2022/11/20 のログ
パラドックス >  
『! 捨て身か……!!』

自らレーザーブレードを受けた所に腕を抱え込まれた。
ジリジリと肉体を焼く熱量さえ歯牙に掛けずに
自らが死へと向かうにも関わらずに抑え込んできた。
振り払う前に、互いのマスクがぶつかり合うほど目前。
アーマーで強化された筋力でも、振り払うのが間に合わない。

異能者の類ではない。
此処まで異能の類を一切使わずに、兵器だけで殺しに来ている。
成る程、この男の強さはこれか。ならば捨て身の一撃がまたくるはずだ。
覚悟を決めたその時、放たれたのは──────……。

『何……?』

それは説得めいた言葉だった。
肩透かしにも程がある。いや、何か企んでいるのだろうか。
恐らくそうだ。わざわざ、己を誘い込み、有利な状況を創り上げている。
これだけの装備を何故、打ち倒すために決まっている。
そう思っていたのだが……。

『…………』

数秒の沈黙。そして。

『ふ、ふふ……』

『はははははは……!』

哄笑。鉄のマスクの向こうで、破壊者の笑い声が木霊した。

パラドックス >  
これが、笑わずにいられるか。
本当に能天気ではなったセリフならばただの馬鹿だ。
策を弄していての時間稼ぎならば、これほどの愚問はない。
何よりもこの男は、何もかもを勘違いしている。

『紅龍、とか言ったな。お前の意図は知る気はない。答えなどわかるきっているはずだろうに。
 ……お前の覚悟は見誤っている。捨て身の覚悟は認めよう』

『──────だが、足を止めているお前に私を止めれはしない』

捨て身とは文字通りこの場での終わり。
強大な熱源をマスクの裏のモニターが感知しているが
"それがなんだ"という話だ。例えそれが、男の本命だとしても
破壊者にとっては関係ないそれさえも踏み越えて、前に進む。

未来を目指すものを、停滞するものが止められるものか。

如何なる恥も傷も、救世のためなら悦んで受けよう。
空いている片手で腰のホルスターにセッティングされていた
腕時計型のメモリーを抜き取れば即座にそれをベルトに差し込んだ。

<バトルウォー!>

無機質な電子音声が、周囲に響く。

『私も科学者だ、乗ってやろう。お前の"耐久実験"に』

『────投影』

<リフレクションタイム!>

再び怪人の姿が砂に包まれると同時に、強い衝撃
爆風のような衝撃が砂煙となって周囲に飛び散った。
強烈な鋼の擦り切れる嫌な音と共に、砂が爆ぜればあられたのは"鉄の怪物"というべきもの。
全身に巻き付いていたケーブルが無造作に地面に垂れ
白銀の分厚い装甲が全身を包んでいる。太い手足に、赤い双眸。
両肩に添えたキャノン砲はまさしくして、"兵器"と呼ぶに相応しい。

<クォンタムウィズデストロイハント……!>

『……消えろ、死人』

脚部の装甲が開き上がり、無数のミサイルが無差別に巻き上がる。
周囲の地面に、或いは空中で爆発しその爆風は──────。

紅龍 >   
 
「――盛大な失笑どうも。
 悪いが、殺さずの『約束』しちまってるんでね――!」

 捨て身でもなければ埋められない差がオレ達にはある。
 全てを賭けて背負う者の為に前へすすむ、破壊者の覚悟。
 それを正面から受けるには――命一つじゃちょいと足りない。

「歩む道が違うだけさ――オレは殺さずに仲間を守りてえ。
 ――殺しなんてもんは、もううんざりなんだよッ!」

 誰に叫んだ事もない、心からの声が血反吐と一緒に溢れ出した。
 ――これほどの男だからこそ、目の前の覚悟を背負う男にだからこそ。
 殺し続けてきた自分の、クソったれな半生を叫べたのかもしれない。

「――おう、付き合えよ、色男」

 ――パラドックスが動く。

 情報にあった、モードチェンジか――!

