2022/12/17 のログ
ご案内:「屋台通り近くの広場 - 『お菓子の家』」にノーフェイスさんが現れました。
ご案内:「屋台通り近くの広場 - 『お菓子の家』」からノーフェイスさんが去りました。
ご案内:「落第街 屋台通り近くの広場 - 『お菓子の家』」にノーフェイスさんが現れました。
■ノーフェイス >
息も凍る冬の夜。
その広場は賑わしかった。
表と裏、学園の生徒かそうでない者でも。
仮設机にテーブルセット、調理場、運搬用移動冷蔵・冷凍庫。
供されるケーキやエッグノック、ホットワイン。
キャンプファイアと周囲にめぐらされたクリスマスリースの電飾に照らされて、
混沌の坩堝は昼間のように明るく、下品に輝いている。
「――……まさかほんとにつくってくれるとはね」
燃え盛るキャンプファイアから少し距離を取った場所にて。
女は珍しく苦笑いを浮かべながら、ひときわ目立つ"それ"を見上げていた。
「三日と経ってないのにとんでもない仕事だ。
十分過ぎるよ、デミウルゴス。
……いや、マジで死人とか出てないよな……」
カップに注がれたクラムチャウダーを啜りつつ見上げるのは。
先日壊されて、更地になった敷地に建つ"家"だ。
落第街、というフィールドに似つかわしくない可愛らしい姿。
小さめの一軒家というサイズの西洋建築は――"お菓子の家"。
この家、食べられるのだ。
こわごわと指先でノブにふれる。
きぃ……と音を立てて、屋内を覗く。
明るい――既に子どもたちが何人かくつろいですらいた。
■ノーフェイス >
ばたん。
「うーわ、ドアもマジで開くじゃん、すっご!
……あはははっ、いや、ここまでとは思ってなかったな。
すごいヤツを目覚めさせちゃったかも――……フフフ。
……本物の"お菓子の家"、この眼で拝めるなんてなぁ」
ぱしゃり。取り出した端末で、電飾にて夜暗に浮かび上がるファンシーな建物を撮影。
子供のように上機嫌だ。実際子供なのだが。
幼少期、読んでもらった絵本、恐ろしい話ではあったが、この建物には憧れたもの。
そうした不思議が、あたりまえのように現実になる世界。
この世界は、そうなった。
「―――ンで……。 ……キミは?」
『切って配る役』
「ああ、そういう」
近くにいるちょっと不気味なサンタ服の女の子。
"解体"とか"分解"を請け負ってくれる違反部活の一員だ。
普段は何を解体したり分解しているかはともかく――
このお菓子の家を、都合よく分解して配膳するアルバイト、ということらしい。
■ノーフェイス >
屋台通り近くの広場、夜。
その一角の更地には、先日までなかった筈の「お菓子の家」がそびえ立つ。
お菓子や温かい料理を配って回るのは、サンタクロースの格好をした違反部活の用心棒。
此処で行われているのは炊き出しでも試食会でもなく、
それらで覆い隠された違反部活のビジネス――ブラックマーケットだ。
黒いプレゼントをサンタさんからもらうには、合言葉と金貨が必要。
なにも知らずに寄ってくる者も、知ってて来る者も拒まない。
廃棄が出ないように、どうぞ温まっていって。
そんな賑わしい退廃の喧騒、その群衆のなかに、
紅い髪の女もひっそりと紛れ込んでいた。
■ノーフェイス >
「――さて、と」
ざわざわと、食べ物に黒いプレゼント。
それぞれがやりとりされるなか、女は人混みをかき分けながら。
休憩用のテーブルに腰かけて、クラムチャウダーのカップを置いた。
持ってきていたギターケースを開け、取り出したるはアコースティックギター。
「…………―――」
爪弾いて、詠う。
毎年の十二月、幸せなクリスマスを追想する旧いうた。
めいめいに過ごす闇市の片隅で、ほんのちょっとの賑やかし。
足でリズムを刻み、キャンプファイアに、行き交うひとびとに視線を向け。
楽しそうに歌い上げる。
ご案内:「落第街 屋台通り近くの広場 - 『お菓子の家』」にアリシアさんが現れました。
■アリシア >
夜の落第街を歩いていたら、甘い匂いに誘われた。
この街はたまに美味しそうなものを売っている。
その一つかと思って足を運べば。
「なんだこれは……」
お菓子でできた家があった。
古典の童話にあったような気がする。
一体、何が何でどうなっているのか。
楽しげな音楽に導かれるようにさらに一歩を踏み出していく。
■ノーフェイス >
「聖夜の奇跡! ……かな? ちょーっと気がはやいケド」
ちょうど、曲の切れ間。
彼女の呟きが、まるで聞こえていたかのように。
