2022/11/11 のログ
ご案内:「犯罪大通り」にノーフェイスさんが現れました。
ノーフェイス >  
Introduction

『犯罪大通り』

落第街の一区画の通称。
「落第街大通り」とはまた別の、規模は小さい通りの一角。
その名を冠する場所は、この街には他にもあるのかもしれない。

怪しい店が立ち並び、治安の悪さが目に見えている。
性質の悪い違反生たちの相互のにらみ合いが起こることも多く、
名前の割に奇妙な均衡が保たれている場所でもあった。

よくわからないスパイスたっぷりの謎の丸焼きが食べられる店がある。

ここには神の眼の監視は及ばない。表向きは。

牧師風の少年 >  
「拙僧の居た世界でも、やはり宗教とは弱者のために成立しておった。
迷い、苦しみ、救いを求める者たちに対して、
遵守すべきルールと、神というビジョンを与えることに成功したのだ」

厳かにそう語るのは、メッシュの入った金の長髪の奥に、
銀の飾りで耳を飾った少年だった。
にやりと笑う口元からは趣味の悪い金歯が覗いていて、
その身を飾る漆黒のカソック――
この世界においてキリスト教の牧師のユニフォームとしては一般的な装いと組み合わさると、
存在が悪い冗談のような光景だった。

「拙僧も歴史書とメモリーを覗いたに過ぎぬものの、
宗教を手段として、ひとつの秩序を確立させることに成功したと言えような。
 ――むん、流局か。次こそは和了したいものよ」

やっていることは賭け麻雀。
通りに面した雑多な飯屋の卓のひとつが、じゃらじゃらと音を立てていた。

ノーフェイス >  
『そのはなし、今までの会話と関係ある?
 ……カミサマねえ、それじゃ昨日見つかったってアレも神罰ってヤツかも?』

「何かあったの?」

『女マワして殺った連中がまとめて窒息死してたんだって。
 お楽しみ後に棄てた場所まで丁寧に書いてあったってね。
 捜して供養してあげてって、たぶん』

『ダークヒーロー気取りかな。
 ……まァ正直いい気分だ。
 そいつら考えなしにカタギに手ぇ出したんじゃね』

「……ふーん。
 風紀のコたちがばたばたしてたの、ソレかな」

行方不明の報でも出たのだろうか。
上下家が自分と牧師?を挟む形で飛び交う会話は、
ノーフェイスに奇妙な引っ掛かりを抱かせる。
視線をそらし、コロ、と銜えた飴玉が歯と摩擦し音を立てた。

"審かれるべき悪を、自らの手で審いてみせた"。

(――……だとしたらずいぶん思い切ったな)

彼女は正規学生の立場にあった筈。
ちなむなら、神罰を言い出した上家の少女もまた、
正しく常世学園の生徒として籍を置くものだ。

落第街に出入りしている、居住していることがすなわち違反学生、というわけではない。
ここは気軽に行き来できる、島の一区画でしかないのだ。

「ん? アレ? ボク三萬すてたっけ」

視線を戻すと河の様子が変わっていた。
すり替えが行われたのだ。じっとりと眼を細めるが、三人には同様に肩を竦められた。
イカサマは容認されていた。騙されるほうが悪い。

溜め息をついて、氷でかさ増しされた烏龍茶のジョッキを煽った。

牧師風の少年 >  
『戒律を破れば神に罰される。
 そう知らしめることは、諸人を支配するのには非常に効果的な手段だ。
 魔女狩りや見せしめという行為も加減を仕損じなければ衆生の信頼を得られる』

僧形の少年の言葉がやにわに生々しさを帯び始める。
それそのものに三者が疑問を差し挟むことはない。

この少年、何を隠そう違反部活『ギーク』の幹部格――
電子機器の扱いに長けた営利目的の違反部活の重役であり、
科学技術が発展した世界からやってきた拝金主義の生臭坊主だ。

『反面、清貧を美徳と刷り込んでしまえばだな。
 別に特段メリットをくれてやらずとも、ルールを守ってくれるという訳だ。
 まして徳を積めば、今生で救われずとも来世で救われよう――という教えを広めた者もおる。
 非常にコストパフォーマンスが良いのだよ』

牌が捨てられ、自摸山から崩されていく。
届いた丸焼きをめいめいに切り崩しながら、卓が進行する。

ノーフェイス >  
「視えない殺し屋が犯罪の抑止につながるかもって話?
 ……うわ、辛っら!何コレ」

スペアリブらしい部分にかぶりつくと、あからさまにかかっていた大粒のスパイスの味がした。
美味しいが辛い。見た目より容量の少ないジョッキの減りが早い。
おかわり無料などという慈悲はこの店にはなかった。この店の神は店主であり金だった。