 可動部からずらして、顔面に向けて鎮静剤を弾く。
 .95口径が砲音を鳴らして、衝撃の中、変化した装甲の頭部へと、巨大な弾丸が飛ぶ。
 直撃すれば周囲の空間を円形に削り取る、四次元物理弾薬だ。

「――連れてくぞ、英雄《インシィオン》!」

 変貌した装甲から至近距離でミサイルが迸る――。
 そして変動した重量によって、仕掛けた大型地雷が作動――。

 認識できたのは、足元から吹き上がる閃光。
 そしてオレとヤツの間で連続する爆発と衝撃――。
 そこでオレの意識は消し飛んだ――。
 

パラドックス >  
けたたましい衝撃と閃光に包み込まれた。

『うおおおおおおおおおおおおッ!!!!』

衝撃と呼ぶにも烏滸がましい破壊力が全身に打ち付けられる。
強化された装甲も拉げ、飛び散り火花や電流さえ全て呑み込まれた。
暴力なんて比ではない純粋な熱量、破壊力が銀の装甲を溶かし
装甲を貫く一撃が肉を切り、骨を軋ませる。
永遠に思えるような苦痛の光が晴れる頃には……。

『……ハァッ!!』

土煙と爆煙を振り払い、鉄の怪人は立っていた。
装甲は吹き飛び、全身のコードは千切れボロボロだ。
アーマーが吹き飛んだせいで全身の裂傷はそうだが
火傷の痛みが、熱が全身を蝕んでいる。
それでも尚意識を断たず、歯を食いしばり立っていた。
揺るがぬ決意だけが、破壊者を奮い立たせていた。

ノイズ混じりの赤の双眸が、男を見下ろした。

『……実験は失敗だったな、紅龍』

破壊者は未だ、健在だ。
デストロイハントフォームの武装は破損しているが
トドメを差すには充分だ。肩で息を切らし
黒煙混じりの吐息を吐き出し、手を突き出す。

手首部分が変形し、小型のガトリング砲が飛び出した。
エネルギー弾を乱射する破壊兵器。
壊れかけのモニターには、ボロボロになりながら
眼の前の男が生きていることを知らしめている。
ならばここで、殺す。断線したケーブルを無理矢理繋げ
破損のせいでエネルギーチャージに時間を要するが、充分だ。

充分なはず、だった。

『…………』

複数の反応が近づいてくる。
恐らく彼等の仲間だろうか。
今の状況で連戦は流石に耐えられない。
何処までの怪人は冷静であり、引き際は弁えている。
バチリ、と電流が漏れる足を引きずり、一歩下がった。

『綺麗事だけは何も救えまい。
 夢を見る歳でもあるまいに』

『それは"呪い"だ。お前は何れ、呪い殺される』

ガトリング砲を引っ込め、咳払い。
息を整えると同時に、濃密な死の気配に
脳裏によぎる呪いの余波。忌々しい女の置き土産が、まだ続いている。

『……精々そこで見ていると良い。
 私が破壊する、この島の様子を』

"お前には何も出来はしない"。
守ることさえも、と吐き捨て怪人は姿を消した。

少なくともそれを退かせたのは兵器の強さではなく
彼自身の培ったものと、僅かに"意地"が勝った結果だろう。

紅龍 >  
 ――ヘッドギアに備わった、緊急時用の電気ショックで強制的に意識を引き戻される。

 それでも朦朧とした意識は、辛うじて補助AIの電子音声から、バイタルの状況を把握した。

 ――下半身が丸ごと吹き飛んだ、か。
 コンテナに緩衝材しこたま詰め込んでもこれか。
 出血は――傷口が燃えたお陰で止まってるのか。

 電子音声は、ヤツが健在なのを伝えている。
 が、体は動きそうにない。
 まあ――これで動けたら人間じゃねえか。

 ――それでも、トドメは刺されなかった。

「――が、ぼ」

 ヤツに応えようとしたが、喉から血があふれるだけだ。
 窒息していないだけ幸運か。

 ――ようやく自由になったんだよ、オレ達は。
 ――現実ってもんを只管殺して生きて来たんだ。
 ――だからいいだろ?

 ――少しくらい、綺麗な夢を見たってよ。

 どこかから友軍の信号が近づいてくる。
 あのバカ共が――来るなって言っといたのによ――。

 生きるか死ぬかは、若返った身体と薬の効果がどこまで及ぶか。
 良くて五分、いや、よっぽど分が悪い、か。

 朦朧とする意識が再び闇に落ちる直前。
 多分それは意地だったんだろうと思う。

 震える右手を持ち上げて、親指と人差し指を立て――去っていく男の背中に向けて突き付けた――。

 

ご案内:「落第街 更地」からパラドックスさんが去りました。
ご案内:「落第街 更地」から紅龍さんが去りました。