聞こえていなければ理由のつかないようなタイミングで。
「どーぞ、お嬢さん。
お菓子でも飲み物でも、どうぞお好きに持ってって。
プレゼントが目当てじゃないなら、ちょっとこっちで話さない?」
馴れ馴れしげに声をかけるのは、随分賑やかな雰囲気を纏った、
"どこかで会ったような"、そんな女。
■アリシア >
声をかけられる。振り返れば。
彼女は赤い服を着ている。
彼女は鮮血のような赤い髪をしている。
彼女は───黄金の瞳、その視線をこちらに向けている。
「ん? ああ、聖夜の……」
「街で噂のサンタクロウスだな、粋なことをする」
ははぁん、と顎に手を当てて頷いた。
「ああ、失礼するよ。ところでどこかで会ったかな?」
切り分けられていた、ビター・チョコレートでできたレンガの欠片を手に取った。
素晴らしい造形だ。作った者の指に神仏の存在を信じざるを得ない。
■ノーフェイス >
「あら、ナンパされちゃった」
おどけるようにして、ピックをもった指を口元に運ぶ。
ピック弾きだ。出身がエレキギターゆえに。
「そりゃもう、キミのむかしの恋人さ。遺伝子が覚えててくれるんだ――なんて。
よく言われるんだ、ソレ。きっとどこにでもいるようなヤツだから、だよ。
たとえばほら、サンタさんがたくさんいるだろ? そこにも、あそこにも」
頬に傷があったり何人か殺している(※殺していそう、ではない)目つきをしているサンタが徘徊していた。
「とはいえ、あのプレゼントにはボクもびっくりだ。
今日だけだよ。あれが拝めるのは――この夜だけ。
素敵な思い出が、気の早いクリスマスプレゼントになるといいな」
■アリシア >
「なんぱ? 何%かの話だろうか……」
ギターを見る。
さっきの幸福な音楽も彼女の指から齎されたに違いない。
甘い香り。一夜の奇跡。素敵な音楽。
素晴らしい。佳き時代(ベル・エポック)にだってこんな夜はないだろう。
「遺伝子……というとあなたは私のクローン元の関係者だろうか」
あれ、これ言っていいことだったか……
「どこにでもいる人が奇跡の音色を手繰れるのだから、この世界は素敵だな」
チョコレートを一欠、口に運んだ。
表面のココアパウダーで煉瓦色を作っていたそれは、
断面は夜よりも暗い色合いで。口いっぱいに芳醇な苦味と甘さが広がった。
■ノーフェイス >
「いきなり重たいブローが来たな……冗談、冗談でーす!
クローン・ヒューマンかー。もうこの時代じゃ現実的なものになってるのかな」
オリジナルも大層美人だったんだろうな、なんて。
目の保養を手に入れて、女はずいぶんとご機嫌である。
興味ある?なんてギターのネックを立てて、単音を爪弾いた。
「奇跡はみずから起こすもの、幸運は舞い降りる場所に向かうもの。
ボクはそういう時代だって思ってる……ううん、ずっと昔から。
それに気づいていい時代だ、って感じかな。リクエストある――?……それ美味しい?」
懐かしい味のクラムチャウダーに興じていたが、お菓子にも興味が湧いてきた。
さっきシュークリーム食べたばっかりだけど……もうちょっとならいいだろう、もうちょっとだけ。
■アリシア >
まずい。冗談だった。
言ってはいけないことだったのに。
「……フッ………忘れてくれ…………」
気取ってものを言ったが本当に忘れてほしい。
私の出生を人に言ったことがバレたらワン姉様に叱られる。
「良い言葉だな、覚えておこう」
「リクエストは……そうだな、クリスマスソングが私は大好きなんだ」
「美味しい、それも…とてもだ。童話のあの二人もきっと魅了されたのだろう」
片手には硬質なキャンディのポットから出る甘い紅茶。溶けてもきっと愛しいもの。
■ノーフェイス >
肩を竦めた。きっと妖精さんが囁きでもしたのだろう。
「ボクにとってはキミが原初(オリジナル)だし?」
これから違う誰かに知り合っても、きっと派生物に感じちゃう。
「――そういうハーレムもありかもなあ。
クリスマスソング……、ああ、これ知ってる?」
軽く旋律を爪弾いた。よく街頭で流れているメジャーなものだ。
それは暗に、歌えるか、と聞いているのだった。
「アレンジされた絵本だと、けっこう可愛い感じの話なんだけど。
原文だと結構エグい話なんだよな――安心して、つくったのは恐ろしい魔女じゃないから。
ちょっと頑固なヤツだけど、きっといいヤツの」
ちょい、とむこうに向けて指を手招く。
運ばれてきた煉瓦にはホワイチョコの粉雪がかけられていた。