『それじゃあ宣教師が必要だな。
 裁かれざる悪を裁く"救い主"様なんて、大受け間違いなしだろ。
 お前やったら?』

「え?えー……まあ、そうだね」

歯切れが悪くなった。
辛い。からというわけではないが――やはり氷の容量が多すぎる。
硬貨を投げておかわりを頼んだ。ここは水すら有料だった。

『悪を裁く悪っていうと、居たよね!"裏切りの黒"!』

「ネロ・ディ……何?」

『お前が好きそうなヒロイックな都市伝説なー。
 でも実際、どんな奴なんだろな、そいつら狩ったヤツ』

「――ンン。 広めるならそりゃ、ウケの良さそうな感じにやるのがイイんじゃない。
 ヒロイックなスター性持たせるってのが、ムーヴメント創るならベターだよな」

『まずは美少女属性?』

「あとは巨乳属性とか」

『それは単にお前の好みだろ』

牧師風の少年 >  
『そう、偶像だ。
 これが決め手なのだ。判りやすく衆生の信仰を収集する象徴。
 実効支配を行うためにこれほど有効な手はない。
 初期こそ教義に則って否定はされておった概念らしいが』

らしいが?と続きを問われると、少年はロングドリンクのカクテルを一気に飲み干した。

『戦争が起こったから検めざるを得なくなったのだと。
 飢饉に苦しむ者たちに産業をさせて金を集めるにはやはり信仰が必要だったという。
 しかし殺風景な教会にところ狭しと胸像や絵画を置いてみろ。
 訪う暇もなかった者たちすら足を運び始め、瞬く間に千客万来、満員御礼になったのだよ』

曰く、この少年のいた世界には異能や魔術という概念はそもそも表出しなかった。
個性を礼賛せず、画一性を重んじた社会を構築を拝した歴史を積み上げ、
データを重視し適正を数値管理し、適切な配分によって運営される秩序。
そしてそれを裏から支配すべく未だに神という概念が在るのだ、と。

『然し当然だが、拙僧は神を広め人を統べ暴利を貪る側にあった。
 教えも偶像もすべては手段でしかなかったのだ。
 そういう意味でも偶像というものは恐ろしい。
 眼にしてしまった瞬間にこの拙僧でさえ真なる信仰を抱いてしまうような存在が在ると知った。
 ――信仰は人を救うのだ! 拙僧はこの世界に来て新たな神と出会い、そして救われた!』

狂気じみた声をあげる少年に対して、
ノーフェイスを含めて三者は何言ってんだこいつ、という顔を見合わせた。
その合間に僧形の少年がすり替えを行ったことは言うまでもなかった。

ノーフェイス >  
「美しい話にはウラがある、っていうと。
 案外風紀や公安の手回しっていう可能性もなくはない気がするね。
 "ルールを逸脱しても正義を執行する者"――確かに興奮できる話だケド」

ルールを逸脱している、ということを。
決して公にしてはいけないのが、秩序維持機構の鉄則。
可能な限り隠密に。

そもそも。
この島の表と裏、"どちらに犯罪者が多いか"ということは。
――明かせないのだ。明らかなものではないのだ。
コインの表裏に善悪など存在しなかった。美しい貌の彫られた面にも悪は潜むのだ。

か弱き女が蹂躙され殺されようと。
悪逆を働いた者に罰がくだろうと。
この島はどうしようもないほどに平和なままだ。

「ボクとしては、ケチなコトをするヤツが減ってくれるのは有り難いけどね。
 抑止力、ってのはどこも必要だ。
 カタギさんの出入りが増えてるわけだしね。
 風紀の皆さんも、違反生の皆さんも、
 "コレまで以上に、くれぐれも慎重に"――婦女暴行じゃ、そん時だけ良くっても格好はつかない」

『そんなこと言ってお前もやってんじゃねーの?』

「え、…………いや、自分からは行かないよ」

皿に乗った肉にかぶりつく。いや、どうかな――などと考えて。
びりびりする舌に烏龍茶の救いを求めながら、そうだ、と僧形の少年に再三向き直った。

「ところでめちゃくちゃ話が飛んだけど、そもそも誰なのってハナシ」

少年は、ああ、と告げて。
手牌を広げた。イカサマ――この場所で認められている掟――によって造られた倍満の大役。
"神"に捧げるための供物を敗者から徴収しながら、少年は自分の神の名を、酔いしれるように口にした。

牧師風の少年 >  
 
 
「拙僧は響歌ちゃん単推しだ」
 
 
 

ご案内:「犯罪大通り」からノーフェイスさんが去りました。