食べ終わって、屋台から離れる。
 この後は裏道の方に回って『部室』に帰るだけだ。
 今日も面倒ごとが起きねえように、恙なく――。
 

ご案内:「落第街大通り」から紅龍さんが去りました。