あとは甘やかなエッグノック。お花のカップに注がれていた。蜜のように。
――あとで運動しよう。
■アリシア >
「そう言ってもらえるとありがたい」
「はーれむ? よくわからないが、楽しそうな言葉をたくさん知っているのだな」
旋律が生み出される。また一つ、世界に音楽が響いたのだ。
「そうなのか? 魔女もあの二人も、もう少し話し合いの余地はなかったのかとは思うが…」
「それは何よりだ、頑固な職人はいい仕事をするというのが相場らしい」
夜空を見て。歌う。
「Happy Happy Xmas」
「Ding Dong Ding Dong 鐘がなる」
「街はほら、化粧を終えて───祝福の白が降り積もるよ」
■ノーフェイス >
「そりゃあ、楽しいことを求めて生きてるからね?
キミはどう?なんのために生きてる?
何を求めてこの街に……? きっと探せばなんでもあるぜ」
探そうと思えば、そう笑う。
「Wait a minute, waite a minute――You ain't heard nothin' yet!」
揃えた指でボディを叩いてクリック音の代わり。
群衆に声をかけて、あらためてこちらに関心を向けよう。
伴奏し、伴走する。柔らかなアルペジオで彩る聖なる夜のうた。
コーラスでそっと支えたら、今宵の主役に淡い化粧を。
■アリシア >
「わからないな」
即答した。
怪異がいそうなところを彷徨っているのは、ただ命令だから。
生きる理由は性能テスト。探す目的も知識もない。
「私は私という命のために何ができるだろう」
聖夜のための歌が響く。
「口遊む私に聖なる夜は耳を澄ます」
「さぁ、楽しもうよ この街にある音をかき集めて」
街で聴いた歌。聖なる夜のための歌。
■ノーフェイス >
「――探しものは何か、というのはわかったじゃん?」
何ができるのか。
その疑問の解は、自分で見つけなければ――見つけようとしなければ、いけない。
「この常世島、っていうか日本って国ではさ。
生きることを大いに楽しむことを、歌を謳う……
"謳歌する"って表現するんだって~。
ふたりで、みんなでうたい合わせることだって――ひとりでは成り立たない、ってコト」
独唱の魅せる光景も、またひとつの芸術であり。
重なれば厚みになり、擦れ合えば擦りむけて痛みが生まれる。
■アリシア >
「………」
彼女の金色の瞳を見て。
「やはりサンタクロウスさんの言うことには含蓄があるな」
「すまない、からかう意図はないんだ」
「ただ、人と関わる中で答えを模索するのは良いかもしれない」
歌を終えて頭を下げた。
「ドアのビスケットを少しいただこう」
ビスケットを受け取って。ダイエットは明日から、と姉様も言っていた。
■ノーフェイス >
「え?褒めてくれたんじゃなくって? ちがうの?」
褒められたあとに謝られると、ちょっと目を瞬かせる。
とはいえ、体中に残るセッションの手応え、余韻。
たまらない、いい気分だ。エッグノックが美味しい――甘い。
家で作って判る、これに使われる砂糖の生クリームがわりと洒落にならない量であることを。
「……まぁでも。
産んでくれた両親のために生きてるかどうかってと、ボクには判らない領域だからな。
キミのいうとおり、ひととのかかわり……出逢い、ということが模索と蓄積の目安になりそうだね」
苦笑しつつ、そこから先のナビゲートはどうしても難しい。
「そういうの――たとえば。
お人好しそうな聖職者なり、あるいは全く違う場所に生きてる人だったり。
そういう不思議なひとを探したら、ボクとは全然違うこたえが出てくると思う」
煉瓦を掴んで――あむり、といった。
背徳的な贅沢だ。これはたまらない。
横目で見た。強面のサンタが黒いプレゼントを渡す姿。
大事そうに抱えて、いそいそと去っていく生徒。一人だったり、複数人だったり。
■アリシア >
「もちろん褒めているとも」
「わざわざ侮蔑のニュアンスがないことを確認してしまったな」
彼女の言葉には未知が詰まっているように思う。
それが耳朶を打つたびに、たまらなく高揚してしまうのだ。
「ああ、良いかも知れない。そういう人たちとの…関わりも」
黒いプレゼントを指して。
「余程良い子なのだな、サンタクロウスから直々にプレゼントを渡されるなんて」
■ノーフェイス >
「フフフフ」
思わず笑ってしまった。
頬杖をついて、少し意地の悪い顔をした。
「キミは靴下のなかにプレゼントをもらったことがある?
たとえば去年はなんだったかな」
ホワイトチョコパウダーがついた親指を舐めて。
「――ここはねえ、悪い子が集まる街なんだ。
あれはお買い物だよ。
あっちのほうでも、サンタさんの格好した人がケーキとか売ってるでしょ?
外からは中身が見えないようになってんの。無事に持ち帰れるかなぁ?」
■アリシア >
「ああ」
「靴下の中に、去年は可愛らしく私の指にフィットする万年筆が入っていたよ」
「贈り物のセンスがワン姉様だとすぐに……ああ、私たちはナンバーで呼び合っているんだ」
そして、悪い子が集まる街と聞いて首を傾げる。
悪い子の買い物、つまり。
「無粋だったな、聞かなかったことにしよう」
口をさっぱりとさせる熱く渋いお茶を口に運んだ。
■ノーフェイス >
「へぇー、素敵! イイじゃん。
……たくさんいるんだね。素敵だね。ワン姉さまはもうちょっと育ってんの?」
にま~、って悪い子の顔を浮かべつつ。
「ちょーっと待っててね」
立ち上がる。
本を取り扱うサンタクロースのもとに足を運ぶと、テーブルと口頭で複雑な符牒。
手渡されて運んできたものは、黒くない包み紙に包まれたものだ。
「あげる。 メ~ッリィ~、クリ~~ッスマス。 HOHOHO。
これは良い子向けだから、安心して?」
■アリシア >
「ああ、私の宝物だよ」
「ワン姉様は20歳くらいで、私の七倍近く生きている計算になる」
待っててね、と言われて大人しく待っていると。
そして渡されるプレゼント。
「良い子……私が良い子かどうかはともかく」
「ありがとう、サンタさん。これは喜んで受け取ろう」
微笑んで彼女に礼を言った。
周囲に騒ぎを聞いた人が集まってきていた。
■ノーフェイス >
「はたち……ボクよりお姉さんだ――ん?
ん? ……え、ああ、そういうカンジか」
無垢だけど聡明なカンジはした。
自分がそれくらいの齢の時は。
「……レコードプレイヤーをもらったかな。確か。お古の」
思い出すように、視線は星空に――、息が白い。
ちょっと冷えたな、と身震いして。
「うん。 まあ、思いつきであげたくなっただけだから。
キミが欲しいものかはわからないケド。
そもそもサンタさんとしては、出来が悪いからね」
賑わしくなってきたようだ。
ギターを再び構え直すと。
「どうだい、もう一曲?」
■アリシア >
「そういうカンジかな?」
小首を傾げて相手の言葉をオウム返しに言って。
あまり世界を知らない今、相手の言葉を慎重に聞きすぎているのかも知れない。
「レコードプレイヤー、か。良いサンタさんだな」
「そんなことない、ワン姉様とイェリン以外にものをもらったことがないからすごく嬉しいよ」
ギターを構える彼女に。
「ああ、知っている範囲で」
そう言って歌声を再び響かせるだろう。
お菓子の家は。人の欲望の元に食べ尽くされることだろう。
それでも、今日という日の思い出は。
誰にも触れることはできはしない。
ご案内:「落第街 屋台通り近くの広場 - 『お菓子の家』」からアリシアさんが去りました。
■ノーフェイス >
すでに何かが起こった夜、だった。
それでもまた新しいことが起こる。
ほんの些細なこと、炎を遠目に照らされた闇市のすみっこ。
一夜の幻、それを現たらしめるものは。
「肉筆にしか綴れないものって、あると思うんだよな」
五線譜に直接インクを伸ばすのが、好きだ。
そんな感覚は、未だにアナログなギターなんか抱えてることからも、判るかもしれない。
ご案内:「落第街 屋台通り近くの広場 - 『お菓子の家』」からノーフェイスさんが去りました。